

ホールに入るにはまだ早いと思いつつ、正面入口にむかってぶらぶら歩いていると・・・
なんと、小澤征爾さんが斜め横からスタスタと歩いてきた(笑)
いつものラフな格好にサングラス。きっとオーバカナルあたりで奥さんと征良さんとご飯でも食べていたのだろう。
チラシ配りの人が小澤さんにチラシを渡そうとして直前に気づいた。
驚いて隣の配布仲間に「あれ、ホンモノじゃん(笑)」って言っている。
マエストロ、そのまま正面入口からお客さんに紛れてホール内へはいっていった。
小澤さんはいつまでも小澤さんらしく、ほんとうにいいね^^
さて、小澤征爾音楽塾のコンサート。
これは小澤さんが特に力を入れている若手音楽家教育プロジェクトで、いつものように日本と中国の若手によるオーケストラ。
通常はオペラ公演なのだが、2006年のマーラー『復活』以来のオーケストラコンサート。
若い奏者にまじって豊嶋さん、宮本さん、工藤さんのお馴染みのコーチ陣もみえる。
■さて、前半はフランスの作曲家モーリス・ラヴェルの『マ・メール・ロワ』
これは、とっても愛らしくすばらしい演奏だった。
いかにもフランスらしい濃厚なエスプリが随所に出ていて、心から酔いしれてしまった。
愛しむようにたっぷりと歌うところと、軽快なテンポでたのしく歌うところのコントラストが見事。
数年前、同ホールにて水戸室内管弦楽団で聴いたときの“完璧な演奏”よりも内面に重きをおいているし、わかりやすい表現にかんじた。
ラヴェルはむずかしい作品だが、塾生たちはよくぞここまで到達したものだと感心したし、クライマックスでは感動のあまり涙があふれてきた。
なんとあたたかく、輝かしい音楽なのだろう・・・
ラヴェルに対する認識がかわった。
■後半のベートーヴェン交響曲第7番。
おそらく小澤さんは塾生に「一音一音しっかりと弾くこと。けっして慌ててテンポを早めてはならない」と指導しているだろう。
ドキュメンタリー番組でもそう言っているシーンを見たことがあるし、この日もそのように弾いていた。
そのため、たいへん濃厚で男性的で力強いベートーヴェンだ。
これは近年ではたまにしか聴けなくなってきたタイプの演奏。低弦の重厚な響きがしびれる、重心が低く、おもいっきり激しいベートーヴェン。
第二楽章の冒頭。
スコアの指示よりも大きな音量。しかも、悲壮感をものすごく強調していた。
ゆったりと、悲しい表情で暗闇をあるく男の姿をおもいうかべた・・
もしかしたらオレはこの曲をいちばん多く聴いてきたかもしれない。
この日の演奏は、そのどれよりも感情が入っていて人間くさいものだった。
それを比較的淡白な演奏をおこなう小澤さんの指揮で聴くとはおもわなかった。
第二バイオリンが加わってからは音量も下げていった。
わすれられない第二楽章。
終楽章はテンポをあげて、全エネルギーを爆発させる。
彼等は練習でもそうとう高いレヴェルを要求されてそれをこなしてきただろう。
しかし、本番での小澤さんの鬼気迫る指揮は、練習のときよりも更に上の上を引き出させようとしている。
Pブロックで聴いているオレにその気迫が伝わる。
まるで奏者と同じ気持ちになったかのようだ。
小澤さんの想いがダイレクトに伝染した。
真剣で真っ直ぐな力。
真っ直ぐな力は強いものだ。
それと今さらだけど、ベートーヴェンのスコアがすごい。
彼はおなじ旋律を、これでもか!これでもか!というくらい様々な形に展開させて巨大な音楽をつくりあげる。
この“第7”は同じリズムを極限まで展開させる実験的名曲だ。
ベートーヴェンは常に新しい表現方法を追求し続けたパイオニア。
タンタタ、タンタタ、タンタタ、タンタタ・・
素人見解だが、このリズムにいつくかのメロディーを加えているだけであの曲が出来上がっている。
主題(テーマ)は少なく絞った方がいい。
あとはそれをどう展開させていくのか?ここにおもしろみが隠されている。
シナリオを書くんでも、これは重要なことだとおもった。
あまり多様なことを言ってしまっては、見る側にメッセージが伝わりづらい。
1つのテーマをとことんまで追求していくことが、深い部分まで思考が広がっていくし、新しい発見に繋がる。
覚えておこう。
ベートーヴェンは当時としては相当斬新な音楽で、受け入れない聴衆も多かっただろう。
その斬新さ、激しさ、危なっかしさは今でも失われてはいない。
危険な香りがしない演奏は、ベートーヴェンではないのかもしれない・・・
彼等の演奏を聴いていてそうおもった。
■この日は楽屋に寄らずソッコーで帰ろうと一人カラヤン広場を横切る。
コンサートの余韻をおもいっきり引きずりながら、いろいろな想いがアタマんなかを錯綜しながら地下鉄入口へむかう。
歩いている途中、アークヒルズ脇にある桜坂のみごとなライトアップされた桜に目を奪われた。
このまま地下鉄に乗って帰るのがひじょうにもったいなくなり、ちょっと寄り道をした。
例によってセブンでルービー(サッポロ黒500)を買って桜坂にもどる。
散り始めて葉っぱも出てきているが、まだまだ美しい桜並木だった。
ゆっくりと坂道をのぼって今年最後のお花見をたのしんだ。
そしてなぜかショパンの24の前奏曲を口ずさんでいた。
コンサートの余韻だらけだったのだけど、なぜかショパンの暗いメロディーがうかんできた。
それがまたここの桜坂とよくあったのだ。
おもしろいもんだ。
今度こそ帰ろうと駅に向かう途中、今度はポンさん(小澤さんの弟)が目の前を歩いていた。
そして何人かと一緒に夜の街へ消えていった^^
という赤坂の夜でした!