今日は私にとっては忘れてはならない日です。ちょうど3年前と1年前に起こったことなのですが、一つはイラク戦争が起こった日で、もう一つは福岡西方沖地震です。
大江健三郎先生が一昨日の講演で、「記憶すること」で壊れるのを防ぐことが出来るとお話になったことをお伝えしましたが、これらの出来事の記憶を失ってはならないと思いますので、再度書き込みます。
1)イラク戦争
私の手記や書き込みで、お分かりのように私は湾岸危機のおりに、「人間の盾」としてイラクに3ヶ月半、拉致されていました。不法なクウェート侵攻から数えると4ヶ月以上の間、自由を奪われ死の恐怖に晒されました。北朝鮮の拉致については、最近頻繁に取り上げられますが、15年前の出来事はマスメディアからも完全に忘れ去られています。141人の男性の人質が運良く無事解放されたことが大きな理由でしょうが、当時の政府の失態によって私達が拉致されたことも触れたくない理由の一つと考えられます。
イラクのサダム政権に精神的、経済的、時間的苦痛を蒙った私ですが、イラク戦争開始の前には、「戦争反対」を国連の安全保障理事会のメンバーに対して強く訴えましたし、全国紙・地方紙やテレビにも頻繁に出て、反対の意思表示をしました。もちろん、その理由はイラクの罪のない市民(特に婦女子)が甚大な被害を受けることが分かっていたからです。国連安全保障理事会では、イラク攻撃の決議は採択されませんでしたが、米英が攻撃を始め、日本はいの一番に全面的な支持を表明しました。そして、その後は自衛隊を派遣し、治安の悪化を理由に撤退を先延ばしにしています。
戦争開始時に説明された「戦争の大義」(私はこの地球のいかなる戦争にも大義はないと考えています)が根拠のないもの(大量破壊兵器の存在)であったことやイラク戦争によるイラク市民の民主的で平和あな生活の構築やテロの防止が幻影であったことが明らかになった今も、英米軍や自衛隊を含めた殆どの有志連合国の軍隊はイラクに居座り続け、彼らの平和な生活を破壊しています。(私はテロが終わらないのは強引な戦争と占領による市民の被害が、テロリストを支援するイラク市民を数多く生んでいるからだと考えています。つまり、プロのテロリストが孤立せず、一般市民の中に潜んでテロ活動を続け、肉親や恋人や大切な友人を失ったイラク市民がテロリストと化したケースも多いと危惧します。もちろん、テロが悪いことに全く異論はありません。どう言う理由をつけようと許されることではありません。しかし、「国家テロによる戦争被害がイラク国内のテロを助長している」ことも明白な事実なのです。)
イラクが殆ど内戦状態になっている今、非戦闘地域でしか活動を許されていない自衛隊は速やか撤退すべきですし、米英豪など有志連合軍も要らぬおせっかいは止めて、イラクの平和や独立をイラクの人々の手に委ねるべきだと考えます。これが、大江先生の言われる「注意深く見守る」と言うことだと考えます。
今の混乱を起こした米英軍が責任を取らず放り出すことに異論を唱える方々も多いかも知れません。しかし未だに、戦争開始を正当化している米英日豪政府が責任を取るは不可能であり、有志連合軍の駐留は、イラクの人々とって要らぬおせっかいでしかありません。
もちろん、今のイラクの混乱を作ったのは有志連合国であり、それを許した各国の国民(もちろん、私も含めた)であることを忘れないで、イラクの国民に任せて、私達は注意深く見守るしかないのです。手を差し伸べるのはそれからで良いと考えます。
一方で、私には、「3年経ってイラク戦争のことがトップニュースとして議論されないこと」は、「この世の中が壊れつつあること」を象徴しているようにも思えます。
2)福岡西方沖地震
これは、多くの修羅場を潜ってきた私とっても、最も恐ろしい出来事でした。警固断層の地震の被害の予想に関する記事が今日の新聞に掲載されおり、防衛策として建物の補強を勧めていましたが、部屋のレイアウトとか家具の選定とかもう少し金のかからない地道な対策についても、工夫・啓蒙されて良いのではないかと考えます。地震の問題は、殆ど日本全国共通の問題なのですから。
もう一つ付け加えると危機管理に最も大切なことはコミュニティの結束と正確な情報の伝達です。特に地震に就いては、その予測は難しいし、発生を防ぐことは不可能です。ですから、発生後の近隣住民の助け合いと正確な情報(被害状況や二次被害の可能性、避難場所等)の伝達が不可欠です。季節や地域にもよりますが、地震による被災者の救助は最初の72時間が勝負だと言われます。そして、近隣の人々が助け合い、正確な情報を交換するためには、日頃からのコミュニティーの意志の疎通が必須です。従って、公民館や自治会、地域の学校等の地域の小さなコミュニティーが平常時から、しっかりと組織されていなければなりません。その意味では、地域(特に過疎地域)の情報伝達の媒体である郵便局員の存在も軽視することは出来ません。
ニューオリンズのハリケーン被害の時の犠牲者の数が著しく増減したことは私達の記憶に新しいですが、日本では少なくとも今までそんなことは有り得ないことでした。しかし、コミュニティーの結束が弱くなり、意志の疎通を欠けば、被災時に何が起こるか分かりません。各々方、努々ご油断めさるな!
山口実
2003年3月20日毎日新聞に掲載された私の訴えの記事
この他、朝日新聞、西日本新聞、中国新聞などに記事が掲載されましたが、毎日新聞の記事が一番良く書けていました。記事掲載の前に、大騒ぎがありそのお蔭で、私の主張が正確に反映されました。(笑)