強すぎた者達は戦う相手がいなくなった
クラヴ・マガの使い手は戦う者が見つからず2年間戦いから離れた
シラットの使い手は戦う者が見つからず獣と戦った
強すぎた者達にとって戦う事は麻薬だった
イミ「(円形闘技場の・・・・・・)」
司会「サクライ予想以上にいい!!」
「噛みついて脱出しました!」
イミ「(シラットの・・・・・・)」
「(サクライ・ヒロアキ)」
『来ないのか?』
『来なければこっちからいくぞ』
イミ「(恐れるなーーーー恐怖に負ければ体が動かなくなる)」
「まぁーー聞けよ」
「(動揺するな・・・・・・)」
「俺はお前の過去を知っているぞ」
「(いつもと同じだ・・・・サクライは64番目の相手にすぎない)」
「お前が中東の円形闘技場で何をやっていたか教えてやろうか?」
『いや・・・・いい。聞いてもすぐ忘れちまう』
ガッ(イミが後ろのテレビラックを掴む)
イミ「そうか!!!」
サクライのその筋肉は
飾りではない
過酷な鍛練により作られた
鋼の肉塊
バギッ(サクライに当てたテレビラックが壊れる)
イミ「チッ」
シュッ(手に持ったシャーペンを構える)
パン、ドカッ(シャーペンを受け流し、イミの脇腹に拳打)
イミ「!?」
グイ(イミの体勢を崩すサクライ)
ボゴッ(投げたイミに蹴り)
イミ「がはっ!?」
腎臓蹴りである
ドカッ(倒れるイミ)
イミ「(これがサクライ・ヒロアキの・・・・)」
「(シラット)」
避けると同時に打ち
崩して
投げて
蹴る
すべて一連の動き
イミ「HAHA!!」
司会「イミたまらず逃亡!!!!!」
イミ「(円形闘技場でやったなら勝つ事はできない)」
「(ライオンに勝つ事もできない)」
「(だがクラヴ・マガの本領は円形闘技場で戦ったりライオンと戦う見せ物ではない)」
「実生活で起こりうる状況の中で最高の効率性を発揮する)」
「(それがクラヴ・マガ)」
脅威は思考を停止させ動きを萎縮させる
ガッ(台所の棚をあけるイミ)
だが櫻井裕章の強さはイミの動きを萎縮させる事はできなかった
シュッ(包丁を取り出すイミ)
クラヴ・マガの基本概念には《脅威の排除》がある
脅威を排除しているイミは《冷静に》《すばやく》新たな武器を手に入れた
イミ「ここは円形闘技場ではない」
包丁の先端は丸まっていたーーーー設定は学生
凝った料理などできないーーだだ切れればいいだけの包丁だった
この包丁を武器として使うには致命的な欠点があった・・・・《刺す》事ができないのである
サッ
ーーーーだからイミは包丁を逆手に持った
この方法なら前腕を包丁の背に当て深く押し切る事ができ
致命傷を与えられるから
カチャ(トイレを開けるサクライ)
イミ「!?」
櫻井はヒジを振っての包丁の攻撃を防ぐために
左右の壁の狭いトイレで待つ
武器を持ったイミにはもう焦りはなくなっていた
バタン
イミはトイレのドアを閉めた
『(?!?・・・・俺が開けた瞬間を狙うつもりか?)』
『(俺が開けなかったらどうする?)』
『(開けるまで待つ?・・・・何時間でも何日でも・・・・)』
『(たしかに時間制限はない戦いだが・・・・)』
『(いや・・・・生死を懸けた戦いだ、最良の方法ならどんな事でもするはずだ)』
櫻井は時間をかけて考えてしまった
わずか30秒ほどの時間だがトイレの中なら安全と思い込み、時間をかけて考えてしまった
櫻井は自分のミスに気づきすぐに出ようと思ったがーーーー
やめた
もう遅い
櫻井の考えは当たっていた
すでにイミはーーーー
最強の武器(ハンドガン)を手に入れていた
スゥ(トイレの前で銃を構えるイミ)
イミ「(いつも通りだ・・・・サクライ相手でも俺に焦りはない・・・・落ち着いている)」
「(これからの負けは俺がミスする以外にはない)」
「(有り得るミスは銃を奪われる事か・・・・)」
「(いや・・・・そんなミスを俺がするはずがない・・・・致命傷を与える前に・・・・全弾丸を撃ちつくしてしまう事か・・・・)」
「(注意点は一つだ・・・・確実に当てる)」
「(ドアが開いた瞬間)」
「(いや・・・・)」
「(ノブが動いた瞬間だ・・・・)」
ガチャ、スウゥ
パァンパァン
ドッドッ
パンパンパンパン
ドドドドッ
ガッ、ドカッ(トイレの扉を開くイミ)
素早くドアを開いたイミは内側のノブにかかったパンツに気づかなかった
櫻井はトイレの天井に四肢を踏ん張って体を固定していた
櫻井はノブにパンツをかけ袋を作り
その袋に重りになる洗浄剤を落としてドアノブを動かした
狭いトイレでも天井は扉の最上部よりも高い
ドアノブが動いた時、人のいる範囲は
左右の壁が狭いトイレではドアの後ろしかないとイミは思ってしまった
扉を開いたイミはまだ櫻井が動ける事を想定している
目線は当然ーーーー
正面から
倒れているかもしれない床に動く
時間にすれば1秒もない一瞬
モニターを見ていたハゲが呟く
ハゲ「ちきしょう」
だが一瞬で
ガシッ(上からイミを襲い銃の向きを変える)
イミ「!?」
パァン、パス(イミの脇腹に命中)
充分だった
イミ「ぐああぁがぁ!!」
ドサァ(倒れるイミ)
スチャ、ダン(銃を構えてイミにまたがる)
『終わりだ』
イミ「クッ」
「・・・・来たか・・・・来る事はわかっていたが・・・・・・」
「戦いをやめる事ができなかった」
「サクライ・・・・お前も哀しいな・・・・」
「お前は俺だ!!」
「いつか負ける事がわかっていながらも戦う事をやめられない!!哀しいヤツだ!!」
「お前は命懸けの戦いを10年以上も続けている!!」
「今の俺のこの姿がお前の戦いの終わる姿だ!!」
「俺を殺してこれで最後にしろ!!」
「お前ならやめられる!!
『・・・・・・わかった』
イミ「たくさん・・・・殺しちまった」
「最後に・・・・人生の最後に・・・・・・」
「一人くらい・・・・・・」
「・・・・・・救いたかったんだ・・・・」
スゥ(目を閉じるイミ)
『俺はお前に救われた』
『ありがとうな・・・・』
イミ「よかった・・・・・・」
パァン・・・
司会「・・・・大穴です・・・・」
「大穴が・・・・出ました・・・・・・」
「櫻井裕章の勝利です・・・・」
「櫻井裕章の勝利です!!!」
後味が悪かった・・・・
イミの血が温かかった・・・・
涙は出なかったがとても哀しい気分になった
イミの言う通りイミは俺だ
戦い続ければいづれイミのあの最後と同じ最後を俺は迎える
終わりだ
俺の戦いはーー
バタン(出口から出る)
これで最後だ
ハゲ「ユウショウ・・・・・・」
「俺の事を覚えているか?」
『ああ・・・・』
パラッ
【俺の記憶は72時間しかもたない】
ハゲ「今からお前がする事も覚えているか?
『・・・・・・・・・・・・・』
【俺の名は櫻井裕章】
ハゲ「・・・・そうかまた忘れちまったのか・・・・」
【日本人】
ハゲ「今からお前は戦う」
「ユウショウ・・・・ここに来てからお前はそうやって生きてきたんだぞ」
『ちょっと待て』
【俺は強い】
『まだ記憶の確認が終わっていない』
パラッ
【そして俺が使う格闘技はーーーー】
【シラット】
うっすらと微笑む櫻井ーーーーー