彼と出会ったのは2年半前。
高校を卒業して、ダラダラと地元でバイト暮しをしていた私。
夢はあるけどお金がなかった。
そんな、もどかしい私の人生に大きな転機が訪れたのが今から三年前。
母が再婚した。
相手は東京の人だった。
高校卒業して2年越しの進学という夢が現実になった。
生活の心配はしなくていい。
後は学費を奨学金で賄うだけですんだ。
2年越しに叶う夢へ続く道。
私は地元に何もかもおいて
上京した
その時の恋人すら捨て置いて。
その頃までのは私は
恋人を絶やした事すらなかったものの
イマイチ恋愛というものには興味がなく
その先の事などまったく無関心だった。
今思い返すと誰かを愛したことなどなかった。
2年越しの思いで進学した学校は
定時制高校卒業の私からすると
三つも年下の子ばかりだった。
壮大な夢だけを思い描いて
これから始まる夢への大きな希望に目をキラキラさせていた。
そんな他人に無関心でどこか上の空だった私の耳に突然飛び込んできた言葉は
「卒業したから実家の寺を継ぎます。」
という奇想天外な自己紹介だった。
なにげなく聞き流していたクラスメイトの自己紹介の中で、私の関心をひいた唯一の声だった。
その言葉を聞いた瞬間に
私の記憶の奥底に眠っていた
もう忘れてしまっていた
祖母の言葉が、まるでフラッシュバックのように響いた。
「お嫁に行くならお寺さんにしなさい」
物心つくかつかない頃の幼い頃に
よく祖母に言われていた言葉。
これまでの私の人生にお寺さんも、ましてやお坊様なんてまるで関わりがなかったがために、記憶の奥底に眠っていた…だけど確かに深く心に刻みつけられていた言葉だった。
私はその奇想天外な自己紹介をする少年に釘付けになった。
そして更に驚いた。
見たこともないほど綺麗な顔立ち。やさしい瞳と無邪気な笑顔。そして低くて落ち着いた声。
私は思わず息を飲んだ。
こんなに完璧な人が存在するなんて…。
外見は思い描いていた理想像を遥かに超え、好きな芸能人の好きな部分を全てたしたような容姿だった。
そして、決定打となった
「実家の寺を継ぎます。」の一言。
そして、それを予言していたかのように、記憶の奥底に刷り込まれた
「嫁に行くならお寺さんにしなさい」
という祖母の言葉。
祖母がそんな事を言っていなければ
母が父と再婚していなければ
上京が1年ずれていれば
私がその学校も選んでいなければ
そして、彼が趣味で進学していなければ
もしも彼が別の学校を選んでいたら…選んだクラスが違ったら
私はこの運命としか思えない出会いをする事はできなかった。