そろそろバブル景気に影が差し始めた頃ですが、
人々はまだまだ十分浮かれていました。私は、まあ食えてはいましたが、
どちらかと言えば貧しくて、金がない分だけ余計にいきがった
20代前半の若者でした。黒人のブルースに既にどっぷりはまっていて、
ひと頃は夢中だった白人のブルースからは、少し心が離れている時期でした。
チャーリー・マッセルホワイトは1944年生まれですから当時46才、
脂が乗り切った絶頂期の作品と言うことになります。
前回このコラムで取り上げたポール・バタフィールド同様、
最も古い白人ハーピストの一人です。ポールとこの人は、
他の白人ブルースバンドの大部分がそうであったように
ブルースを見よう見まねで始めた人ではありません。
少年時代から黒人クラブに入り浸って、
直接リアルブルースマンの手ほどきを受けたいわば「別格」的な存在です。
ポールは惜しくも87年に亡くなりましたが、
チャーリーは66才の今もバリバリの現役選手です。
白人のブルースは久しぶりでしたが、チャーリーの新譜となれば
やはり気になって、私はわくわくしながら買ってきたばかりの
「Ace Of Harps」をターンテーブルに置き針を落としました。
音が流れ始めた瞬間、その低音の効いたいかにもアメリカっぽい
乾いていてロッキンなサウンドに私は驚きました。
ベテランブルースマンですから、ヴィンテージっぽさに拘った
古めかしい音をイメージしていたからです。
この人はキャリアに甘んじないクリエーティブな活動を大切にしている人なのだ、
と感じて、そう思ってからはどんどん好きになりました。
ジャケットに映っているブーメランみたいな形のハーモニカも
仲間内で話題になったものです。
「Yesterdays」というクロマチックハーモニカを用いたインストが収められているのですが、
チャンドラーなどの小説を読みながら聴きたい哀愁漂う傑作です。
私もクロマチックハーモニカを始めていましたが、
どうしたらこんな美しいヴィブラートが出来るのか、見当も付かず、
聳え立つ巨塔を見上げる気持ちでただ聴き入っていました。