■今日、街中を歩いていて、ふと懐かしい香りをかいだような気がした。

その瞬間、とおい昔の記憶が鮮明に蘇った。

それは、小学校時代に好きだった女の子と近所で遊んでいたころの想い出。

そのときの風景の細かい部分まで映像が引き出されてくるのだ。

普段はまったくそんなことは忘れてしまっているのに、そのときもかいだであろう香りから、思いもよらない記憶がとつぜん目の前に思い出される。

こんなことってみんなはあるのだろうか。

僕はたまにこういう出来事があって、その懐かしさと甘い想い出の切なさがあいまって、立ち止まってしまう。

すっかり忘れていた学生のころの生活を思い出して、とてもいい気分に浸れるのだ。

そのようにして想い出す昔の記憶のほとんどはなぜだが異性に関するものが多い。

頭のなかで本能的な機能が優先されているからだろうか。

いずれにせよ、香りとは記憶を呼び戻す鍵であることは間違いない。

人は、よかった昔の想い出があるから、その先の未来への希望を信じることができるのかもしれない。

想い出は人にとっていちばん大切なものの1つ。

しかし、それは個人のなかにしかなく、いずれ消えるものであろう。

消えていいのだ。

どこにも持っていくことはできないし、保存などはできない。

その、はかなさがいいのだ、と思う。



今、ポリーニのピアノでベートーヴェンの後期ピアノソナタ集を聴いている。