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EL PRIMEROのブログ

20代後半で人生に絶望気味の僕が、自分の為に自分だけに綴るブログ

何のアポイントメントがない金曜日は少しばかりの寂しさを覚える

会社の同僚は新聞社との食事会に行くと言っていた

多分それを世間では合コンと呼ぶんだと思う

昼、楽しそうに僕がタバコをくゆらしてる横で話していた

彼はプロパーで年は僕よりも3つ年下だけど、社歴からすると上なので「さん」付けで呼んでいる

彼は来月一日付けの辞令で横浜に転勤する

「それなのに地元の新聞社と合コンとはタイミングが悪いね」

僕はそう言って笑った

帰りにロッカーで彼の曲がった黄金色に白のドットのネクタイを直してあげた

「よし。キマってるよ。頑張ってね」

お世辞にも洗練されているとは言い難かったけど僕等の業界っぽくていいんじゃないかな

まるで入学式に行く大学生を送り出すような光景だったけどね

ロッカーから僕がジャケットを着て戻った時にサンタが話しかけてきた

「今日はみんなで飲みなんですか?」

サンタと僕との間には鼻から上だけ見えるぐらいの〝ついたて〟があって、ついたて越しにパソコンを向かい合わせて座ってる

サンタはコーヒーマグを両手に持ってコーヒーを啜っていた

「いや、僕は行かないよ」

「そうなんですね。何かあるから残ってるのかと思いましたよ」

「特に面白いことは今夜はないよ」

僕は小さく笑って返した

ふーん、とコーヒーマグの中で言って彼女はまたパソコンに向かった

確かに周りを見渡せば、僕等のフロアには合コンに彼が旅立ってから、僕とサンタとあと一人取っ付きにくい女性の先輩しかいなかった

ここの人達はどう思っているのかは知らないが、この会社はあまり残業をしない

前の会社に比べると恐ろしく帰るのが早い

身体が順応しないのも無理はない

僕はアベレージ22時過ぎまで働いていたのに、ここにきてアベレージ18時半がいいとこだ

金曜日は飲みに行く人達、単身赴任者は首都圏に帰省する事もあってみんな早い

「来週は忙しいですね。それではまた。お先に失礼します」

はーい、とサンタはパソコンに言った

そう

僕の仕事は月の半ばが忙しい

僕が何故、彼女を〝サンタ〟と呼ぶのかを書いておく

入社した日

自分のデスクに案内された時

向かいのデスクがやたら賑やかである事に気付いた

黒いパソコン本体の上にフチ子さんが複数体鎮座し、シマウマ、ゾウのフィギュアでプチ動物園を醸し出し、ナノブロックで創った姫路城と東京スカイツリーの伝統と革新の融合、そして得体の知れないマトリョーシカもどき…

もう

カオスそのものだった

そしてあの〝ついたて〟の上に居たのが2頭身のサンタの格好をした何かのキャラクターだと思われる美少女のフィギュアだった

そのついたての上のサンタは初日、彼女の方を向いていた

彼女と僕との境界線の上に居たのはこのフィギュアだけだった

勿論、僕は触れなかった

疑問点と聞きたいことは山程あったけど、僕は個人の趣味を尊重したいと思った

たとえ僕と彼女とを隔てるある意味どちらの領土でもないこの線上に居たとしても

そして次の日僕は衝撃を受ける

あのサンタが僕の方を向いていたのだ

彼女の愛すべき民たちは皆、揃って彼女に崇拝の目線を送っているというのに

このサンタだけが僕を向いている

これは何かの嫌がらせに違いない

これは何かのメッセージだ

「仲良くしてね」とでも言いたいのか

俺は負けないぞ

その手には乗らないぞ

君のペースで全てが運ぶと思ったら大間違いだ

僕は意地でも触れなかった

そして彼女をサンタと心の中で呼んでいる

その日以来、僕は美少女小サンタの向こう側に親サンタ見るという毎日を送っている

〝サンタ〟はこうして生まれた


帰りに有吉君から電話が掛ってきた

そろそろ定例の会合をしようというものだ

彼からのオファーを断ったことがない

同じ目標を持ち、もう長らく二人で共に歩いてきた戦友だ

来週は有吉君のオファーで決まったので、今週は勉強をする事にした

1週間という多すぎる時間をオフと定めて何もしなかったけど、

やはり3日目ぐらいからソワソワしてきたので、駅前の百貨店の本屋で参考書と問題集を買った

僕は大学の時からここでよく本を買う

品揃えが良く、法律関係のマニアックな本も置いてある

大学の生協で注文しなくてもここで買えた

ここに来ると何かあの頃の体たらくで有りながら法律の勉強に明け暮れた日々を思い出す事が出来た

当時、手にした債権法やら労働法やらの改訂版に触れると僕はフレッシュだけど少し切ない気持ちになった

今僕は知財の勉強をしている

今日は既に3回、回した参考書をザザッと読んだ

来週からは問題集に着手する予定だ


僕は確かに前に進んでいて、

それでいて後悔がない

僕なりにソワソワし出す前にたっぷりな時間とともにどうすべきか考えていた

だけど考えるまでもなく答えは出てた
ように思う

彼が訓示したのは

前を向いて歩き続けろ、決して止まるな

そして自分の存在意義は誰かから与えられるものではなく、意味付けされることもなく自分で見出せ

という事だった

何かが焼き払われてしまったとしてもその手から簒奪されたとしても
自らでそれを握りつぶしたとしても

僕はまた自分自身と対峙しあの場所に戻り、暗闇の中から一歩づつ這い上がりながら新しいものを一つづつ集めていかなければならない

もう大丈夫だ

僕は歩き出す

花の金曜日

通り過ぎる後方で街はまばゆい程にきらめいていた