D.F.S ~Don't forget smile~ -5ページ目

D.F.S ~Don't forget smile~

甘くて酸っぱくてほろ苦い青春を綴ったものですw

共感してくれると、うれしいな(*^。^*)

 題は「戦乱」です。



 いました。
 いました。
 首だけの私が、安らかに眠っていました。
 それは当然です。
 だって未練がないから。
 だけど、そんな私にも、一つだけ悔いがありました。
 私が想っている人が、殺されたのです。
 それを訴えたかった。
 いいえ、訴えたところまではいったのです。
 しかしそれからがだめでした。

 私も殺されました。
 反逆罪だそうです。
 私も彼女も、ただ…幸せになりたかっただけなのに。明日に向かって生きていただけなのに。
 どうしてこんなことになったのでしょう。
 平和のために、愛のために生きてはいけないのでしょうか。
 武士は刀一本で道を開きます。私には武器がありませんでした。愛しかなかったのです。
 だからなにも出来なかった。大切な人を愛だけで守ることなど出来なかった。
 私はなんのために生きてきたのでしょうか。
 首だけになった名もなき村人は、胴体も、過去も、愛しい人も、幸せも、夢も、希望も失って、どこかに置いてきてしまいました。
 叶うのなら、拾ってきたいです。全て。
 でも、それはもう過ぎた願い。
 私は、私は…

 ──もう一度彼女と、幸せな日々を送りたい。

 笑って、泣いて、怒って…彼女はとても忙しい人でした。
 私はそんな彼女を愛していた。
 あの日、彼女は罪を擦(なす)り付けられました。
 私のために、私の誕生日の贈り物を買うために出掛けたことが原因でした。私はそのことを知りませんでした。
 ただ平凡で変わらぬ日常を、無表情で過ごしていました。
 そんな私に、一本の知らせが来ます。
 『お前んとこのお市が、人殺しの濡れ衣着せられて極刑!死刑だって!』
 一瞬なにが起こったのか解らず、開いた目と口が動きませんでした。
 それから正気を取り戻した時、私の足の回転最大で、走っていました。
 無惨に横たわる愛しい人は、私のために用意した贈り物、彼女とお揃いの湯飲みを、キツく固く、抱き締めていました。
 今にも目を開けて動き出しそうなほど美しい遺体でした。鮮明に記憶されています。
 そして地には大量の彼女の血が。
 涙が止まりませんでした。
 彼女の骸を抱き締めて、私は泣き叫びました。
 「世の中は不公平で、不条理で理不尽で、つまらなくて、苦しいだけだ!」
 と。
 周りの人は、そんな私の肩を、叩いてはくれませんでした。背中を擦(さす)ってもくれませんでした。
 私はただ、「この先いいことある。」、「また恋をすればいいだろう。」そう言って欲しかっただけなのです。
 そんな私の願いは、儚く散りました。
 だから私は、もっと泣きました。彼女の骸も、泣いていました。

 それから私は家に帰りました。
 彼女の血で、服と手は真っ赤になりました。
 綺麗だけど、残酷な色でした。
 私の生きる意味を消していくように、手や服にこびり付いた血を洗い流しました。
 そして役人に訴えました。
 しかし私の心の声は、彼らの耳には、些(いささ)かも届きませんでした。
 私は呆気なく死にました。
 彼女の無念を晴らすことが出来ませんでした。
 哀しく、悲惨な末路でした。
 私には私が見える。
 つまり、精神と肉体が離れてしまっている。
 首が乗っています。小さな板に。
 胴体のない私。
 愛しい人をなくした私。
 大切なものを失った私。

 嗚呼…


 ──それでも夜は明けるのですね。

 私や、彼女の分まで、明日を生きてくれる人々のために。
 首だけになった私と、無惨な死に方をした彼女の想いを乗せた太陽が、今日も、明日も、この地球(ほし)が果てるまで──
 ──何度も何度も、昇り続けるのですね。