今回の芥川賞作品は高瀬隼子さんの「おいしいごはんが食べられますように
ラベル会社の支店のある部署の人間関係・・・
怖かった~。
仕事はいまいちできないし、自分の体調に甘くて頻繫に休む、でも気遣いとフェミニンなイメージで反感を持たれない女・芦川。
頭痛で早退しといて翌日お詫びにってお菓子を焼いてくる?
ホールのケーキを焼いてきて、「おやつですよ~」って配る?
こんな面倒な奴、私は苦手。
でも課長は絶賛するし、中途半端な男・二谷は取り込まれていくし、立場の違うおばさんたちは可愛がるし。
同じ正社員でちょっと年下なのにバリバリ仕事ができる押尾女史の心境がよくわかる。
ただ、芦川も強迫観念にとらわれているのかも。
そうあるべき自分の理想の姿を体現させるため、それこそ仕事は二の次に、お菓子を作り二谷の食事の用意をする。
人前では優雅に可愛く振るまっているのに、夜な夜な脂汗を流しながら粉を量りクリームを練る芦川の姿…想像するだに哀れだ。
ひとりでも、気兼ねなく食べることのできる環境がほしいよね、押尾さん。
表現は押尾と二谷のそれぞれの側からの二人称で構成され、物語に立体感が生まれる。二谷の存在もそれなりに重要になる。
食品ラベルの会社ってところも、暗に人の在り方への示唆があるようでおもしろい。
 
文芸春秋の他の記事は、旧統一教会と故安倍氏のことがたくさんあって、すでに新聞やテレビで見聞きしているので目新しいものではなかった。
それよりも倉本聰氏の「わたしの貧幸生活」に寄せられた読者のお便りがなかなか面白かった。
皆さんご高齢で、昔は工夫して暮らしていたとかそんなことをおっしゃっているが、環境に負荷を賭けながらも便利な世の中を作ってきたのは(望んできたのは)この方達じゃあないのかな。
後戻りするには、便利な世の中で育ってきた若い人達には相当難しいし説得力ないと思う。
高齢になり、生活の幅が狭まり緊急性もなくなってきたから究極の田舎暮らしを提唱できるけど、いままさに子育てをしながら世界を広げて働いている人たちには、なかなかできないことだと思う。
 
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2021年のこのミステリーがすごい!大賞・文庫グランプリ受賞作「暗黒自治区」亀野仁 にはショックを受けた。
物語の内容としてはそれほどトリッキーでもないがスピード感も続編を期待できる情感もあり、まずまずなのだが、それよりも舞台設定。
日本が隣国と国連に統治されたパラレルワールド。
その緻密な描写に引き込まれる。
隣国による理不尽な植民地化はきっと80年前は日本もこんなことをしていたんだと思わせる。
母国語が通用しなくなり、隣国からの役人にあらゆる役職を奪われていく。
息苦しくて恐ろしい。
現実にそうならないように、日本という国をしっかりさせてほしいけれど、円が力を失っていくと何に頼ればよいのかわからなくなる。
私の世代は、まだ良い。子は?孫は?
どんな世界で生きていくのだろう。