あたしは生まれてこのかた15年間、目覚まし時計を使ったことがなかった。



朝に強くて目覚めが良いから?いいえ、あたしはテイケツアツ。


ママが起こしてくれるから?違う。ママはあたしが6才の頃に亡くなった。


じゃあ、パパが?それも違う。パパの目には妹の雪見しか映っていない。



じゃあ、誰が?



「はーなーびー!起ーきーろおー!!」



ドスン!という音と共にあたしの身体に乗り掛かる小さな身体。

さっき言った妹の雪見は2つ下の中学1年生でこんな小さくはない。

せいぜい7、8歳くらの身体。

身体だけは・・・


「はーなーびー!我は稲荷大明神なるぞ!神の言うことが聞けんのかっ!!」


「うーん・・・」


あたしはあたしの身体の上を飛び跳ねる小さな身体を押しのける様に寝返りを打った。

小さな身体がバランスを崩してベッドの下で尻もちをついた。


「ひゃあ!こっ・・・この罰当たりめがあ!!」


あたしはわーきゃー喚く声で眠い目をこすって起き上った。


「ふわぁ、おはよう、小春ちゃん」


「小春は私が身体を借りているこの娘の名じゃ!私は・・・」


「はいはい、稲荷大明神・春海守(はるみのもり)様。今は小春ちゃん」


「キーッ」


頭からはキツネの耳、赤い着物の裾からキツネの尻尾が出てきた。

どう見ても着物を着た7、8歳の女の子だけれど、その中身は昔、この近所にあった神社に祀られていた神様。

興奮するとこうやって白狐の片鱗が現れる。


明治の頃に神社が火事になって燃えちゃって、その時そこで遊んでいた女の子が巻き添えになって亡くなった悲しい事件があった。

小春はその女の子の名前。

春海守は燃え盛る神社を脱出しようとした時、

まだ幼いのに亡くなった女の子の亡骸を抱いて泣いている母親の姿を見て、憐れみ、

自分が彼女の魂の代わりに彼女の身体に乗り移って母親を慰めた。


けれど、春海守が乗り移ったその身体は年を取ることはなく、隣近所から気味悪がられるようになった頃、

このままでは迷惑を掛けると察し、そっと母親の前から姿を消した・・・



それから100年以上、一人ぼっちだったところをあたしと知り合った。

自分を神だ、大明神だって言って小さな身体で威張っているけど、本当はすっごい寂しがり屋。


本当の妹の雪見はあたしより断然デキが良くて、しっかりしてるけど、小春は神様の癖になんだか目が離せなくて。なんだか妹みたい。

そんな小春はあたしが危なっかしくて目が離せないって言うんだけど。


まあ、実際の年齢は小春の方が何百歳も年上なわけだけど。


「おはよう」


「ああ・・・」


新聞を広げながらそっけない返事。これがパパ。

エリートリーマンらしいけど、正直、パパの仕事には興味が無い。

パパもあたしのことには興味無いみたいだけど。


「お姉ちゃん、おはよう!」


朝食の支度をしながら妹・雪見が元気よく挨拶してくる。

ああ・・・ごめんね。それは姉であるあたしの役目であるべきなのに。


可愛いし、おしゃれだし、この間もスカウトされたっ言ってたし、料理上手だし、勉強もスポーツも出来て・・・


今日も美味しいベーコンエッグにかぶりつきながらしみじみ良く出来た妹を想う。



「行ってきまーす!」



さすがに皿洗いだけは手伝って、雪見と一緒に学校へ向かう。


季節は春。


桜も満開に咲き誇る季節。




*続く

「あー、うっとおしい」




その言葉を聞いて思わずビクッとした。


「もう桜の季節なのになんでこう雪ばっか降るかね?」


綾乃ちゃんは窓の外を見ていた。

確かに窓の外は結構雪が降っていた。3月も20日を越えたというのに。


私は自分のことを“うっとおしい”と言われたわけではないことに安堵した。

と、同時に自分が恥ずかしく思えた。

自意識過剰。


綾乃ちゃんがそんなこと言うはずないのに。


「ねー、花火は大学行ったら、東京で一人暮らしするんだよね?」


「うん・・・」


「寂しくなるなあ。でも、ピアニストの夢叶えるためだもんね」


「うん」


「ピアノも勉強も頑張ってたもんねー。凄いよ、現役で芸大って。この町内で初じゃね?!」


「綾乃ちゃん、大げさー。綾乃ちゃんだってネイリスト目指して専門学校行くんでしょ?」


「まーね、ネイル好きだし。一応、昔っからの夢だし。花火は、中学からなんだよね?ピアニスト目指したの」


「うん。約束だから・・・」


「約束?誰と?」


「それは・・・」


「あ、初恋の相手とか?」


「うーん・・・」


「えー?何?教えてよお」



たとえ綾乃ちゃんでも話せない・・・ううん、話しても信じてもらえない・・・と思う。


私が、この夢を見つけたのは・・・・



「じゃあ、綾乃ちゃんだけには話すね。あたしがピアニスト目指したきっかけ」


「ほんと?やった」



あたし、白石花火がピアニストを目指したのは・・・





花火のあとには




これから、


気の向くまま小説のようなものを書いていこうと


思います。




気が向きましたら、お読みくださいませ。


どうぞよろしくお願いいたします。