上橋菜穂子 作

 

「鹿の王」は2015年の本屋大賞に輝く作品。医療小説大賞も受賞しているとか。

当時は図書館に予約を入れても全然回ってくる気配もなく読むのを諦めていたけど、先日図書館の開架棚にポツンと置かれているのを発見!

いまが読み時ってこと?

 

内容は(精霊の守り人のようにきちんと作りこまれたファンタジーなんだけど)、強大国に飲み込まれていく辺境の部族の悲哀というより悲劇を背景に、ひとりの戦士の雄々しさとふたりの医術師の探究心が物語のなかで並走して、致死率の高い感染症をくい止めようとする、というもの。

強大国のエゴがそれまでひっそり暮らしていた辺境の地まで取り込んで、生態系が壊れていく。菌に対する抗体を持たない人々が特殊な菌を身近に持つ地に住み着くようになり、発症していく。  (←グローバル化によってどこにでも行ってしまう今の世界のようだ。)

そしてその菌を使って先祖伝来の地を奪われた復讐をしようとする人が現れる。  (←細菌兵器!)

示唆に富んでいるようで恐ろしい。

感染症は、いま現実世界を揺るがしている。

この物語は映画化され、2020年9月に公開予定だったものの、諸般の事情から延期となっている。

飛鹿に乗って森林を駆ける戦士の姿を映像で見てみたかったけれど、それはいつになることやら。

コロナ禍による人材不足でアニメの制作が遅れているとか。

いや、あまりにも現実に近い病原菌をテーマにしているせいかもしれないと、うがった見方をしてしまう・・・私。

 

もう一冊、「水底の橋」は、二人の医術師によるスピンオフの物語になっている。

ここでのテーマは医療の目指すものとその方法論かな。

物語のなか、オタワル医術は、現代の医学のように科学的な方法で治療と延命を目指しているのだが、清心教医術は、患者の全体を見て内部には触れず心のケアを中心とした医術で、延命どころか安楽死もあり得るというもの。

物語はそれぞれに認め合いつつ・・・で終わったので良かった。

人が生を全うする最後に安楽死もあるのではないかと、私は思っている。

そしてもう一つ、身分の差というもの。

ファンタジーの世界だからそういう形で差別というものを解り易く描いているのかもしれない。

だから、それに違和感を感じながら読むことも大事なのではないかと・・・

いまの世の中だからこそ思う。

ほんと、今読むべき本だったわ。