ペアリングじゃない
ベアリング。
私の左手薬指に初めてはめられたものは
エンゲージリングでもペアリングでもなんでもなく
ベアリングと呼ばれる
エンジン内部のパーツだった。
事件が起きたのは専門学校1年生の秋。
彼のことをいつのまにか目で追い初めて
あぁ、私は彼のことをどうしようもなく好きなんだと気づいていた。
そんな彼と実習の班が一緒だった。
隣に彼がいる
どうしようもなくドキドキがとまらなくて
だけど、席と席の間が狭すぎて
方が触れそうなほど近くて
彼の広い肩幅としっかりとした頼もしい腕が、私のか細い肩にいまにも触れそうな距離だった
何度もこの心音が聞こえてしまっているのではないかと怖くなった。
そんなことを悟られたくなくて
隠すのに必死だった
そんな時に出てきたベアリング。
彼が手にするベアリングを見て
それ、指輪みたい
って私が言ったのがきっかけだった。
そのベアリングは
男の人がつけそうな太めの指輪みたいな形をしていた。
彼は何も言わずに私の左手をとり
何も言わずに、迷いもせずに
薬指にベアリングをはめた
ピッタリ
彼が無邪気な笑顔で言った
私は彼が手に触れてくれたこと
そして、間近で見た彼の輝く笑顔に釘付けで
思考停止していた
その私の脳内の幸せモードから、いっきに現実に呼び戻されたのは
クラスメイトの一声だった
ねぇさん、そこ結婚指輪はめるとこじゃん。
結婚にも恋愛にもまるで無関心だった私に
左手薬指にそんな深い意味がたったなんて
すっかり記憶から消えていた。
ちょ、ホントだ!
まだ誰からも指輪はめられたことなかったのに!
責任取りなさいよ!!!
と、私は本気で彼にくってかかった
冗談のように見せかけて言ったけれど
その言葉は紛れもない本心だった。
それからというもの
クラスでは、私と彼の夫婦漫才はいつものお決まりのパターンとなった。