初めて肺ガンと告知を受けたとき、
家に帰ってきてから、
妻と抱き合い、大泣きした。

そのとき妻は、
「必ず奇跡をおこす」と誓い、

僕は、余命がどれくらいになろうとも、
すべてを受け入れた。


とはいえ、
あと数十年は続くと思っていた
妻と一緒に過ごす人生が、

あと数年ほどで終わるんだなと実感したとき、
一度だけ一人泣きしたこともある。



泣き悲しんだのは、
今のところ、それだけ。




これまでの人生、
経験したことないことはたくさんあるけれど、

死ぬ前に、
アレをしとけばよかった…
コレに挑戦しとけばよかった…
なんて後悔は、まるでないし、

死ぬ前に、
アレをしようコレをしようと、
今までしたことないことをやろうなんて希望も、特にない。




自己啓発セミナーとかで、

人生でどれだけの挑戦をしてきたか、
どれだけアグレッシブに生きているか、
人生の目的をもち、目標に向かっているか、

なんてことがすばらしいとされているが、
そんな「刺激」まみれの人生は、別にいらない。



今の僕に大切なのは、
本当に大切な人と共に、残りの時間を過ごすこと。



別に、特別なことはなくていい。


その辺を散歩するとか、
映画を観に行くとか、
マクドでハンバーガーを食べるとか、
カフェでお茶しながら本を読むとか、

そんな、フツーの日々でいい。



今だから分かる。
何もない「日常」が、どれほど贅沢なことかと。



今はただ、
妻と一緒に過ごす、
なんの変哲もない「日常」がほしい。