物語の世界に浸って心を和ます 最旬マンガおすすめ10作
肌荒れの悩みが…芸能人モデルも絶賛!!《限定品》小顔アイテムがナント【980円】

心をすっきりさせたり、和ませたり、前向きにしてくれる、おすすめの最旬マンガ10冊を「日経エンタ!」のBOOK担当チームが厳選。気分転換にいかがでしょうか。
大きな被害をもたらした東日本大震災から1カ月以上。まだ多くの方が避難生活を強いられている現状、先の見えない福島原発の復旧作業に気持ちはふさぎがちですが、そんなときに気持ちをリセットしてくれるのが、エンタテインメントです。
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心の緊張を解いて、また前に進む力をくれるおすすめの最旬マンガ10冊を、「日経エンタ!」のBOOK担当チームが厳選しました。気分転換にいかがでしょうか。
(文/芝田 隆広、平山ゆりの)
1 日本人兄弟が宇宙を目指す!大ブレイク間近の宇宙マンガ
『宇宙兄弟』 (1)~(13)巻
小山宙哉
小栗旬、岡田将生のW主演で、2012年の実写映画化が発表されたばかりの『宇宙兄弟』は、宇宙行きを目指す日本人兄弟を描いた物語。「このマンガがすごい! 2009」(宝島社)オトコ編で2位、「マンガ大賞」でも2009年、2010年に連続して2位になるなどマンガファンを中心に高い評価を受けてきた作品だ。最近では小学館漫画賞(第56回 平成22年度 一般向け部門)受賞も果たし、本格ブレークの気運が高まってきた。
本作の主人公・難波六太(なんば・むった)は、子供のころに弟の日々人(ひびと)と共に宇宙飛行士になることを誓ったが、大人になるにつれてその夢を諦めて いた。しかし勤務先の会社をリストラされたのを機に、六太は先に宇宙飛行士に選ばれていた日々人に続き、またイチから宇宙への夢を追いかけることを決意する。
本作の魅力の1つは、宇宙飛行士を目指す過程をとてもしっかりと描いていることだ。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の面接から始まり、風変わりな実地試験、候補生としての過酷な訓練模様が展開される。実際に「リアル」なのかどうかは確かめられないが、丁寧な描写で「リアリティ」がある。無限の宇宙に夢を馳せながら、一方で地に足が着いている。
登場人物たちも魅力的だ。パッと見格好悪くてどこにでもいそうな三十男の六太は、親しみやすい。六太が身近で親近感が持てるだけに、スイッチが入って優れた記憶力・注意力・発想力を発揮するシーンも痛快に感じられる。また弟・日々人をはじめ、同僚の訓練生たち、先輩宇宙飛行士、技術者たちの内面、「夢のかたち」をストレートに描き出しているのも気持ちがいい。人々が夢を追う姿を生真面目に追うだけでなく、小粋なユーモアやほろりとさせる人情味も交えつつ描いているので、説教くさくならないのも好感が持てる。諦めなければ夢を追うことはいつだってできる。そんな勇気を与えてくれる良作だ。
2 こんな男が欲しかった! 闘うFWが日本代表を救う
『コラソン サッカー魂』 (1)~(4)巻
塀内夏子
昨年のFIFAワールドカップ以降、アジアカップ優勝や、香川真司、長友佑都ら海外リーグでの日本人選手の活躍もあり、日本サッカーが大きな盛り上がりを見せている。そんなサッカーの興奮を、マンガでも味わいたいという人にオススメなのが『コラソン サッカー魂』だ。
現実世界のサッカー日本代表といえば、長らく大きな病に悩まされてきた。その病とはズバリ「得点力不足」。代表の試合を見ていて、ゴール前だというのにシュートを譲ってパスをしたり、相手のディフェンダーにコロコロ転がされるフォワード陣にフラストレーションを抱いていた人は多いだろう。
本作で描かれるのは、日本サッカーファンが待望してやまなかった「強いフォワード」像だ。主人公の戌井凌駕は、かつて暴力・暴言行為によって国内リーグを追放され、海外のマイナークラブを転々としていた流浪のサッカー選手。そんな彼が得点力不足にあえぎ、W杯の出場権が危うくなっていた日本代表に急きょ招集される。凌駕は、性格は凶暴で言動は無礼、短気で常に喧嘩腰だ。プレーも性格そのままの荒々しさだが、とにかく貪欲に、ダーティーなプレーも辞さずゴールに喰らいついていく。その激しさ、強さが、追い込まれて委縮していた日本代表に活力を与えていく。
といった内容だが、これが実にアツくて面白い。何より素晴らしいのが主人公・凌駕の存在感。プレーは汚いが、一瞬でもすきを見せると喉元に喰らいついてくるような危険さにあふれ、常に得点の匂いをぷんぷん漂わせている。最初は「はた迷惑なヤツだ」といった雰囲気だが、読んでいるうちに「次は何をしてくれるのか」とワクワクさせられている自分に気づく。凌駕と周囲の選手たちが、反発しあいながらもチームとして成長していく様子も読みごたえがある。特に、おそらく中村俊輔あたりをモデルにしているのであろう、中盤の司令塔・中神とのぶつかりあいは注目だ。
サッカーのプレー描写そのものが非常に巧いのも特筆すべき点。作者の塀内夏子は『オフサイド』『Jドリーム』など、サッカーマンガの名作を手がけてきた作家だけあって、職人芸とでもいいたくなる巧さだ。サッカーというスポーツをマンガで描く場合、選手をアップで描くだけでは「どの位置でプレーしているのか」がサッパリ分からず、プレーの意図も伝わりづらい。そのため選手個人を描くアップの視点と、フィールドを広く見渡す視点を適宜織り交ぜていく必要があるのだが、塀内作品はそれが実にスムーズにできている。ゲームの流れを分かりやすく描きながら、スピード感を損なうことなく、ここぞの見せ場のシーンでは迫力のある構図で読む者を圧倒する。作者はごく当たり前のようにこなしているが、これは凡百の作家にはできない。
本作はとてもアツく激しいサッカーマンガだが、同時に非常にテクニカルで読みやすくもある。サッカーファンには文句なくオススメだ。
3 「マンガ大賞2011」に輝いた『ハチクロ』作者の新境地
『3月のライオン』 (1)~(5)巻
羽海野チカ
美大生たちを描く青春群像劇『ハチミツとクローバー』(以下、『ハチクロ』)の羽海野チカの新連載は将棋マンガ――その第一報が駆けめぐったのは2007年春のこと。『ハチクロ』といえば、実写映画やドラマ、テレビアニメ化もされ大ヒットした青春ラブストーリー。女性誌掲載作品で絵柄的にも「上品でふわふわしていてカワイイ」というイメージが強かっただけに、その作者がまったく畑違いの作品を描くことに驚いた人は多かった。しかも掲載誌は、バイオレンスやエロ描写も多い男性向け青年誌『ヤングアニマル』ということで、驚きは二重三重のものがあった。
業界内外の注目を集めるなかで始まった『3月のライオン』は、最初は主人公のナイーブさが目立つ展開で賛否両論あった。だが、回を重ねるごとにアツい盛り上がりを見せるようになり、じわじわと評価を上げていった。そして昨年の10月に発売された単行本5巻は全国の駅などで大キャンペーンも実施され、今年3月に発表された、書店員を中心としたマンガマニアが選ぶ「マンガ大賞2011」でも大賞を受賞。『3月のライオン』熱はとどまるところを知らない。
本作の主人公・桐山零は、中学生にしてプロとなり、「天才」との呼び声をほしいままにしてきた17歳のプロ将棋棋士。しかし幼いころに実の父母と死別し、引き取られた養父の家からも出て一人暮らしを始めた零は、将棋しか知らぬ孤独な少年だった。そんな彼が、下町住まいの三姉妹や、将棋のライバルたちとの触れ合いを通じて、他者とのきずなを築き、成長していく姿が描かれていく。
『ハチクロ』では、かわいくてキレイな作風の印象が強かった羽海野チカだが、本作ではそこに力強さが加わった。普段はどこか頼りなさそうに見える棋士たちが、勝負の際に見せる底光りのするような強さ、その強さに裏打ちされたオーラをありありと描き出している。思考と思考がバチバチぶつかり合う対局の模様は、ヒリヒリするような緊迫感に満ちている。棋士たちが向かい合って座っている絵ヅラは一見クールだが、触れるとヤケドしそうなほどの熱さをも感じさせる。
羽海野チカならではの繊細な心理描写も健在だ。零と同年代のライバルである花岡とのぶつかり合いと友情は見ていて楽しいし、三姉妹との団らんシーンもホッとあたたかい気分にさせてくれる。また食事シーンや学校での生活など、将棋以外の部分についてもきちんと掘り下げているので、人間描写に厚みがあるのもこの作品の特徴だ。
対局シーンで手に汗握らせたかと思えば、ギャグシーンで笑わせ、日常シーンでほのぼの、人情ドラマにホロリ。勝負のアツさ、棋士たちの強さ、人との触れ合いの楽しさ、心のあたたかさ・優しさなどなど、ステキなものがたっぷり詰まったドラマがここにある。
4 魔神の息子が悪魔を倒す! 運命に抗う猛き少年たちの物語
『青の祓魔師(エクソシスト)』 (1)~(6)巻
加藤和恵
魔神の息子が悪魔を倒す。『青の祓魔師』(あおのエクソシスト)はそんな風変わりな設定を持つファンタジーバトルアクションだ。2007年11月に創刊された集英社の月刊誌『ジャンプスクエア』連載とあって、一般的な認知度は低いかもしれないが、4月17日からTBS・MBS系全国ネットでテレビアニメ版の放映も始まった。この枠は、過去にも『機動戦士ガンダム00』や『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』などが放映された時間帯であり、今作も大ブレークの気配が漂っている。
主人公・奥村燐(おくむら・りん)は、神父であり祓魔師(エクソシスト)の顔も持つ義父に育てられた少年だ。平凡な毎日を送っていた燐だが、義父が悪魔にとり憑かれて無惨な死を遂げた日から彼の生活は一変する。魔神サタンの息子であることを告げられた燐だが、自らの運命に逆らい、悪魔退治をする祓魔師となることを決意したのだ。
本作ではその後、燐が祓魔師を養成する学校「正十字学園」に入学し、修行していく様子が描かれていく。そのなかで、先に祓魔師となっていた弟・雪男、悪魔憑きによる障害から立ち直り祓魔師を志した少女・杜山しえみらの仲間たちと共に、襲い来る悪魔やさまざまな苦難と闘っていく。
本作の魅力は、しっかりと構築された世界観と、それを読者に提示する表現力の高さを備えていること。祓魔師の育成過程が初歩から始まり、実際の戦闘に至るまで丁寧に描かれるほか、学園を中心とした町並みなども緻密な作画を駆使して詳細に描かれる。アクションシーンは激しくてダイナミックだし、登場人物たちも皆、ときに凜々しく、ときにかわいく見ていて飽きない。『少年ジャンプ』の流れをくむ、王道ファンタジーバトルの新星が、アニメ化を機に、どこまで伸びていくか楽しみだ。
5 時間が止まり世界が揺れる――時の狭間で繰り広げられる戦い
『刻刻』 (1)~(3)巻
堀尾省太
平凡な日常と地続きでありながら、見たこともない世界を描く。『刻刻』はそんな作品だ。講談社の月刊誌『モーニング・ツー』で連載され、作画は荒削りながらも独創性あふれる内容でマンガマニアの話題を集め、書店員を中心としたマンガランキング「マンガ大賞2011」でも最終候補に残るなど、じわりじわりと注目が高まりつつある作品だ。
物語は、少々問題はあるもののどこにでもあるような家庭・佑河家から、幼稚園に通う子供・真と、引きこもりの叔父・翼が誘拐されるところから始まる。警察に相談する時間もない状況で、隠居中の佑河家のじいさん(名前は明らかにされていない)はある決断を下す。実は佑河家は、静止した時間「止界」の中でも動ける能力を持った一族であり、その力を利用して真と翼を救出しようというのだ。周囲の世界がすべて動きを止めた中での救出活動は順調に思えたが、誘拐犯である謎の宗教団体「真純実愛会」にも止界内で動ける者たちがおり、佑河家と真純実愛会の間で虚々実々の戦いが繰り広げられていく。
本作は佑河家の長女である樹里の視点から語られていくが、物語内での彼女のいでたちはエプロン姿にサンダル履き。パッと見は完全に主婦だ。静止した世界で動ける者は「止者」と呼ばれるが、止者に殺意を向ける者がいると「管理人(神ノ離忍)」と呼ばれる異形の者が現れて、殺意を持つ者を排除しようとする。
ごくごく平凡な主婦(のような姿)のヒロイン、引きこもりの三十男、失業者然とした父親……と、登場人物たちはいかにもどこにでもいそうでありながら、それがなんとも形容しがたい異形の「管理人」らがうごめく世界で、生き残りバトルを繰り広げる。日常と非日常の奇妙なミックスぶりは、かなり強烈なインパクトを読む者に与える。また時が止まった得体の知れない世界の中での逃亡劇は、ピリピリした緊張感に満ちていて手に汗握るものがある。
このようにズラズラ言葉を並べていくと「何が何だか分からない」「なんだか難しそう」という人もいるかもしれないが、それだけ特殊な世界を描いている作品、ということでご容赦願いたい。実際、読んでみると読みづらいことはまったくなく、グイグイ読者を引き込んでいくパワーもある。読みごたえ、歯ごたえのある作品なので心して読むべし。
6 ボケとツッコミが交錯する、容赦なき子どもマンガ
『ちょこらん』 (1)~(2)巻
にしがきひろゆき
ここ2~3年、育児や子どもを描いたマンガが増えている。この『ちょこらん』は小学校1年生の男の子、たかはしたかし君の日常を描いた、子どもの日常系マンガだ。
たかしはちょっぴり気弱で、ツッコミ気質で、子どもにしては理屈っぽいけど、少々ヌケたところもある小学1年生男子。そんな彼が、仲良しではあるけど何かと無理難題を押しつけてくる同級生女子のあやちゃんの尻にしかれたり、その他の同級生と遊んだり、オバカな上級生の相談に乗ったりする日常が面白おかしく描かれていく。
この作品でとにかく面白いのが、ドS気質な女の子・あやちゃんとのやりとり。彼女の理不尽な要求に、たかしが諦め半分、戸惑い半分でつき合わされる様子が非常に楽しい。あやちゃんの強烈すぎるボケに、たかしの絶妙に弱気なツッコミが入り、そのツッコミが瞬殺されていく様子に笑いがこぼれてしまう。
小学生ながら、「鬼嫁」という言葉の似つかわしいあやちゃんの傍若無人ぶりも笑いを誘う。「いつもはツンツンしているが、2人きりのときはデレデレ」という状態を表す「ツンデレ」という言葉はだいぶ広く普及したが、あやちゃんの場合は2人きりのときもツンツンでデレのかけらもない。子どもならではの容赦のなさに追い込まれたたかしの、ひきつった驚きの表情や、要求に応える諦念に満ちた姿など、そのリアクションがいちいち面白い。このほか、恋に悩む暑苦しい上級生・本田君とのしょうもないやりとり、妙にファンキーなおばあちゃんとのトークもくだらなくて楽しい。
「子どもならではの純真さ」「かわいらしさ」とか、そういったステレオタイプな子どもマンガをお求めの方には向かないかもしれないが、賢いようでちょいオバカなお子様の姿で大笑いしたい人は、ぜひご一読を。
7 天真爛漫な子どもに囲まれて送る、スローでハッピーな離島ライフ
『ばらかもん』 (1)~(3)巻
ヨシノサツキ
近年「スローライフ」が各所でもてはやされている。「忙しくてスローになんて生きられないよ!」と思いつつも、心のどこかでゆったりした日常生活に憧れている人も多いのではないだろうか。そんなときはマンガでスローライフを味わってみてはどうだろう。問題ばかりの現代を生きるうえで、マンガを読んでしばし現実を忘れるというのも、現実的な選択肢である。『ばらかもん』は、潤いといやしと活力を求める人に打ってつけの作品だ。
本作の舞台は、日本再西端の離島。東京で問題を起こし、書道界で孤立していた主人公のイケメン書道家・半田清舟が、心機一転するため離島へ引っ越す。中央書道界で挫折し、最初はやさぐれていた半田だが、彼になついてちょくちょく遊びに来るようになった島の子ども・なるや、気の置けない島の人々に囲まれて、次第に活力を取り戻していく。
本作を読んでいて気持ちが良いのは、作品全体に漂う空気がゆったりしていて、雰囲気が非常に明るいこと。空と海に囲まれた島の風景の解放感、天真爛漫で底抜けに陽気な性分のなる、細かいことでぐじぐじ悩まない、きっぷのいい島民気質など、遊び場も気の利いた店も何にもないが、島の暮らしには都会の生活にはないものがあふれている。
島には島ならではの人間関係もあるものの、基本的にはみんな大らか。特に子どもたちは陽気で、なるたちの率直で曇りのない言葉には、ハッとさせられることもしばしば。子供たちとの触れ合いの様子が心温まるし、不便なことだらけの島暮らしのなかで、半田が楽しいことを見つけ出してなじんでいく様子にほのぼのさせられる。
本作は、にぎやかで微笑ましくてあたたかい物語だ。疲れる生活のなかで、ホッと一息つきたいときにぜひ読んでいただきたい。
8 しびれるようにほろ苦い、大人の恋愛をスイーツに乗せて
『失恋ショコラティエ』 (1)~(3)巻
水城せとな
最近のマンガにおけるモテ男子のトレンドとして、「料理ができる」ことがクローズアップされつつある。それが女性の心をとろかす甘~いスイーツであれば、なおのことモテる。本作は、スイーツ、特にチョコレート作りの職人・ショコラティエを主人公を中心としたラブストーリーだ。
主人公・爽太は、高校時代に先輩女子のサエコさんに一目ぼれ。一途な想いとアタックがかなって、一時は彼女とつき合うまでに至るも無惨にフラれてしまう。失意のどん底にたたき落とされた爽太は、ショックをまぎらわすために突如フランスへ渡り、世界的に有名なチョコレートの名店に転がり込む。5年間のショコラティエ修行の後、日本のマスコミも「チョコレート王子」として注目するほどのショコラティエに成長した爽太は、日本へ凱旋してチョコレート専門店を開店。それをきっかけとして、爽太の恋が新たな局面を迎えるのだった。
『失恋ショコラティエ』は、とろけるように甘いチョコレートを作る職人が主人公だが、恋愛についてはかなり駆け引きが激しく、ビターな面も多い。イケメン職人に変身して帰ってきた爽太に対し、すでに結婚して人妻となっていた元カノ・サエコが再接近。サエコへの想いを引きずる爽太は、あるときはチョコレートで彼女の機嫌をとったり、逆に突き放してみたりと、サエコの気を引くための駆け引きを試行錯誤する。
サエコのほうも天然なのかそれとも意図してなのか、天性の小悪魔っぷりで気のあるような素振りを見せたり、夫とのラブラブぶりを話してみたり……。そんなやりとりを繰り返す2人を、昔から爽太を知り想いを寄せてきた同僚の・薫子は心を傷めながら見つめ、さらに爽太の親友であるオリヴィエと爽太の妹・まつりの苦くて淡い恋愛模様も同時進行していく。
作画は上品だし、取り扱っている領域もチョコレートと非常に甘い。しかし恋愛のほうは、各人の思惑と駆け引きが交錯している。「少女マンガ的な」生ぬるいピュアさやストレートさは皆無で、ほろ苦さバツグンである。主人公・爽太はただ一途なばかりでなくモデルのえれなとも身体だけの関係を続けるわ、薫子の想いには一切気づかず無神経な発言を繰り返すわ、単純には応援しづらいキャラ。一方のサエコはサエコでこちらも移り気で天然小悪魔といった具合である。つい、爽太に対して、一途な「薫子にしとけ」などと助言したくなる。甘いようでシビアな恋の神経戦の連続に、読者の心もあっちに行ったりこっちに行ったり。今後の進展も目が離せない。
9 19世紀中央アジアを舞台にした、年の差ブライダルストーリー
『乙嫁語り』 (1)~(2)巻
森薫
『乙嫁語り(おとよめがたり)』は、オリエンタルな香り漂う、年の差カップルの結婚生活を描いた物語だ。作者の森薫は、ヴィクトリア朝時代の英国を舞台に、貴族とメイドの身分差を超えた恋物語を描き、テレビアニメ化もされる人気作となった『エマ』で脚光を集めた女性。
その最新作『乙嫁語り』の舞台は19世紀中央アジア、カスピ海周辺のとある地方都市。そこに住まう12歳の少年、カルルク・エイホンのもとに、20歳の花嫁アミル・ハルガルが嫁いでくる。8歳の年の差がある婚姻ではあったが、カルルクとアミルは共に暮らすうちにお互いに理解を深め、愛を深めていく。本作では2人の仲むつまじい結婚生活を、丹念に描き出していく。
本作の魅力としては、とにかく抜群に美しい作画が挙げられる。アミルを始めとした女性陣の芯の強さと可憐さを兼ね備えたイキイキした姿は鮮烈だし、カルルクも少年らしいかわいらしさを見せている。大人の男たちもたくましく描かれる。また、森薫作品は、風景やインテリア、装身具などの描写も写実的で圧倒的に美しい。特にアミルらが身につけている衣装、ペルシャ絨毯の複雑な模様、家具に施された彫刻などは、繊細かつ鮮やかで、作者がすごく楽しんで絵を描いていることが、紙面からひしひしと伝わってくる。しっかりした描き込みが、作品世界に華やかさと重厚感を与えている。
作画のほうに先に触れたが、ストーリーももちろん面白い。物語的にはまだ序盤といった感じではあるものの、カルルクとアミルの恋愛模様はしっとり細やかに描かれているし、何気ない日常風景の描写も楽しい。また2巻では、一度は嫁に出したアミルを取り戻そうとする実家の部族が街を襲撃し、激しいアクションも展開される。そのなかでカルルクが男を見せるシーンは頼もしい。華やかで美しい容姿を持ちながら、狩猟では抜群の腕前を見せるアミルの、自然体で出しゃばらない良妻賢母ぶりにも好感が持てる。
まだ単行本は2巻までしか出ていないが、すでに各種マンガランキングでも、「マンガ大賞2011」で2位、「このマンガがすごい! 2011」でオトコ編6位など、軒並み高い評価を受けている。今後の展開しだいでさらに大化けしそうな気配も漂う、先行きが楽しみな作品だ。
10 トキメキはじける、新感覚魔女っ娘ストーリー
『乱と灰色の世界』 (1)~(2)巻
入江亜季
魔法の力で大人に変身!……というと手塚治虫の『ふしぎなメルモ』や、テレビアニメ『魔法のプリンセスミンキーモモ』などを思い出す人も多いだろう。この『乱と灰色の世界』も、魔法の力で大人になる少女が主人公であり、その意味では由緒正しい魔女っ娘ものといっても良いかもしれない。とはいえ、本作の作画はあくまで現代仕様。物語についてもフレッシュな感触にあふれている。
本作の主人公・漆間乱(うるま・らん)は、「灰町」という地方都市へ引っ越してきた小学生の女の子。漆間家は、父・兄・乱の3人暮らしで一見ごく平凡だが、実は魔法の力を持つ一族。乱は魔法使いとしては駆け出しだが、魔法のシューズを履くと大人の美女に変身する能力を持っている。大人になった乱はその力で別の町に出かけたり、大金持ちのイケメンセレブ・凰太郎と知り合って大人の恋を覗き見たり、様々な大人の世界を体験する。学校では変わり者としてイジメられていたが、魔法が引き起こしたトラブルもあって同級生男子とちょっと仲良くなったり……いろんな出来事に遭遇していく。
物語は、既刊2巻の段階ではまだ序盤で、今後の展開については予想できない部分が多い。だが、ここまでの段階でもアクシデントや恋のトキメキに満ちた物語は十分に面白い。画面をダイナミックに使って展開される魔法の数々は、光あふれる絢爛たる世界を見せてくれ、ファンタジー心をかき立てる。
入江亜季の絵も素晴らしく美しい。ページはモノクロであるにも関わらず、キラキラとした輝き、鮮やかな色彩感を感じさせる作画は、艶があって弾けんばかりの瑞々しさに満ちている。その作画で描かれるキャラクターたちも実に魅力的。子どもの状態の乱はちょっとガサツながらも元気いっぱい自由奔放でかわいらしいし、大人に変身した乱は、グラマラスで色気たっぷり。また乱の父や兄、母といった家族たち、乱の同級生、それから魔法使いの下働きたちも美人やイケメンが多くて目に楽しいし、彼らのやりとりも痛快だ。
ここまでゴチャゴチャと書き連ねてきたが、本作品の最大の魅力は絵である。文字で読んでいても始まらない。まずは本を手にとって、ページを開いてみてほしい。その美しい世界にきっと魅了されるはずだ。
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(文/芝田 隆広、平山ゆりの)
1 日本人兄弟が宇宙を目指す!大ブレイク間近の宇宙マンガ
『宇宙兄弟』 (1)~(13)巻
小山宙哉
小栗旬、岡田将生のW主演で、2012年の実写映画化が発表されたばかりの『宇宙兄弟』は、宇宙行きを目指す日本人兄弟を描いた物語。「このマンガがすごい! 2009」(宝島社)オトコ編で2位、「マンガ大賞」でも2009年、2010年に連続して2位になるなどマンガファンを中心に高い評価を受けてきた作品だ。最近では小学館漫画賞(第56回 平成22年度 一般向け部門)受賞も果たし、本格ブレークの気運が高まってきた。
本作の主人公・難波六太(なんば・むった)は、子供のころに弟の日々人(ひびと)と共に宇宙飛行士になることを誓ったが、大人になるにつれてその夢を諦めて いた。しかし勤務先の会社をリストラされたのを機に、六太は先に宇宙飛行士に選ばれていた日々人に続き、またイチから宇宙への夢を追いかけることを決意する。
本作の魅力の1つは、宇宙飛行士を目指す過程をとてもしっかりと描いていることだ。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の面接から始まり、風変わりな実地試験、候補生としての過酷な訓練模様が展開される。実際に「リアル」なのかどうかは確かめられないが、丁寧な描写で「リアリティ」がある。無限の宇宙に夢を馳せながら、一方で地に足が着いている。
登場人物たちも魅力的だ。パッと見格好悪くてどこにでもいそうな三十男の六太は、親しみやすい。六太が身近で親近感が持てるだけに、スイッチが入って優れた記憶力・注意力・発想力を発揮するシーンも痛快に感じられる。また弟・日々人をはじめ、同僚の訓練生たち、先輩宇宙飛行士、技術者たちの内面、「夢のかたち」をストレートに描き出しているのも気持ちがいい。人々が夢を追う姿を生真面目に追うだけでなく、小粋なユーモアやほろりとさせる人情味も交えつつ描いているので、説教くさくならないのも好感が持てる。諦めなければ夢を追うことはいつだってできる。そんな勇気を与えてくれる良作だ。
2 こんな男が欲しかった! 闘うFWが日本代表を救う
『コラソン サッカー魂』 (1)~(4)巻
塀内夏子
昨年のFIFAワールドカップ以降、アジアカップ優勝や、香川真司、長友佑都ら海外リーグでの日本人選手の活躍もあり、日本サッカーが大きな盛り上がりを見せている。そんなサッカーの興奮を、マンガでも味わいたいという人にオススメなのが『コラソン サッカー魂』だ。
現実世界のサッカー日本代表といえば、長らく大きな病に悩まされてきた。その病とはズバリ「得点力不足」。代表の試合を見ていて、ゴール前だというのにシュートを譲ってパスをしたり、相手のディフェンダーにコロコロ転がされるフォワード陣にフラストレーションを抱いていた人は多いだろう。
本作で描かれるのは、日本サッカーファンが待望してやまなかった「強いフォワード」像だ。主人公の戌井凌駕は、かつて暴力・暴言行為によって国内リーグを追放され、海外のマイナークラブを転々としていた流浪のサッカー選手。そんな彼が得点力不足にあえぎ、W杯の出場権が危うくなっていた日本代表に急きょ招集される。凌駕は、性格は凶暴で言動は無礼、短気で常に喧嘩腰だ。プレーも性格そのままの荒々しさだが、とにかく貪欲に、ダーティーなプレーも辞さずゴールに喰らいついていく。その激しさ、強さが、追い込まれて委縮していた日本代表に活力を与えていく。
といった内容だが、これが実にアツくて面白い。何より素晴らしいのが主人公・凌駕の存在感。プレーは汚いが、一瞬でもすきを見せると喉元に喰らいついてくるような危険さにあふれ、常に得点の匂いをぷんぷん漂わせている。最初は「はた迷惑なヤツだ」といった雰囲気だが、読んでいるうちに「次は何をしてくれるのか」とワクワクさせられている自分に気づく。凌駕と周囲の選手たちが、反発しあいながらもチームとして成長していく様子も読みごたえがある。特に、おそらく中村俊輔あたりをモデルにしているのであろう、中盤の司令塔・中神とのぶつかりあいは注目だ。
サッカーのプレー描写そのものが非常に巧いのも特筆すべき点。作者の塀内夏子は『オフサイド』『Jドリーム』など、サッカーマンガの名作を手がけてきた作家だけあって、職人芸とでもいいたくなる巧さだ。サッカーというスポーツをマンガで描く場合、選手をアップで描くだけでは「どの位置でプレーしているのか」がサッパリ分からず、プレーの意図も伝わりづらい。そのため選手個人を描くアップの視点と、フィールドを広く見渡す視点を適宜織り交ぜていく必要があるのだが、塀内作品はそれが実にスムーズにできている。ゲームの流れを分かりやすく描きながら、スピード感を損なうことなく、ここぞの見せ場のシーンでは迫力のある構図で読む者を圧倒する。作者はごく当たり前のようにこなしているが、これは凡百の作家にはできない。
本作はとてもアツく激しいサッカーマンガだが、同時に非常にテクニカルで読みやすくもある。サッカーファンには文句なくオススメだ。
3 「マンガ大賞2011」に輝いた『ハチクロ』作者の新境地
『3月のライオン』 (1)~(5)巻
羽海野チカ
美大生たちを描く青春群像劇『ハチミツとクローバー』(以下、『ハチクロ』)の羽海野チカの新連載は将棋マンガ――その第一報が駆けめぐったのは2007年春のこと。『ハチクロ』といえば、実写映画やドラマ、テレビアニメ化もされ大ヒットした青春ラブストーリー。女性誌掲載作品で絵柄的にも「上品でふわふわしていてカワイイ」というイメージが強かっただけに、その作者がまったく畑違いの作品を描くことに驚いた人は多かった。しかも掲載誌は、バイオレンスやエロ描写も多い男性向け青年誌『ヤングアニマル』ということで、驚きは二重三重のものがあった。
業界内外の注目を集めるなかで始まった『3月のライオン』は、最初は主人公のナイーブさが目立つ展開で賛否両論あった。だが、回を重ねるごとにアツい盛り上がりを見せるようになり、じわじわと評価を上げていった。そして昨年の10月に発売された単行本5巻は全国の駅などで大キャンペーンも実施され、今年3月に発表された、書店員を中心としたマンガマニアが選ぶ「マンガ大賞2011」でも大賞を受賞。『3月のライオン』熱はとどまるところを知らない。
本作の主人公・桐山零は、中学生にしてプロとなり、「天才」との呼び声をほしいままにしてきた17歳のプロ将棋棋士。しかし幼いころに実の父母と死別し、引き取られた養父の家からも出て一人暮らしを始めた零は、将棋しか知らぬ孤独な少年だった。そんな彼が、下町住まいの三姉妹や、将棋のライバルたちとの触れ合いを通じて、他者とのきずなを築き、成長していく姿が描かれていく。
『ハチクロ』では、かわいくてキレイな作風の印象が強かった羽海野チカだが、本作ではそこに力強さが加わった。普段はどこか頼りなさそうに見える棋士たちが、勝負の際に見せる底光りのするような強さ、その強さに裏打ちされたオーラをありありと描き出している。思考と思考がバチバチぶつかり合う対局の模様は、ヒリヒリするような緊迫感に満ちている。棋士たちが向かい合って座っている絵ヅラは一見クールだが、触れるとヤケドしそうなほどの熱さをも感じさせる。
羽海野チカならではの繊細な心理描写も健在だ。零と同年代のライバルである花岡とのぶつかり合いと友情は見ていて楽しいし、三姉妹との団らんシーンもホッとあたたかい気分にさせてくれる。また食事シーンや学校での生活など、将棋以外の部分についてもきちんと掘り下げているので、人間描写に厚みがあるのもこの作品の特徴だ。
対局シーンで手に汗握らせたかと思えば、ギャグシーンで笑わせ、日常シーンでほのぼの、人情ドラマにホロリ。勝負のアツさ、棋士たちの強さ、人との触れ合いの楽しさ、心のあたたかさ・優しさなどなど、ステキなものがたっぷり詰まったドラマがここにある。
4 魔神の息子が悪魔を倒す! 運命に抗う猛き少年たちの物語
『青の祓魔師(エクソシスト)』 (1)~(6)巻
加藤和恵
魔神の息子が悪魔を倒す。『青の祓魔師』(あおのエクソシスト)はそんな風変わりな設定を持つファンタジーバトルアクションだ。2007年11月に創刊された集英社の月刊誌『ジャンプスクエア』連載とあって、一般的な認知度は低いかもしれないが、4月17日からTBS・MBS系全国ネットでテレビアニメ版の放映も始まった。この枠は、過去にも『機動戦士ガンダム00』や『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』などが放映された時間帯であり、今作も大ブレークの気配が漂っている。
主人公・奥村燐(おくむら・りん)は、神父であり祓魔師(エクソシスト)の顔も持つ義父に育てられた少年だ。平凡な毎日を送っていた燐だが、義父が悪魔にとり憑かれて無惨な死を遂げた日から彼の生活は一変する。魔神サタンの息子であることを告げられた燐だが、自らの運命に逆らい、悪魔退治をする祓魔師となることを決意したのだ。
本作ではその後、燐が祓魔師を養成する学校「正十字学園」に入学し、修行していく様子が描かれていく。そのなかで、先に祓魔師となっていた弟・雪男、悪魔憑きによる障害から立ち直り祓魔師を志した少女・杜山しえみらの仲間たちと共に、襲い来る悪魔やさまざまな苦難と闘っていく。
本作の魅力は、しっかりと構築された世界観と、それを読者に提示する表現力の高さを備えていること。祓魔師の育成過程が初歩から始まり、実際の戦闘に至るまで丁寧に描かれるほか、学園を中心とした町並みなども緻密な作画を駆使して詳細に描かれる。アクションシーンは激しくてダイナミックだし、登場人物たちも皆、ときに凜々しく、ときにかわいく見ていて飽きない。『少年ジャンプ』の流れをくむ、王道ファンタジーバトルの新星が、アニメ化を機に、どこまで伸びていくか楽しみだ。
5 時間が止まり世界が揺れる――時の狭間で繰り広げられる戦い
『刻刻』 (1)~(3)巻
堀尾省太
平凡な日常と地続きでありながら、見たこともない世界を描く。『刻刻』はそんな作品だ。講談社の月刊誌『モーニング・ツー』で連載され、作画は荒削りながらも独創性あふれる内容でマンガマニアの話題を集め、書店員を中心としたマンガランキング「マンガ大賞2011」でも最終候補に残るなど、じわりじわりと注目が高まりつつある作品だ。
物語は、少々問題はあるもののどこにでもあるような家庭・佑河家から、幼稚園に通う子供・真と、引きこもりの叔父・翼が誘拐されるところから始まる。警察に相談する時間もない状況で、隠居中の佑河家のじいさん(名前は明らかにされていない)はある決断を下す。実は佑河家は、静止した時間「止界」の中でも動ける能力を持った一族であり、その力を利用して真と翼を救出しようというのだ。周囲の世界がすべて動きを止めた中での救出活動は順調に思えたが、誘拐犯である謎の宗教団体「真純実愛会」にも止界内で動ける者たちがおり、佑河家と真純実愛会の間で虚々実々の戦いが繰り広げられていく。
本作は佑河家の長女である樹里の視点から語られていくが、物語内での彼女のいでたちはエプロン姿にサンダル履き。パッと見は完全に主婦だ。静止した世界で動ける者は「止者」と呼ばれるが、止者に殺意を向ける者がいると「管理人(神ノ離忍)」と呼ばれる異形の者が現れて、殺意を持つ者を排除しようとする。
ごくごく平凡な主婦(のような姿)のヒロイン、引きこもりの三十男、失業者然とした父親……と、登場人物たちはいかにもどこにでもいそうでありながら、それがなんとも形容しがたい異形の「管理人」らがうごめく世界で、生き残りバトルを繰り広げる。日常と非日常の奇妙なミックスぶりは、かなり強烈なインパクトを読む者に与える。また時が止まった得体の知れない世界の中での逃亡劇は、ピリピリした緊張感に満ちていて手に汗握るものがある。
このようにズラズラ言葉を並べていくと「何が何だか分からない」「なんだか難しそう」という人もいるかもしれないが、それだけ特殊な世界を描いている作品、ということでご容赦願いたい。実際、読んでみると読みづらいことはまったくなく、グイグイ読者を引き込んでいくパワーもある。読みごたえ、歯ごたえのある作品なので心して読むべし。
6 ボケとツッコミが交錯する、容赦なき子どもマンガ
『ちょこらん』 (1)~(2)巻
にしがきひろゆき
ここ2~3年、育児や子どもを描いたマンガが増えている。この『ちょこらん』は小学校1年生の男の子、たかはしたかし君の日常を描いた、子どもの日常系マンガだ。
たかしはちょっぴり気弱で、ツッコミ気質で、子どもにしては理屈っぽいけど、少々ヌケたところもある小学1年生男子。そんな彼が、仲良しではあるけど何かと無理難題を押しつけてくる同級生女子のあやちゃんの尻にしかれたり、その他の同級生と遊んだり、オバカな上級生の相談に乗ったりする日常が面白おかしく描かれていく。
この作品でとにかく面白いのが、ドS気質な女の子・あやちゃんとのやりとり。彼女の理不尽な要求に、たかしが諦め半分、戸惑い半分でつき合わされる様子が非常に楽しい。あやちゃんの強烈すぎるボケに、たかしの絶妙に弱気なツッコミが入り、そのツッコミが瞬殺されていく様子に笑いがこぼれてしまう。
小学生ながら、「鬼嫁」という言葉の似つかわしいあやちゃんの傍若無人ぶりも笑いを誘う。「いつもはツンツンしているが、2人きりのときはデレデレ」という状態を表す「ツンデレ」という言葉はだいぶ広く普及したが、あやちゃんの場合は2人きりのときもツンツンでデレのかけらもない。子どもならではの容赦のなさに追い込まれたたかしの、ひきつった驚きの表情や、要求に応える諦念に満ちた姿など、そのリアクションがいちいち面白い。このほか、恋に悩む暑苦しい上級生・本田君とのしょうもないやりとり、妙にファンキーなおばあちゃんとのトークもくだらなくて楽しい。
「子どもならではの純真さ」「かわいらしさ」とか、そういったステレオタイプな子どもマンガをお求めの方には向かないかもしれないが、賢いようでちょいオバカなお子様の姿で大笑いしたい人は、ぜひご一読を。
7 天真爛漫な子どもに囲まれて送る、スローでハッピーな離島ライフ
『ばらかもん』 (1)~(3)巻
ヨシノサツキ
近年「スローライフ」が各所でもてはやされている。「忙しくてスローになんて生きられないよ!」と思いつつも、心のどこかでゆったりした日常生活に憧れている人も多いのではないだろうか。そんなときはマンガでスローライフを味わってみてはどうだろう。問題ばかりの現代を生きるうえで、マンガを読んでしばし現実を忘れるというのも、現実的な選択肢である。『ばらかもん』は、潤いといやしと活力を求める人に打ってつけの作品だ。
本作の舞台は、日本再西端の離島。東京で問題を起こし、書道界で孤立していた主人公のイケメン書道家・半田清舟が、心機一転するため離島へ引っ越す。中央書道界で挫折し、最初はやさぐれていた半田だが、彼になついてちょくちょく遊びに来るようになった島の子ども・なるや、気の置けない島の人々に囲まれて、次第に活力を取り戻していく。
本作を読んでいて気持ちが良いのは、作品全体に漂う空気がゆったりしていて、雰囲気が非常に明るいこと。空と海に囲まれた島の風景の解放感、天真爛漫で底抜けに陽気な性分のなる、細かいことでぐじぐじ悩まない、きっぷのいい島民気質など、遊び場も気の利いた店も何にもないが、島の暮らしには都会の生活にはないものがあふれている。
島には島ならではの人間関係もあるものの、基本的にはみんな大らか。特に子どもたちは陽気で、なるたちの率直で曇りのない言葉には、ハッとさせられることもしばしば。子供たちとの触れ合いの様子が心温まるし、不便なことだらけの島暮らしのなかで、半田が楽しいことを見つけ出してなじんでいく様子にほのぼのさせられる。
本作は、にぎやかで微笑ましくてあたたかい物語だ。疲れる生活のなかで、ホッと一息つきたいときにぜひ読んでいただきたい。
8 しびれるようにほろ苦い、大人の恋愛をスイーツに乗せて
『失恋ショコラティエ』 (1)~(3)巻
水城せとな
最近のマンガにおけるモテ男子のトレンドとして、「料理ができる」ことがクローズアップされつつある。それが女性の心をとろかす甘~いスイーツであれば、なおのことモテる。本作は、スイーツ、特にチョコレート作りの職人・ショコラティエを主人公を中心としたラブストーリーだ。
主人公・爽太は、高校時代に先輩女子のサエコさんに一目ぼれ。一途な想いとアタックがかなって、一時は彼女とつき合うまでに至るも無惨にフラれてしまう。失意のどん底にたたき落とされた爽太は、ショックをまぎらわすために突如フランスへ渡り、世界的に有名なチョコレートの名店に転がり込む。5年間のショコラティエ修行の後、日本のマスコミも「チョコレート王子」として注目するほどのショコラティエに成長した爽太は、日本へ凱旋してチョコレート専門店を開店。それをきっかけとして、爽太の恋が新たな局面を迎えるのだった。
『失恋ショコラティエ』は、とろけるように甘いチョコレートを作る職人が主人公だが、恋愛についてはかなり駆け引きが激しく、ビターな面も多い。イケメン職人に変身して帰ってきた爽太に対し、すでに結婚して人妻となっていた元カノ・サエコが再接近。サエコへの想いを引きずる爽太は、あるときはチョコレートで彼女の機嫌をとったり、逆に突き放してみたりと、サエコの気を引くための駆け引きを試行錯誤する。
サエコのほうも天然なのかそれとも意図してなのか、天性の小悪魔っぷりで気のあるような素振りを見せたり、夫とのラブラブぶりを話してみたり……。そんなやりとりを繰り返す2人を、昔から爽太を知り想いを寄せてきた同僚の・薫子は心を傷めながら見つめ、さらに爽太の親友であるオリヴィエと爽太の妹・まつりの苦くて淡い恋愛模様も同時進行していく。
作画は上品だし、取り扱っている領域もチョコレートと非常に甘い。しかし恋愛のほうは、各人の思惑と駆け引きが交錯している。「少女マンガ的な」生ぬるいピュアさやストレートさは皆無で、ほろ苦さバツグンである。主人公・爽太はただ一途なばかりでなくモデルのえれなとも身体だけの関係を続けるわ、薫子の想いには一切気づかず無神経な発言を繰り返すわ、単純には応援しづらいキャラ。一方のサエコはサエコでこちらも移り気で天然小悪魔といった具合である。つい、爽太に対して、一途な「薫子にしとけ」などと助言したくなる。甘いようでシビアな恋の神経戦の連続に、読者の心もあっちに行ったりこっちに行ったり。今後の進展も目が離せない。
9 19世紀中央アジアを舞台にした、年の差ブライダルストーリー
『乙嫁語り』 (1)~(2)巻
森薫
『乙嫁語り(おとよめがたり)』は、オリエンタルな香り漂う、年の差カップルの結婚生活を描いた物語だ。作者の森薫は、ヴィクトリア朝時代の英国を舞台に、貴族とメイドの身分差を超えた恋物語を描き、テレビアニメ化もされる人気作となった『エマ』で脚光を集めた女性。
その最新作『乙嫁語り』の舞台は19世紀中央アジア、カスピ海周辺のとある地方都市。そこに住まう12歳の少年、カルルク・エイホンのもとに、20歳の花嫁アミル・ハルガルが嫁いでくる。8歳の年の差がある婚姻ではあったが、カルルクとアミルは共に暮らすうちにお互いに理解を深め、愛を深めていく。本作では2人の仲むつまじい結婚生活を、丹念に描き出していく。
本作の魅力としては、とにかく抜群に美しい作画が挙げられる。アミルを始めとした女性陣の芯の強さと可憐さを兼ね備えたイキイキした姿は鮮烈だし、カルルクも少年らしいかわいらしさを見せている。大人の男たちもたくましく描かれる。また、森薫作品は、風景やインテリア、装身具などの描写も写実的で圧倒的に美しい。特にアミルらが身につけている衣装、ペルシャ絨毯の複雑な模様、家具に施された彫刻などは、繊細かつ鮮やかで、作者がすごく楽しんで絵を描いていることが、紙面からひしひしと伝わってくる。しっかりした描き込みが、作品世界に華やかさと重厚感を与えている。
作画のほうに先に触れたが、ストーリーももちろん面白い。物語的にはまだ序盤といった感じではあるものの、カルルクとアミルの恋愛模様はしっとり細やかに描かれているし、何気ない日常風景の描写も楽しい。また2巻では、一度は嫁に出したアミルを取り戻そうとする実家の部族が街を襲撃し、激しいアクションも展開される。そのなかでカルルクが男を見せるシーンは頼もしい。華やかで美しい容姿を持ちながら、狩猟では抜群の腕前を見せるアミルの、自然体で出しゃばらない良妻賢母ぶりにも好感が持てる。
まだ単行本は2巻までしか出ていないが、すでに各種マンガランキングでも、「マンガ大賞2011」で2位、「このマンガがすごい! 2011」でオトコ編6位など、軒並み高い評価を受けている。今後の展開しだいでさらに大化けしそうな気配も漂う、先行きが楽しみな作品だ。
10 トキメキはじける、新感覚魔女っ娘ストーリー
『乱と灰色の世界』 (1)~(2)巻
入江亜季
魔法の力で大人に変身!……というと手塚治虫の『ふしぎなメルモ』や、テレビアニメ『魔法のプリンセスミンキーモモ』などを思い出す人も多いだろう。この『乱と灰色の世界』も、魔法の力で大人になる少女が主人公であり、その意味では由緒正しい魔女っ娘ものといっても良いかもしれない。とはいえ、本作の作画はあくまで現代仕様。物語についてもフレッシュな感触にあふれている。
本作の主人公・漆間乱(うるま・らん)は、「灰町」という地方都市へ引っ越してきた小学生の女の子。漆間家は、父・兄・乱の3人暮らしで一見ごく平凡だが、実は魔法の力を持つ一族。乱は魔法使いとしては駆け出しだが、魔法のシューズを履くと大人の美女に変身する能力を持っている。大人になった乱はその力で別の町に出かけたり、大金持ちのイケメンセレブ・凰太郎と知り合って大人の恋を覗き見たり、様々な大人の世界を体験する。学校では変わり者としてイジメられていたが、魔法が引き起こしたトラブルもあって同級生男子とちょっと仲良くなったり……いろんな出来事に遭遇していく。
物語は、既刊2巻の段階ではまだ序盤で、今後の展開については予想できない部分が多い。だが、ここまでの段階でもアクシデントや恋のトキメキに満ちた物語は十分に面白い。画面をダイナミックに使って展開される魔法の数々は、光あふれる絢爛たる世界を見せてくれ、ファンタジー心をかき立てる。
入江亜季の絵も素晴らしく美しい。ページはモノクロであるにも関わらず、キラキラとした輝き、鮮やかな色彩感を感じさせる作画は、艶があって弾けんばかりの瑞々しさに満ちている。その作画で描かれるキャラクターたちも実に魅力的。子どもの状態の乱はちょっとガサツながらも元気いっぱい自由奔放でかわいらしいし、大人に変身した乱は、グラマラスで色気たっぷり。また乱の父や兄、母といった家族たち、乱の同級生、それから魔法使いの下働きたちも美人やイケメンが多くて目に楽しいし、彼らのやりとりも痛快だ。
ここまでゴチャゴチャと書き連ねてきたが、本作品の最大の魅力は絵である。文字で読んでいても始まらない。まずは本を手にとって、ページを開いてみてほしい。その美しい世界にきっと魅了されるはずだ。
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