『お稲荷様の謎解き帖』
朝水想(あさみ そう) 作
双葉社 出版


今回紹介するのはこちら。

朝水想さん作
双葉社 出版

『お稲荷さまの謎解き帖』です。

この作品は、東京のどこかにある稲荷神社を舞台に、ちょっと頼りない少年の姿をした稲荷神が、人間たちの「願い」に隠された謎を解いていく連作ミステリーです。

主人公の「俺」は、稲荷神になって三百年。

神様なので、人間にはできないことができます。参拝客の心の声を聞くこともできます。

ところが、そんな神様なのに、人間の気持ちを理解するのは苦手。

しかも、三百年かけて願いを叶えた「誉人」は、たったの五人。

神様としては、かなりの落ちこぼれです。

そんな彼のもとに現れるのが、普通では考えられない願いを持った人たちです。

特に印象に残ったのが、第一話の「神様、どうか私が殺されますように」。

参拝に来た百瀬サヨコは、余命わずかな病を抱えているにもかかわらず、「殺されたい」と願います。

普通なら、「病気が治りますように」とか、「長生きできますように」と願いそうなところです。

だからこそ、主人公は「なぜそんな願いをするのか?」と疑問を抱きます。

そして、その願いをただ神様の力で叶えるのではなく、サヨコのそばに入り込み、彼女が何を考えているのかを知ろうとします。

ここが、この作品の面白いところだと思いました。

神様なのに、人間の心が分からない。

だからこそ主人公は、人間と関わり、相手の行動を観察し、言葉の裏側にある本当の気持ちを少しずつ理解していきます。

第二話では「神様、どうか幽霊に会えますように」。

第三話では「神様、どうかあの子が選ばれませんように」。

そして第四話では「神様、どうかあの人を騙せますように」。

どの願いも、一見すると意味が分からなかったり、少し物騒だったりします。

でも、主人公がその願いを叶えようと動いていくと、そこには本人にしか分からない事情や、大切な人への思いが隠されている。

つまり、この作品で描かれている「謎」は、犯人が誰なのかという謎だけではありません。

「なぜ、この人はこんな願いをするのか?」

という、人間そのものの謎なんです。

最初は人間の気持ちがよく分からなかった主人公が、人々の願いに向き合ううちに、少しずつ人間の心を知っていく。

その姿も、この作品の大きな魅力だと思いました。

そして、個人的に好きなのは、事件を解決して終わりではなく、その後に残る人間の感情まで丁寧に描かれているところです。

ミステリーとして謎解きを楽しみながら、読み終わったときには「人間って、案外いいものかもしれない」と思わせてくれる。

怖さや刺激の強いミステリーというより、人間の願いの裏側を覗きながら、最後には心を温めてくれる作品です。

神様なのに人間の心が分からない主人公と、人間なのに自分の本当の願いをうまく言葉にできない登場人物たち。

その組み合わせが、とても面白かったです。

「人の願いには、必ず理由がある」。

そんなことを改めて感じさせてくれる一冊でした。

人情ミステリーや、神様が登場する少し不思議な物語が好きな方には、ぜひおすすめしたい作品です。