大学でライフルを持った男が現れた事件、
犯人は大学の生徒だった。
何か行動を起こす前にライフルをショってウロウロしているのを目撃されたので、
早くにつかまった。
結局共犯もいなく、
本人に襲撃する意志があったかどうかは公にならず、
ライフル自体、アンティークだった、つまり使えるかどうかもイマイチ分からないものだったらしい。
とても人騒がせな事件だった。
私のOfficeの置かれている学部で、
多くの生徒や教授が4時間以上も避難していたわけだが、
その間、周りの携帯やOfficeの電話は鳴りっ放し、
事件の経過情報がなかなか入ってこない校舎もあったようで、
扉を閉め電気を消してひたすら教室で生徒と隠れている教授から電話があったり、
臨時ニュースを聞きつけた身内や友達から電話を受けているようで、
皆、忙しそうに電話で大声で話をしていた。
電話口で泣いている生徒も何人か見かけた。
そんなパニック状態を
私は「お祭り騒ぎ」として見ていた。
本当に恐れているのなら、
もう少し静かにしてもいいものを。
どうも私には皆がドラマチックに騒いでいるだけのようにしか見えなかった。
実際、外から見える窓にへばりついて
「怖い、怖い」と言っている様子を見て、
「そんなところにいたら一番に狙われるよ」と注意したら
笑い飛ばされた。
他の先生が注意する様子もなかったので、
私は「くだらない」
と自分のOfficeにこもり、
いつも通り仕事をしていた。
途中、ヘルメットを被って大きな銃を抱えたSwatTeamが、
犬と一緒に目の前の大学の教会に
ダダダーっと駆け込んでいく姿を窓から見た時は、
さすがに少しドキドキした。
けれど、一時間たっても出てこなかったので
一緒にいた同僚が飽きてしまい、
ポテトチップスをOfficeで食べよう
なんて手招きされて、
もうあれで一気に気が抜けた。
だから私は、ほとんどの待機時間を
仕事についやして、
いつも以上に黙々と仕事をしていた。
「解放」の合図を貰った時も本当はまだ残って仕事がしたいくらいだった。
そんな感じで、パニック祭りの中、私は至って冷静で、
落ち着いて状況を観察し、自分の行動を判断していた。
我ながら自分は「つかえる」と思った。
危機的状況にもともと強いタイプなので。
が、その夜、
一睡もできず、
次の日もほとんど寝れず、
1週間たっても良くならず、
1ヶ月まともな睡眠が取れなかった私。
どうしてなのか、自分でサッパリ分からず、
ライフル事件と自分の不眠生活に繋がりがある
なんてことは全くよぎりもしなかったので、
実は私はものすごくダメージを受けていた、
ということに気付くのに、大分時間がかかりました。
周りが騒げば騒ぐほど、ドンドンドンドン内に入り込むタイプの私。
自分の不安や恐怖心のこもった心意を無意識のうちに押し殺してしまい、
自分の中ではそんな自分を「落ち着いて、冷静」と判断していた。
皆が4時間待機中に電話している時、
実は私も一応NYで働いている兄に電話していた。
NJに住んでいる義姉にも電話した。
どちらも出ず。
きっと臨時ニュースを見てないんだなと思い、
見てないなら見てないで余計な心配をかけても仕方ないと思って、
一度電話を鳴らしただけでその後連絡をしなかった。
PAに住んでいる友達も出ず。
両親とも日本に住んでいるので、
彼らにこそ内緒にしておこうと思った。
余計な心配をかけたくないから。
当時、私に男はいなかった。
NYにも引っ越してきてまだ一年しかたっていなかったので、
NYの友達はほとんどいないに等しい。
頻繁に連絡を取るような友達は一人もいなかった。
ないないないの、ないづくし~。
そこで思いっきり気付いたのは、
私は独りだと言うこと。
独りで生きるとはこういうことだと言うこと。
自分で自分を養うこと、
自分で自分を守ること、
何かが自分に起きても、しばらくは誰にも気付いてもらえない。
自分のプロフィールを学校や職場の書類等に記入する時、
「緊急連絡先」という欄があるけれど、
そこに重みをそれまで感じたことがなかったのは、
今までいつも周りに誰か(緊急連絡者)がいたからなのだと気付いた。
私が行方不明になった時、
身内は私以外の誰に連絡したらいいのか分からない。
私に何かが起きた時、
周りで私の緊急連絡先(兄や日本の親)を知っている人もいない。
私がもしライフルで撃たれていたら、
家族にすぐ連絡はいかないだろう。
私がもし人質として捕らえられても、
やっぱり事件が終わってから家族は知るのだろう。
私がここで死んでも、誰も気付くことはない。
私に助けが必要になっても誰も助けてはくれない。
私が襲われても私のことだから誰にも言わない。
何かが起きた時、私は誰に行けばいいのか。
「怖い」「助けて」と感じた時、私には伝える人がいない。
私が生きていることを確認してくれる人がいない。
ほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしい。
頭が割れそうな夜が続き、眠れずにいた。
こういうのを精神的ダメージというのかな。
相当どうかしてました。
事件が起きたのは9月の終わり、
精神的に立ち直るのに2ヶ月かかり、
12月に男ができた。
変な精神的な焦りから付き合い始めた人だったけれど、
今もちゃんと続いている。
今の彼は、私が生きていることを毎日確認してくれる。
本当、ありがたや、ありがたや。