切り札 1 | ぶるーす33 HELP THE POOR!

イギリスが国民投票でEUから離脱することになり、アメリカでは政治経験のない不動産王が大統領に当選し、韓国では現職大統領が罷免され、台湾では前総統が機密漏洩で起訴された。

北朝鮮では朝鮮労働党の委員長である三男が腹違いの長兄を暗殺し、さらに数発のミサイル実験を繰り返している。

ここ二年ばかりの間に世界の情勢はますます混沌として来た。

そんな中で我が日本は野党の凋落に歯止めが効かず、自民党の安倍政権が安定したリーダーシップを発揮している。

ただ、もちろん不安材料はある。

シャープは台湾企業の傘下に入り経営の建て直しの真っ最中、東芝はアメリカの原発メーカーを子会社化したことで一転破綻の危機にある。

そんな中、テレビのワイドショーでは連日芸能人のゴシップを追いかけることに躍起になり、たまに政治問題を扱ったかと思えばその切り口はまるで芸能ネタと何ら変わらない。

「何だか生き苦しい世の中になって来たな」

そんな独り言が口を突いて出て来るのは、俺の勤める会社とて他人事ではないからだ。

主力工場である三田事業所をどうするか、経営陣が頭を悩ませている。

西阪エンジニアリング三田事業所では主に超薄型テレビやモニタに使用される液晶パネルを製造している。

もちろんその性能は他社の追随を許さないが、新製品を発売すると半年後には中国や韓国のメーカーが類似製品を格安で発売してしまう。

姿形は似ているが中身は全然違う三流品でも、安ければ売れてしまうのだ。

我が社の製品には、研究開発費がかかっている。

そこへ至るまでの過程で発生した経費を回収するためには当然それなりの価格設定にならざるを得ない。

しかし後発メーカーはそんなことはお構いなし、我が社の製品を購入してバラバラに分解し、それと似せた製品を作ってしまう。

もちろん我が社の特許に抵触する部分はあるので裁判を起こすが、相手国では国際的な常識がまるで通用しない。

そんなならず者のような国がいくつかあって、その存在が我が社の頭痛の原因だった。

新製品を発表するたびに我が社の研究員がひとり、またひとりと辞めていく。

彼らは破格の待遇で海外の企業に引き抜かれるのだ。

そして彼らの指導の下、わが社の製品の半額ほどの価格で製品化される。

もはやいたちごっこだった。

良識もマナーも倫理観もない海外企業から自社の社員を守るためには待遇面を改めるしかないのだが、そんなことを迂闊にやってしまえば会社は人件費倒れしてしまう。

その日も朝から経営企画会議で俺は会議室に召集されていた。

三田事業所の収支報告書が配られ、今期の赤字が一千億円に達することが明らかとなっていた。