『東のエデン』『ピンポン』のアスミック・エース社長が語る劇場配給ビジネス
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監督や役者にスポットが当たりがちな映画業界。しかし、その裏で映画を劇場に売り込み、宣伝活動に尽力しているのが配給会社である。そんな映画配給業界の中でも、『ピンポン』など実写映画の独立系配給会社として数々の実績と歴史を持っているのがアスミック・エース エンタテインメントだ。
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近年はアニメ映画の配給にも積極的に取り組み、『鉄コン筋クリート』『東のエデン』などの話題作も手掛けた同社の豊島雅郎(てしま・まさお)社長が、モデレーターの櫻井孝昌氏とともに映画配給ビジネスについて語った。
※この記事は5月11日に行われた東京コンテンツインキュベーションセンターのセミナー「配給会社から見た劇場アニメビジネス~実写映画と何が違うか、これからどうなるか~」をまとめたものです。
●3つの団体に属する企業が配給を行う
豊島 私たちの会社はアスミック・エース エンタテインメントというちょっと長い名前なので、通常、社内でもアスミック・エースと略して呼んでいます。アスミック・エースは映画の配給、実写映画やテレビアニメなど映像コンテンツの企画・制作、二次利用という形でビデオグラム※の発売元となったりテレビ局や配信業者に番組を販売したりしています。また、私たちが関係したコンテンツを海外にセールスしているチームもあります。制作から配給、販売までを一気通貫で行えることがアスミック・エースの強みとなっています。
※ビデオグラム……ビデオ、DVD、Blu-ray Discなど電気的録音録画物を総称した言葉。
櫻井 ほかの配給会社と大きく違う点はありますか?
豊島 配給会社の大手は、日本映画製作者連盟(映連)のメンバーである東宝、松竹、東映、角川書店(角川映画)です。各社とも配給だけでなく、劇場を持って興行も行っています。
ちなみに、それは米国ではできないことです。なぜなら競争原理が働かないということで、独占禁止法によって制作と販売を分離すると決められているからです。米国ではニューズ・コーポレーションやタイム・ワーナーなどのメディア・コングロマリットがありますが、実はそういう会社は劇場運営に携わっていません。もちろん、仲がいい会社はあるかもしれないのですが、直接資本関係を持った会社と配給と劇場運営を一緒に行っているところはないと聞いています。
映連のほかの配給会社としては、MPA(モーション・ピクチャー・アソシエーション)というグループがあります。ディズニーやワーナー、ソニー・ピクチャーズ、パラマウント、FOXといった5つの米国企業がMPAに属して、日本で配給を行っています。ユニバーサルはMPAに属してはいるのですが、日本では東宝東和という外国映画専門の配給会社に委託しています。
そして、アスミック・エースは外国映画輸入配給協会(外配協)という団体に属しています。ここには、先ほどの東宝、東映、松竹、角川書店以外の配給会社も属しています。日本ではこの3団体に属した会社が主に配給を行っています。
しかし、今、制作会社などが直接配給を行っていく流れもあります。後ほど触れますが、『攻殻機動隊 SAC SOLID STATE SOCIETY 3D』では制作会社のプロダクション・アイジーが東映系のティ・ジョイと一緒に配給に乗り出していて、そういうトレンドになっているのかなと思ったりもしています。
●映画の仕事をするとは思っていなかった
櫻井 豊島さんが映画業界に関わるようになったきっかけについて教えていただけますか。
豊島 私が社会人になったのは1986年4月のことです。1980年代はコンテンツやITという言葉はありませんでしたし、インターネットという言葉もなかった時代です。私が学生だった1980年代前半には、“ニューメディア※”という言葉が世の中に流通し始めていました。
※ニューメディア……テレビやラジオ、新聞・雑誌、電信・電話などの既存媒体にとらわれない新たな媒体のこと。
当時、職業としてはテレビ局や広告代理店のほかに、コピーライターも結構ちやほやされていました。1970年代後半から糸井重里さんや川崎徹さんが頭角を現して、西武百貨店やパルコなどを抱えるセゾングループが広告に力を入れていました。ウディ・アレンさんを登用した「おいしい生活」なんてコピーもありましたね。
そんなバブル前夜、私も大学を卒業するので就職について考えないといけないという時、本当はテレビ局や広告代理店に入りたいと思っていたのですが、非常に狭き門でした。
そんな時、アスミックという会社がニューメディアをやるということを聞いて、私は基本的に新しいもの好きなので入社することにしました。アスミックは1985年に設立されたのですが、カセットやビデオなどを使った教育教材を作るアスク、1980年代からケーブルテレビに注力していた住友商事、そして大手出版社の講談社が資本を出し合って作った会社です。会社名は、その3社の頭文字をとって命名されました。
学生の私は、アスクは正直知らなかったのですが、住友商事や講談社は有名な会社なので、「その会社の資本が入った会社であればいいかな」程度の気持ちで、映画をやるとはまったく思わずに入社したというのが本音です。
1986年に入社して、1年目は親会社のアスクが手掛けていた教育教材に関わったり、ニューメディア関連では、世界で初めてレーザーディスクを使った百科事典のプロジェクトに入って、1年間マーケティングで従事したりしていました。
そして私が入社して2年目の1987年、レンタルビデオ店が世の中にどんどんできてきて、「レンタルビデオ店に映画のソフトを出せば、とにかく売れるぞ」という時代が訪れました。みなさん覚えていらっしゃらないと思うのですが、1980年代半ばのレンタルビデオ店は、1本1000円とかでソフトを貸し出していたんですね。今は1本80円とか100円とか言っている時代なので、「1000円なんて信じられない」と思われるでしょうが。
櫻井 「でも、みんなで見れば安い」とか言っていましたね。
豊島 そうですね。当時は家庭で映画が見られるということ自体が画期的でした。それと符合するように、任天堂のファミコンが発売されて、ゲームセンターに行かなくても、家庭でゲームができるようになりました。
そう世の中が動いている時代だったので、アスミックでも映画を海外から調達してきてレンタル用のビデオにして、レンタルビデオ店に売ることと、ファミコン向けにゲームソフトを作ることを始めました。
私が入った1986年は教育関係のニューメディアのソフトを作ることが主力だったのですが、1987年以降は映画やゲームのビジネスをやるようになって、私もビデオに関わっていた流れで映画の仕事もするようになったというのがきっかけです。学生時代に付き合っていた彼女が映画好きだったので、無理やり難しいフランス映画とかを見ていたりもしたのですが、会社に入って映画の仕事をするとは正直思っていませんでしたね。
●映画配給ビジネスの醍醐味とリスク
櫻井 映画配給ビジネスの醍醐味や、「こんなところが大変なんだよ」というリスクについて教えていただけますか。
豊島 人によっては映画を“コンテンツの王様”と呼ぶように、映画は関わる人数は多いですし、人数が多いということはコストが高くなりますし、コストが高いということは回収のリスクが高くなるということです。ただ、リスクが高い一方、当たった時に回収できる金額も大きいです。10億円単位でお金が動きますからね。それは10億円損する可能性もあることも意味するのですが、その辺の醍醐味はある仕事なのかな、と思っています。
しかし、今の日本経済は決して良くないので、私たちも当然「ビジネスでリスクをどうミニマイズできるか」ということを常日頃考えています。その辺のリスクヘッジで、私たちがどんなことを考えて行動しているかといったこともお話しできればと思います。
櫻井 ちなみに、アスミック・エースが関わる映画の平均的な予算はいくらくらいですか?
豊島 ピンからキリまであるのですが、2010年にフジテレビと制作した『ノルウェイの森』(配給は東宝)の制作費は10億円以上です。一方、実写映画でも制作費が少ないものだと、5000万~1億円で1本作ることもあります。つまり、5000万~10億円以上という範囲になるのですが、平均では1億5000万~3億円くらいという感じです。
櫻井 エンタテインメント業界で映画は、ゲームと並んで制作費がかかりますよね。
豊島 そうですね。ただ、ゲームの場合は今、日本市場だけでは制作費を回収できなくて、世界をマーケットにしないといけなくなっています。特にPS3やXbox 360などだと、かなりの人とお金を投じて作らないと商売になりにくいフォーマットになってしまっています。
先ほど『ノルウェイの森』の制作費が10億円以上というお話をしましたが、ゲーム会社は『ノルウェイの森』以上の金額を投じて、世界を相手に勝負しているように思います。そういう意味では、私は映画業界に属しているのですが、「ゲーム業界はもっとダイナミックな仕事をされているな」と個人的には思っています。
櫻井 豊島さんが関わられた映画で、一番「こんなにもうかっちゃった」という映画は何ですか?
豊島 少し言いづらい部分もありますが(笑)、利益率が良かったという意味では『ピンポン』(2002年)ですね。
『ピンポン』を公開した2002年ころ、邦画業界はかなりしんどくて、ハリウッド映画にやられていた状態でした。アスミック・エースとしては、「そこに何とか一石を投じたい」という気持ちがありました。ただ、アスミック・エースは映連に属さないインディペンデントな企業なので、「違うやり方で邦画に取り組みたい」と思いました。
アスミック・エースでは『ピンポン』の前に、『雨あがる』(2000年)や『阿弥陀堂だより』(2002年)というシニア向けの映画を制作していました。しかし『ピンポン』は、邦画を見ないような若い子たちに「こんな邦画もあるんだ」と思わせたい、「洋画感覚で見られるような邦画を作りたい」という気持ちで作りました。
制作費も宣伝費もそれほどかけられませんでしたが、「当時なかったような邦画を新しい形で世の中に送り出したい」という思いのもと、原作の松本大洋さん、卓球の映画なのにCGを多用した曽利文彦監督、ホットになりかけていた脚本の宮藤官九郎さんたちと制作したり、興行スタイルも今までとちょっと違ったやり方で行ったりしました。その結果、興行収入は14~15億円に達し、当時伸び盛りだったDVDも売れましたし、制作パートナーのTBSにプライムタイムに放映していただいたりと、「本当に恵まれた作品だったな」と思っています。
アスミック・エースでは1990年代に『トレインスポッティング』(1996年)という映画に関わったのですが、「『トレインスポッティング』みたいな邦画を作って、世に送り出そう」というのが合言葉でした。
●アニメは言葉や人種の壁を越える
櫻井 そんなインディペンデントの実写映画の雄であるアスミック・エースが劇場アニメに取り組み出した、というのは業界でも話題になったと思うのですが、なぜ劇場アニメに取り組まれたのでしょうか?
豊島 DVDビジネスの隆盛で、日本のジャパニメーションと呼ばれているコンテンツが「米国で商売になるぞ」と言われていたのが2000年代前半のことでした。今、ちょっとバブルは弾けてしまったのですが。
私たちは『ピンポン』以降も実写映画を作り続けているのですが、アニメは実写映画と違い米国でも商売になりやすいんですね。日本人が日本語で喋っている映画は外国では商売になりにくいのですが、アニメに関しては言葉の壁や人種の壁を越えて商売になるということで、まずビジネス的な観点で魅力的な商材であるということがありました。
そこでマッドハウス制作で、『茄子 アンダルシアの夏』(2003年)という46分の映画を夏休みに全国公開しました。今からすると、「よくやったなあ」と思います。東急チェーンの渋谷東急という映画館にお世話になって、スクリーン数は全国で120~130くらいでした。
当時は今と違ってまだ古いしきたりのようなものがあったのですが、東急チェーンでやるというのは業界的にはすごいことなんですね。46分という短い尺、スタジオジブリで宮崎駿さんの右腕として作画監督などを務めていた高坂希太郎さんの初監督作品というのを東急チェーンで無謀にも配給したというのが、アスミック・エースとして劇場アニメに本格的に取り組んだ初めての例だと思います。
実は(ジブリ映画にも参加する)日本テレビにパートナーとして参加していただき、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーにも「ジブリっぽくなりますが、すみません」と仁義は切りました。結局、30万人くらいのお客さんに来ていただけたので良かったのかなと思います。
櫻井 今、少しお話に出ましたが、豊島さんは日本アニメの特徴と優位性はどんなところにあると思いますか?
豊島 私は今48歳なのですが、テレビアニメ『巨人の星』などを見て育ちました。特に40代前半以下の世代では、幼少のころからアニメを見て育ってきたと言っても過言ではないと思います。男女問わず、「アニメが嫌いだ」という子どもはそんなにいません。テレビを通してアニメが日本文化の一部になっている、極論を言えば、アニメが今の若い世代のみなさんの体の一部になっているということが、日本のアニメビジネスにおいて一番面白いところなのかなと思います。
「新聞や本は読まないけど、アニメやコミックは好きだよ」という子は多いと思います。アニメが好きな子は世界中にたくさんいますが、体の一部になっている人という意味では、世界を見渡しても日本は密度が一番高いのではないかと思ったりもしています。
●アニメビジネスの特徴は
豊島社長がアスミック・エースが配給した代表的なアニメ映画として挙げたのが、『鉄コン筋クリート』(2006年)と『東のエデン』(2009年、2010年)の2作品。『鉄コン筋クリート』は『ピンポン』と同じく松本大洋さん原作のアニメ映画で、『東のエデン』はフジテレビのノイタミナ枠で放映されたシリーズの続編として作られたアニメ映画である。
豊島 『鉄コン筋クリート』も『東のエデン』もマーケティング重視というよりは、クリエイターが「こんなことをやりたい」というものに沿って作った映画、平たく言うとリスクが高い映画です。ただ、『東のエデン』はノイタミナ枠でテレビアニメを放映した後での劇場アニメ、しかもマーケティングコストを絞って小さい展開にしたので、そういう意味では『鉄コン筋クリート』の方がよりリスクが高いビジネスだったと言えます。
先ほどアニメのビジネス面での優位性として「海外に出られる」とお話ししましたが、「コンテンツの価値が、時間が経っても劣化しない」ということも言えます。実写とアニメとを比較してはいけないのかもしれないですが、私個人としては「アニメの方が時間が経ったとしても商売するチャンスが多いのではないか」と思います。
映画を劇場公開して、DVDやBlu-ray Discを出し、レンタルビデオ店に並べていただき、有料放送のWOWOWなどで流して、最後に運が良ければ地上波で流れるというウインドウ展開※を行ったら、ちょっとバリューが落ちるというか、お役目ご苦労さんみたいなところがあるのですが、アニメの場合はその劣化が少ないのかなとは思います。
※ウインドウ展開……コンテンツを複数のウインドウ(メディア・市場)に利益が最大化になるように露出していく展開のこと。
ゲームの場合、ハードが進化すると、ソフトが陳腐化するというビジネスとしての弱点を抱えています。もちろんAというヒット作品を、ハードの進化に合わせて進化させることもできるのですが、Aという作品自体は陳腐化されます。任天堂が昔懐かしの作品を再び遊べるように配信していたりもしますが、ゲーム業界のマネジメントサイドの方からは、「映画はいいですね。1回作ってしまえば、いろんなハードが出てきても流用できますから」と言われます。ゲームは新しいハードが出てくるたびに、また新しいことにチャレンジしないといけないので本当に大変なんですよ。
その映画の中でも、実写よりも陳腐化が少ないと思われるアニメの方が、商売が長くできるという意味で面白いなと思っています。
櫻井 背景も、実写だと現在との差が気になったりしますが、アニメだとそれほど気にならないですよね。
豊島 それも言えると思いますね。今、1970~1980年代のテレビアニメを見ても、そんなに違和感がないというか、現実と違う世界を描いていますからね。
私は『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)や『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)の2本は毎年2回は見ますが、今見ても全然古くないですね。『AKIRA』(1988年)も年に1回は引っ張り出して見ますが、全然古くない。そこは「アニメの力すごいなあ」と思いますね。
櫻井 豊島さんは「アニメ映画の場合、お客さんが非常に見えやすい」というお話をされますね。
豊島 アニメ映画は悪い言い方をすると、すそ野が狭いというか、お客さんの数が少ないです。ただ逆に言うと、ターゲットが広くないので、「だいたいこういうことをやればこういうお客さんが来てくれるだろうな」ということが見えるということです。
今、私たち配給ビジネスの悩みは、P&Aのコストがかかるようになっていることです。それは劇場公開時にかかる配給会社としてのコストを表していて、劇場に供給するフィルムなりデジタル素材のコストをP(プリント)、アドバタイジング(宣伝)のコストをA、その2つのコストを合わせてP&Aと呼んでいます。このP&Aのコスト、特にAの方がかかる傾向になっているんですね。
今の配給業界の主戦場はシネマコンプレックスです。ハリウッドのメジャースタジオはとにかくCMをバンバン打っていて、ハリー・ポッターシリーズあたりだと10億円近い額をテレビ局に支払っています。私たちが洋画を配給する場合、CMにかけられるコストなんて2億円くらいです。そういうところで戦わないといけない。
ただ、アニメ映画の場合にはお客さんの顔が見えるので、お客さんにどうアナウンスすれば劇場に足を運んでいただけるかが割と見えやすいです。分かりやすく釣りに例えると、洋画、特に実写映画はどこに魚がいるか分からないところで釣りをすることが多いのですが、アニメ映画の場合は釣り堀できちんと釣りができる。つまり、マーケティングのコストをかけずに配給できることが、配給会社から見たアニメビジネスの魅力だと感じています。
櫻井 ある人たちにきちんと情報を伝えれば、「そこからこれぐらい広がるだろう」というのが読みやすいですよね。
豊島 ただし、ユーザーの方々は結構こだわりがあったりします。私たちはアニメを定期的に手掛けている会社でもないので、気を付けなければいけないのはアニメファンにとって「何かこの配給会社分かってねえな」みたいな宣伝をした場合のマイナス効果もすぐに広まるということです。「その作品のファンの心をきちんとつかめる宣伝手法がとれるかどうかが肝かな」と思ったりもします。
櫻井 先ほども出ましたが、広告費は作品によってそんなに違うものなのですか?
豊島 実写でもアニメでも、映画の直接の制作費はアスミック・エースの平均で1億5000万~3億円とお話ししました。しかし、全国200~300スクリーンで公開する場合には、その制作費以上のP&Aのコストをかけて展開します。ということは、制作費とP&Aを合わせた総コストは、全国300スクリーンとかで公開するような映画なら5億~6億円かかるということになりますね。
櫻井 インターネット時代になって、P&Aに変化はあるのですか?
豊島 アニメ映画では別だと思うのですが、「洋画邦画問わずアニメ以外の実写映画を見るきっかけは何ですか?」と聞くと、ネットの時代になっても1番目は劇場の予告編なんです。2番目はテレビCMを見た、それ以下は新聞広告や雑誌の記事を見たとかがあって、最近はYahoo!映画で見たとかも入るようになっています。テレビCMがきっかけという中には『王様のブランチ』で紹介されたといったものが含まれることもあるのですが、とにかく劇場で映画を見る2大要素は劇場で見た予告編とテレビCMということになりますね。
劇場の予告編は作品の強さや、配給会社と劇場との交渉でかけていただけるかどうかが決まります。ただ、テレビCMに関しては、ハリウッドのメジャースタジオからはたくさんお金をとっている一方、「私たちは日本の弱小のインディペンデントの会社だから安い値段でお願いします!」とは言えないので、そのコストはやはりかかります。
アニメ映画はインターネットで顔の見えているお客さんにどう告知するか、主なアニメの媒体でどう主張するかが主になってくると思うのですが、実写映画の場合に一番かかるコストはテレビCMになると思います。
櫻井 クリエイターからすると複雑ですよね。P&Aに使うお金があれば、もっと制作費を増やせたのにとか思ってしまいますよね。
豊島 そうですね。テレビ局では事業枠という、自社の関わっているものを宣伝する枠があるんですね。特に朝や深夜は多いのですが、テレビ局制作の映画はテレビCMを安価に、時にはタダで打てたりしますし、自局のバラエティ番組や情報番組で優先的に大きい扱いで宣伝できたりします。テレビ局が作った人気ドラマの映画化が劇場で強いのは、そこでいい勝ちパターンができているからということが言えます。
その最たるものが東宝と地上波キー局・出版社がいい形で組んだ映画です。例えば、映画『ドラえもん』『名探偵コナン』で、『ポケットモンスター』の映画の予告編を流す、といったような勝ちの方程式のようなものができあがっていて、それを実際にやり続けているのが東宝とテレビ局のチームです。これは私たちができていないことなので悔しいのですが。
櫻井 『東のエデン』はテレビアニメがもととなりましたが、劇場公開のやり方はいわゆるテレビ局主導型の宣伝では全然なかったですよね。
豊島 そうですね。『東のエデン』の制作会社であるプロダクション・アイジーの石川光久社長には申しわけないのですが、それほどP&Aのコストがかけられないプロジェクトだったので、フジテレビの深夜などでは多少、テレビCMもやっていただきましたが、かなり手作り感覚で興行を行いました。でも、それは結果的には作品にとっても良かったのではないかなとは思っています。
『東のエデン』ではユナイテッド・シネマ豊洲が舞台になるのですが、そこはアスミック・エースの親会社である住友商事が関わっている劇場です。神山健治監督に「ユナイテッド・シネマ豊洲をモチーフとして、アニメを作りたい」と言っていただいて、そういうところでもシナジーが発揮できたかなとは思っています。
●劇場オリジナルで苦労した『鉄コン筋クリート』
櫻井 実際にどんなことで苦労したかというお話をおうかがいしたいのですが、『鉄コン筋クリート』の場合はいかがでしたか。
豊島 実写でもアニメでも、映画の場合には製作委員会方式ということで、いろんな会社がお金が出し合って作るケースが多いです。最近はテレビアニメでも玩具会社や出版社と組んで製作委員会方式で作ることが当たり前になったと思うのですが、『鉄コン筋クリート』で一番苦労したのは幹事のアニプレックスだったと思います。テレビアニメの映画化ではなく、劇場で初めてお披露目する形のアニメだったので、アニプレックスは苦労されていたのです。
櫻井 劇場オリジナルというリスクを背負っても、『鉄コン筋クリート』を配給しようと思われた理由は何だったのでしょうか?
豊島 まず、アニプレックスの情熱があったからですね。アニプレックスはテレビアニメが主戦場なのですが、「ぜひチャレンジしたい」という思いがありました。また、『鉄コン筋クリート』原作の松本大洋さんには『ピンポン』でお世話になりましたし、『鉄コン筋クリート』の前に配給した『マインドゲーム』(2004年)を手掛けた制作会社のSTUDIO4℃がプロジェクトに参加したからということもあります。
アニプレックとSTUDIO4℃、アスミック・エースを中心にプロジェクトが動き始めて、それに賛同してくださる会社がどんどん集まってきました。ただ、何度も言いますが、幹事のアニプレックスはお金集めで結構苦労されていたと思います。STUDIO4℃は凝った作りをする会社なので、制作費が『ピンポン』の数倍かかりました。漫画の原作があっても、映画で初めて映像化する場合にはそれなりのコストがかかるので、リスクのある仕事なのかなと思います。
櫻井 オリジナルのアニメ映画ということですが、上映する劇場はおさえられたのでしょうか?
豊島 先ほど『茄子 アンダルシアの夏』で名前を挙げた東急が、「ぜひこの作品を上映したい」と名乗り出ていただきました。東急は実は山っ気がある会社で、テレビアニメが終わった後の『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』(1977年)や『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』(1997年)に名乗りを上げたのも一番早く、実写映画でも『少林サッカー』(2001年)のようなチャレンジングな作品を扱っていらっしゃいます。
それはなぜかと推測すると、東宝や東映、松竹は興行会社であると同時に配給会社でもあるのですが、東急は配給会社ではないというところに理由があります。「東宝や東映、松竹とは違うセールスポイントがなくてはいけない」ということで、チャレンジングな作品に挑戦しているのです。そういうわけで、東急には『鉄コン筋クリート』にも早くから参加していただいて、そうしたパートナーに恵まれて、リスクが高いビジネスなのですが、とにかく公開までこぎつけたということです。
櫻井 最後は情熱なんですね。
豊島 正直言って映像ビジネスはお金がかかりますし、最近は「リスクをどう回避するんだ」というせちがらい場面ばかりです。しかし、最後は情熱というか、「絶対これがやりたいんだ」というものがないと、すぐ「ダメだね」とか「却下ね」となってしまうと思います。「これは絶対世の中に出すべきだ」「喜んでくれる人がたくさんいるはずだ」という信念を持たれたら、くじけずにそれをしつこくアピールすることが大切です。それはアニメ映画制作に関わらず、映画配給に関わること、テレビのコンテンツの企画を通すこと、何でもそうなのですが、そういうところは肝に銘じていただくのがいいのではないかと思います。
●劇場側から売り込みがあった『東のエデン』
櫻井 『東のエデン』の配給についてはいかがだったでしょうか。
豊島 『東のエデン』はノイタミナ枠のテレビアニメから派生して、劇場版を配給したビジネスでした。知名度がある程度ある中での劇場配給だったのですが、これについてはテアトル新宿という劇場を持っている東京テアトルにお世話になりました。
テレビアニメ放映時、「映画にします」とまだ世の中に発表していない時点から、「ぜひこの作品は映画にもすべきだと思うし、劇場公開する時にはぜひやらせてほしい」と東京テアトルのアニメ担当者から、非常に熱心な売り込みがありました。結果的に劇場版では、東京テアトルを中心にお世話になりました。テアトル新宿では『空の境界』(2007~2010年)の独占上映を行うなどいろいろ面白いことをやっているのですが、社内に熱心なアニメ担当者がいたために、そういう展開になりました。
そのため配給の苦労はそれほどなかったのですが、一番の苦労は制作費でした。「制作費をおさえたい」と制作会社のプロダクション・アイジーに無理をお願いしたので、プロジェクト関係者では石川光久社長が一番大変だったのかなと思います。石川社長は今でも「すごく大変な仕事だった」とおっしゃられます。
櫻井 アニメ映画を上映する劇場は、東京テアトルのようにアニメ好きの担当者がいることが大事だったりするんですかね。
豊島 東京テアトルは興行の世界では、私たちと同じようにインディペンデントの会社なのですが、「テアトル新宿をアニメの聖地にしよう」という考えで、戦略的にやっていらっしゃると思います。
そこに入ってきたのが、東映系の興行会社であるティ・ジョイです。テアトル新宿の近くにある新宿バルト9というシネマコンプレックスを、アニメの聖地にしようと取り組んでいるのです。3月に公開された『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』はティ・ジョイと組んでいて、東京テアトルでは上映できませんでした。
また、冒頭申し上げたように、プロダクション・アイジーがティ・ジョイと共同で配給にも乗り出してきたのは、我々にとっても結構脅威です。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(2007年)も、庵野秀明監督が代表取締役を務める制作会社のカラーがクロックワークスと共同で配給しています。私たちのように企画などをプロデュースする会社としては、ちょっと脅威かなと思ったりしています。
インターネットの登場で、音楽や活字の世界でもそうですが、クリエイターが「出版社や配給会社はいらない。自分で全部消費者に届けられるから」という状況が生まれてきています。制作会社、配給会社といった既存の会社にとっては、やっぱり脅威ですね。
●アニメビジネスにさまざまな企業が参入するように
櫻井 映画ビジネスではパートナー選びも重要だと思うのですが、「こんな企業と一緒にやりたい」といったことはありますか。
豊島 最近私たちがユニークに感じているのは、グッドスマイルカンパニーというフィギュアをメインに手掛けて、頭角を現している会社です。安藝貴範社長が積極的にアニメを手掛けていこうとしているんですね。
『ブラック★ロックシューター』(2010年)はグッドスマイルカンパニーが中心となって作ったアニメなのですが、「すごいな」と思ったのは、「アニメを作ってタダでばらまく」ということをされていたことです。「ばらまいてどうやってもうけるんですか」と安藝社長に聞くと、「自分たちは本業のフィギュアが売れればいいので、フィギュアの宣伝費の一貫でアニメを作る。タダでどんどん配って『ブラック★ロックシューター』の知名度を上げて、それでフィギュアが売れればビジネスとして成り立つんだ」とおっしゃっていました。
クリエイター自ら配給する以外に、そうした異業種の方が映像制作に関わってくるというのも既存の会社にとってはやはり脅威だったりもします。ただ、脅威と思っているとともに、「それなら、そういう会社と一緒にビジネスをやっていけばいいんだ」とも思っていて、まだ発表できないのですが私たちもグッドスマイルカンパニーと新しいことをやろうとしています。アニメというすばらしいプラットフォームを通じて、いろんな商売のやり方がこれから広がってくると思います。
アニメがテレビアニメ主体だった昔は、テレビ局と広告代理店、制作会社、そしてどちらかというと古いタイプの玩具メーカーだけで制作していて、私たちのような会社がそこに参入することはありえませんでした。しかし、2000年代になって、私たちのような会社や、グッドスマイルカンパニーのように新しい玩具メーカーも参入するようになってきていることはとてもいいことだと思います。私たちも配給や、DVD&Blu-ray Discの販売などで、既存のやり方ではない形でアニメを媒介にしたいろんなビジネスにチャレンジしていきたいと思っています。
櫻井 豊島さんにとって、アニメとはどんなコンテンツなんですか?
豊島 アニメというのは、一番多くの情報量をユーザーに提供できるプラットフォームではないかと思っています。ビジネスの立場を離れて言うと、「CGを多用した中で役者が演技をするハリウッド映画よりも、日本のセルアニメの方が多くの情報量をお客さんに届けられるのではないか」「表現する媒体としてこれ以外にすばらしいものはないな」と思っています。アニメの強さ、特にジャパニメーションの強さはそこにあるのかなと。
ハリウッドのCG主体の映画を見ていても、「細密な絵で、髪の毛もふわふわしていて実写みたいだけど、何でこんなに情報量が少ないんだろう」と思ったりします。宮崎駿さんとかはそういうことを分かって、自分のもの作りをされているんだろうなあと思います。とても心を持っていかれますからね。もし、宮崎さんと将来お話しできる機会があれば、そんなことも聞いてみたいですね。
●興行のスクリーン数はどう決まるか
コンテンツ事業を支援する東京コンテンツインキュベーションセンターの一室で行われた豊島社長の講演。講演後、業界に関わる会場の参加者からも質問が寄せられた。
――予算などいろんな条件で決まると思うのですが、基本的にどういう流れで興行のスクリーン数は決まってくるのでしょうか。
豊島 これはアニメ映画に限らず、配給会社が意図しているところと、興行会社が作品にどのくらいのポテンシャルを感じているかというところで、配給会社と興行会社が相談しながら決めます。つまり、配給会社が「この映画を300スクリーンで公開したいんです。ある程度、P&Aのコストをかける用意もあります」と言っても、興行会社が「うちはシネマコンプレックスを50サイト、全部で500スクリーン持っていますけど、その作品だと10サイトくらいでしか興行できないですね」となったりします。
ただし、全国500~600スクリーンで上映できるほど、人気が出そうな映画の場合は別です。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年)の場合、その前の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007年)の当たり方を見て、どの劇場も「やりたい」と手を挙げていたのですが、そこは配給会社のクロックワークスとカラーで、戦略的に絞って興行を行っていたと思います。
――『茄子 アンダルシアの夏』は46分という中編にも関わらず、120~130スクリーンという規模で公開というのは異例のことだったと思います。例えば、3DCGの長編を日本で作るのは現場としては難しいですが、中編のものが上映できるようになればやれることがいろいろ増えると思うのですが、中編作品の可能性についてどうお考えですか?
豊島 今、ハリウッド映画を中心として、1本当たりの上映時間が長くなりつつあって、2時間以上が当たり前になってしまっています。配給会社が提供する映画が長くなっていく中、10スクリーンくらいのシネマコンプレックスを抱えている興行会社が何を考えているかというと、非映画コンテンツ(ODS、Other Digital Stuff)の上映です。
「そんな業界なのか」とみなさんお考えになると思うのですが、興行会社のシートの稼働率は12~13%くらいなんですね。つまり、残りの90%弱は空席で上映しているわけなんです。なぜ興行会社が、これから非映画コンテンツに力を入れてやっていこうとしているかというと、稼働率10%強しかなしえない映画だけに頼らずに、例えばスポーツイベントやAKB48のコンサートを中継するなどして、稼働率を高めたいと考えているからなんです。
そんな中で私が思うのは、興行会社には「短い時間で勝負するコンテンツをどんどん上映したい」「かけるものを多様化したい」というニーズが生まれていることです。そういう状況下、中編映画も強い作品であればありうるのではないかなと思っています。アスミック・エースでは『茄子 アンダルシアの夏』を配給しましたが、少し忘れかけていたので、「そういうビジネスチャンスがこれからあるのではないか」と再認識しました。
櫻井 そもそもみなさん、映画館に行く2時間って確保できるんですかね。みなさんお忙しくて、行けないこともあるのではないでしょうか。
豊島 昔からそうですが、ハリウッドの会社中心に公開2週間前から公開1週間後までの3週間くらいはテレビCMをたくさん打つのですが、それからはあまりやらないんですね。すると、「始まったことは分かるけど、いつ終わるかは分からない。行こうと思ったけど、いつの間にか終わってしまった映画って多いんだよね」と、私も業界とは関係ない知り合いからよく聞きます。
映画館で映画を見るハードルって結構高いと思うんですよね。わざわざこっちから行かないといけないし、料金も高い。ちなみに成人男性の料金は一般的には1800円ですが、今の映画館の平均入場料はだいたい1200円台前半、2010年は1266円でした。男性は1800円という意識があると思うのですが、レディースデイや夫婦50割引などを利用すると1人1000円で見られるからです。
みなさんそういうのを多分知らないと思うんですよね。だから、「映画は料金が高いし、決められた時間に行かないといけないし」ということで、ヘビーユーザーではない方にとってはハードルが高くなっていると思います。今の映画業界は年に10~20本も見に行っているようなヘビーユーザーに支えられています。
日本の人口は1億2000万人ほどですが、映画の参加人口は2500万~4000万人と推計されています。映画館に一生足を踏み入れない人も多いので、その辺はまだまだ伸びしろがあると考えています。映画業界人としては、「映画料金は安くなっている」とか「身近な楽しい娯楽なんだ」ということをもっとアピールしないといけないと思っています。
櫻井 最後にこういう会社の人と一緒にやりたいとかメッセージなどがあれば。
豊島 先ほども申し上げたように、これからはクリエイター、またはクリエイターに近い人が直接商売できる環境になっていくことは間違いないと思います。そして、私たちはそういうクリエイター、またはクリエイターに近い人に今以上に頭を下げまくらないとなかなか仕事ができないような世界になってくると、私自身は思っています。
携帯電話でソーシャルゲームを提供するような業界の方々ともお会いしているのですが、私たちやテレビ局のような旧態依然としたスタイルの会社と違って、ビジネスのスピードが速いです。ひらめいたことはすぐに実行して、1週間後には商品化されているほどです。映画は企画してから世に出すまでに1年以上かかったりもするので、ちょっとまずいなと思っています。私たちとしても、そのスピード感に負けないように、仕事をしていきたいと思っています。
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今何位かな?


監督や役者にスポットが当たりがちな映画業界。しかし、その裏で映画を劇場に売り込み、宣伝活動に尽力しているのが配給会社である。そんな映画配給業界の中でも、『ピンポン』など実写映画の独立系配給会社として数々の実績と歴史を持っているのがアスミック・エース エンタテインメントだ。
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近年はアニメ映画の配給にも積極的に取り組み、『鉄コン筋クリート』『東のエデン』などの話題作も手掛けた同社の豊島雅郎(てしま・まさお)社長が、モデレーターの櫻井孝昌氏とともに映画配給ビジネスについて語った。
※この記事は5月11日に行われた東京コンテンツインキュベーションセンターのセミナー「配給会社から見た劇場アニメビジネス~実写映画と何が違うか、これからどうなるか~」をまとめたものです。
●3つの団体に属する企業が配給を行う
豊島 私たちの会社はアスミック・エース エンタテインメントというちょっと長い名前なので、通常、社内でもアスミック・エースと略して呼んでいます。アスミック・エースは映画の配給、実写映画やテレビアニメなど映像コンテンツの企画・制作、二次利用という形でビデオグラム※の発売元となったりテレビ局や配信業者に番組を販売したりしています。また、私たちが関係したコンテンツを海外にセールスしているチームもあります。制作から配給、販売までを一気通貫で行えることがアスミック・エースの強みとなっています。
※ビデオグラム……ビデオ、DVD、Blu-ray Discなど電気的録音録画物を総称した言葉。
櫻井 ほかの配給会社と大きく違う点はありますか?
豊島 配給会社の大手は、日本映画製作者連盟(映連)のメンバーである東宝、松竹、東映、角川書店(角川映画)です。各社とも配給だけでなく、劇場を持って興行も行っています。
ちなみに、それは米国ではできないことです。なぜなら競争原理が働かないということで、独占禁止法によって制作と販売を分離すると決められているからです。米国ではニューズ・コーポレーションやタイム・ワーナーなどのメディア・コングロマリットがありますが、実はそういう会社は劇場運営に携わっていません。もちろん、仲がいい会社はあるかもしれないのですが、直接資本関係を持った会社と配給と劇場運営を一緒に行っているところはないと聞いています。
映連のほかの配給会社としては、MPA(モーション・ピクチャー・アソシエーション)というグループがあります。ディズニーやワーナー、ソニー・ピクチャーズ、パラマウント、FOXといった5つの米国企業がMPAに属して、日本で配給を行っています。ユニバーサルはMPAに属してはいるのですが、日本では東宝東和という外国映画専門の配給会社に委託しています。
そして、アスミック・エースは外国映画輸入配給協会(外配協)という団体に属しています。ここには、先ほどの東宝、東映、松竹、角川書店以外の配給会社も属しています。日本ではこの3団体に属した会社が主に配給を行っています。
しかし、今、制作会社などが直接配給を行っていく流れもあります。後ほど触れますが、『攻殻機動隊 SAC SOLID STATE SOCIETY 3D』では制作会社のプロダクション・アイジーが東映系のティ・ジョイと一緒に配給に乗り出していて、そういうトレンドになっているのかなと思ったりもしています。
●映画の仕事をするとは思っていなかった
櫻井 豊島さんが映画業界に関わるようになったきっかけについて教えていただけますか。
豊島 私が社会人になったのは1986年4月のことです。1980年代はコンテンツやITという言葉はありませんでしたし、インターネットという言葉もなかった時代です。私が学生だった1980年代前半には、“ニューメディア※”という言葉が世の中に流通し始めていました。
※ニューメディア……テレビやラジオ、新聞・雑誌、電信・電話などの既存媒体にとらわれない新たな媒体のこと。
当時、職業としてはテレビ局や広告代理店のほかに、コピーライターも結構ちやほやされていました。1970年代後半から糸井重里さんや川崎徹さんが頭角を現して、西武百貨店やパルコなどを抱えるセゾングループが広告に力を入れていました。ウディ・アレンさんを登用した「おいしい生活」なんてコピーもありましたね。
そんなバブル前夜、私も大学を卒業するので就職について考えないといけないという時、本当はテレビ局や広告代理店に入りたいと思っていたのですが、非常に狭き門でした。
そんな時、アスミックという会社がニューメディアをやるということを聞いて、私は基本的に新しいもの好きなので入社することにしました。アスミックは1985年に設立されたのですが、カセットやビデオなどを使った教育教材を作るアスク、1980年代からケーブルテレビに注力していた住友商事、そして大手出版社の講談社が資本を出し合って作った会社です。会社名は、その3社の頭文字をとって命名されました。
学生の私は、アスクは正直知らなかったのですが、住友商事や講談社は有名な会社なので、「その会社の資本が入った会社であればいいかな」程度の気持ちで、映画をやるとはまったく思わずに入社したというのが本音です。
1986年に入社して、1年目は親会社のアスクが手掛けていた教育教材に関わったり、ニューメディア関連では、世界で初めてレーザーディスクを使った百科事典のプロジェクトに入って、1年間マーケティングで従事したりしていました。
そして私が入社して2年目の1987年、レンタルビデオ店が世の中にどんどんできてきて、「レンタルビデオ店に映画のソフトを出せば、とにかく売れるぞ」という時代が訪れました。みなさん覚えていらっしゃらないと思うのですが、1980年代半ばのレンタルビデオ店は、1本1000円とかでソフトを貸し出していたんですね。今は1本80円とか100円とか言っている時代なので、「1000円なんて信じられない」と思われるでしょうが。
櫻井 「でも、みんなで見れば安い」とか言っていましたね。
豊島 そうですね。当時は家庭で映画が見られるということ自体が画期的でした。それと符合するように、任天堂のファミコンが発売されて、ゲームセンターに行かなくても、家庭でゲームができるようになりました。
そう世の中が動いている時代だったので、アスミックでも映画を海外から調達してきてレンタル用のビデオにして、レンタルビデオ店に売ることと、ファミコン向けにゲームソフトを作ることを始めました。
私が入った1986年は教育関係のニューメディアのソフトを作ることが主力だったのですが、1987年以降は映画やゲームのビジネスをやるようになって、私もビデオに関わっていた流れで映画の仕事もするようになったというのがきっかけです。学生時代に付き合っていた彼女が映画好きだったので、無理やり難しいフランス映画とかを見ていたりもしたのですが、会社に入って映画の仕事をするとは正直思っていませんでしたね。
●映画配給ビジネスの醍醐味とリスク
櫻井 映画配給ビジネスの醍醐味や、「こんなところが大変なんだよ」というリスクについて教えていただけますか。
豊島 人によっては映画を“コンテンツの王様”と呼ぶように、映画は関わる人数は多いですし、人数が多いということはコストが高くなりますし、コストが高いということは回収のリスクが高くなるということです。ただ、リスクが高い一方、当たった時に回収できる金額も大きいです。10億円単位でお金が動きますからね。それは10億円損する可能性もあることも意味するのですが、その辺の醍醐味はある仕事なのかな、と思っています。
しかし、今の日本経済は決して良くないので、私たちも当然「ビジネスでリスクをどうミニマイズできるか」ということを常日頃考えています。その辺のリスクヘッジで、私たちがどんなことを考えて行動しているかといったこともお話しできればと思います。
櫻井 ちなみに、アスミック・エースが関わる映画の平均的な予算はいくらくらいですか?
豊島 ピンからキリまであるのですが、2010年にフジテレビと制作した『ノルウェイの森』(配給は東宝)の制作費は10億円以上です。一方、実写映画でも制作費が少ないものだと、5000万~1億円で1本作ることもあります。つまり、5000万~10億円以上という範囲になるのですが、平均では1億5000万~3億円くらいという感じです。
櫻井 エンタテインメント業界で映画は、ゲームと並んで制作費がかかりますよね。
豊島 そうですね。ただ、ゲームの場合は今、日本市場だけでは制作費を回収できなくて、世界をマーケットにしないといけなくなっています。特にPS3やXbox 360などだと、かなりの人とお金を投じて作らないと商売になりにくいフォーマットになってしまっています。
先ほど『ノルウェイの森』の制作費が10億円以上というお話をしましたが、ゲーム会社は『ノルウェイの森』以上の金額を投じて、世界を相手に勝負しているように思います。そういう意味では、私は映画業界に属しているのですが、「ゲーム業界はもっとダイナミックな仕事をされているな」と個人的には思っています。
櫻井 豊島さんが関わられた映画で、一番「こんなにもうかっちゃった」という映画は何ですか?
豊島 少し言いづらい部分もありますが(笑)、利益率が良かったという意味では『ピンポン』(2002年)ですね。
『ピンポン』を公開した2002年ころ、邦画業界はかなりしんどくて、ハリウッド映画にやられていた状態でした。アスミック・エースとしては、「そこに何とか一石を投じたい」という気持ちがありました。ただ、アスミック・エースは映連に属さないインディペンデントな企業なので、「違うやり方で邦画に取り組みたい」と思いました。
アスミック・エースでは『ピンポン』の前に、『雨あがる』(2000年)や『阿弥陀堂だより』(2002年)というシニア向けの映画を制作していました。しかし『ピンポン』は、邦画を見ないような若い子たちに「こんな邦画もあるんだ」と思わせたい、「洋画感覚で見られるような邦画を作りたい」という気持ちで作りました。
制作費も宣伝費もそれほどかけられませんでしたが、「当時なかったような邦画を新しい形で世の中に送り出したい」という思いのもと、原作の松本大洋さん、卓球の映画なのにCGを多用した曽利文彦監督、ホットになりかけていた脚本の宮藤官九郎さんたちと制作したり、興行スタイルも今までとちょっと違ったやり方で行ったりしました。その結果、興行収入は14~15億円に達し、当時伸び盛りだったDVDも売れましたし、制作パートナーのTBSにプライムタイムに放映していただいたりと、「本当に恵まれた作品だったな」と思っています。
アスミック・エースでは1990年代に『トレインスポッティング』(1996年)という映画に関わったのですが、「『トレインスポッティング』みたいな邦画を作って、世に送り出そう」というのが合言葉でした。
●アニメは言葉や人種の壁を越える
櫻井 そんなインディペンデントの実写映画の雄であるアスミック・エースが劇場アニメに取り組み出した、というのは業界でも話題になったと思うのですが、なぜ劇場アニメに取り組まれたのでしょうか?
豊島 DVDビジネスの隆盛で、日本のジャパニメーションと呼ばれているコンテンツが「米国で商売になるぞ」と言われていたのが2000年代前半のことでした。今、ちょっとバブルは弾けてしまったのですが。
私たちは『ピンポン』以降も実写映画を作り続けているのですが、アニメは実写映画と違い米国でも商売になりやすいんですね。日本人が日本語で喋っている映画は外国では商売になりにくいのですが、アニメに関しては言葉の壁や人種の壁を越えて商売になるということで、まずビジネス的な観点で魅力的な商材であるということがありました。
そこでマッドハウス制作で、『茄子 アンダルシアの夏』(2003年)という46分の映画を夏休みに全国公開しました。今からすると、「よくやったなあ」と思います。東急チェーンの渋谷東急という映画館にお世話になって、スクリーン数は全国で120~130くらいでした。
当時は今と違ってまだ古いしきたりのようなものがあったのですが、東急チェーンでやるというのは業界的にはすごいことなんですね。46分という短い尺、スタジオジブリで宮崎駿さんの右腕として作画監督などを務めていた高坂希太郎さんの初監督作品というのを東急チェーンで無謀にも配給したというのが、アスミック・エースとして劇場アニメに本格的に取り組んだ初めての例だと思います。
実は(ジブリ映画にも参加する)日本テレビにパートナーとして参加していただき、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーにも「ジブリっぽくなりますが、すみません」と仁義は切りました。結局、30万人くらいのお客さんに来ていただけたので良かったのかなと思います。
櫻井 今、少しお話に出ましたが、豊島さんは日本アニメの特徴と優位性はどんなところにあると思いますか?
豊島 私は今48歳なのですが、テレビアニメ『巨人の星』などを見て育ちました。特に40代前半以下の世代では、幼少のころからアニメを見て育ってきたと言っても過言ではないと思います。男女問わず、「アニメが嫌いだ」という子どもはそんなにいません。テレビを通してアニメが日本文化の一部になっている、極論を言えば、アニメが今の若い世代のみなさんの体の一部になっているということが、日本のアニメビジネスにおいて一番面白いところなのかなと思います。
「新聞や本は読まないけど、アニメやコミックは好きだよ」という子は多いと思います。アニメが好きな子は世界中にたくさんいますが、体の一部になっている人という意味では、世界を見渡しても日本は密度が一番高いのではないかと思ったりもしています。
●アニメビジネスの特徴は
豊島社長がアスミック・エースが配給した代表的なアニメ映画として挙げたのが、『鉄コン筋クリート』(2006年)と『東のエデン』(2009年、2010年)の2作品。『鉄コン筋クリート』は『ピンポン』と同じく松本大洋さん原作のアニメ映画で、『東のエデン』はフジテレビのノイタミナ枠で放映されたシリーズの続編として作られたアニメ映画である。
豊島 『鉄コン筋クリート』も『東のエデン』もマーケティング重視というよりは、クリエイターが「こんなことをやりたい」というものに沿って作った映画、平たく言うとリスクが高い映画です。ただ、『東のエデン』はノイタミナ枠でテレビアニメを放映した後での劇場アニメ、しかもマーケティングコストを絞って小さい展開にしたので、そういう意味では『鉄コン筋クリート』の方がよりリスクが高いビジネスだったと言えます。
先ほどアニメのビジネス面での優位性として「海外に出られる」とお話ししましたが、「コンテンツの価値が、時間が経っても劣化しない」ということも言えます。実写とアニメとを比較してはいけないのかもしれないですが、私個人としては「アニメの方が時間が経ったとしても商売するチャンスが多いのではないか」と思います。
映画を劇場公開して、DVDやBlu-ray Discを出し、レンタルビデオ店に並べていただき、有料放送のWOWOWなどで流して、最後に運が良ければ地上波で流れるというウインドウ展開※を行ったら、ちょっとバリューが落ちるというか、お役目ご苦労さんみたいなところがあるのですが、アニメの場合はその劣化が少ないのかなとは思います。
※ウインドウ展開……コンテンツを複数のウインドウ(メディア・市場)に利益が最大化になるように露出していく展開のこと。
ゲームの場合、ハードが進化すると、ソフトが陳腐化するというビジネスとしての弱点を抱えています。もちろんAというヒット作品を、ハードの進化に合わせて進化させることもできるのですが、Aという作品自体は陳腐化されます。任天堂が昔懐かしの作品を再び遊べるように配信していたりもしますが、ゲーム業界のマネジメントサイドの方からは、「映画はいいですね。1回作ってしまえば、いろんなハードが出てきても流用できますから」と言われます。ゲームは新しいハードが出てくるたびに、また新しいことにチャレンジしないといけないので本当に大変なんですよ。
その映画の中でも、実写よりも陳腐化が少ないと思われるアニメの方が、商売が長くできるという意味で面白いなと思っています。
櫻井 背景も、実写だと現在との差が気になったりしますが、アニメだとそれほど気にならないですよね。
豊島 それも言えると思いますね。今、1970~1980年代のテレビアニメを見ても、そんなに違和感がないというか、現実と違う世界を描いていますからね。
私は『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)や『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)の2本は毎年2回は見ますが、今見ても全然古くないですね。『AKIRA』(1988年)も年に1回は引っ張り出して見ますが、全然古くない。そこは「アニメの力すごいなあ」と思いますね。
櫻井 豊島さんは「アニメ映画の場合、お客さんが非常に見えやすい」というお話をされますね。
豊島 アニメ映画は悪い言い方をすると、すそ野が狭いというか、お客さんの数が少ないです。ただ逆に言うと、ターゲットが広くないので、「だいたいこういうことをやればこういうお客さんが来てくれるだろうな」ということが見えるということです。
今、私たち配給ビジネスの悩みは、P&Aのコストがかかるようになっていることです。それは劇場公開時にかかる配給会社としてのコストを表していて、劇場に供給するフィルムなりデジタル素材のコストをP(プリント)、アドバタイジング(宣伝)のコストをA、その2つのコストを合わせてP&Aと呼んでいます。このP&Aのコスト、特にAの方がかかる傾向になっているんですね。
今の配給業界の主戦場はシネマコンプレックスです。ハリウッドのメジャースタジオはとにかくCMをバンバン打っていて、ハリー・ポッターシリーズあたりだと10億円近い額をテレビ局に支払っています。私たちが洋画を配給する場合、CMにかけられるコストなんて2億円くらいです。そういうところで戦わないといけない。
ただ、アニメ映画の場合にはお客さんの顔が見えるので、お客さんにどうアナウンスすれば劇場に足を運んでいただけるかが割と見えやすいです。分かりやすく釣りに例えると、洋画、特に実写映画はどこに魚がいるか分からないところで釣りをすることが多いのですが、アニメ映画の場合は釣り堀できちんと釣りができる。つまり、マーケティングのコストをかけずに配給できることが、配給会社から見たアニメビジネスの魅力だと感じています。
櫻井 ある人たちにきちんと情報を伝えれば、「そこからこれぐらい広がるだろう」というのが読みやすいですよね。
豊島 ただし、ユーザーの方々は結構こだわりがあったりします。私たちはアニメを定期的に手掛けている会社でもないので、気を付けなければいけないのはアニメファンにとって「何かこの配給会社分かってねえな」みたいな宣伝をした場合のマイナス効果もすぐに広まるということです。「その作品のファンの心をきちんとつかめる宣伝手法がとれるかどうかが肝かな」と思ったりもします。
櫻井 先ほども出ましたが、広告費は作品によってそんなに違うものなのですか?
豊島 実写でもアニメでも、映画の直接の制作費はアスミック・エースの平均で1億5000万~3億円とお話ししました。しかし、全国200~300スクリーンで公開する場合には、その制作費以上のP&Aのコストをかけて展開します。ということは、制作費とP&Aを合わせた総コストは、全国300スクリーンとかで公開するような映画なら5億~6億円かかるということになりますね。
櫻井 インターネット時代になって、P&Aに変化はあるのですか?
豊島 アニメ映画では別だと思うのですが、「洋画邦画問わずアニメ以外の実写映画を見るきっかけは何ですか?」と聞くと、ネットの時代になっても1番目は劇場の予告編なんです。2番目はテレビCMを見た、それ以下は新聞広告や雑誌の記事を見たとかがあって、最近はYahoo!映画で見たとかも入るようになっています。テレビCMがきっかけという中には『王様のブランチ』で紹介されたといったものが含まれることもあるのですが、とにかく劇場で映画を見る2大要素は劇場で見た予告編とテレビCMということになりますね。
劇場の予告編は作品の強さや、配給会社と劇場との交渉でかけていただけるかどうかが決まります。ただ、テレビCMに関しては、ハリウッドのメジャースタジオからはたくさんお金をとっている一方、「私たちは日本の弱小のインディペンデントの会社だから安い値段でお願いします!」とは言えないので、そのコストはやはりかかります。
アニメ映画はインターネットで顔の見えているお客さんにどう告知するか、主なアニメの媒体でどう主張するかが主になってくると思うのですが、実写映画の場合に一番かかるコストはテレビCMになると思います。
櫻井 クリエイターからすると複雑ですよね。P&Aに使うお金があれば、もっと制作費を増やせたのにとか思ってしまいますよね。
豊島 そうですね。テレビ局では事業枠という、自社の関わっているものを宣伝する枠があるんですね。特に朝や深夜は多いのですが、テレビ局制作の映画はテレビCMを安価に、時にはタダで打てたりしますし、自局のバラエティ番組や情報番組で優先的に大きい扱いで宣伝できたりします。テレビ局が作った人気ドラマの映画化が劇場で強いのは、そこでいい勝ちパターンができているからということが言えます。
その最たるものが東宝と地上波キー局・出版社がいい形で組んだ映画です。例えば、映画『ドラえもん』『名探偵コナン』で、『ポケットモンスター』の映画の予告編を流す、といったような勝ちの方程式のようなものができあがっていて、それを実際にやり続けているのが東宝とテレビ局のチームです。これは私たちができていないことなので悔しいのですが。
櫻井 『東のエデン』はテレビアニメがもととなりましたが、劇場公開のやり方はいわゆるテレビ局主導型の宣伝では全然なかったですよね。
豊島 そうですね。『東のエデン』の制作会社であるプロダクション・アイジーの石川光久社長には申しわけないのですが、それほどP&Aのコストがかけられないプロジェクトだったので、フジテレビの深夜などでは多少、テレビCMもやっていただきましたが、かなり手作り感覚で興行を行いました。でも、それは結果的には作品にとっても良かったのではないかなとは思っています。
『東のエデン』ではユナイテッド・シネマ豊洲が舞台になるのですが、そこはアスミック・エースの親会社である住友商事が関わっている劇場です。神山健治監督に「ユナイテッド・シネマ豊洲をモチーフとして、アニメを作りたい」と言っていただいて、そういうところでもシナジーが発揮できたかなとは思っています。
●劇場オリジナルで苦労した『鉄コン筋クリート』
櫻井 実際にどんなことで苦労したかというお話をおうかがいしたいのですが、『鉄コン筋クリート』の場合はいかがでしたか。
豊島 実写でもアニメでも、映画の場合には製作委員会方式ということで、いろんな会社がお金が出し合って作るケースが多いです。最近はテレビアニメでも玩具会社や出版社と組んで製作委員会方式で作ることが当たり前になったと思うのですが、『鉄コン筋クリート』で一番苦労したのは幹事のアニプレックスだったと思います。テレビアニメの映画化ではなく、劇場で初めてお披露目する形のアニメだったので、アニプレックスは苦労されていたのです。
櫻井 劇場オリジナルというリスクを背負っても、『鉄コン筋クリート』を配給しようと思われた理由は何だったのでしょうか?
豊島 まず、アニプレックスの情熱があったからですね。アニプレックスはテレビアニメが主戦場なのですが、「ぜひチャレンジしたい」という思いがありました。また、『鉄コン筋クリート』原作の松本大洋さんには『ピンポン』でお世話になりましたし、『鉄コン筋クリート』の前に配給した『マインドゲーム』(2004年)を手掛けた制作会社のSTUDIO4℃がプロジェクトに参加したからということもあります。
アニプレックとSTUDIO4℃、アスミック・エースを中心にプロジェクトが動き始めて、それに賛同してくださる会社がどんどん集まってきました。ただ、何度も言いますが、幹事のアニプレックスはお金集めで結構苦労されていたと思います。STUDIO4℃は凝った作りをする会社なので、制作費が『ピンポン』の数倍かかりました。漫画の原作があっても、映画で初めて映像化する場合にはそれなりのコストがかかるので、リスクのある仕事なのかなと思います。
櫻井 オリジナルのアニメ映画ということですが、上映する劇場はおさえられたのでしょうか?
豊島 先ほど『茄子 アンダルシアの夏』で名前を挙げた東急が、「ぜひこの作品を上映したい」と名乗り出ていただきました。東急は実は山っ気がある会社で、テレビアニメが終わった後の『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』(1977年)や『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』(1997年)に名乗りを上げたのも一番早く、実写映画でも『少林サッカー』(2001年)のようなチャレンジングな作品を扱っていらっしゃいます。
それはなぜかと推測すると、東宝や東映、松竹は興行会社であると同時に配給会社でもあるのですが、東急は配給会社ではないというところに理由があります。「東宝や東映、松竹とは違うセールスポイントがなくてはいけない」ということで、チャレンジングな作品に挑戦しているのです。そういうわけで、東急には『鉄コン筋クリート』にも早くから参加していただいて、そうしたパートナーに恵まれて、リスクが高いビジネスなのですが、とにかく公開までこぎつけたということです。
櫻井 最後は情熱なんですね。
豊島 正直言って映像ビジネスはお金がかかりますし、最近は「リスクをどう回避するんだ」というせちがらい場面ばかりです。しかし、最後は情熱というか、「絶対これがやりたいんだ」というものがないと、すぐ「ダメだね」とか「却下ね」となってしまうと思います。「これは絶対世の中に出すべきだ」「喜んでくれる人がたくさんいるはずだ」という信念を持たれたら、くじけずにそれをしつこくアピールすることが大切です。それはアニメ映画制作に関わらず、映画配給に関わること、テレビのコンテンツの企画を通すこと、何でもそうなのですが、そういうところは肝に銘じていただくのがいいのではないかと思います。
●劇場側から売り込みがあった『東のエデン』
櫻井 『東のエデン』の配給についてはいかがだったでしょうか。
豊島 『東のエデン』はノイタミナ枠のテレビアニメから派生して、劇場版を配給したビジネスでした。知名度がある程度ある中での劇場配給だったのですが、これについてはテアトル新宿という劇場を持っている東京テアトルにお世話になりました。
テレビアニメ放映時、「映画にします」とまだ世の中に発表していない時点から、「ぜひこの作品は映画にもすべきだと思うし、劇場公開する時にはぜひやらせてほしい」と東京テアトルのアニメ担当者から、非常に熱心な売り込みがありました。結果的に劇場版では、東京テアトルを中心にお世話になりました。テアトル新宿では『空の境界』(2007~2010年)の独占上映を行うなどいろいろ面白いことをやっているのですが、社内に熱心なアニメ担当者がいたために、そういう展開になりました。
そのため配給の苦労はそれほどなかったのですが、一番の苦労は制作費でした。「制作費をおさえたい」と制作会社のプロダクション・アイジーに無理をお願いしたので、プロジェクト関係者では石川光久社長が一番大変だったのかなと思います。石川社長は今でも「すごく大変な仕事だった」とおっしゃられます。
櫻井 アニメ映画を上映する劇場は、東京テアトルのようにアニメ好きの担当者がいることが大事だったりするんですかね。
豊島 東京テアトルは興行の世界では、私たちと同じようにインディペンデントの会社なのですが、「テアトル新宿をアニメの聖地にしよう」という考えで、戦略的にやっていらっしゃると思います。
そこに入ってきたのが、東映系の興行会社であるティ・ジョイです。テアトル新宿の近くにある新宿バルト9というシネマコンプレックスを、アニメの聖地にしようと取り組んでいるのです。3月に公開された『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』はティ・ジョイと組んでいて、東京テアトルでは上映できませんでした。
また、冒頭申し上げたように、プロダクション・アイジーがティ・ジョイと共同で配給にも乗り出してきたのは、我々にとっても結構脅威です。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(2007年)も、庵野秀明監督が代表取締役を務める制作会社のカラーがクロックワークスと共同で配給しています。私たちのように企画などをプロデュースする会社としては、ちょっと脅威かなと思ったりしています。
インターネットの登場で、音楽や活字の世界でもそうですが、クリエイターが「出版社や配給会社はいらない。自分で全部消費者に届けられるから」という状況が生まれてきています。制作会社、配給会社といった既存の会社にとっては、やっぱり脅威ですね。
●アニメビジネスにさまざまな企業が参入するように
櫻井 映画ビジネスではパートナー選びも重要だと思うのですが、「こんな企業と一緒にやりたい」といったことはありますか。
豊島 最近私たちがユニークに感じているのは、グッドスマイルカンパニーというフィギュアをメインに手掛けて、頭角を現している会社です。安藝貴範社長が積極的にアニメを手掛けていこうとしているんですね。
『ブラック★ロックシューター』(2010年)はグッドスマイルカンパニーが中心となって作ったアニメなのですが、「すごいな」と思ったのは、「アニメを作ってタダでばらまく」ということをされていたことです。「ばらまいてどうやってもうけるんですか」と安藝社長に聞くと、「自分たちは本業のフィギュアが売れればいいので、フィギュアの宣伝費の一貫でアニメを作る。タダでどんどん配って『ブラック★ロックシューター』の知名度を上げて、それでフィギュアが売れればビジネスとして成り立つんだ」とおっしゃっていました。
クリエイター自ら配給する以外に、そうした異業種の方が映像制作に関わってくるというのも既存の会社にとってはやはり脅威だったりもします。ただ、脅威と思っているとともに、「それなら、そういう会社と一緒にビジネスをやっていけばいいんだ」とも思っていて、まだ発表できないのですが私たちもグッドスマイルカンパニーと新しいことをやろうとしています。アニメというすばらしいプラットフォームを通じて、いろんな商売のやり方がこれから広がってくると思います。
アニメがテレビアニメ主体だった昔は、テレビ局と広告代理店、制作会社、そしてどちらかというと古いタイプの玩具メーカーだけで制作していて、私たちのような会社がそこに参入することはありえませんでした。しかし、2000年代になって、私たちのような会社や、グッドスマイルカンパニーのように新しい玩具メーカーも参入するようになってきていることはとてもいいことだと思います。私たちも配給や、DVD&Blu-ray Discの販売などで、既存のやり方ではない形でアニメを媒介にしたいろんなビジネスにチャレンジしていきたいと思っています。
櫻井 豊島さんにとって、アニメとはどんなコンテンツなんですか?
豊島 アニメというのは、一番多くの情報量をユーザーに提供できるプラットフォームではないかと思っています。ビジネスの立場を離れて言うと、「CGを多用した中で役者が演技をするハリウッド映画よりも、日本のセルアニメの方が多くの情報量をお客さんに届けられるのではないか」「表現する媒体としてこれ以外にすばらしいものはないな」と思っています。アニメの強さ、特にジャパニメーションの強さはそこにあるのかなと。
ハリウッドのCG主体の映画を見ていても、「細密な絵で、髪の毛もふわふわしていて実写みたいだけど、何でこんなに情報量が少ないんだろう」と思ったりします。宮崎駿さんとかはそういうことを分かって、自分のもの作りをされているんだろうなあと思います。とても心を持っていかれますからね。もし、宮崎さんと将来お話しできる機会があれば、そんなことも聞いてみたいですね。
●興行のスクリーン数はどう決まるか
コンテンツ事業を支援する東京コンテンツインキュベーションセンターの一室で行われた豊島社長の講演。講演後、業界に関わる会場の参加者からも質問が寄せられた。
――予算などいろんな条件で決まると思うのですが、基本的にどういう流れで興行のスクリーン数は決まってくるのでしょうか。
豊島 これはアニメ映画に限らず、配給会社が意図しているところと、興行会社が作品にどのくらいのポテンシャルを感じているかというところで、配給会社と興行会社が相談しながら決めます。つまり、配給会社が「この映画を300スクリーンで公開したいんです。ある程度、P&Aのコストをかける用意もあります」と言っても、興行会社が「うちはシネマコンプレックスを50サイト、全部で500スクリーン持っていますけど、その作品だと10サイトくらいでしか興行できないですね」となったりします。
ただし、全国500~600スクリーンで上映できるほど、人気が出そうな映画の場合は別です。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年)の場合、その前の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007年)の当たり方を見て、どの劇場も「やりたい」と手を挙げていたのですが、そこは配給会社のクロックワークスとカラーで、戦略的に絞って興行を行っていたと思います。
――『茄子 アンダルシアの夏』は46分という中編にも関わらず、120~130スクリーンという規模で公開というのは異例のことだったと思います。例えば、3DCGの長編を日本で作るのは現場としては難しいですが、中編のものが上映できるようになればやれることがいろいろ増えると思うのですが、中編作品の可能性についてどうお考えですか?
豊島 今、ハリウッド映画を中心として、1本当たりの上映時間が長くなりつつあって、2時間以上が当たり前になってしまっています。配給会社が提供する映画が長くなっていく中、10スクリーンくらいのシネマコンプレックスを抱えている興行会社が何を考えているかというと、非映画コンテンツ(ODS、Other Digital Stuff)の上映です。
「そんな業界なのか」とみなさんお考えになると思うのですが、興行会社のシートの稼働率は12~13%くらいなんですね。つまり、残りの90%弱は空席で上映しているわけなんです。なぜ興行会社が、これから非映画コンテンツに力を入れてやっていこうとしているかというと、稼働率10%強しかなしえない映画だけに頼らずに、例えばスポーツイベントやAKB48のコンサートを中継するなどして、稼働率を高めたいと考えているからなんです。
そんな中で私が思うのは、興行会社には「短い時間で勝負するコンテンツをどんどん上映したい」「かけるものを多様化したい」というニーズが生まれていることです。そういう状況下、中編映画も強い作品であればありうるのではないかなと思っています。アスミック・エースでは『茄子 アンダルシアの夏』を配給しましたが、少し忘れかけていたので、「そういうビジネスチャンスがこれからあるのではないか」と再認識しました。
櫻井 そもそもみなさん、映画館に行く2時間って確保できるんですかね。みなさんお忙しくて、行けないこともあるのではないでしょうか。
豊島 昔からそうですが、ハリウッドの会社中心に公開2週間前から公開1週間後までの3週間くらいはテレビCMをたくさん打つのですが、それからはあまりやらないんですね。すると、「始まったことは分かるけど、いつ終わるかは分からない。行こうと思ったけど、いつの間にか終わってしまった映画って多いんだよね」と、私も業界とは関係ない知り合いからよく聞きます。
映画館で映画を見るハードルって結構高いと思うんですよね。わざわざこっちから行かないといけないし、料金も高い。ちなみに成人男性の料金は一般的には1800円ですが、今の映画館の平均入場料はだいたい1200円台前半、2010年は1266円でした。男性は1800円という意識があると思うのですが、レディースデイや夫婦50割引などを利用すると1人1000円で見られるからです。
みなさんそういうのを多分知らないと思うんですよね。だから、「映画は料金が高いし、決められた時間に行かないといけないし」ということで、ヘビーユーザーではない方にとってはハードルが高くなっていると思います。今の映画業界は年に10~20本も見に行っているようなヘビーユーザーに支えられています。
日本の人口は1億2000万人ほどですが、映画の参加人口は2500万~4000万人と推計されています。映画館に一生足を踏み入れない人も多いので、その辺はまだまだ伸びしろがあると考えています。映画業界人としては、「映画料金は安くなっている」とか「身近な楽しい娯楽なんだ」ということをもっとアピールしないといけないと思っています。
櫻井 最後にこういう会社の人と一緒にやりたいとかメッセージなどがあれば。
豊島 先ほども申し上げたように、これからはクリエイター、またはクリエイターに近い人が直接商売できる環境になっていくことは間違いないと思います。そして、私たちはそういうクリエイター、またはクリエイターに近い人に今以上に頭を下げまくらないとなかなか仕事ができないような世界になってくると、私自身は思っています。
携帯電話でソーシャルゲームを提供するような業界の方々ともお会いしているのですが、私たちやテレビ局のような旧態依然としたスタイルの会社と違って、ビジネスのスピードが速いです。ひらめいたことはすぐに実行して、1週間後には商品化されているほどです。映画は企画してから世に出すまでに1年以上かかったりもするので、ちょっとまずいなと思っています。私たちとしても、そのスピード感に負けないように、仕事をしていきたいと思っています。
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