僕は3番ホーム
フェンスに寄りかかりながら強く風に逆らいながら思い切り吸い込んだ煙を吐き出す
そしてだらりとぶら下がった腕を意識的にもう一度引き上げ
若干の光を拾った蓄光が僕に時間を教えてくれる
積算計と秒針の円と円の間
ちょうどクロノグラフで15秒と30秒の間が12時間積算計と重なってる位置だ
まだ終電には30分近くある
ZENITHの「N」、そう星が短針と長針に隠れてしまう時間まで
まだ時間がある
焦って吸わなくたっていいよ
胸の奥まで吸えなかった分、ゆっくり味わうべきだと思う
僕は煙草を口にくわえたまま、自販機まで行き、5時間前と中身の変わらないエッティンガーの財布から
小銭を出しコーヒーを買った
右手に缶コーヒー
左手にピース
これは僕が一番好きな状態だ
会社の経費で酒を飲むというのは僕にとってはとても新鮮な事だった
新鮮というよりか何処か馴染みのない変わった事
もっと言ってしまえば間違った事のように思えた
以前の僕等は限界まで飲み、歌い狂い、そしててっぺんを超えた後は勿論、タクシーで帰った
会社の飲食費なんて飛び道具は当たり前になかった
その代わり割に合わない出張旅費という手当を駆使して
僕等はある意味、健全に僕等の稼いだお金で楽しく飲んでいた
後輩に出させたことなんてなかった
奢るのがナチュラルだった
古臭いよそんなのって言うかもしれないけど、それ以外の選択肢なんて到底思い付かなかっただけなんだよ
自分の対価で飲むという事は全てを吹っ飛ばして向こう側、明後日の方向にやるぐらいのインパクトで楽しかった
だけど今僕が身を置くこの組織はそうじゃない
僕のお札は一枚も外に出てない
綺麗にその中に鎮座していた
ラウンドファスナーに守られていたとかそういう訳じゃない
硬貨だって動いて無い
ジャラジャラいってる
不思議な感覚だ
昨日の夜も0時の向こうまで、一度隠れた星が再度顔を出し、それから先は分からないまでジントニックを飲んでいた
JRは死に帰える手段を失っても、僕の右手はマル協チケットを握り締めていた
タクシーチケットなんてクライアントと私的に飲みに行った時にしか貰った事がないぐらいなのに
これが普通なのだろうか
僕は少しばかりのカルチャーショックを感じている
そして嫌らしい笑いと無感情の作り笑顔のあの時間の気持ち悪さを思い出している
また一息吐き出して
こう思う
馴染めない
とても丁寧にオブラートに包んで吐露される5文字がこれだ
言葉を選ばなければ辛辣さの極みみたいな言葉がどしどし出てくると思う
拒否反応が出てた
一瞬誰にも見えないところで僕は小さな舌打ちをしたような気がする
周りは金曜日の飲み屋らしい独特な賑やかさや罵声や笑い声が入り混じる中
僕は僕の悪い癖である舌打ちを無意識に繰り出していた
その瞬間、刹那だったけど僕は我に返り、さっと血の気が引のが分かった
前髪の生え際と首筋にじっとりとした汗が滲んでいるのを感じることが出来た
場は現在進行中で会話がクラスター爆弾のように炸裂していた
誰も僕の舌打ちには気付いてなかった
久しぶりにあまりに退屈で息苦しい飲み席を経験したよ
以前の僕等の飲みというものが本当に楽し過ぎていただけなんだ
僕が間違っているんだよ
ビジネスだと思えばイージーだったのにねまったくさ
こんな夜はさっさと家に帰るべきなんだ
そして麻美が寝ているベットに潜り込んで寝るべきだ
そうすると今宵より確実に素敵なウィークエンドがきているハズ
こびり付いたシミ汚れの様なみっともないこの感情を綺麗にして、またフラットな気持ちにならなければならない
始めよう
休息は1週間もいらなかったか
薄々気づいちゃっていたけどもうとっくに答えが出ていたよ
自分自身を見失ってはいけない
少しばかり
サボり過ぎたな