男の名は江藤明27歳。ある暴力団の下部構成員・・・いわゆる下っ端だ
とあるマンションにて男を待つ
『やってやる・・・やってやるぞ!!』
ジャキン(拳銃を撃てるようにする)
小物の江藤も今夜は大きな仕事をしようとしていた
チンッガァァ(エレベーターが開く)
『あああぁぁぁぁ』
ドン(男を撃つ)
側近の男「このガキィ!!」
パン(江藤の脇腹を撃つ)
『うあ!!』
『オオオオオオオオオオ』
ガゥンガゥンガゥン(残りの弾を撃ち尽くす江藤)
ドサッ(側近が倒れる)
『はあはあはあはあ』
『へ・・・へへちょろいもんさこんな仕事・・・』
二人の死体を見て気分を悪くする江藤
『う・・・』
『ウエェ、ゲェーーー』
マンションの外に出た江藤
『はあはあ』
『(ちくしょお撃たれた腹がイテぇ・・・)』
『(死んじまいそうだ・・・)』
『(ん?タクシーか・・・ちょうどよかった!)』
『おい乗せろ』
ガチャ
ボブ「どうかしましたかお客さん?顔色が悪いですよ」
『お・・・お前に関係ねぇだろ!病院まで行ってくれ・・・!』
ブオオォォォ
『くそ・・・このまま死んじまうのか・・・』
『こんな、こんな一生なんて俺はイヤだ・・・』
【イヤだ!!】
ボブ「・・・・・・・・・・・・」
「お・・・・ん」
「お客さん!!」
『ハッ』
ボブ「着きましたよ」
ガチャ
『う・・・・・・』
『ここは・・・』
『ここはどこだ!?病院なんか・・・』
ズキン
『いて!!』
『なんだか・・・なんだか見た事があるような・・・』
『間違いない・・・ここは俺が小学生の頃に過ごした町だ・・・』
『・・・だがどこか変だぞ?』
『あの映画館は中学に上がる前につぶれたはずなのに・・・』
『あの店もとっくに・・・』
『なんだあいつらのあのカッコは・・・』
『!』
本屋の雑誌を手に取る
『こ・・・これは・・・』
『(16年前の日付・・・どういうことだ!?)』
『(こいつはきっと幻だ!俺はどこかで倒れてて・・・死ぬ間際に夢を見てるんだ!!)』
ズキッズキッ
『しかし夢にしちゃ傷が痛むな・・・どこかで休まないと・・・』
市立第三小学校
グラウンドのベンチに腰を降ろした江藤
たくさんの子供達が遊んでいる
『(今日が日曜で助かった・・・)』
『(うちの小学校は休みの日は誰でもグラウンドに入れたからな・・・)』
『(懐かしいな・・・ガキの頃はよく・・・)』
カタカタカタ、コトン
飛んできたオモチャの飛行機が江藤のベンチに落ちてきた
子供「ご・・・ごめんなさいおじさんその飛行機・・・」
『!!』
子供「ど・・・どうしたのおじさん顔色がすごく悪いよ!!」
「お・・・大人の人を呼んで来ようか?」
『ま・・・待て!!いいんだ・・・』
『そ・・・それよりお前はなんて言うんだ?』
子供「え?」
「江藤明だけど・・・」
『(こんな・・・こんなバカな事ってあるか!!目の前に自分自身がいるなんて・・・)』
『(しかもこんなチビだ!)』
飛行機を明に渡す
『ほらお前のだ返すぜ・・・』
『飛行機が好きなんだな、将来はパイロットになりたいんだろ?』
明「う・・・うん」
『好きな飛行機はジャンボジェットとメッサーシュミットだったっけ・・・』
明「えーっ?なんでわかるんだい?」
『そりゃわかるさ、自分の事なんだから・・・』
明「え?」
『い、いや俺はお前に似てるって事さ。ほらホクロも同じ場所に』
明「ははホントだけどおじさんも飛行機が好きなんだね」
「父さんや母さんもおじさんみたいにものわかりがいいとよかったのに」
『親父とおふくろがどうかしたのか?』
明「オレ・・・先週こっちへ引っ越して来たんだけど・・・飛行機のプラモやほかのオモチャほとんど捨てられたんだ!」
「その事で大ゲンカして家を飛び出して来たんだよ」
「オレもう家には絶対帰ってやらないんだ!!」
『(そうか・・・俺は今『あの日』にいるんだな・・・あの日の事はよく覚えてる・・・)』
『(お前はそんな事言ってても夕方には家に帰るんだ・・・)』
明「でもオレ、パイロットのほかにも夢はいっぱいあるんだ!」
「アポロの宇宙飛行士だろ、円谷プロに入って怪獣を作りたいし・・・それにスパイになって敵をやっつけるのもいいな!」
『あ・・・』
明「オレ・・・」
「早くおとなになりたいな・・・」
『(ちくしょお!俺にもこんな時期があったんだ・・・)』
『(いったいいつから俺の心はひねくれちまったんだろう・・・)』
ガッ(明を腕で抱き寄せる)
『いいか!これから先、お前から夢や希望を奪おうとする事がたくさんある!両親がお前の大事な物を捨てたように!』
『でも負けるんじゃないぞ!!』
『夢や希望ってやつは捨てるのは簡単だが取り戻すのはすごく難しいんだ!!』
考え込む江藤
『(そうだ・・・よく考えたらこの学校に転校してから何故か俺には友達が全然できなかった)』
『(それで6年の時に悪い連中と知り合って、それから先はもう後戻りできなかったんだ)』
『(でも何故だろう?孤立するには何かきっかけがあったはずだ何か・・・)』
ボンッ(二人のベンチにボールが飛んできた)
子供A「すいませーんボールとってくださーい」
子供B「おいあれ転校生の江藤じゃないか?」
子供C「ホントだ!おーいお前も仲間に入れよ」
子供D「一緒にドッジボールやらないか?」
明「・・・・・・・・・」
『(ハッ)』
『(そうだ!!俺はあの時機嫌が悪かったから・・・ボールを放り投げてどこかへ行っちまったんだ)』
『(それ以来だ、クラスで孤立するようになったのは・・・!!)』
『(もしあの時仲間に入ってたら・・・!!)』
『いいか!仲間に入れ!!!』
明「え?」
「でもオレ今そんな気分じゃ・・・・」
『今は・・・きっと人生の分岐点だ!!正しい道を選ばないと後悔するぞ!!』
『ほらみんな待ってる・・・』
『思いっきり遊べばイヤな事も忘れるさ・・・』
子供E「来いよ」
子供F「来いよ」
子供G「来いよ」
子供達「さあ・・・」
(皆の手がこちらを招く)
明「・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「よーし・・・」
「いっくぞーーー!!」
ボールを投げ返して仲間に加わる明
『そうだ・・・それでいい・・・』
『もう・・・・・・眠たくなってきたや』
皆と遊ぶ様子を眺める江藤
『今思ってる事を忘れるんじゃないぞ・・・』
【忘れるんじゃないぞ!!!!】
ボブ「お客さん・・・」
「お客さん!!」
『ハッ』
ボブ「着きましたよ」
『あ・・・・・・』
ボブ「だいぶうなされてましたよ」
「何か悪い夢でも?」
『あ・・・ああ、どうやらそうらしい・・・』
『どうも』
ブオオォォォ
一軒家に入る江藤
『ただいま』
娘「パパおかえり」
妻「おかえりなさいあなた」
『いつも留守がちで悪いな』
妻「仕方ないじゃないの、あなたは国際線のパイロットなんだから」
「ねえちょっと顔色が悪いんじゃない?」
『タクシーの中で何か悪い夢を見たんだ、でもおかけで子供の頃会った人を思い出したよ』
『その人は俺と同じ場所にホクロがあって・・・なんだか他人とは思えなかったな・・・』
ボブ「彼は過去を変えたのでしょうか?それともただ夢を見ていただけなのか・・・」
「あるいはこの結末自体、ヤクザの彼が死ぬ間際に見た幻影なのか・・・」
「答えを知りたい方はボブのタクシーにおのりください」
「もちろん乗車拒否はしませんよ」
完