ご近所のベトナム料理レストラン「Banh」はとても気持ちのいいお店だ。

料理長兼オーナーのヌー・トン、その下できびきび働いているスーシェフたちもすべて女性という編成。週末にはベトナム全土にちらばる地域特有の料理を特別メニューで出す取り組みもあり、ベトナム料理、食への愛が一皿一皿にあふれている。

バンミーとフォーと生春巻きだけがベトナム料理じゃないもんね。もちろんこれらも大好きだけれど。

 

昨晩はカリフォルニア在住のベトナム料理研究家のアンドレア・グエンと組んで「グリーン」(菜食料理+サステナビリティに焦点を合わせた)イベントを開催した。ベジタリアンというと「蒸し野菜」とか「レンティルスープ」という健康なれどマンネリ感満載のメニューを思い浮かべがちだが、とんでもない!8品コースはどれもこれもプレゼンも味も香りも東南アジアの色彩とうまみとスパイスに満ちた楽しい企画だった。

 

野菜サラダ用のディップソースと、主菜のナスと紫蘇葉のシチューの中に大豆の粒を発見して、あ、味噌だ!と気づいた。イベントホステスとして各テーブルに挨拶中のアンドレアをつかまえて、「お味噌を使ってますね」と聞くと、「あなたは日本人ね!」とパッと顔がほころんだ。

「昔ながらのレシピはエビのペーストを使うけれど、ベジタリアン用にお味噌に代えたらマイルドな塩味とうまみが出たの。日本人の友人が試食して合格点をくれたわ」。「UMAMI」はすでに英単語として確立している。

 

揚げ春巻きの中にレンコンの形と食感なのに大きさがえんどう豆ほどもない酢漬けの野菜が入っていた。今度はシェフをつかまえて、「あれは蓮根?蓮根のピクルスなんてどこで手に入れたの?チャイナタウン?」と聞いた。ヌーが「あれはブロンクスにあるカンボジア食材店で購入したの」といたずらっぽい笑顔で答えた。カンボジア食材店!?探しに行かなくちゃ。こういう時、NYCはとても懐が深いところに思えて嬉しくなる。

 

 

食事は食欲を満たすだけではない。お皿の上に乗った料理からは、色、形、作った人のまごころ、素材が生育した風景、メニューの裏にある歴史やドラマ、それから今一緒に食べている人たちの雰囲気、全部が重なった「味」として入ってくる。

時にはこれが未知との遭遇でドキドキすることもあれば、自分が持っているDNAに響いたかのように郷愁を誘うこともある。

 

瞑想の一つに干しブドウ一粒を使った練習がある。まず干しブドウを手に取り、色や形、嗅覚、手触りをゆっくり確かめる。次に「干しブドウの生涯」に思いを馳せる。種から蔓をのばしたブドウが刈り取られ、天日に干される過程。工場で選別され、パッケージに包まれて小売店に搬入され、遂に自分の手元に届くまでのストーリーを思い浮かべる。この間に何人の手がかかったか。どのぐらいの歳月が流れたか。どんな天気がブドウを育てたか。そして最後に口にほおりこんで、味わう。

たかが、の干しブドウが10分もの瞑想後にはとても愛おしくなる。

 

 

瞑想を続けていると味覚も鋭くなる、と言って信じてもらえるだろうか。