16から永い付き合いの友人が入院したと聞いて様子を見に行ってきた。
病院への面会は義父のガン以来5年ぶりだが、いつ来ても落ち着かない空気に包まれる。

6人部屋の奥でベッドの上に座り、イヤホンでTVを見ていたKは無精ひげもそのままで、
少し小さく老けたように見えた。禁酒禁煙の「やつれ」かも知れない。

「おう!」
「おっ、誰に聞いた?」
「ガールフレンドのママさんから」
「鎌ヶ谷?」
「そう、ついでに寄った」

様子を教えろよ! と座った私にKが言った言葉が表題だ・・・

「朝、起きたら昨日と違う自分を発見したんだ」
「どんな?」
「字がうまく書けなかった」
「どんなふうに?」
「漢字のたて・よことか角度とか微妙におかしくなる。自分の字じゃなかった」
「ほかには?」
「アクセルを踏んだ時の感覚とクルマが出る感覚が少しずれているような感じだった」
「で、検査に?」
「そう、おふくろさんが2回そんなことがあって見てたから同じかなと思った」
「そうか・・・で、何箇所あんの?」
「ひとつだけ」
「治療は?」
「点滴で詰まりを溶かすみたいだけど、よく聞いてない」
「でも、もうそこの細胞は死んでいるんだろ?」
「だろうね」

診断は脳梗塞、これまで無意識だった「機能を司る細胞」が死んだらしい。
Kの場合は右手・右足・呂律に少し影響が出ているとのこと。

「ヨッパライのようにしゃべるのはそのせいか。呑んでいるのかと思ったゾ」
「油断してると舌がつまづくんだ」
「たとえば?」
「たどたどしい とか ひきつづき とか」
「いちじるしい は?」
「いちぢ・・・らしい、いかんなあ」
「おびただしい は?」
「あはは、ばかやろ!よく出るな」
「漢字書き取り練習帳でも買ってこようか」
「ヒマだから、こんなことやってる」

週刊新潮のページを開いて見せてくれた。
見開き特集にはスミベタ白抜きの角太ゴチックでタイトルが帯になっている。
ヤツはその白抜きのセンターにボールペンで線を書いていた。
きれいに文字のセンターをなぞっている。少し安心した。
しかし、軽いというのは本当だろうか・・・
まあ、何が軽くて、どうなれば重いのか、そんなことはわからないし、どの細胞がいくつ死んだのか、
その細胞が生活機能の何を司っていたのか、そこが知りたいと思ったがKも知らないと言っていた。

アタマの中というだけで外野はびびる。
脳神経外科の文字だけで大事(おおごと)を連想してしまう。
いいとしをして、実家にネコ5匹と暮らすヤモメのKだ。
2週間で退院らしいが、出てからの方が気になるな・・・