
(尚子)
学生時代。視える男の子がいた。
何が視えるのかというと、 その人の未来が視えるという。
何人かの友人が視てもらった。
「えー!」
「きゃー!」
「イヤだー!」
そんな声が飛び交う。
私は少し冷めた目で、 その様子を見ていた。
あえて、 視てほしいとも言わなかった。
だって。
その未来には、 この学生の頃の関係なんて、 もう終わっている。
会うこともない。
どうせ、 適当なことを言っているんだろう。
そう思っていた。
ある日の飲み会で、 偶然、その男の子と隣同士になった。
何も話さないのも変だし、 でも、その話題にはなってほしくなくて、 適当な話をしていた。
すると、 お節介な女友達が言った。
「あんたも視てもらいなよ」
「いいよ」
断った。
でも、 どうにも断れない空気になって、結局私は、 視てもらうことになった。
彼が私を視る。
いつものように、 少し笑いながらではなく。
視ることに集中するように、 じっと。
そして、
すぐだった。
いつもあんなに、 和気あいあいとしていたのに。
彼の顔から、 笑顔が消えた。
真顔になった。
「ごめん」
少し間を置いて、
「今日は調子悪いみたい」
そう言って、 彼は帰ってしまった。
私は、 その背中を見ていた。
何だったんだろう。
そう思った。
でも、 それ以上は考えなかった。
そのことを、 私は忘れていた。
今まで、 一度も思い出したことなんてなかった。
なのに。
何故か今、 急に思い出した。
あの男の子の顔。
真顔になった顔。
帰っていった背中。
もしかすると。
きっと。
彼には、 視えていたのだ。
あのときの私から、
今の私が。
この姿が。

(修)
焼き鳥を買ってもらえた。
焼き鳥を焼き鳥と呼ばず、なぜか、家では串と呼んでいた。
まだ、幼い俺を思ってなのかな、串の先、尖ってるだろ?そこを歯で折るんだよ。
口の中を突かないように。
あのとき確かに俺は、おとうちゃんに愛されていたんだよな。
(お客)と言って、近所の人を家に呼んで宴会をしていた。
座卓の脚をパチンッと伸ばし、コの字にならぶ。
煙草を吸う人がいない家に、灰皿がならぶ。
座布団もならぶ。
皿鉢料理がならぶ。
皿に乗った、あの羊羹と、巻き寿司の中心は、食えそうにもないと、いつも思っていた。
ビールがケースで運ばれる。
(キリリン。キリリン。)
はしゃいでいたら、叱られて、「これは、大人が食うもんやから、子供は食べられん」と、オヤジは、怒鳴る。
炊事場の、そのまた奥の部屋へ、
おかあちゃんが、炊事場で熱燗の仕度を始める姿が見える。
他のおばちゃんたちは、はしゃいで飲んでいるのに、なんで、おかあちゃんだけがと、
俺は、はしゃいでいた。
はしゃいだフリをする。
そんな気持ちを払うように。
海へ行った。大漁旗を日除けの代わりにし、その下で、親せきのおじさんが一升びんを持ちながら、おちゃらけた写真を思い出した。
確か、俺は笑っていた。
その写真の端っこで。
そうだ、後で、おとうちゃんに電話しよう。
頼んでいた、焼き鳥の、皮の塩焼きが置かれた。
すうーっと嗅いだ。
少し遅れて、 ティッシュに包まれた精液のような匂いがした。
遅れて、親子丼が置かれた。
めずらしく、フタ付きだ。
そして、
フタのくぼみには、
なんと、
お新香が2切れ乗っていた。
こころが喜んでいた。
「生一つ」
俺は気が大きくなったのか、声を出していた。
ここに今度、あの人を誘ってみよう。
この2切れのお新香を見てほしい。
そんなことを思った。
あの日、何を笑っていたのか、聞いてみよう。
入道雲のような笑顏だった。
信号を待つ。向かいに自転車屋が見えた。
心配そうな顔をした男の子が、その作業を食い入るように見ている。
自転車屋のおじさんは、手慣れた手つきで、自転車をひっくり返し、くるくるとタイヤを回していく。
日が暮れる前の空は深い青で、吹く風は、やっと涼しくなってきた。


私は嘘を隠しながら生きていくのか
嘘ではない
