枯葉とシガー | 村杉Akiraの文学コラム

村杉Akiraの文学コラム

新しい時代感覚で、人間..花や葉そして海や空や街を、淡い色、鮮やかな色で描写。心の色も..。
色調は..絵の具箱より描写...。女性や恋愛を綺麗に描いた...新ロマン派の小説やエッセイと言う絵巻物。村杉Akiraの世界にようこそ...京都、湘南、横浜、東京、博多等が舞台登場。

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  5年くらい前の話でしょうか。今くらいの師走の時期は、銀杏の錆びれた黄色の葉が風に落ちて舞ってました。枯葉です。今の時期もそうですが、街はクリスマスのイルミネーションの装飾が出来上がり、パープルブルーの光が町を明るく照らしています。
 
  銀杏の葉は、散っていて木枯らしの中では集団となりくるくる地面を回っていました。晩秋の寒さと肌への風の冷たさを感じるのは、こういう時です。今年は今の処は
暖冬の模様で、12月の中旬の今も暖かい日々が続いてます。
 晩秋の枯葉とクリスマスのイルミネーションは、なんとなくメランコリーな気持ちから、ワクワクした気持ちへ移り変わっているようです。
 
  秋はじっくりと心を見つめる季節かもしれません。師走になりクリスマスや年末年始になると心が浮き足立ちます。そして元日から正月の間には、一年の計を立てたりして心がしまってくるのでしょうか。1月は行く。2月は逃げる。3月は去ると言いますが、初春は時間の経つのが早いですね。
 
  5年前の晩秋、午後の時間にある女性と銀行の前ですれ違いました。彼女は遅いお昼ご飯を食べに行っていたようです。銀行の黒い制服を着てました。僕に直ぐ気がついたようですが、携帯を見て気がつかないようなふりをしていたようです。お互いに知らない中ではないので、僕から「こんにちは」というと彼女も明るく挨拶をしました。
  日程未定ですが二人でいつかご飯を食べに行く約束をしていたので「ごめん。今日は忙しい」と瞬間的に心にもないことを僕は言いました。「わかりました」と彼女は去って行きます。
 その女性は、銀行員 麻衣でした。麻衣とはその後、早朝のカフェで会うだけで結局一緒にご飯を食べに行くことはありませんでした。
 
  麻衣がその場を立ち去ろうとした瞬間に、銀杏の葉がひらひらと舞い落ちて来ました。僕は、その枯葉を拾って持っていたリトルシガーのケースの中に、シガーと一緒に入れました。なぜ、そういう行動をしたかというと、麻衣と彼女の勤めている銀行前での偶然を記念に取っていたいということではなく、多分その瞬間の時間をリトルシガーのケースに封印したんだと思います。
 
  麻衣とは毎朝カフェで会ってましたがデートするタイミングがなかなか掴めませんでした。それは麻衣の周りに同じ銀行の行員たちがたくさん居たからです。声を掛けるタイミングをいつも逃していました。
 
 その頃の麻衣は通勤の時は、真っ赤なグースのコートを来てたのでよく目立ってました。12月のイブイブの夜でした。最寄駅の2階に行くと真っ赤なグースのコートが本屋から出てきました。麻衣です。彼女は僕に気づき本屋の正面の百均に入りました。
 本屋から真っ直ぐに歩くと駅の改札になります。なぜ、百均に入ったかは想像できますが、僕は僕で用もない本屋に入ったわけですから、お互いに素直ではありませんね。
 麻衣はイブイブもイブも特に予定が無かったことは、後日に同じ銀行の支店の副支店長の女性から聞きました。
 
  銀行の御用納めの年末に僕は「貴女は白梅です」と手紙を渡し、年末の挨拶をして、お互いに機嫌よく行く年を笑顔の交換をしました。
 年明けに僕はなんとなく手紙のことが恥ずかしくなり、早朝会うカフェには二週間くらい行きませんでした。でも駅で麻衣の姿を見たことは何度かありました。
  昨年までの真っ赤なグースから真白のカシミアのコートに変えてました。
  暫くしてカフェに行きデートの日程聞くと、麻衣は日経新聞から目を離さず「そういうのはちょっと。仕事もあるし忙しいので」と期間が経ちすぎて冷静になったような表情を一瞬しました。
  そして、二月になり銀行の支店移動があり僕の前から麻衣は姿を消しました。異動の前日にカフェで僕の顔をしみじみと見つめていたことは思い出します。
 
 さて、冒頭の麻衣と銀行の前で会った時に、舞い落ちた枯葉はまだ僕のリトルシガーのケースの中にあります。そしてリトルシガーの香りが移ってます。
  この枯葉は時間なんです。といっても麻衣という女性が居たという過去の懐古ではないのです。人は出会って別れていく。その中で、短い時間であっても色彩や香りのある四季を共にできれば、男も女も人生の幸せではないでしょうか。
 麻衣は小説になってます。麻衣 大人の女性ですね。そして京都で舞という若い女性と会いました。今回の短編集には舞 色彩と四季という作品を短編小説として完成させてます。その作品の中で、舞から「どんな小説を描くんですか」と聞かれ「男と女の恋愛小説を描く」と僕は言ってます。
  小説に登場した女性たちとは、小説の中の時間を改めて共有することはないでしょう。シガレットケースの枯葉に麻衣との日々の時間が封印されているのです。でもそのケースを開けることはないでしょう。
 
 本当に愛する女性は小説ではありません。愛する女性は日々であり四季です。四季の色彩は、朝焼けであり、花の色であり、海の蒼さであり、果物の柑橘の色であり、ケーキやスイーツの色であり、数え切れないほどの色彩を二人に見せてくれるでしょう。そして楽しいことも苦しいこともあるかもしれません。そこで笑い合って行ければ最高の人生であり、for  ever な愛ではないでしょうか。そういう女性が現れたとすると、彼女の色彩はピュアホワイトではなく明るい暖色系だと思います。
 
 シガーケースに入った枯葉は永遠に封印されその香りを嗅ぐことはないでしょう。