D.F.S ~Don't forget smile~ -6ページ目

D.F.S ~Don't forget smile~

甘くて酸っぱくてほろ苦い青春を綴ったものですw

共感してくれると、うれしいな(*^。^*)

えっと、読んで吐かないようご注意です駄作ですすいません。。。できれば感想をくれるとありがたいです。


題:優しい嘘。







 病室の隅に、いつも立っている女の子。
 彼女は生きてない、此処に居ちゃいけない人間。
 俺しか見えないみたいで、他の連中は呑気に過ごしている。
 でも、俺はそのコのこと見えるけど、さわれない。
 多分このコは、地縛霊、ってやつ。
 この病室にとりついた、幽霊。
 その子は俺をじっと見つめて、たまににこっ、って笑う。
 案外かわいいんだ。
 髪は肩にかかるくらいで切り揃えてあって、一般的なパジャマを纏っている。
 『ねぇ。』
 「ん?」
 その子がいきなり話しかけてきた。
 『そろそろ名前、教えてあげようか?』
 「うん。」
 俺の隣で立ち膝して、そっと囁く。
 『チエ。』
 確かにそう聞こえた。
 「俺はね、」
 『雄、でしょ? 知ってるよ私はー。私雄大好きだもん。嘘つかないとことか。あっ!優しい嘘なら許せるんだけどね!』
 「あぁマジで?」
 もし彼女が、チエが生きていて、俺の隣に居たならば、本当のカップルのように見えただろう。
 でも現在の俺は、ただ独り言を言っているようにしか見えないだろう。
 「ねぇ、チエ。なんで死んだの?」
 『ズバッと聞くんだね。』
 「まぁ…ここは病院だし、だいたい想像つくけども。」
 『…そう…だね。そーゆーふうに考えるのが妥当だよね。』
 チエは下を向いて笑った。
 「違うの?」
 チエは俺の問いに答えず、俺のベッドの上に座った。
 『私、生きてるときに雄と出逢いたかったなぁ。』
 そんなことを言って、恋人はいるのかとたずねてくる。
 「いないよ。こんなんだし。」
 俺は昔から病弱で、入院と退院を繰り返していた。
 こんなに呑気に喋っているが、これでも俺、末期だから。
 もうすぐ多分、死ぬから。
 本当だったら、技術が進歩しているから、治る確率の方が高い。
 でも俺の場合は、発見が遅すぎた。もう手遅れらしい。
 治る確率は、一割にも満たない、って。
 俺は別にね、死んでもいいからさ、いいんだよね。チエと同じ場所に立てるし。

 「雄君、明日、なんだけど。」
 看護婦が静かに病室に入り込んでくる。
 「あぁ…大丈夫。ちゃんと出来ます。」
 手術の話だ。
 なんで手術前日なのに、両親がいないかというと、俺に関心がないからだ。
 昔から、いや、昔は可愛がられていたかもしれない。
 でも、いつからか、病弱な俺が邪魔だとも言うように、俺から離れていった。

 …邪魔ならば、最初から産まないでくれればこっちも楽だったよ母さん。俺は自分から病弱に産まれたかったわけじゃない。あんたの責任じゃないか。
 当然、病院には滅多に来ない。
 それどころか、俺が入院している間に引っ越して、手紙すら送れない。
 俺もそんな親に次第に呆れて、どうでもよくなっていった。
 「…本当に大丈夫?」
 「うん、大丈夫。」
 「…そっか…。頑張ろうね!」
 看護婦は出ていった。
 演技はもうちょっとうまくやるもんだぜご婦人。
 あんた、もし手術が成功しても、この先俺が死ぬことに代わりはないの、わかってんだろ。
 その顔は…そうだよ。
 『…私、あの人、嫌い。』
 「え?」
 『嫌い。大嫌い。スゴく嫌い。あんなヤツと喋んないで。』
 チエは俺の服の袖を掴み、揺する動作をする。実際には出来ていない。
 「チエが…生きてるときから、居たの?」
 チエは黙って俺の目を見つめていた。
 「さっきから…言ってくんないとわかんないよチエ。」
 『…私、アイツに殺されたの。』
 「…え?」
 信じ難い言葉がチエから飛び出した。
 「…なんで?」
 『…かつて、アイツは、医者と付き合ってた。

 その医者は、なぜか、私のこと可愛がってくれてね? ある日、告白されちゃったの。

 確かに若い医者だったよ…?でも、そんな気全然なかったから断った。

 当然だよね。私はただの患者だし。』
 チエは泣きそうになりながら、話した。悲劇を。
 『私は、断ったのに…勝手に、って言ったらあれだけど…勝手に好きになられて、告白されたのに、看護婦に恨まれて、この病室の、そこの窓から…突き落とされた。』
 チエは窓を見ずに指差した。
 『私は自殺とみなされた。
 違うって訴えてもさ、私の声が聞こえる人なんて、いなかった。』
 「…チエ…。」
 『だから私は、アイツが嫌い。
 頑張れば生きれたのに、アイツは私の人生を奪ったの。本当だったら、私だって恋したり部活したりしてたのに。アイツはそれを奪ったの。
 そんなやつ…好きになれるはず、ないよね?』
 俺は頷いた。
 さわれないけど、チエの肩を抱くフリをした。
 「仇…討ってあげよっか?」
 『…へ?』
 俺の声は、びっくりするほど冷たかった。
 『…やめてよ。そんなことしてもなにもならない。なにも解決しない。』
 「ホントにそう思ってる?チエ。」
 『雄、なに言ってるの?』
 「俺だったら、俺がチエだったら、って、俺なりに考えた。
 アイツに人生終わらせられて、でも、自分もアイツの人生をめちゃくちゃにしてしまったわけじゃん。
 たとえ、自分が悪くないとしても。
 だからさ、俺は、お前の力になりたい。
 お前の本心って、言葉に出来ないものがあると思うから。
 だから…やるよ。俺は。」
 『やめてよ…お願いだから。お願いだから…。』

 チエは必死に俺を引き留めようとした。でも、結局彼女は幽霊。俺に触ることなんて出来ない。

 俺は重い体を引きずって、あの看護婦を見つけ出して屋上まで連れてきた。
 「…雄君?どうしたの?」
 ちょっと期待してるような話しぶりだ。
 「俺、大事な話があるんだ。」
 「…なに?」
 「看護婦さんに死んでほしいんだけど。」
 そう言って突き飛ばそうとする。
 けど、足が滑って、俺まで落下していった。
 ほんの数十センチしか違わなかったのに、看護婦は木がクッション代わりになったらしく、死にはしなかった。
 一方俺の方は、見事にコンクリートに激突して、見るも無惨な死体に早変わりした。
 もはやそれは、人のかたちをしてはいなかった。
 ただの肉塊。
 血が吹き飛んで、脳ミソとか飛び散って、ホント、酷い。
 でも俺は、嬉しかった。
 これでチエと同じ場所に立てるし。

 看護婦は死ななかったけど、一生治らない後遺症ができて、晴れて障害者の仲間入り。
 木の枝で負った顔の深い傷のおかげで、誰からも愛されることはない。
 復讐は、完了したんだ。
 でもなんか、後味が悪い。
 なんなんだろう。この感じは。
 『…ごめんね雄。』
 目の前には、チエが立ってた。
 『チエ。』
 俺はチエを抱き締めた。
 やっと、さわれた。

 ジャラ、と、嫌な音がした。
 俺の足には枷がついてて、その先には長い長い鎖が繋がっている。
 『…あぁ…。』
 なんとなく、理解は出来てたんだ。
 もう、お別れ、なんだね。せっかく隣に立てたのに。
 『行かないで…やだよ…ねぇ…雄…行かないで…』
 俺の後ろには、漆黒のマントを纏った死神がいる。
 俺は罪をおかした。
 だから、往くべきとこへ、往かなきゃならない。
 『チエ…ありがとう。今まで、ありがとう。』
 『ねぇ…雄?雄!ねぇ!』
 そんな泣くなよ…
 ただ、会えなくなるだけだろ?
 『雄…。』
 チエは泣き崩れた。
 『地縛霊なんか、勿体ないよ。』
 『え…?』
 『俺の中にチエはいて、チエの中に俺がいるだろ?いつでも会える。病院じゃなくても、会える。』
 『…うん。うん…』
 チエは笑ってくれた。優しく笑ってくれた。
 『その笑顔、好き。大好き。 じゃあ、またね…。』

 俺は真っ暗闇の中に連れていかれた。
 もう二度と会えないなんてわかってたけど、最後くらい、嘘をつきたかった…




''私雄大好きだもん。嘘つかないとことか。あっ!優しい嘘なら許せるんだけどね!''


 親愛なるチエ…
 俺は優しい嘘をつけていましたか?