■ベートーヴェンの後期弦楽四重奏OP131はおれにとってとても思い入れのある曲だ。
宗教曲のような敬虔さ、深い安堵、大いなる決意と怒りを伴った疾走、それに随所にちりばめられたユーモア。
高校の頃からその魅力にとらわれ長い間聴いてきた。
癒され、励まされ、音楽のもつ力の強さを感じてきた。
レニーはこの曲をウィーン・フィルと弦楽合奏版として演奏しており、これがまた大変な名演なのだ!(レニー自身も「天国に一枚だけ自身のCDを持っていかれるとしたら?」の質問にこの演奏を挙げているほど)
と、この曲を基調とした映画だから観ないわけにはいかない。
美しい画、しかしほの暗いトーン。とてもいい感じだ。
なによりもドラマがおもしろい。
第一・第二ヴァイオリン、ヴィオラ、それにチェリスト、みんな大きな悩みを抱えていてそれが複雑に絡み合う。
これはベートーヴェンのOP131のもつテーマと同じようではないか。
チェリスト(ウォーケン)が彼らの混乱を支える役割だが、彼自身も難病に苦しむ。
母娘がぶつかりあうシーンは自然で凄かった。ああいうのを観ると魂を鷲づかみにされる。
その娘は年配のヴァイオリン奏者と恋におちるのだが、そのうち身を引くことを決意する。
しかし男はとうてい受け入れられない。
一度火がついたハートはたやすく鎮火しない。
男は都合のいい解釈をしてなんとか繋げようとする。
しかしいったん切ることを決めた女の気持ちは変わらない。
男は弱い。
いつでも強い女の方から身を引くのだ。
誰もが経験しうるであろう苦難を抱えたまま舞台にあがる。
そして無事演奏が済んで、もとの仲良しグループに戻りました、ちゃんちゃん、なんて陳腐な展開にはならない。
実際の人生においてもこれですべて解決!なんてことはないのと同じで、この映画でも彼らの旅はまだまだ続く、という風に幕をとじる。
それも好感がもてた。
最近数カ月で観た映画のなかでいちばんよかった。
