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EL PRIMEROのブログ

20代後半で人生に絶望気味の僕が、自分の為に自分だけに綴るブログ

17:00ジャストに引き出しに鍵をかけて僕はデスクを離れる

そしてジェラートを買いに行く

僕が営業帰りによく皆んなに買って帰った口溶けの滑らかなジェラートを

雨は上がって晴れ間が見えようとしていた

随分と日が長くなったと

日が昇る前、そして日が完全に沈み切った時間しか僕は行き帰りを通り過ぎて無かった事に気付く

歩き慣れた裏通りがほんの少しだけ知らない通りを歩いているような気分になった

しばらくして飲み屋と信金の間にあるジェラート屋さんに着いた

僕の期待とは裏腹にあいにくジェラートは完売してしまっていた

ここのジェラートは無くなってしまったらそこで店を締める

それが何時であろうが

どうしたものかな

僕は横にあった灰皿に向かって投げかけて見た

そしてピースを3口吸って、ドーナツにしようと決めた

ここのは皆んなに持って行ったことがないな

どうもカラダに良いですオーラ満点のドーナツを12個買った

あまりそう言う無添加とか好きではないけど、ここドーナツは美味しい

広島産瀬戸田レモンピールが乗ったドーナツが好きだけど

どうやら期間限定らしい

『80円のおつりです』

『レシートを頂けますか』

僕の声は確かに雨上がりの湿気を含んだ空気を震わせていた

三角ずきんをかぶった店員はニッコリと僕に微笑み返してくれた

ありがとう、僕はそう言って笑顔にお礼を言った

支店に行くまでに街中にしては大きな公園がある

そこにはいつも遊び場を求めた子供達がキャッチボールやらサッカーをしている

ヴァンズやらナイキSBを履いた若い人がスケボーをしていたりする

その向こう側には僕等が結婚式を挙げた式場がある

この公園で前撮り写真撮ったんだっけな

上を見上げれば大きな鐘が見える

我ながらいい式だった

式場を右手に見ながらドーナツ片手に歩く

大通りに面した支店に到着し、ロビーを通り抜けエレベーターに乗る

8階のボタンを押す

毎日乗ったエレベーターなのに凄く違和感があった

僕が今毎日乗ってるエレベーターよりはるかに静かだった

何故かそれに驚いた

そんな事あの頃僕には気に留める余裕がなかったのだろう

支店の来客用の呼び出しを使わずにツカツカと中に入って

僕はお疲れ様ですと言ってみた

あの頃あのままそのテンションで

主任と姉さん以外はみんなビックリしていた

そう

僕は辞めた会社に来ている

割りかし普通に

大体なら行きたくない場所なんだろうけど

僕にとってはそうでもない

『はい、姉さん、ドーナツ買ってきたから皆んなで食べてね』

『あら、久しぶりね』

『前来た時、ちょうどいなかったもんね』

『座りなさいよ』

『お言葉に甘えて』

僕は座り慣れた〝僕の席〟に座る

僕の特等席だ

ここからの眺めが大好きだった

今でも


主任から突然電話がかかってきたのは睡魔が襲いそうだった14:30過ぎだった

お前の話してたら急に声聞きたくなって、元気か?

そんなことだった

姉さんも会いたがってるよ、姉さん甘いものが食べたいって

簡単な電話だった

でもその何気ない思いつきは僕を何処かから救ってくれた

自分でキャパオーバーな日々に追い打ちをかけられた僕の今から

あなたと過ごした月日は長さじゃはかれないですね

『今年度予算達成するぞ』

主任は第一声僕にそう言った

もう全く関係のない会社の僕に

例え帰ってくる場所じゃなくなっても僕は主任の部下だった

『お、ドーナツありがとな。いつもすまんね』

『皆んな好きなジェラート完売だったんですよ。ドーナツで良ければと思って』

『ここのドーナツ美味しいんですよ』

姉さんが言った

『久しぶりですね。元気だったんですか?』

あっくんが関西のイントネーションで言った

『何とかね。ところで俺の最短記録塗り替えたらしいね』


そんな他愛もない話だったけど、僕は久々に素直に喋れた様な気がする

あっくんにアドバイスをして、クライアントの情報を教えて

姉さんに近況を報告して

そして主任とこうあるべきだ議論をして

『やっぱりお前は俺二世だな』

僕は主任の一番弟子だ

誰になんて言われようがその席だけは譲れない

いつでも主任は僕を信頼してくれていた

やってみろ

そう言って過保護に手を出したりしなかった

お前が思うようにやれ

お前がやってにっちもさっちも行かなくなったら俺が尻拭いするから

僕達の共に過ごした時間というのはとてつもなく濃厚だった

時間とすれば短いかもしれないけど

今でもこうやって繋がってるのはそういう事じゃないかと思う

主任

さすがですね

助けて欲しいと思っていたんですよ

何か僕は返せていますか

主任

貴方みたいな人になりたいです