寮の近所に高松の池という池があり、その周辺に学生相手の安い飲み屋さんが数軒あった。
その中でも特に寮生が好んで通ったのが「想い出」という名の飲み屋だった。
そこは、我ら貧乏人の救世主とも言える飲み屋で、1000円あれば泥酔できるような店だった。
「想い出」は高松の池の入口にあった。
お世辞にも綺麗とは言えなかった。
ほとんど掘っ立て小屋でカウンターに5~6人座れば、息苦しさを感じるほど狭かった。
壁は歴代諸先輩方の落書きで埋め尽くされており、外にはドラム缶の「テラス席」があった。
バイト代が入ると、我々は寮から徒歩10分のこの店に良く来た。
勿論帰りは泥酔して、どうやって帰ってきたか分からないことがほとんどであった。
ある時などは、中も外も一杯で、無理に飲ませてくれと言ったら、カウンターの奥の住居部分に入れてくれて、コタツでオヤジの小学生の子供と一緒というときも・・・。酔っぱらいの分際で、宿題を一生懸命やる子供の隣は、さすがに居づらく、宿題を教えてあげたこともあった。
この店で飲むときに危険な事が一つ。
すぐそこに高松の池という、池があることだ。
夜間に大声で歌ったり、池に飛び込んだりで、近所の住民から警察に通報された。その度に寮長から怒られ、学長名でお叱りの通達を頂いた。
記憶では、私が1回、小名田が3回ほど池で「泳いだ」。おそらく、これ以外にも相当数の寮生が「泳いだ」はずだ。
「泳いだ」後、びしょ濡れの状態で「想い出」で飲み直すことも度々あった。
焼酎の梅割が絶妙に旨かった。だが、すぐに泥酔する。二日酔いはほとんど無いのだが、何故か、すぐに酔いが回る。不思議な飲み物だった。
10年ほど前、加納から久しぶりに電話があった。
「想い出」が火事で焼けてしまったという知らせだった。
寮生OB有志でカンパを募り、再建に役立てもらいたいとのことであった。勿論参加させてもらったが、その後再建したとの話は聞いていない。
この年になって「想い出」が急に恋しくなるときがある。
あの時の梅割をもう一度飲んでみたくなる。
小学生だったあの子も、もう30近い歳だろうか?
昔を懐かしむと共に、今のこの時間を大切しなくてはと思う。