カンヌ前半終了 ダルデンヌ兄弟作がコンペ部門をリード
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[映画.com ニュース] カンヌ映画祭も折り返し地点に差し掛かった5月16日(現地時間)、今年のコンペティション部門のなかで最も期待されている作品の1本、テレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」が上映された。主演のブラッド・ピットがアンジェリーナ・ジョリーを伴ってレッドカーペットに登場したほか、共演のジェシカ・チャスティンとショーン・ペンが練り歩いた。一方、報道陣の前にほとんど顔を出したことのないマリック監督は、前評判通り欠席した。
本作は、昨年のカンヌで上映される予定だったが、完成が間に合わずに見合わされた経緯がある。CGIの部分が多く、ポストプロダクションに1年近くも掛かったわけだが、その結果は「美しい」という以上に、奇跡的な映像美をたたえた巨匠の名に恥じない仕上がりになっている。
ヨブ記の引用にはじまり、地球の創世を経て1950年代のアメリカ南部、さらに現代までをたどる物語は、ひとつの家族像を主人公にしながらも、神話的、壮大なスケールを持った普遍的な人類のドラマと呼べる。50年代、威圧的な父親(ピット)の元で育った主人公(現代の部分をペンが演じる)が、兄弟を亡くし、喪失の痛みと子ども時代のトラウマを背負いながら人生の意味を模索する様子を描く。
ピットは会見で不在のマリック監督に代わり質問を受け、「(この家族では)母親は情愛と純粋で善良なものを表し、父親は生きのびるためにはライバルの息の根も止める存在を表している」「マリックとは何度も神学上の論議をしたけれど、彼は型にはまったキリスト教徒ではなく精神主義者だ」と語った。
前半が終わったコンペティションで最も評価が高いのは、シンプルでそつのないダルデンヌ兄弟の「The Kid With a Bike」。それに続くのが「ツリー・オブ・ライフ」、フランスの無声映画時代を舞台にした「The Artist」となっている。
後半には、下馬評の高いラース・フォン・トリアー監督の「メランコリア」や、パオロ・ソレンティーノの話題作「This Must Be the Place」、そして日本勢も待機するだけに、まだまだ予断を許さない状況だ。
※この記事の著作権は、ヤフー株式会社または配信元に帰属します。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110518-00000010-eiga-movi
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本作は、昨年のカンヌで上映される予定だったが、完成が間に合わずに見合わされた経緯がある。CGIの部分が多く、ポストプロダクションに1年近くも掛かったわけだが、その結果は「美しい」という以上に、奇跡的な映像美をたたえた巨匠の名に恥じない仕上がりになっている。
ヨブ記の引用にはじまり、地球の創世を経て1950年代のアメリカ南部、さらに現代までをたどる物語は、ひとつの家族像を主人公にしながらも、神話的、壮大なスケールを持った普遍的な人類のドラマと呼べる。50年代、威圧的な父親(ピット)の元で育った主人公(現代の部分をペンが演じる)が、兄弟を亡くし、喪失の痛みと子ども時代のトラウマを背負いながら人生の意味を模索する様子を描く。
ピットは会見で不在のマリック監督に代わり質問を受け、「(この家族では)母親は情愛と純粋で善良なものを表し、父親は生きのびるためにはライバルの息の根も止める存在を表している」「マリックとは何度も神学上の論議をしたけれど、彼は型にはまったキリスト教徒ではなく精神主義者だ」と語った。
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後半には、下馬評の高いラース・フォン・トリアー監督の「メランコリア」や、パオロ・ソレンティーノの話題作「This Must Be the Place」、そして日本勢も待機するだけに、まだまだ予断を許さない状況だ。
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Superfly ストーンズ直系の「BOSS」主題歌を先行配信
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6月15日に待望の3rdアルバム『Mind Travel』をリリースするSuperfly。その1曲目を飾るフジテレビ系ドラマ「BOSS」主題歌『Rollin' Days』が、急遽デジタルシングルとして先行リリースされています。
「BOSS」1st/2ndシーズンのオープニングテーマ『Alright!!』を凌ぐロックナンバーとして評判の『Rollin' Days』は、初回放送でのサプライズオンエアで話題となり、フルサイズの早期リリースにリクエストが殺到。着うたフル(R)、ビデオクリップ、iTunes他PCフルを5月18日より先行リリースする運びとなりました。なお、序盤から鳴り響くキース・リチャーズ直系のギターリフは、作曲者であるSuperflyの元メンバー 多保孝一が弾いたもの。ザ・ローリング・ストーンズ『刺青の男』等を想起させる王道ロックンロールは、同ドラマ、そしてアルバムのオープニングを鮮やかに飾っています。
◎アルバム『Mind Travel』
2011.06.15 RELEASE
[初回限定盤(CD+DVD)]
WPZL-30278~9 3,800円(tax in.)
[通常盤(CD)]
PCL-10952 3,150円(tax in.)
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Superfly「BOSS」主題歌入りアルバム発売
Superfly 新曲配信、売上を寄付することも表明
Superfly、EXILE、秦 基博、JUJUら音楽賞受賞
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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110518-00000006-exp-musi
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柴田文江デザインの美しきリモコン、地デジ版SPIDER PRO
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放送局や広告代理店で「テレビとの関わり方が根本から変わる」と話題になっていた「SPIDER PRO」という製品がある。2010年から、その「SPIDER PRO」の地上デジタル放送対応版の開発が始まり、2011年5月23日に発売される。昨年末に行われた発表会では、本体は見せず女性デザイナーが手掛けたというリモコンだけが披露され、これが話題となった。
【柴田文江デザインのリモコンの他の画像】
女性デザイナーは柴田文江氏だった。柴田氏は子供向け携帯電話やZOJIRUSHIの「ZUTTO」シリーズに加え、最近では京都のカプセルホテル「9h(ナインアワーズ)」やデジタルサイネージと融合した次世代型新飲料自販機などを手掛けて大きな話題となり、Gマークの審査員にも就任している。今回、その柴田氏とSPIDER PROの生みの親、PTP代表取締役の有吉昌康氏に地デジ版SPIDER PRO誕生までのいきさつや、そこに込められた考えを聞いた。
●柴田さんの「テレビ嫌い」を変えた製品
――秘密にされていた女性デザイナーはやはり柴田文江さんだったんですね
有吉 そうなんです。発表会で「デザイナーはどなたですか?」と聞かれて「柴田文江さんです」の一言で終わりにはしたくなかった。そこで、ちょっともったいをつけてみました。改めて発表することで、分かる人なら「おー!」とうならせるニュースになるはずなので。でも、最初、女性のデザイナーに依頼すると言ったら社内はみんな驚いていました(笑)。レコーダーを始めとしてAV機器はマニアックで男性のものみたいなイメージがありますが、私はそれに対して違和感がありました。
われわれは、テレビやレコーダーを本質的に変えたいと思っています。柴田さんは、プロダクトのカタチではなくて、本質の部分でどうあるべきかというところで僕らにない視点を持っていらっしゃいます。そこに加えて女性であるという視点もある。
それに女性が気に入ってくれるモノじゃないといけないというのがあった。何故なら、テレビは万人が使うモノでSPIDERの利用時間は女性の方が圧倒的に長い。それなのに、SPIDERの前モデルはネイルをしている女性から、ボタンが押せないと言われていたんです。やわらかいラバーのようなリモコンボタンをギュッと押し込めないんですね。そんなところから女性的な視点が必要かなと思っていた部分もあります。ただ、そうしたことよりも何よりも、まずは僕自身が柴田さんのファンだったというのもあります(笑)。
柴田 依頼を受けたときにまず困ったのが、「私はテレビを見ない」ということでした。テレビ番組のあのガチャガチャとうるさい雰囲気が嫌いなんです(笑)。3回目の打ち合わせくらいまでは「私、テレビ見ないから、そのマシンのメリット、ぜんぜん分からない」みたいな態度でいました。まあ、それをいったらカプセルホテルのときもそうでしたけれど(笑) 「ほかのメーカーのレコーダーとどう違うの?」「え、毎週のドラマが録り貯めできないってどういうこと?」「ぜんぜん、分からない」という感じで、最初は本当に険悪だったんですよ。「正直、私、これやりたくない」とまで言っていたかもしれません。
今回は結局2案つくりましたが、ウチは基本的にはデザインは1案しかつくりません。なので「こんな感じ」とか「~~風」といった印象だけでデザインをしてしまうわけにはいきませんでした。クライアントが頭の中に持っていることが、そのまま生まれたらこうなるというカタチがあるはずなんですが、それを見つけるためには、まず自分でも納得しなければなりません。でも、それができなかったんです。有吉さんにSPIDERについて説明してもらい、彼が思っていることを言葉から探り出していくことが最初の作業だったんですが、そこが何といっても大変でした。心で思っていることと言葉に表したことって乖離しているところがあるじゃないですか……。
有吉 だから、私もこれはやはりSPIDER PROの実物を触ってもらうのがいいだろうと思って、いきなり実物を送りつけちゃったんです。ご自宅と事務所と。事務所のスタッフの方もどうぞご自由にお使いくださいという感じで。
ここでSPIDER PROを知らない人のために簡単に補足をしておこう。SPIDER PROは、1週間テレビの全チャンネルで放送された全番組をまるまる録画してしまう製品だ。人から「あの番組が面白かった」という評判を聞いてから、前週の○曜日の○時から放送されていた番組を振り返って見ることもできれば、自分の関心のあるキーワードやタレントが登場する番組やCMを検索して楽しむこともできる。
柴田 SPIDER PROを使い出したら、テレビは実は面白いんだっていうことが理解できたんですよ。これまでは自分の暮らしの時間とテレビの時間が合っていないだけだったって分かったんです。だって、ゴールデンタイムって家にいないじゃないですか。それに深夜の番組は確かに面白そうだけれど、起きていられないし。SPIDERを触りだしてから、何でテレビに自分の人生をあわせなきゃならないのか、何でこういうものがこれまでになかったんだろうって思うようになりました。
――イメージの大転換ですね
柴田 最近、ほかのものって、結構、自分に向いているモノが見つけやすくなってきているんですよ。モノを買うにしても、食べるにしても、自分にピッタリのモノを探せるんです。特に日本では。そんな中にあってテレビ番組だけはほとんどがマス向けのものになっています。それしかなくって、自分向けのモノが選べなかった。それがSPIDERのおかげで、テレビもやっと、自分の好きな番組を選べるようになりました。見たい番組が常にSPIDERの中にあるって凄いことですよね。
――柴田さんでも気に入る番組があったんですね。実際にどんな番組を見るんですか?
柴田 「情熱大陸」「NHKスペシャル」「世界の車窓から」など好きです。いずれも静かめな番組ですね。
――インターネットなどで得られる情報よりも価値がありましたか?
柴田 確かにインターネットの情報にはインターネットの情報の価値があります。でも、テレビって1つひとつの番組にかけている仕事量が凄いから、同じ1時間でも密度が濃いじゃないですか。
有吉 自然系の番組とかも、もの凄く取材とかに手間がかかっていますからね。
柴田 でも、これまではそういった番組があっても、発見することができなかったんですね。SPIDERを使い始めたとき、最初はドラマが毎週録画予約できないといったことに違和感を感じました。ほかの録画機器なら毎週何曜日何時で録画予約をすれば好きなドラマを録り貯めて、1カ月後であっても、いつでも好きなタイミングで見られるのに、SPIDERでは予約をしなくても録画されているが、「保存」しておかないと好きなドラマでも約1週間経つと自動的に消えてしまいますよね。
ただ、その後、考え方が変わってきました。テレビ番組ってよほど気に入ったモノは確かに録り残しておきたいけれど、そうじゃないほとんどの番組は、常にSPIDERの中にたくさん入っているから、その中から自分でチョイスして見た方がおもしろい。実は、その方が正しい見方かなって思い始めたんです。
そういったことが分かってくると、これまで閉じられていたテレビの世界が、何だか急にパっと開かれたような感じすらしてきました(もちろん、SPIDERは毎週放送されるドラマを録画した後に消えないように保存しておくこともできる)。
有吉 愛用者の1人、星野リゾートの星野さんが家族旅行をしたときに、温泉宿でお子さんが「アンパンマン」を見たいって言い出したらしいんですね。家ではSPIDERで、最新の回がいつでも見たいときに見られるのに、何でここでは見られないんだって。SPIDERが当たり前になっている子供には、「見たいときに見られない」理由を説明する方が大変だったっておっしゃっていましたね。
柴田 それって衝撃的な話ですよね。私は2次元で線を描いてから、それを3次元に変えているデザイナーですが、最近の若いデザイナーには、最初から3次元で線を描いちゃう人がいます。印刷だといきなりMacで描いちゃう人もいますよね。まるで、ネイティブに英語が話せる人と勉強して話せるようになる人みたいに全然出発点が違う。SPIDERしか使ってない人からしたら、もうそれなしに戻るっていうことは絶対にできないっていうことですよね。そう考えると、時代は絶対にそっちに向いている気がしてきます。
自分がデザインしているときに、やっぱり、良くないモノはつくりたくないと思っています。正義って反対から見ると不正義だったりするから、どっちが正しいかは難しい問題です。でも、そのモノが登場する前の過去に戻った方が良いものだったり、出てもあまり変わらないモノだったら、デザインしない方が良いんじゃないかと考えているんです。そういう視点でその子の話を聞くと、SPIDERがある方が正解に近いんじゃないかと思いますね。人間らしく生きるっていうことって、もっと自分主体になっていくということのはずだしね。
●デザイナー柴田の関わり方
有吉 SPIDERを紹介すると、これを録画機の化け物みたいにとらえちゃう人も多いんですよね。テレビ局の人でも、これでお茶の間の視聴が1人減るのではないかと心配する人がいます。実はSPIDERは番組を見る機会も、テレビを見る人の層も広げているのですが。
柴田 そうですね。私もあまり積極的に自分からテレビ番組を見にいく方じゃないので、人から「あれ見た?」と聞かれて後から番組について知ることが多いんですね。例えばカトリーヌ・ドヌーブが「徹子の部屋」に出ていたよ、といった具合に。そうやって評判が出てから番組を見ようにも、知らない番組の録画予約なんてできないわけだし、これまでは聞いたころには手遅れでしたよね。それがSPIDERでは、話題を聞いてからその番組が見られる、これは新しいですよね。
有吉 最初にSPIDERを思いついたときの原点はそこなんです。1週間録画できるということよりも、放送の終わった番組を話題になってから見るという方が強いんです。実はそれに関して、ちょっと堅苦しい名前ですが「番組評価互助会システム」っていう特許を12年前に出しているんです(笑)
柴田 さかのぼって聞くと、すごいですね。もっとも、私もSPIDERがそこまですごいと理解するのにはすごく時間がかりました。一般のお客さまに毎回、毎回その話をして説得するのも無理なので、どうしたらいいんだろうって考えていました。そうした結果、思い至ったのがDVDプレイヤーみたいに本体が見えちゃったらその時点でダメなんだろうなということなんです。そうなったとたんに、最初のころの私みたいに~~社の~~とはどこが違うんですか? っていう、ほかの録画機との比較の議論が出てきてしまいますよね。
でも、これは実はサービスであって、「SPIDERである」ということ自体を売ることが大事なので、本来はモノが必要ではないんです。もっとも、そうはいっても端末としてモノは存在しないといけないから、その図面を描いたりはするんですけど……。そのころから「多分、メインはリモコンだ」って思っていました。
本体に関しては、できれば存在しないのが一番良くって、(テレビに)ビルトインして、なくしちゃいたいくらいでした。でも、それはできないので、できるだけシンプルにして、発表会のときやそこで配るカタログでも、載せるのはリモコンだけにして本体は隠そうってお話したんです。
――あれは柴田さんの提案でしたか
柴田 実は情報端末のイメージの脱却が一番、難しいんです。モノがあったり、言葉で説明しちゃうと、必ず「~とどこが違うの」っていう議論になっちゃいますよね。でも、例えばWOWOWとメーカー製のDVDレコーダーを比較する人はいないでしょう。だって、WOWOWはサービスなので姿がなくって、AV機器とは全然違うから。SPIDERも本当はサービスなんですよ。
有吉 まったくそのとおりです。それを分かっている人達には、よく何で自分たちでつくっちゃうんですか? ほかのメーカーにつくってもらわないんですか? と聞かれることがあります。私たち自身は、本心ではほかのメーカーに作ってもらってもいいという考えで、実はこれまでにも何度か話し合いをしたんですよ。ただ、今、メーカーと組んで出すとなると、製品のコンセプトを最後までキープして製品化することが難しいとだんだん分かってきたんです。だから、それならいっそ自分たちでつくってしまおうということになったわけです。
柴田 やっぱり、SPIDERの本質はカタチのあるプロダクトではなくって、テレビの概念を変えようというサービスなんですよね。でも、最初に有吉さんが来て、仕事を依頼された時点では、「まずは本体というモノがあって、それをデザインしてほしい」という姿勢が前面に見えたんですよ。なので、「デザインっていうのはスタイリングだけじゃないですよ」って話をさせていただきました。
――ということは、柴田さんの関わり方は、ただのカタチのデザインだけではない、ということですね
柴田 これってカタチだけ設計しても済まない仕事じゃないですか。クライアントの考えをデザイナーの視点で、いかに製品を知らない人達に伝えていくかを解釈、翻訳しなければならない。そのための作業がまず必要なんです。なのでモノをつくり始める前に有吉さんとはずいぶんとお話をしました。
――話はスムーズだったんですか?
柴田 ものすごく印象的だったのは、有吉さんがすぐに「何でもできる」っておっしゃるんですよ。そういう人とは仕事したことないので、かなり、怪しい人だと思っていました(笑)
――何でもできるっていうのは、造形上の話ですか?
有吉 いや、可能か不可能かという視点での話ですね(笑)
柴田 私は日ごろ、物をつくっている側にいますが、「何でもできる」って言われることに凄く不安感を持っていて……。海外の工場なんかでも「何でもできる」と言うところに限って、実は何もできなかったりするものだから(笑) そこで「これできますか?」「あれできますか?」って色々、聞いてみると、本当に、あれもやる、これもやると対応してくれたんですよ。そういう意味ではデザインを縛られなかったので、本当にいろんなアイデアが出せてよかったです。
そこで打ち解けて、「コレで一番、大事なのはカタチではありません」という話と「コレがほかと何が違うか表現していかなくちゃいけない」、そしてそのためにはユーザーとの接点になるインタフェース、つまり「GUIが大事だ」っていうことをお話ししました。
有吉 そうですね。柴田さんに1日あけてもらい、うちのオフィスでエンジニアがコーディングしながら、「ここでアイコンの動きを加速した方がいい」とか指示をしてもらって、その場でGUIを直すんです。
柴田 これが面白くて、すごく難しそうなことがすぐに直るのに、簡単なことが全然、直らなかったりするんですよ。「これ邪魔なので、ちょっと取ってもらっていいですか?」とかいうと、すぐに取れるのに「ここの色を変えてもらえますか?」とかいうと、ものすごく手間取ったりして(笑)
●リモコン=SPIDER PROの新しい顔
――その大事なユーザーインタフェースですが、画面の上での表現がGUIなら、手にとって触れる部分が、あのリモコンということですよね
柴田 リモコンもいろんなことを考えなきゃいけないと思っていたんですけど、普通のボタンがいっぱいあるリモコンは、何かAV機器のようなイメージがついちゃいますよね。SPIDERはAV機器ではないという考えを示したいので、もっと違うものじゃないといけないと考えていました。ここで課題だったのは、操作を考えると、必要なボタンの数が決まってしまうことです。特に難題だったのは「十字カーソル」は絶対にないと困るという点でした。
有吉 前のSPIDERを開発したときに、どのボタンがいるか、どれがいらないかをかなり時間をかけて洗い出していたので、最初からどのボタンがいるかはハッキリしていたんです。
柴田 これは私が携帯電話を何台かデザインしていたから思うのかもしれないけれど「十字カーソル」が入っちゃうと、何だか古くさいイメージになるなって思ったんですよ。そこで、しばらく考えた後、いっそ、それをメインにしてしまえばいいんじゃないかなって思ったんです。
平らなところに十字カーソルを置くとわりと古くさい感じになっちゃうけれど、まず十字カーソルがあって、そこからカタチができるっていうモノにしたらどうかなって思いました。要するにこの十字部分が始まりで、そこからリモコン本体がニューッと出てきているような感じです。一番、重要なのはそこだったので、そこからカタチをつくりましたというアプローチです。そして基本的にはここにすべてがおさまるようなイメージをつくっていきたい。
――SPIDERのすべてを、これで操作するわけですね
柴田 モノとしては、これがSPIDERの入り口かなと思っています。実際にはどこかに本体はあるんですけれど、ユーザーが目にするのはリモコンだけ。そういう見せ方をすると、AV機器じゃなくなってくるんじゃないか。これがSPIDERの在り方をどうするかを考えた上でのデザインの仕掛けです。
――リモコンは十字キーだけでなく、下の方にテンキーもついていますが、これは今回のSPIDERで検索をしたり、つぶやいたりと文字入力をしたいっていう要望があったからですよね
柴田 そうです。この文字入力っていうのは、いい番組を検索してみつけたい人にとっては、確かに便利。搭載はmustだったんだけれど、キーの数が多くなるので嫌でした。それに十字キーと文字入力を両方揃えるとなると、「もう、それはケータイじゃん」ってなっちゃうので、それをどうするかっていうのが難しかったですね。
そこで、最初のモックでは、テンキーをリモコンの曲面に完全に沿わせるカタチにしました。「あるんだけれど、ない」みたいなカタチにしようとしたんです。ただ、これはすごく大変で、無理だったんですね。何故かというと、キーの表面の曲線が1個1個違うので、それぞれに型が必要で、すごく高くつくんです。私はデザイナーだから、高くなることは分かっていたんですが、「全部独立した型でもできるんですか?」って有吉さんに聞いたら、「できます!」っておっしゃったんですよ(笑) でも、さすがに高すぎたので、やめてもう少しコスト的にバランスのいい最終デザインになりました。
有吉 でも、私は完全にはあきらめてはいないんですよ(笑) 2011年末に出すコンシューマー版のSPIDERでは、ぜひこのリモコンでいきたいって今でも思っています。
柴田 そうですね。業務用のSPIDER PROは、もうちょっと理解の高い人達が使うから、そこの部分は理解してもらえるだろうっていう話になりました。
まあ、リモコンについては、こんな感じで二つ折りケータイの古くさいカタチから脱皮しようと頑張ったんですが、それにしても、今回、文字入力が必要だったっていうのはデザイナー泣かせでしたね。
有吉 前のSPIDERのリモコンもそうで、古いかもしれないけど十字キーでやりたいっていうのが僕の最初からのコンセプトでした。それはやはりシンプルにして、誰でも使えるようにしたかったからです。今回は、そこでさらに文字入力も両立させなきゃいけなかったんですよね。シンプルさと文字入力っていうのは結構、相反しますよね。
――この文字入力の部分、グリップしてしまっても変な文字が入ったりしないんですか?
柴田 大丈夫ですよ。これカタチ的にはグリップしたときは、サイドをホールドするようになっているので、キーに触れることはありません。
有吉 それに加えてGUIとソフトウエアと、機械的なセンシング技術とかで番組視聴中とかですと、文字入力を押してもきかないようになっています。ちなみにこのリモコンは赤外線じゃなく電波をつかっているので手の中にスッポリおさめて操作できちゃうんですよね。
――それはBluetoothか何かですか?
有吉 Bluetoothじゃないですが、それに近い技術です。なので、本体は棚の中にしまっちゃっても大丈夫なんです。
――リモコンにある、この吹き出しのようなマークは何でしょう?
有吉 そのボタンを押すと番組について、つぶやけるんですよ。現在のSPIDERでは「コンシェルジュ」という名前になっている機能で、面白い番組やCMを人に教えたり、共有できたりするものですが、地デジ版では今風に「ソーシャル」という名前にしました。
柴田 プロダクトデザイン的には、こういうかわいらしいのがリモコンにあるのは、どうかなって思ったんですが、有機的にしよう、メインメニューと同じアイコンにしようということでつけました。
――キーを減らして目立たないようにしながらも、いろいろな機能が盛り込まれているんですね
有吉 実は、このリモコン、メインの十字キーの部分が光るんですよ。SPIDERでは、見る人によっていつも検索するキーワードも違えば、お気に入りの番組も違うので、ボタンでユーザー切り替えをして、メニューに表示される内容を切り替えできます。その際に、現在の利用ユーザーが画面でも分かるように、メニュー表示の色を変えているんですが、今回、リモコンの文字盤の発光色もそれにあわせて変わるようにして画面と連動している感じを出したんです。本体の存在はなく、まさにメニュー画面と、このリモコンがつながっているんですよ。
柴田 やっぱり、お父さんのSPIDERは見たくないじゃないですか。それをシンプルに自分のモノになっていると見せる。この部分はこだわりでしたよね。
――リモコンって、これまでみんなで使うモノだったのに、それがパーソナライズされるって新しいですね。
柴田 そうなんですよ。でも、それをシンプルに見せたかった。電動歯ブラシって、ブラシ部分についているリングを変えて、今、誰が使うものになっているかが分かるじゃないですか。それに近いです。
有吉 でも、こちらはさらにITっぽく、色を配信できるようにもしました。秋の新色とかを配れるわけです(笑)
――色はどれくらいの種類出せるんですか?
柴田 実は無限に出せるんですけれど、例えば薄い緑とちょっと薄い緑とかの違いを人が認識できるかが問題です。
有吉 これまでのSPIDERもメニュー画面の色の切り替えはできたんですが、新SPIDERはよりパーソナライズできるところがミソかなと思っています。例えば、ウチの娘も4、5歳のころは全身ピンクだったんですが、小学校に入って6、7歳になると、急に黒とブルーとか、そういう色が好みになってきて、気がついたらいつの間にかSPIDERのメニュー画面もブルーになっているんですよね。
柴田 これまでのSPIDERのように単に今、自分のモードなんだと認識させるための色ではなく、自分の気持ちにするために色を変えるっていうことですよね。その色が画面に連動しているって、やっぱりいいですよね。
●変貌しているモノづくりのあり方
――SPIDERのデザインの方針を固める上で苦労したのはどんな辺りでしょう?
柴田 SPIDERは実際にすごいことができるので「専門的」というイメージも必要だけれど、今後、コンシューマーにも売っていきたいということなので「これは私向けのモノじゃない」と思われるわけにもいきません。また、大手家電メーカーの製品のように平らなものにしちゃうわけにもいかない。その辺りのバランス感覚がすごく難しかったです。すごく分かっている人達が便利に使っている道具が、自分たち向けに降りてきたんだ、っていうのを出さなければならないなと思いました。
――SPIDERが、これまでになかった製品というかサービスという部分もありますが、PTPさんが大手家電メーカーではなく、ベンチャーであるという辺りで、これまでとやり方を変えるところはありましたか
柴田 会社がベンチャーで製品出荷の規模も小さいことを考えると、頑張って一般に流通している一流のモノ、ちゃんと信頼できるモノっぽくつくろうとしても、秋葉原で並んでいる自作パソコンのような仕上がりになってしまいがちです。ただ、そうなってしまうとプロ用の製品っぽさがなくなってしまう。そのころ合いをどうプロダクトで表現するかっていうのが難しかったです。
有吉さんに、大手家電メーカーがやっているような作り方はできない。蒸着法とか、そういうところで競うのはやめた方がいいといったんです。それでいて、見劣りしないレベルでモノをつくるためにも、本体はあまり無理せずにブラックアウト(見せないようにする)させた方がいいって提案したんです。そして、その分、予算が余るから、それをリモコンに回そうと話しました。ただ、リモコンを新規につくるのって大変なことなんですよ。なので、それを引き受けてくれるってすごいことだなって思いました。要するに一流加減をどこに置くかという考えですね。一流なんだけれど、平らではない製品を目指しました。
――ベンチャーなりのハードづくりのアプローチというところですね
有吉 私は今回、つきつめて究極のモノができたら、もうカタチは変える必要ないって思うんですよ。
柴田 モデルチェンジって、そもそも機能が変わらないと必要ないんですよ。でも、今ではモデルチェンジのためのモデルチェンジ、あるいは売り場のためのモデルチェンジになっている製品が多い。もう、そういう状況が20年以上続いちゃっていますよね。
有吉 20年ですかね。もっとじゃないですか? そもそも僕らは、ハードをつくっているけれど、ハードのメーカーとはビジネスモデルも違います。今回、記者発表会で、「2011年末に出すコンシューマー版はスペックを落として安い価格で出すんですか?」って質問した方がいるんですが、僕は「その発想自体がレガシー(過去の遺物)です」って答えたんですよ。
僕らはハードをつくっているメーカーじゃなくって、ハート(心)はサービス業です。「テレビをもっと楽しんでもらう」ためのサービスをとことん追及していきます。スペックダウンして動きがカクカクしたり、ガサツな製品になって、愛着がわかなくなって、人々がテレビから遠ざかったりしたら元も子もなくなってしまう。
柴田 そうですね。「スペックを落とした……」みたいな発想って、プロダクトアウトのモノを見ているから出てくる発想なんですよね。
有吉 そうだと思います。だから、今回、あえてスペック表も出さなかったんですよ。「何Tバイトですか?」って「4Tバイトか8Tバイトかって、あなたの生活に関係ありますか?」「じゃあ、10Tバイトになったら急に買うんですか?」ってナンセンスな議論じゃないですか。
――1990年代に、そういったスペックシートからのモノ選びという悪い視点が根付いてしまいましたが、最近はアップル製品の成功にしても、少しずつ脱スペックシート化できているんじゃないですかね
柴田 iPadもそうだけれど、マニアな人も使うし、普通の人も使う。なのに平らじゃない、そういうものってありますよね。そういうのが一番いいのかなって思います。入り口はすごく広くて、中に入っていくとすごく奥が深い製品。新しさがあって、それでいて馴染みやすいっていう作り方って難しいですよね。これは自分のテーマでもあって、やはりモノをつくるって、そのモノのトキメキとか、それによって自分自身が昨日よりもハッピーになれそうっていう予感が必要ですよね。でも、それでいて違和感がなく愛着を持てるようにしなければならない。この愛着っていうのは懐かしいっていう要素もあったりすると思うんですが……。その辺りの折り合いをつけるのがすごく難しいんです。SPIDERのコンシューマー版ではその辺りが課題になりそうですね。
――最近のメーカーのモノづくりは変わってきているのでしょうか?
柴田 iPhoneってヘッドフォンのところに、知らない人は「それってスイッチ?」って思うような音量スイッチがついていたりするじゃないですか。それが「今」なんだろうなって思います。それでいて自宅に帰って最新式のAV機器からCDを出そうとすると、ものすごく古くさい20世紀的なスイッチで、押すとウィーンってCDが出てくる。「これって同じ時代?」って思ってしまうことがあります。最新のデジタル製品とかも、今はクオリティの幅が広い。すごく良いものもあるけど、作りのひどいモノもある。今、デジタル系のモノなんて、プロダクトはブラックボックスなんだからGUIで勝負しないでどうするのって思うでしょ。だけど、ひどいGUIのままでいるところが多かったりする。
ハードのつくりにしても、隙間がコンマ4ミリくらい開いていて、どうやってつくっているかがすぐ分かるような作り方をしている製品とアップルみたいに「これ、どうやってつくっているの?」と不思議になるようなデザインもある。こういうモノが同居している幅の広さが2010年。2010年って恐ろしいって思ったんです。
――デザインをリードしてきたB&Oやライカみたいなところのモノづくりも最近、変わってきましたよね。B&OがみたいなところがiPod対応のクレードルを出してきたり……
柴田 B&Oやライカも、ちょっと前までは自分たちはあの昔ながらのデザインを守っていけばいいんだって思っていたと思うんですよ。でも、アップルの製品とかが「どうやってつくっているんだろう」っていう域に入り込んできているのを見て、だんだんそうは言ってられなくなっちゃったんじゃないかと思います。
気持ちとしては日本のメーカーを応援したいから、いいものがあったら、いいところを見つけられたらいいと思っているんですが、アップルみたいにコネクターを全部、変えて同じ薄さにするとかって、会社としてそういうことをやってくれないとできないですよね。あのiPhoneとかMacのデザインが、日本でも提案としてはあると思っているんですが、企業としてできない。自分に当てて振り返ってみると、SPIDERは、アップルみたいなことができるかっていうと、ちょっとそれは難しいと思ったんですよ。規模もぜんぜん違うし。だから、違うやり方で精度感とか緻密感を出していく方向を目指しました。
できる中で最高のモノをつくっていければいいな。そこにデザイナーとしてのスキルを生かしていけるのが重要かな、と思いました。一番、よくないのが「アップルかっこいいな」と、そういうイメージを持ったまま、20世紀型デザインをしちゃうことですね。それをやると、不細工なモノになってしまう。できる範囲を立てて、そこでデザイナーなりの工夫をしていかなければならないと思っています。
日本のメーカーでアップルみたいなモノができないはずがないのに、できないっていうのは、何かすごい大きな仕組みの部分が間違っているんじゃないかなっていう気もしています。一方で、アップルもそれだけすごいモノをつくったら、それは絶対に売れるんだっていう覚悟を決めてやっている辺りはさすがに凄いですけどね。日本のメーカーは最近、元気がないので、PTPみたいな元気な会社が出てきてくれるのはいいなって思いました。そういうところから発展していくんじゃないかなって思っているところもあります。でも、そのためにもコンシューマー向けSPIDERは成功させないといけませんね。
【林信行,エキサイトイズム】
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今何位かな?

放送局や広告代理店で「テレビとの関わり方が根本から変わる」と話題になっていた「SPIDER PRO」という製品がある。2010年から、その「SPIDER PRO」の地上デジタル放送対応版の開発が始まり、2011年5月23日に発売される。昨年末に行われた発表会では、本体は見せず女性デザイナーが手掛けたというリモコンだけが披露され、これが話題となった。
【柴田文江デザインのリモコンの他の画像】
女性デザイナーは柴田文江氏だった。柴田氏は子供向け携帯電話やZOJIRUSHIの「ZUTTO」シリーズに加え、最近では京都のカプセルホテル「9h(ナインアワーズ)」やデジタルサイネージと融合した次世代型新飲料自販機などを手掛けて大きな話題となり、Gマークの審査員にも就任している。今回、その柴田氏とSPIDER PROの生みの親、PTP代表取締役の有吉昌康氏に地デジ版SPIDER PRO誕生までのいきさつや、そこに込められた考えを聞いた。
●柴田さんの「テレビ嫌い」を変えた製品
――秘密にされていた女性デザイナーはやはり柴田文江さんだったんですね
有吉 そうなんです。発表会で「デザイナーはどなたですか?」と聞かれて「柴田文江さんです」の一言で終わりにはしたくなかった。そこで、ちょっともったいをつけてみました。改めて発表することで、分かる人なら「おー!」とうならせるニュースになるはずなので。でも、最初、女性のデザイナーに依頼すると言ったら社内はみんな驚いていました(笑)。レコーダーを始めとしてAV機器はマニアックで男性のものみたいなイメージがありますが、私はそれに対して違和感がありました。
われわれは、テレビやレコーダーを本質的に変えたいと思っています。柴田さんは、プロダクトのカタチではなくて、本質の部分でどうあるべきかというところで僕らにない視点を持っていらっしゃいます。そこに加えて女性であるという視点もある。
それに女性が気に入ってくれるモノじゃないといけないというのがあった。何故なら、テレビは万人が使うモノでSPIDERの利用時間は女性の方が圧倒的に長い。それなのに、SPIDERの前モデルはネイルをしている女性から、ボタンが押せないと言われていたんです。やわらかいラバーのようなリモコンボタンをギュッと押し込めないんですね。そんなところから女性的な視点が必要かなと思っていた部分もあります。ただ、そうしたことよりも何よりも、まずは僕自身が柴田さんのファンだったというのもあります(笑)。
柴田 依頼を受けたときにまず困ったのが、「私はテレビを見ない」ということでした。テレビ番組のあのガチャガチャとうるさい雰囲気が嫌いなんです(笑)。3回目の打ち合わせくらいまでは「私、テレビ見ないから、そのマシンのメリット、ぜんぜん分からない」みたいな態度でいました。まあ、それをいったらカプセルホテルのときもそうでしたけれど(笑) 「ほかのメーカーのレコーダーとどう違うの?」「え、毎週のドラマが録り貯めできないってどういうこと?」「ぜんぜん、分からない」という感じで、最初は本当に険悪だったんですよ。「正直、私、これやりたくない」とまで言っていたかもしれません。
今回は結局2案つくりましたが、ウチは基本的にはデザインは1案しかつくりません。なので「こんな感じ」とか「~~風」といった印象だけでデザインをしてしまうわけにはいきませんでした。クライアントが頭の中に持っていることが、そのまま生まれたらこうなるというカタチがあるはずなんですが、それを見つけるためには、まず自分でも納得しなければなりません。でも、それができなかったんです。有吉さんにSPIDERについて説明してもらい、彼が思っていることを言葉から探り出していくことが最初の作業だったんですが、そこが何といっても大変でした。心で思っていることと言葉に表したことって乖離しているところがあるじゃないですか……。
有吉 だから、私もこれはやはりSPIDER PROの実物を触ってもらうのがいいだろうと思って、いきなり実物を送りつけちゃったんです。ご自宅と事務所と。事務所のスタッフの方もどうぞご自由にお使いくださいという感じで。
ここでSPIDER PROを知らない人のために簡単に補足をしておこう。SPIDER PROは、1週間テレビの全チャンネルで放送された全番組をまるまる録画してしまう製品だ。人から「あの番組が面白かった」という評判を聞いてから、前週の○曜日の○時から放送されていた番組を振り返って見ることもできれば、自分の関心のあるキーワードやタレントが登場する番組やCMを検索して楽しむこともできる。
柴田 SPIDER PROを使い出したら、テレビは実は面白いんだっていうことが理解できたんですよ。これまでは自分の暮らしの時間とテレビの時間が合っていないだけだったって分かったんです。だって、ゴールデンタイムって家にいないじゃないですか。それに深夜の番組は確かに面白そうだけれど、起きていられないし。SPIDERを触りだしてから、何でテレビに自分の人生をあわせなきゃならないのか、何でこういうものがこれまでになかったんだろうって思うようになりました。
――イメージの大転換ですね
柴田 最近、ほかのものって、結構、自分に向いているモノが見つけやすくなってきているんですよ。モノを買うにしても、食べるにしても、自分にピッタリのモノを探せるんです。特に日本では。そんな中にあってテレビ番組だけはほとんどがマス向けのものになっています。それしかなくって、自分向けのモノが選べなかった。それがSPIDERのおかげで、テレビもやっと、自分の好きな番組を選べるようになりました。見たい番組が常にSPIDERの中にあるって凄いことですよね。
――柴田さんでも気に入る番組があったんですね。実際にどんな番組を見るんですか?
柴田 「情熱大陸」「NHKスペシャル」「世界の車窓から」など好きです。いずれも静かめな番組ですね。
――インターネットなどで得られる情報よりも価値がありましたか?
柴田 確かにインターネットの情報にはインターネットの情報の価値があります。でも、テレビって1つひとつの番組にかけている仕事量が凄いから、同じ1時間でも密度が濃いじゃないですか。
有吉 自然系の番組とかも、もの凄く取材とかに手間がかかっていますからね。
柴田 でも、これまではそういった番組があっても、発見することができなかったんですね。SPIDERを使い始めたとき、最初はドラマが毎週録画予約できないといったことに違和感を感じました。ほかの録画機器なら毎週何曜日何時で録画予約をすれば好きなドラマを録り貯めて、1カ月後であっても、いつでも好きなタイミングで見られるのに、SPIDERでは予約をしなくても録画されているが、「保存」しておかないと好きなドラマでも約1週間経つと自動的に消えてしまいますよね。
ただ、その後、考え方が変わってきました。テレビ番組ってよほど気に入ったモノは確かに録り残しておきたいけれど、そうじゃないほとんどの番組は、常にSPIDERの中にたくさん入っているから、その中から自分でチョイスして見た方がおもしろい。実は、その方が正しい見方かなって思い始めたんです。
そういったことが分かってくると、これまで閉じられていたテレビの世界が、何だか急にパっと開かれたような感じすらしてきました(もちろん、SPIDERは毎週放送されるドラマを録画した後に消えないように保存しておくこともできる)。
有吉 愛用者の1人、星野リゾートの星野さんが家族旅行をしたときに、温泉宿でお子さんが「アンパンマン」を見たいって言い出したらしいんですね。家ではSPIDERで、最新の回がいつでも見たいときに見られるのに、何でここでは見られないんだって。SPIDERが当たり前になっている子供には、「見たいときに見られない」理由を説明する方が大変だったっておっしゃっていましたね。
柴田 それって衝撃的な話ですよね。私は2次元で線を描いてから、それを3次元に変えているデザイナーですが、最近の若いデザイナーには、最初から3次元で線を描いちゃう人がいます。印刷だといきなりMacで描いちゃう人もいますよね。まるで、ネイティブに英語が話せる人と勉強して話せるようになる人みたいに全然出発点が違う。SPIDERしか使ってない人からしたら、もうそれなしに戻るっていうことは絶対にできないっていうことですよね。そう考えると、時代は絶対にそっちに向いている気がしてきます。
自分がデザインしているときに、やっぱり、良くないモノはつくりたくないと思っています。正義って反対から見ると不正義だったりするから、どっちが正しいかは難しい問題です。でも、そのモノが登場する前の過去に戻った方が良いものだったり、出てもあまり変わらないモノだったら、デザインしない方が良いんじゃないかと考えているんです。そういう視点でその子の話を聞くと、SPIDERがある方が正解に近いんじゃないかと思いますね。人間らしく生きるっていうことって、もっと自分主体になっていくということのはずだしね。
●デザイナー柴田の関わり方
有吉 SPIDERを紹介すると、これを録画機の化け物みたいにとらえちゃう人も多いんですよね。テレビ局の人でも、これでお茶の間の視聴が1人減るのではないかと心配する人がいます。実はSPIDERは番組を見る機会も、テレビを見る人の層も広げているのですが。
柴田 そうですね。私もあまり積極的に自分からテレビ番組を見にいく方じゃないので、人から「あれ見た?」と聞かれて後から番組について知ることが多いんですね。例えばカトリーヌ・ドヌーブが「徹子の部屋」に出ていたよ、といった具合に。そうやって評判が出てから番組を見ようにも、知らない番組の録画予約なんてできないわけだし、これまでは聞いたころには手遅れでしたよね。それがSPIDERでは、話題を聞いてからその番組が見られる、これは新しいですよね。
有吉 最初にSPIDERを思いついたときの原点はそこなんです。1週間録画できるということよりも、放送の終わった番組を話題になってから見るという方が強いんです。実はそれに関して、ちょっと堅苦しい名前ですが「番組評価互助会システム」っていう特許を12年前に出しているんです(笑)
柴田 さかのぼって聞くと、すごいですね。もっとも、私もSPIDERがそこまですごいと理解するのにはすごく時間がかりました。一般のお客さまに毎回、毎回その話をして説得するのも無理なので、どうしたらいいんだろうって考えていました。そうした結果、思い至ったのがDVDプレイヤーみたいに本体が見えちゃったらその時点でダメなんだろうなということなんです。そうなったとたんに、最初のころの私みたいに~~社の~~とはどこが違うんですか? っていう、ほかの録画機との比較の議論が出てきてしまいますよね。
でも、これは実はサービスであって、「SPIDERである」ということ自体を売ることが大事なので、本来はモノが必要ではないんです。もっとも、そうはいっても端末としてモノは存在しないといけないから、その図面を描いたりはするんですけど……。そのころから「多分、メインはリモコンだ」って思っていました。
本体に関しては、できれば存在しないのが一番良くって、(テレビに)ビルトインして、なくしちゃいたいくらいでした。でも、それはできないので、できるだけシンプルにして、発表会のときやそこで配るカタログでも、載せるのはリモコンだけにして本体は隠そうってお話したんです。
――あれは柴田さんの提案でしたか
柴田 実は情報端末のイメージの脱却が一番、難しいんです。モノがあったり、言葉で説明しちゃうと、必ず「~とどこが違うの」っていう議論になっちゃいますよね。でも、例えばWOWOWとメーカー製のDVDレコーダーを比較する人はいないでしょう。だって、WOWOWはサービスなので姿がなくって、AV機器とは全然違うから。SPIDERも本当はサービスなんですよ。
有吉 まったくそのとおりです。それを分かっている人達には、よく何で自分たちでつくっちゃうんですか? ほかのメーカーにつくってもらわないんですか? と聞かれることがあります。私たち自身は、本心ではほかのメーカーに作ってもらってもいいという考えで、実はこれまでにも何度か話し合いをしたんですよ。ただ、今、メーカーと組んで出すとなると、製品のコンセプトを最後までキープして製品化することが難しいとだんだん分かってきたんです。だから、それならいっそ自分たちでつくってしまおうということになったわけです。
柴田 やっぱり、SPIDERの本質はカタチのあるプロダクトではなくって、テレビの概念を変えようというサービスなんですよね。でも、最初に有吉さんが来て、仕事を依頼された時点では、「まずは本体というモノがあって、それをデザインしてほしい」という姿勢が前面に見えたんですよ。なので、「デザインっていうのはスタイリングだけじゃないですよ」って話をさせていただきました。
――ということは、柴田さんの関わり方は、ただのカタチのデザインだけではない、ということですね
柴田 これってカタチだけ設計しても済まない仕事じゃないですか。クライアントの考えをデザイナーの視点で、いかに製品を知らない人達に伝えていくかを解釈、翻訳しなければならない。そのための作業がまず必要なんです。なのでモノをつくり始める前に有吉さんとはずいぶんとお話をしました。
――話はスムーズだったんですか?
柴田 ものすごく印象的だったのは、有吉さんがすぐに「何でもできる」っておっしゃるんですよ。そういう人とは仕事したことないので、かなり、怪しい人だと思っていました(笑)
――何でもできるっていうのは、造形上の話ですか?
有吉 いや、可能か不可能かという視点での話ですね(笑)
柴田 私は日ごろ、物をつくっている側にいますが、「何でもできる」って言われることに凄く不安感を持っていて……。海外の工場なんかでも「何でもできる」と言うところに限って、実は何もできなかったりするものだから(笑) そこで「これできますか?」「あれできますか?」って色々、聞いてみると、本当に、あれもやる、これもやると対応してくれたんですよ。そういう意味ではデザインを縛られなかったので、本当にいろんなアイデアが出せてよかったです。
そこで打ち解けて、「コレで一番、大事なのはカタチではありません」という話と「コレがほかと何が違うか表現していかなくちゃいけない」、そしてそのためにはユーザーとの接点になるインタフェース、つまり「GUIが大事だ」っていうことをお話ししました。
有吉 そうですね。柴田さんに1日あけてもらい、うちのオフィスでエンジニアがコーディングしながら、「ここでアイコンの動きを加速した方がいい」とか指示をしてもらって、その場でGUIを直すんです。
柴田 これが面白くて、すごく難しそうなことがすぐに直るのに、簡単なことが全然、直らなかったりするんですよ。「これ邪魔なので、ちょっと取ってもらっていいですか?」とかいうと、すぐに取れるのに「ここの色を変えてもらえますか?」とかいうと、ものすごく手間取ったりして(笑)
●リモコン=SPIDER PROの新しい顔
――その大事なユーザーインタフェースですが、画面の上での表現がGUIなら、手にとって触れる部分が、あのリモコンということですよね
柴田 リモコンもいろんなことを考えなきゃいけないと思っていたんですけど、普通のボタンがいっぱいあるリモコンは、何かAV機器のようなイメージがついちゃいますよね。SPIDERはAV機器ではないという考えを示したいので、もっと違うものじゃないといけないと考えていました。ここで課題だったのは、操作を考えると、必要なボタンの数が決まってしまうことです。特に難題だったのは「十字カーソル」は絶対にないと困るという点でした。
有吉 前のSPIDERを開発したときに、どのボタンがいるか、どれがいらないかをかなり時間をかけて洗い出していたので、最初からどのボタンがいるかはハッキリしていたんです。
柴田 これは私が携帯電話を何台かデザインしていたから思うのかもしれないけれど「十字カーソル」が入っちゃうと、何だか古くさいイメージになるなって思ったんですよ。そこで、しばらく考えた後、いっそ、それをメインにしてしまえばいいんじゃないかなって思ったんです。
平らなところに十字カーソルを置くとわりと古くさい感じになっちゃうけれど、まず十字カーソルがあって、そこからカタチができるっていうモノにしたらどうかなって思いました。要するにこの十字部分が始まりで、そこからリモコン本体がニューッと出てきているような感じです。一番、重要なのはそこだったので、そこからカタチをつくりましたというアプローチです。そして基本的にはここにすべてがおさまるようなイメージをつくっていきたい。
――SPIDERのすべてを、これで操作するわけですね
柴田 モノとしては、これがSPIDERの入り口かなと思っています。実際にはどこかに本体はあるんですけれど、ユーザーが目にするのはリモコンだけ。そういう見せ方をすると、AV機器じゃなくなってくるんじゃないか。これがSPIDERの在り方をどうするかを考えた上でのデザインの仕掛けです。
――リモコンは十字キーだけでなく、下の方にテンキーもついていますが、これは今回のSPIDERで検索をしたり、つぶやいたりと文字入力をしたいっていう要望があったからですよね
柴田 そうです。この文字入力っていうのは、いい番組を検索してみつけたい人にとっては、確かに便利。搭載はmustだったんだけれど、キーの数が多くなるので嫌でした。それに十字キーと文字入力を両方揃えるとなると、「もう、それはケータイじゃん」ってなっちゃうので、それをどうするかっていうのが難しかったですね。
そこで、最初のモックでは、テンキーをリモコンの曲面に完全に沿わせるカタチにしました。「あるんだけれど、ない」みたいなカタチにしようとしたんです。ただ、これはすごく大変で、無理だったんですね。何故かというと、キーの表面の曲線が1個1個違うので、それぞれに型が必要で、すごく高くつくんです。私はデザイナーだから、高くなることは分かっていたんですが、「全部独立した型でもできるんですか?」って有吉さんに聞いたら、「できます!」っておっしゃったんですよ(笑) でも、さすがに高すぎたので、やめてもう少しコスト的にバランスのいい最終デザインになりました。
有吉 でも、私は完全にはあきらめてはいないんですよ(笑) 2011年末に出すコンシューマー版のSPIDERでは、ぜひこのリモコンでいきたいって今でも思っています。
柴田 そうですね。業務用のSPIDER PROは、もうちょっと理解の高い人達が使うから、そこの部分は理解してもらえるだろうっていう話になりました。
まあ、リモコンについては、こんな感じで二つ折りケータイの古くさいカタチから脱皮しようと頑張ったんですが、それにしても、今回、文字入力が必要だったっていうのはデザイナー泣かせでしたね。
有吉 前のSPIDERのリモコンもそうで、古いかもしれないけど十字キーでやりたいっていうのが僕の最初からのコンセプトでした。それはやはりシンプルにして、誰でも使えるようにしたかったからです。今回は、そこでさらに文字入力も両立させなきゃいけなかったんですよね。シンプルさと文字入力っていうのは結構、相反しますよね。
――この文字入力の部分、グリップしてしまっても変な文字が入ったりしないんですか?
柴田 大丈夫ですよ。これカタチ的にはグリップしたときは、サイドをホールドするようになっているので、キーに触れることはありません。
有吉 それに加えてGUIとソフトウエアと、機械的なセンシング技術とかで番組視聴中とかですと、文字入力を押してもきかないようになっています。ちなみにこのリモコンは赤外線じゃなく電波をつかっているので手の中にスッポリおさめて操作できちゃうんですよね。
――それはBluetoothか何かですか?
有吉 Bluetoothじゃないですが、それに近い技術です。なので、本体は棚の中にしまっちゃっても大丈夫なんです。
――リモコンにある、この吹き出しのようなマークは何でしょう?
有吉 そのボタンを押すと番組について、つぶやけるんですよ。現在のSPIDERでは「コンシェルジュ」という名前になっている機能で、面白い番組やCMを人に教えたり、共有できたりするものですが、地デジ版では今風に「ソーシャル」という名前にしました。
柴田 プロダクトデザイン的には、こういうかわいらしいのがリモコンにあるのは、どうかなって思ったんですが、有機的にしよう、メインメニューと同じアイコンにしようということでつけました。
――キーを減らして目立たないようにしながらも、いろいろな機能が盛り込まれているんですね
有吉 実は、このリモコン、メインの十字キーの部分が光るんですよ。SPIDERでは、見る人によっていつも検索するキーワードも違えば、お気に入りの番組も違うので、ボタンでユーザー切り替えをして、メニューに表示される内容を切り替えできます。その際に、現在の利用ユーザーが画面でも分かるように、メニュー表示の色を変えているんですが、今回、リモコンの文字盤の発光色もそれにあわせて変わるようにして画面と連動している感じを出したんです。本体の存在はなく、まさにメニュー画面と、このリモコンがつながっているんですよ。
柴田 やっぱり、お父さんのSPIDERは見たくないじゃないですか。それをシンプルに自分のモノになっていると見せる。この部分はこだわりでしたよね。
――リモコンって、これまでみんなで使うモノだったのに、それがパーソナライズされるって新しいですね。
柴田 そうなんですよ。でも、それをシンプルに見せたかった。電動歯ブラシって、ブラシ部分についているリングを変えて、今、誰が使うものになっているかが分かるじゃないですか。それに近いです。
有吉 でも、こちらはさらにITっぽく、色を配信できるようにもしました。秋の新色とかを配れるわけです(笑)
――色はどれくらいの種類出せるんですか?
柴田 実は無限に出せるんですけれど、例えば薄い緑とちょっと薄い緑とかの違いを人が認識できるかが問題です。
有吉 これまでのSPIDERもメニュー画面の色の切り替えはできたんですが、新SPIDERはよりパーソナライズできるところがミソかなと思っています。例えば、ウチの娘も4、5歳のころは全身ピンクだったんですが、小学校に入って6、7歳になると、急に黒とブルーとか、そういう色が好みになってきて、気がついたらいつの間にかSPIDERのメニュー画面もブルーになっているんですよね。
柴田 これまでのSPIDERのように単に今、自分のモードなんだと認識させるための色ではなく、自分の気持ちにするために色を変えるっていうことですよね。その色が画面に連動しているって、やっぱりいいですよね。
●変貌しているモノづくりのあり方
――SPIDERのデザインの方針を固める上で苦労したのはどんな辺りでしょう?
柴田 SPIDERは実際にすごいことができるので「専門的」というイメージも必要だけれど、今後、コンシューマーにも売っていきたいということなので「これは私向けのモノじゃない」と思われるわけにもいきません。また、大手家電メーカーの製品のように平らなものにしちゃうわけにもいかない。その辺りのバランス感覚がすごく難しかったです。すごく分かっている人達が便利に使っている道具が、自分たち向けに降りてきたんだ、っていうのを出さなければならないなと思いました。
――SPIDERが、これまでになかった製品というかサービスという部分もありますが、PTPさんが大手家電メーカーではなく、ベンチャーであるという辺りで、これまでとやり方を変えるところはありましたか
柴田 会社がベンチャーで製品出荷の規模も小さいことを考えると、頑張って一般に流通している一流のモノ、ちゃんと信頼できるモノっぽくつくろうとしても、秋葉原で並んでいる自作パソコンのような仕上がりになってしまいがちです。ただ、そうなってしまうとプロ用の製品っぽさがなくなってしまう。そのころ合いをどうプロダクトで表現するかっていうのが難しかったです。
有吉さんに、大手家電メーカーがやっているような作り方はできない。蒸着法とか、そういうところで競うのはやめた方がいいといったんです。それでいて、見劣りしないレベルでモノをつくるためにも、本体はあまり無理せずにブラックアウト(見せないようにする)させた方がいいって提案したんです。そして、その分、予算が余るから、それをリモコンに回そうと話しました。ただ、リモコンを新規につくるのって大変なことなんですよ。なので、それを引き受けてくれるってすごいことだなって思いました。要するに一流加減をどこに置くかという考えですね。一流なんだけれど、平らではない製品を目指しました。
――ベンチャーなりのハードづくりのアプローチというところですね
有吉 私は今回、つきつめて究極のモノができたら、もうカタチは変える必要ないって思うんですよ。
柴田 モデルチェンジって、そもそも機能が変わらないと必要ないんですよ。でも、今ではモデルチェンジのためのモデルチェンジ、あるいは売り場のためのモデルチェンジになっている製品が多い。もう、そういう状況が20年以上続いちゃっていますよね。
有吉 20年ですかね。もっとじゃないですか? そもそも僕らは、ハードをつくっているけれど、ハードのメーカーとはビジネスモデルも違います。今回、記者発表会で、「2011年末に出すコンシューマー版はスペックを落として安い価格で出すんですか?」って質問した方がいるんですが、僕は「その発想自体がレガシー(過去の遺物)です」って答えたんですよ。
僕らはハードをつくっているメーカーじゃなくって、ハート(心)はサービス業です。「テレビをもっと楽しんでもらう」ためのサービスをとことん追及していきます。スペックダウンして動きがカクカクしたり、ガサツな製品になって、愛着がわかなくなって、人々がテレビから遠ざかったりしたら元も子もなくなってしまう。
柴田 そうですね。「スペックを落とした……」みたいな発想って、プロダクトアウトのモノを見ているから出てくる発想なんですよね。
有吉 そうだと思います。だから、今回、あえてスペック表も出さなかったんですよ。「何Tバイトですか?」って「4Tバイトか8Tバイトかって、あなたの生活に関係ありますか?」「じゃあ、10Tバイトになったら急に買うんですか?」ってナンセンスな議論じゃないですか。
――1990年代に、そういったスペックシートからのモノ選びという悪い視点が根付いてしまいましたが、最近はアップル製品の成功にしても、少しずつ脱スペックシート化できているんじゃないですかね
柴田 iPadもそうだけれど、マニアな人も使うし、普通の人も使う。なのに平らじゃない、そういうものってありますよね。そういうのが一番いいのかなって思います。入り口はすごく広くて、中に入っていくとすごく奥が深い製品。新しさがあって、それでいて馴染みやすいっていう作り方って難しいですよね。これは自分のテーマでもあって、やはりモノをつくるって、そのモノのトキメキとか、それによって自分自身が昨日よりもハッピーになれそうっていう予感が必要ですよね。でも、それでいて違和感がなく愛着を持てるようにしなければならない。この愛着っていうのは懐かしいっていう要素もあったりすると思うんですが……。その辺りの折り合いをつけるのがすごく難しいんです。SPIDERのコンシューマー版ではその辺りが課題になりそうですね。
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柴田 iPhoneってヘッドフォンのところに、知らない人は「それってスイッチ?」って思うような音量スイッチがついていたりするじゃないですか。それが「今」なんだろうなって思います。それでいて自宅に帰って最新式のAV機器からCDを出そうとすると、ものすごく古くさい20世紀的なスイッチで、押すとウィーンってCDが出てくる。「これって同じ時代?」って思ってしまうことがあります。最新のデジタル製品とかも、今はクオリティの幅が広い。すごく良いものもあるけど、作りのひどいモノもある。今、デジタル系のモノなんて、プロダクトはブラックボックスなんだからGUIで勝負しないでどうするのって思うでしょ。だけど、ひどいGUIのままでいるところが多かったりする。
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