それが何ともなくなっていた。
そして一週間が過ぎ、あの宮司が俺を執務室へ呼び出した。
車椅子に乗ったまま執務室へ行くと、宮司は突然こう言い放った。
「まだそんなものに頼っているのか。いい加減、自分の足で歩いてみろ」
ここへ来た当時なら間違いなく反発していたが、俺はその言葉に素直に従った。
車椅子から立ち上がってみる。
俺を襲っていた背骨の痛みはもう嘘のように消えていた。
「おおっ、立てたっ」
「当たり前だ。さあ、歩いてみろ」
「はい」
恐る恐る足を踏み出してみる。
いつ倒れるか判らない不安と恐怖に苛まれながら、俺はとうとう自力で歩き出した。
「ほら見ろ、しっかり歩けるじゃないか」
「は、はいっ」
俺はもう嬉しくて泣き出してしまった。
そこへ朱音があの『水玉』を持って現れた。
「これが最後の霊水です。有り難く頂いて下さい」
「頂戴します」
水玉を受け取り、霊水を口に含む。
何と言う甘さ、何という香しさ。
「どうだ、霊水の味は」
宮司の問いかけに俺は泣きながら微笑んでこう応えた。
「はい。甘露です」
「それでいい。伊妻明、君の身体は完璧に復活したぞ」
「宮司、朱音さん、有り難うございましたっ」
もう二度と味わえないと諦めていた感触が、自分の両足に伝わって来る。
これは奇跡だ、今俺の身体に奇跡が起こっているのだ。
俺は再び自分の足で歩ける幸せを全身で感じながら、その場にひれ伏していた。
日常生活には何の支障もなくなっていたある日、俺は宮司から次の提案をされた。
「伊妻、オマエに提案があるんだが」
「はい、何でしょう」
「まず一つ目は、俺の知り合いに修験道の達人がいるんだが、そこで徹底的に修行をしてみないか」
その言葉に否はなかった。
「喜んで修行して参ります」