泣かないと決めていた② | 誰が名付けたボブ日記

誰が名付けたボブ日記

ボブ日記とは人間の高みに達する為にあえて低俗な事を書いています('ε'*)ボブ自身高貴で可愛いですが、人前でtin×2を晒す覚悟で書いています\(^o^)/



10年ほど前


富田流(とだりゅう)が世間から注目された時期があった


富田勢源(鐘巻自斎、佐々木小次郎の師)の流れの剣術としてではなく武器を持たずに戦う


『古武道』として注目された時期があった


きっかけはオリンピックで金メダルを取った川原拓哉(カワタク)の一言だった


記者「カワタクさんなら''山本陸''に勝てますか?」


【山本陸に勝てますか?】ーーー当時の格闘家に聞く決まり文句だった


裏を返せば誰もが格闘界の頂点にいるのは''山本陸''だと思っていた


カワタク「勝てるわけないじゃん」
「素手で灰色熊を倒すヤツだよ」
「俺じゃ無理だが・・・・」
「勝てる可能性のあるヤツなら知ってる」
「高校の時一度だけそこの息子と柔道してさ」
「高校日本一だったはずの俺が負けたよ」
「富田流の入江ーーーーー」










カワタクの一言でマスコミが集まった


そしてマスコミは決まった質問を父に言った


記者「''山本陸''に勝てますか?」


無一「なんでもありなら勝てます」


ぼかした曖昧な表現ではない『勝てる』という返事を初めて聞いたのだろうと思う


素手で熊を倒す空手王に勝てると父は言った


父は当然、山本陸の強さを知っている


それでも勝てると言い切った


今から考えてると父は自分に言い聞かせていたのかもしれない


人生のすべてを武道に費やしている自分が負けるはずがないと


父のまわりの空気が揺れていた


静かに燃える高温の


青い炎に包まれていた










父は富田流を自分の代で絶やさぬというためだけに毎日鍛錬していた


毎日


トンッ(人型に模した巻き藁を置く)


ゴッゴッ(巻き藁をひたすら突く)


毎日


無一「フーーーーフーーーー」


グググ(片腕一つで全体重を支える逆さ片腕立て伏せをする)


文学「くっ・・・・うっ・・・・」


グググッ(父の横で子供だった文学は普通の片手腕立て伏せをしている)


受け継いだ武器を錆びさせないように


グググッグググッ(ひたすら繰り返す)


磨いた


毎日


ゴッ(大人になりつつある文学も巻き藁を叩く)


ゴッ(入江無一も叩く)


受け継いだ技を忘れぬように


ゴゴゴゴ(更に続ける)


身体に刻み付けた


ゴゴガッガッゴ(勢いを増してく)


歯を食いしばって繰り返した


グググッグググッ(親子同じ調子で逆さ片手腕立て伏せを繰り返す)


毎日繰り返した


ピチャッピチャ(二人の下に汗が溜まっていく)


一生使う事がないかもしれない武器


スゥーーー(組み手を始める二人)


ブンッ(文学の蹴り)


ガッ(足を捕らえる無一)


バシュダンッ(そのままマウントへいき、文学の目の前に指を二本突き立てる前に止める)


毎日


ゴッ


毎日


ゴゴッ


毎日


ゴゴ


毎日


ゴゴガッ


毎日ーーーーー


(巻き藁の喉と心臓と金的のところに穴が空いていた)


その武器を使うときが来た


【空手王・山本陸】を相手に











だが事は父の思いとは逆に順調には進まなかった


スッ(大和TVスポーツ製作局チーフプロデューサー蒼井空男から名刺を渡される無一)


戦う場さえ用意されれば


《最強で最新たれ》と説いてる進道塾の山本陸は誰とでも戦うと思っていた


(TV局で山本陸がインタビューされる)


司会「陸先生は入江無一さんをどう思いますか?」


山本陸「興味ないな」


司会「あっ・・でも進道塾は最強の看板を掲げているわけで」


山本陸「・・・・・・・・・・・・」
「マスコミで俺の事を扱うようになってからさ、俺と喧嘩をしてくれと来るわけよ」
「またあきれる事にそいつら全員が全員口だけってヤツでね」
「俺と勝負して箔をつけたいとか」
「売名ばかりで飽き飽きしてんだよ」


司会「しかし富田流の入江無一さんは金メダリストの川原さんが陸先生と戦えると言った人ですよ?」


トントントン(イラついているのか椅子を指で叩く陸)


山本陸「川原は柔道がうまいんであって喧嘩が強いんじゃねーだろ」
「強いヤツとなら俺はいつでもやる」
「俺が〈認めた〉強いヤツならな」
「つまりその入江と戦う事はねーよ」











トゥルルルルルル、トゥルルルルルル


ガチャ


無一「入江です」


蒼井「大和テレビの蒼井ですけど」
「山本陸のテレビ見てくれてました?」


無一「はい」


蒼井「アレはもう入江さんとやる気ないですね」
「っというより誰とも戦わないみたいですね」
「強いヤツとならやると言ってましたが」
「山本陸が思う〈強いヤツ〉って条件でしょ」
「柔道の金メダリストでさえ弱いと言い切っちゃう人ですからね、それってどんな実績見せてももう戦わないって事じゃないですか」
「まぁ実際空手王を別格!!もう人間じゃ戦う相手がいないから熊と闘ったわけだし」
「素手で熊を殺せるヤツが強いと認める人間なんていねーって話ですよ」
「すみませんがこれで・・・・」


無一「熊を用意できますか?」


蒼井「えっ」


無一「なるべく大きな熊・・・・灰色熊(グリズリー)がいい」
「外国に行っても良いのでテレビ局で用意できますか?」


蒼井「どういう事ですか?」


無一「熊を倒しますよ」
「山本陸と同じように」


蒼井「すぐに灰色熊を用意しろぉおお!!!!!!」


(電話中にも関わらず周りに大声で叫ぶ蒼井)


デスク「な・・なんですか?」


蒼井「富田流の入江・・・・入江無一が」
「す、素手で戦うって」


チン(受話器を置く無一)


無一「山本陸・・・・・・逃さん」