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■新入社員のときのプロフィール。趣味欄に“クラシック音楽”とともに、“散歩”と書いた。

しかし今それを思い返すと、趣味といえるほど散歩は好きじゃないなぁ。

それでもこの前のように散歩はたまにする。



会社に行くように、いつもどおりの時間に家を出て、いつもの電車に乗って、でも、いつもの駅で降りない。

しばらく乗っていて「このあたりでいいか」ってことで四ッ谷で降りた。

この日はいい天気。晴れ渡った青空がほんとうに清々しかった。

「さて、どっちにいこうかな」と駅前の交差点をキョロキョロする。

「緑が多そうな神宮方面へ行ってみよう」ってことで、迎賓館のほうへ歩きだす。

平日のせいか、このあたりの人通りは少ない。

横を走っている車だって心なしかうるさく感じない。気持ちが余裕だからだろうか。

新緑と青空をたっぷりとたのしみながら、迎賓館から神宮外苑へ。

どこもかしこも空いている。この時間の東京の空気はぜったいに澄んでいるはず。

午前中の空気は清々しい。

これがどういうわけか午後の光をあびると、とたんに空気はいつもの東京の空気になってしまう。

だから午前中はこういうところを歩くのがいいのだ。


青山通りに出る。

「そういえば青山墓地って行ったことがないな。前からどんなところか気になっていたんだよな。いい機会だからちょっと行ってみっか」と思いたち。

青山通りをつっきってそのまま狭い路地に入る。

きれいな住宅街。お金持ちそうな家。

そんなことを思っていると、突然広大な墓地がひろがった。

「いきなりお墓なんだ‥」とあっけにとられながら、そのまま墓地にはいる。

勝手なイメージでは、青山墓地は高い塀か柵に囲われていて外からは見えないのかとおもっていた。

意外だった。

墓地の中央あたりにいく。ここは実に静かなものだ。

車の音なんかまったくしない。

鳥の声と草を刈る機械の音だけが遠くから聞こえるだけ。

「東京のど真ん中でこんなに静かなところってあるのか‥」

ベンチに座ると木漏れ日がちょうどいい具合で、ペットボトルのお茶を飲みながらくつろいだ。

念のため持ってきたマップで青山墓地をみると、有名な人の墓があった。

なかでも“吉田茂”

ちょうどいま読んでいる白州次郎氏の本に頻繁に吉田茂氏も登場してくる。

吉田氏の周囲に流されず己の信念を頑なに貫き通した、その骨太な生き方に共感していた。

そういう時だった。

偶然立ち寄った墓地、ってのも変な言葉だけど、そこにいまちょうど関心を抱いている人物が眠っていることをおもうと、妙な関連性を感じた。

さっそくマップに従って歩くと。あった。

思った以上に小ぶりな墓石。

“吉田茂の墓”と書かれている。

しばらくの間、その墓石と感慨ぶかく対面していた。



そして、墓地を後にして、「ちょっと休憩するか」ってことでいつもの表参道にむかう。

見慣れえた風景になると、妙に安心するものだ。

時間が早いのでカフェは営業していない。

チェーン店は落ち着かないからやめておいて、いつものABCへ。

そこの外のテラスに座っていると、どこからともなくほどよい風がふいてきた。

あたたかな日差しをうけ、ほんとうにゆったりと時がながれているのを、からだ全体で実感した。

そして、「こんなに素敵な時がすごせるなんて、しあわせなことだな」とおもった。

たったそれだけのことに大げさかもしれないが、このとき、もうしぶんのない幸福をかんじていた。

おそらくあの瞬間はわすれないだろう。

しばらくそうやってボーっとしていた。

そのうちラインタイムになって人がふえてきたからABCに入った。


ABCではいろんな本をみて、いつくか気になったけど『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』(シド・フィールド著)という本を購入した。

こういう題名は好きではないのだけど、中身がよかった。

これからのシナリオ執筆に大いに役立つこと間違いない。


で、そこからどこに向かおうかな。

まだ行ったことのない街を歩いてみたかった。

「白金のほうにひとまず向かうか」

ってことで南へ歩き出す。

しかし、どういうわけだか電信柱には“恵比寿”と書いてある街へ行ってしまった。

恵比寿は方向が違うだろう。

間違えたな。

ま、間違えもこういうテキトーな散策の楽しみではあるのだが。


「そういえば、昼飯食っていない」

もう一時半をとっくに過ぎている。

「なんかおもしろい食べもん屋あるかな」

と、あたりをぐるりと見ると、歴史を感じさせる小さな定食屋さんがある。

店の外からもメニューが見えるのだけど、どれも600円か650円と安い!

「おもしろそうじゃん」

店内に入ると狭いカウンターに丸椅子が十以上も無造作に置いてある。

そのカウンターでは男が二人もくもくと食ってる。

好きな店の条件の一つは空いていて落ち着けること。

だからここは合格。

けっこう歩いておなかが減っていたから、焼肉定職(600円)を注文。

カウンターのなかには80を超えたであろう白髪で腰の曲がったおじいちゃんが一人できりもりしている。

言われたメニューを淡々とつくる。

家庭用の中華鍋で一人ずつ実に手際よくつくる。

出てきた焼肉定食は、いかにもこういうお店らしく豪快なもの。

しかし味が美味しい。

美味いし、懐かしい味がした。

ちょうど自分のおばあちゃん家で食べているかのような、そんな懐かしい美味しさ。

ますますいいお店だ。

ただ愛想がない。

おじいちゃんに話しかけても素っ気ない答えしか返ってこない。でもその愛想のなさは嫌なものではなかった。

そこでしばらくゆっくりして、元気になったからまた歩き出した。

今度は東南寄りにむかう。

そうすれば白金にいけるだろう。




って、こりゃなげーな^^;


ひとまずこの辺で一区切りとしますか。


つづく