僕はパーカーのボールペンをそっと置く
時間はまだ残っていたが
僕に残された選択肢は4択のそれとは違いほとんど残されてなかった
もうすっかり冷えきったアメリカンを啜り、落ち着きを取り戻すために煙草に火を点ける
僕は決して東京での出来事を忘れた訳ではなかった
それはある意味で衝撃的で僕にパラダイムチェンジを迫らせるに十分過ぎる内容だった
首都東京で出会った彼、彼女達は僕がいかに無能で勝負できるストロングポイントを失っているかを教えてくれたのだ
幾つかの疑問点はありながらもそれは僕を劣等感のど真ん中に突き落とすにはあまりにも暴力的な強い力であり強烈な光だった
なぜなら僕は彼等に勝てる唯一の武器を自らの意志で進んで放棄したからだ
そして新しい〝木のこんぼう〟みたいな原始的な武器で戦おうとしているのだから
僕はここに来て初めて自分には素晴らしい才能があったのだと思った
そしてそれと一瞬もずれることなく頭の中に後悔というフレーズが走った
勿論、僕の中の狭義の意味合いでだけど
僕はここに来る時、自分の興味とやりたい事をやろうと決めて乗り込んできた
つまり僕が新卒から積み上げてきたものとは全く540度ぐらい違う事をまた一から丁寧に積み上げようと思っていた
それに向けて準備はしてきたつもりだったし、
実際、いい線で勝負できると思っていた
だがそんな思い違いは彼等が木っ端微塵に打ち砕いてくれた
もう気持ち良いぐらいにね
彼等は僕と違いあまり紆余曲折していない
一直線にこの場所に辿り着いている
まるで内ラチすれすれの経済コースを走る逃亡者のように
勿論、彼等が真っしぐらに脇目も振れずにきたとは思わないが
だけど理由と行動があまり乖離してない
僕はどうだ
本社の人事部長が言ったのが全てだ
『君の事はよく覚えているよ。最終面接以来だね。ところで君の経歴はとても変わっているよね。本来なら逆だ。この業界に来た後に、君が居た業界に行くのは分かる。どうしてここに来たんだろう。恐らく凄く珍しいケースだよね。』
僕は〝珍しい〟ケースなのだ
つまり彼等の常識で言えばスタートと結論を結び付けるその潤滑油である理由が不可思議なのだ
あれだけの圧迫面接のその訳はそれだったのか
何はともあれ僕はここに入って、自分で決めた新しい武器で戦わなくちゃいけない
彼等が誰もが羨む超難関国試を持っていようが僕には関係ない
僕は脆弱ですぐに折れてしまいそうなそれを少しづつ強固なものにして行くことしか出来ない
さっきも言ったように僕にはあまりにも選択肢が少な過ぎるのだ
僕の視野から後方全てを焼き払い退路を断ってきたのだ
選べない幸せ
そう、ある意味幸せな事なのだ
僕はもう一度パーカーのボールペンを握り締める
煙草をぐしゃぐしゃに押し潰して思う
まだ時間はある
こんな通過点でコケるほどバカじゃない
今まさに僕的パラダイムチェンジが求められているんだ