(ロシア語を読める人以外は、画面右上の言語切替で、英語に切り替えてから操作するとよいと思います。マリインスキー劇場で上演されたいくつかの公演の動画にアクセスでき、その中には、「ラ・トラヴィアータ」などのオペラもあります。)
2018年、サンクトペテルスブルグのマリインスキー劇場での収録と思われる振付家マリウス・プティパ(Marius Ivanovich Petipa, 1818年3月11日、フランスのマルセイユにて出生~1910年7月14日、当時のロシア帝国内で没)の生誕200年を記念したガラコンサートの動画です。
演目は、
・The Seasons
・A Midsummer Night's Dream
・ The Sleeping Beauty
の3本ですが、プティパの振付によるものは、The Sleeping Beautyのみで、それもコンスタンティン・セルゲーエフの改訂振付を含んでおり、The Seasonsは、おそらくまだ30代と思われる新進気鋭の振付家Konstantin Keikhelによるもの、A Midsummer Night's Dreamは(フレデリック・アシュトン版ではなく)ジョージ・バランシン振付によるものです。
プティパは、1900年にThe Seasonsを、1876年にA Midsummer Night's Dreamをそれぞれ振り付けているらしいのですが、プティパ振付のものを使わなかった理由は不明です。
プティパ版の完全復刻が不可能なので(プティパ版のThe Seasonsの最終上演は1927年とされています。)、中途半端なものを上演するより、統一性があって芸術的完成度の高いと考えられる他の振付家によるものを選択することとしたのかなと想像しています。プティパの原振付を改訂したものでなくても、Keikhelやバランシンのバレエの振付の中にプティパは生きているという意味かも。
指揮は、ワレリー・ゲルギエフさんです。
・The Seasons
作曲:アレクサンダー・グラズノフ
振付:Konstantin Keikhel
エカテリーナ・チェビキナ
ロマン・ベリャコフ
ほか9組の男女ペア
グラズノフの音楽は、
第1幕 冬の情景
第2幕 花に覆われた情景
第3幕 麦の花が咲く野の情景
第4幕 夏の情景
Apotheosis セーブル(動物の黒テン)色の空(→星がきらめく夜空)
からなっており、ソロイストの衣装(黒→緑→青→赤[朱色])やコール・ド・バレエの衣装の差し色(灰色がベースで、差し色が、白→緑→青→赤[朱色])が季節に合わせて変化します。
それぞれの季節の中で人生を楽しむ若者達が表現されているようです。
今回のプティパ・ガラのためのクリエーションだと思いますので、プティパへのオマージュとして、クラシカルな動きが基本になっているように見えるのですが、スタジアムのウェーヴのように、集団の中で動きが伝播してゆく表現、複数のダンサーによるリフト等、プティパの時代にはなかった表現(?多分)も当然、取り入れられています。
コール・ド・バレエの踊りにもソロイスト並みの表現力が感じられるように思いました。あるいは、振付家やバレエ・マスター、ミストレスの指導の賜物かも。
背景・舞台装置・ライティングも凝っており、完成度の高い作品だと思いました。
なお、コール・ド・バレエの中に見たことがあるような顔の女性ダンサーがおり、マリインスキー・バレエ団には知り合いはいないので(他のバレエ団も同様)、何か不思議だったのですが、途中で、孫娘が持っている人形の顔であることに気がつきました。
・A Midsummer Night's Dream(第2幕から)
作曲:フェリックス・メンデルスゾーン・バルソルディ(結婚行進曲等)
振付:ジョージ・バランシン
PDD:オクサーナ・スコリク、コンスタンティン・ツヴェレフ
タイタニア:アナスタシア・コレゴワ
オベロン:ダヴィド・ザレコフ
パック:ワシリー・トゥカチェンコ
ヒポリタ:アナスタシア・マトヴィエンコ
ハーミア:ヤーナ・セリーナ
ライサンダー:ユーリ・スメカロフ
ヘレナ:ズレータ・ヤリニッチ
デメトリウス:アレクサンダー・ロマンチェフ
テセウス:ヴィタリー・アメリシコ
抜粋の上演で、いきなりメンデルスゾーンの結婚行進曲で舞台が始まるので、ドタバタ喜劇の物語は鑑賞できませんし、それぞれの役の性格付けも、いきなり見せられてもついて行けない印象がありますが、豪華なキャストで、踊りは堪能できます。
おそらく、アシュトン版の「夏の夜の夢」が刷り込まれているので、個人的には違和感を感じるようなところもありましたが、バランシン版を全幕で見る機会があれば、評価が変わるかも知れません。
・The Sleeping Beauty(最終幕)
作曲:ピョートル・イリイッチ・チャイコフスキー
振付:マリウス・プティパの原振付によるコンスタンティン・セルゲーエフによる改訂版
オーロラ姫:アリーナ・ソーモア
デジレ王子:ザンダー・パリッシュ
リラの精:エカテリーナ・コンダウーロワ(Apotheosisでの背景で上半身の動きを見せるだけで踊りません。勿体ない。)
ダイヤモンドの精:ヴァレリア・マティニュク
サファイアの精:石井久美子
金の精:ヴラーダ・ボロドゥリナ
銀の精:シャマラ・グセイノワ
白い猫:クセニア・オストレイコフスカヤ
長靴をはいた猫:フョードル・ムラショフ
フロリナ王女:マリア・シュリンキナ
青い鳥:アレクセイ・ティモフェーエフ
アリーナ・ソーモアさんは、容貌にも身体にも恵まれ、溢れるばかりの笑顔で、オーロラ姫を演じているのですが、「無理に型にはめられている」感があるような気がします。彼女が本当に踊りたい踊りは、オーロラ姫ではないように思います。クラシック・バレエのレパートリーではなく、コンテンポラリーだったり?
ザンダー・パリッシュさんは、「イケメンのお兄ちゃん」であっても、王子様のノーブルさまでは感じられないような気がしました。バレエ・ダンサーを、給与や身分保障、役の選択等で王子様のように扱わないと、王子様感は出ないのかも知れません。