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※この記事は風の強い日(挙式編)からのつづきです。

 お時間のある方は挙式編からお読みいただければ、と思います。


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3.




あたたかい拍手につつまれて、

新郎新婦が披露宴会場に入場してきた。


手に手をとりあい、ゆっくりと。

お互いが進む速さを、確かめるように、歩みをあわせながら。



列席者たちの祝福の声や、カメラのフラッシュが、

華やかな披露宴会場を、よりいっそう彩った。


ふたりがゆっくりと、ひな壇に登る。拍手が鳴り止む。



そして司会の女性が低く落ち着いた、上品な声で

新郎新婦のプロフィールを紹介し始めた。




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「・・・そのいきおいに乗って、新郎はなんと、生徒会長に立候補いたしました。

 選挙が行なわれ、全校生徒の投票の結果、新郎の獲得票数はなんと・・・4,5票」



場内から笑い声が起こる。

ひな壇を見ると、なおふみ、ちょっとしてやったりの顔をしている。


きっとなおふみ本人が書いた原稿だ。

職場でのなおふみは無口でマジメという印象で通っているが、実はかなり面白い人間だ。


何かというと職場でペアを組んできたぼくはそんな彼の性格をよく知っている。



さよこさんの紹介もつづく。その紹介を聞きながら、さよこさんはずっと素敵な笑顔を浮かべていた。

その笑顔からあたたかさが溢れているように感じた。きっと気さくな性格なんだろうなって思う。





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そして、いよいよ祝辞の時間となった。



司会者があけみさんの名前を綺麗に読み上げた。




ぼくは、あけみさんを見た。

顔にベッタリと緊張が張り付いたままである。


名前を読み上げられたあけみさんは、

かたい表情のまま、和服のすそを気にしながら席を立ち、

小またでひな壇の横にあるマイクに近寄った。





披露宴会場が、水を打ったように静まり返る。





マイクの前で小さく息を吸った。


そして震える声を抑えるように、ゆっくり、ゆっくりと、祝辞を始めた。


まず自分の立場や名前を簡単に紹介し、

マイクからちょっとだけずれるようにして、ペコリと小さくお辞儀する。




彼女の緊張感が、ぼくにも伝わってきた。




はじめに会社の紹介を語り始めた。

どういうサービスを扱っている会社なのか、詳しく説明し始める。



ぼくは、ちょっといぶかしく思った。


なんだか会社の宣伝を始めたように思ったからだ。

あけみさんは、なにを考えてるんだろう、

緊張しすぎてパニックになっちゃったのか、と心配になった。




でも次の瞬間、そんな心配は杞憂だったと分かった。


あけみさんは、次に、なおふみが職場でどんな仕事をしているのかを、

ゆっくりと、そして詳しく、説明し始めたのだ。



あけみさんが知っている職場でのなおふみを、在りのままに語るためには、

まずバックグラウンドのなる会社について、ある程度説明する必要があったのだ。




職場のなおふみについて、あけみさんの話はつづく。



任せている仕事の内容、それを忠実に行なっていく業務品質の高さを、

難しい言葉や、カタカナを全く使わずに、誰にでも分かる言葉を選んで語っていった。



なおふみの仕事振りを語るその内容には、何の嘘も、誇張も無かった。



あけみさんは、在りのままの職場のなおふみを、

ひとつひとつの言葉をたいせつに選んで、語っていった。



彼女から吐き出されたひとつひとつの言葉は、たどたどしいけれど、

たしかに生きていると感じた。言葉が自然に頭に入ってきてイメージに変わる。

真剣で、それでいて優しく、あたたかな言葉が並んでいった。





ぼくは、ふとミズカミさんを見た。





ミズカミさんは、真剣な眼差しで、あけみさんを見つめていた。

そして、ちょっと大げさと思うくらい、彼女のひとつひとつの言葉に大きく頷いていた。





がんばれ




そんなエールを送るように。強く、たくましく、頷いていた。


仲間の頑張りを支えたいという、熱い気持ちが行動に溢れていた。


さっきまで緊張しているあけみさんを、あんなにおちょくっていたのに、

本番となったら、全力でバックアップをしている。





いい言葉だ、心配ない、そのままつづけろ






そんなメッセージを、強い頷きで、その眼差しで伝えつづけていた。



そんなメッセージが伝わったのか、

徐々にあけみさんの表情に笑顔が浮かび始める。


言葉もなめらかになり、よりいっそう、輝き始めた。




そしてあけみさんは、「最後に、結婚生活の少し先輩として・・・」と、

前置いて、語り始めた。




「ありがとう」とか「おいしい」とか、そういう言葉をたいせつにして欲しいです。

そういう言葉をお互いに掛け合うことで、ふたりの生活は素晴らしくなると思うから。




そして。




語るべき言葉を出し尽くした、あけみさんが、

最後にペコリとお辞儀をした。






彼女のつむぎ出した言葉の数々は、

参列者であるぼくの胸にも、熱く響いてきた。



自然に手が動く。

ぼくは、あけみさんに、そして新郎新婦に、ありったけの拍手を送ろうと思った。






披露宴会場は、

万来の拍手につつまれた。







<つづく>