前にも書きましたが、二十年くらい前は冬が今よりずっと寒く、
ずんずん歩いていても、歯がガチガチと鳴りやまないくらいの日が
しょっちゅうありました。
そんな師走のある日、私は音楽友達の部屋に遊びに行って、
このアルバムを紹介されました。
彼は、ブラック・ミュージックの囚人のような人でした。
とりわけ、ソウルミュージックとクラシカルなレゲエの
熱心なファンで、レイ・チャールズ、ジェームス・ブラウン、
サム・クック、オーティス・レディング、アレサ・フランクリン、
ボブ・マーレイばかりを延々、来る日も来る日も一日中聴いていました。
そんな彼が「お前、こんなん知ってるか?」と言って
掛けてくれたのがフランキー・ミラーの「Full House」だったのです。
彼は「俺は、黒人音楽しか聴けない身体になってるけど、こいつと、
ジョー・コッカーだけは好きなんや」
とも言いました。
私は、一曲目から身体が痺れてしまって
動けないほど感動していました。
「白いオーティス(・レディング)」の異名をとる、
イギリスを代表するソウル・シンガーとの出会いです。
本作はポップ志向、マーケットを意識したやや商業主義の作風、
などと三流メディアでよく言われますが、なんのなんの、
実に純度の高い、ソウル・ロックの金字塔であります。

私は友人宅を辞して、その足でレコード屋に行きました。
運良くこのアルバムは見つかりました。
レコードの入った袋を抱えて、電線を鳴らす木枯らしを聴きながら、
黄昏の道を私は急ぎ足でした。穴が空いた革靴の中の指はかじかんで痛み、
歯はがちがちと鳴りやみませんでした。

実は「白いオーティス」はアメリカに、もう一人、います。
そちらのシンガーも私は大好きですから、今度このコラムに書きます。