イメージ 1

サイモンとマリス(Simon and Mariss in Tokyo)

「あっ・・、ビ、ビールです。2つね!」サイモンはばつ悪そうにハニカんだ。
「どうもここマンハッタン・ラウンジではルービーが通じないらしいな・・」
「まあ、こういう高級なラウンジでは一般人の事はまでは知らないんだろう。知っててもとぼけるかもしれないしな」マリスがすかさずホローする。
すぐに、ほどよく冷えたグラスビールが来た。
「よし、来たぞ!まずは乾杯だ!今日の成功に!チュース(だっけ?)」
2人ともグラスの半分以上は飲んだ。
そしてニッと笑った。
しかし、マリスの笑顔には少し陰りがある。
「どうだった。今日はイゴール(ストラヴィンスキー)とドミートリー(ショスタコーヴィッチ)をやったんだろう。うまくいったかい?」
「ああ、コンサートは大成功だったよ。バイエルンを指揮してて今日ほどの成功はめったにないくらいだ。俺も我を忘れて熱くなったよ。」
「そうか!そいつは聴きたかったなー。」
「それよかさ、さっき変なことがあったんだ。」マリスはサイモンをじっと見たまま小声で言った。
「・・なんだ?」
「それがさ・・ショスタコーヴィッチの親類らしき男が現れたんだ。サインしていたときにさ・・」
「ん?ドミートリーの親類?この極東で?本当かい!?」
こうは言ったが、サイモンは疑うことなくマリスの瞳のなかを見つめた。
「それが、かなりな高齢なんで、ひょっとするどD.ショスタコーヴィッチ本人じゃないかと思ったんだ。はじめは。話すことも自分の作品のことを言っているようで。でもそんなことって有得ないだろう!?。彼は’75年に亡くなっているんだし、このときのニュースはロシアTVで見てはっきり覚えているから・・。」
「ちょっと待て、ちょっと待てよマリス・・」サイモンは残ったルービーを一気に飲み干した。
「ヘイ!ウェイター!・・もう一杯くれ。いや2杯だ。」
マリスも飲み干したところだった。
「まてまて、ちょっと整理しよう・・。」サイモンは天井にある豪華なシャンデリアを眺めながら言った。
「サイモン、今の話本当だと思うか?俺は幻か幽霊でも見たかと思ったんだが、まわりの人間に訊いたらみんなその老人のことを見ていたんだ。」
「…そのドミートリー老人は何て言ったんだい?」無意識にサイモンは小声になっていた。
「交響曲第5番について、ありがとうって、ムラヴィンスキー以来の最高の演奏だった、と。その言い方があたかも自分の作品について言っているという感じだった。しかも帽子からわずかに見える顔が彼に似ているんだ。」
「…ムラヴィンスキーは世界各国でこの交響曲を取り上げている。ここ日本でもね。ショスタコーヴィッチであるという確証はない。いやその前に彼はもうこの世にはいないんだ!この事実は変わらない。・・それでも、彼かも知れないということなんだよな。」
「本人というか良く似た親戚なんじゃないかと思ってる。」
そうこうしている間にまたしてもルービーが空になった。
「ふー、ちょっと店を変えよう。もうちょっと落ち着いた所を知ってるんだ。」
サイモンは言うとサッ席を立って請求書をもって歩いていった。
「ここはオレが出すぜ。」
マリスは軽くうなずいて笑みをつくった。
2件目は、赤坂の大衆居酒屋「酒豪」だ。
サイモンはC・クライバーと同じく無類の日本酒好きであったので、昔からこのような本格的なニッポンの酒所に躊躇なく通っていた。
サイモンは居酒屋の店長(クマ店長)とはすっかり馴染みで、軽い挨拶のあと、いつもの奥まった座敷に通された。
「この男、いったいどこまで社交的なんだ…」とマリスは驚き、そして呆れた。