この世界の全事物の根源は「量子もつれ」と「エントロピー」で説明出来る | bluerose-is-ephemeralのブログ

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近年になって、ついに「青い薔薇」の開発成功が伝えられました。この世にないもの、と云われてきた「青い薔薇」。
あなたにとっての「青い薔薇」とは何か、本ブログを読んで、ぜひ見つめて頂きたいと思います。――それは本当に美しいですか?

【投稿者コメント】


【キーワード】

[量子もつれ]、[エントロピー]、[時空重力意識生命]


【件名】

「この世界の全事物の根源は「量子もつれ」と「エントロピー」で説明出来る/「量子もつれ」が時空を形成する/時間は「量子もつれ」の副産物に過ぎない/意識の根源は脳内の「量子もつれ」だ/重力の起源は「エントロピー」だ/「エントロピー」で読み解く生物学、細胞内への異常タンパク質の蓄積」


【投稿本文】


【1】はじめに


 表題を視ると、現代の最先端科学のキーワードが林立しており、これらのテーマの報告を理解するには、量子力学、多体シュレーディンガー方程式、テンソル解析、トポロジー、位相幾何学等の現代数学や量子物理学や量子化学や量子生物学の知見を駆使する必要があり、解析的に数理科学的に十分理解出来るのは、理工学部・理学部の修士課程の学生の約5%程度で、学部学生では太刀打ち出来ないらしい!

 そこで、以下の記載に於いては、小難しい数学の公式や数学の素養や物理学の知見を必要としない、可能な限り、平易な解説・表現に留めた!

 要するに、一言でまとめると「マクロな宇宙から、ミクロな素粒子・量子まで、"この世の事物(物体や事象)=時空・重力・意識・生命"は、全て、"量子もつれ"と"エントロピー"で説明出来る!」と云う事だ!


【2】「量子もつれ」が時空を形成する


 そもそも、「量子」や「量子もつれ」とは、何か?と云うと、

(1)量子とは

 「量子」とは粒子の性質と波動の性質を併せ持つものだ。その小さな世界では、日常の世界とは異なる物理現象が起きており、これが「量子力学」として体系的に整理されている。

 この「量子」を観測すると、一つの状態だけではなく、複数の状態を取る事があると云う。これが「量子重ね合わせ」と呼ばれる状態だ。

 又、量子力学を起点とするテクノロジーで最も想像しやすい「量子コンピュータ」を例にすると、いわゆるデジタルの世界ならば、1ビットは通常0、若しくは、1のどちらかの状態になるが、量子力学の世界では、0でもあり、1でもあり、測定してみなければわからない、と云う事が起きている。つまり、量子の世界では、0と云う状態と、1と云う状態を同時に取り得る事が可能なのだ。

(2)量子もつれとは

 「量子」にはもう一つ特異な性質がある。量子同士が相互作用をすると、非常に強い「相関」を示す。この為、一方が1ならばもう一方も1、反対に0ならば0の状態を示すと云う事が事前にわかっているならば、一方を測定すればもう一方の状態が確実にわかる事になる。

 「相関」と云うものを日常の出来事に例えて説明すると、例えば「じゃんけん」だ。

 「例えば、AさんとBさんがじゃんけんを100回して100回連続あいこになった場合は、強い相関があるといえる。これは現実には確率としてほぼありえない事だが、強い相関を示す一つの例になっている。もちろん現実の世界でも、AさんとBさんが前もって同じ順番で出す約束をしていたり、次に出すものを会話したりするなど、連絡を随時とりあいながらじゃんけんをすると相関を強める事は出来るが、現実世界で考えうる影響を取り除いた状況で、非常に強い相関関係を示すのが量子の世界なのだ」

 この様な、現実では起こり得ない、つまり古典力学では説明出来ない強い相関関係にある事が「量子もつれ」と呼ばれている。



 2022年のノーベル物理学賞は、「量子もつれ光子を用いる実験に依って、ベルの不等式が破れている事を示して、量子情報分野を創始した実績」に依り、3名の博士に送られた。

(3)量子コンピュータ

 「量子もつれ」の存在が明らかになり、「量子」を使ったテクノロジーは更に注目を集めている。量子通信、量子センシングなど様々な技術が世界中で研究されているが、特に「量子コンピュータ」はニュースなどで見かける回数も増えてきた。

 現在のスーパーコンピュータでも、数千年も掛かる複雑な計算が、「量子コンピュータ」だと、数秒で解けてしまうので、偽AIの、役立たずAIの「生成AI」の次の、ホットトピックは、「量子コンピュータ」に移っており、日本、中国、欧米間で激しい開発競争が起きている!

 「量子コンピュータ」では、「誤り訂正技術」がこれまで以上に必要とされている。

 「量子を使ったアプリケーションでは、近年、量子コンピュータが注目されている。現在のデジタルコンピュータに比べて高速な演算処理を可能にしているのも、量子重ね合わせ、量子もつれといった量子のふるまいを利用しているからだ。只、量子もつれを生かすにしても、極めて小さい量子の世界で起きている現象なので、ノイズの影響を受けやすくなる、古典デジタルコンピュータでは大きな問題ではなかったノイズの影響は、量子コンピュータで大きな計算をする為の極めて大きな障害となるので、量子ビットに生じたエラーを訂正する「量子誤り訂正技術」の実装が必要になって来る」

(4)量子もつれが時空を形成する仕組みを解明/重力を含む究極の統一理論への新しい視点

 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の大栗博司主任研究員とカリフォルニア工科大学数学者のマチルダ・マルコリ教授と大学院生らの物理学者と数学者からなる研究グループは双方の分野の連携に依り、一般相対性理論から導き出される重力の基礎となる時空が、更に根本的な理論の「量子もつれ」から生まれる仕組みを具体的な計算を用いて解明した。本研究成果は、一般相対性理論と量子力学を統一する究極の統一理論の構築に大きく貢献するものだ。

(5)発表内容
 

 
添付図1_【図1】ホログラフィー原理の模式図:一般相対性理論では、ある時空に含まれる情報は、その内部ではなく表面に蓄えられるとする原理。この原理を用いると、重力の量子化という難問を、空間の表面に住んでいる、重力を含まない別の理論としてより簡単に定式化する事が出来る。

 我々の世界には、現在、「電磁気力」「強い力」「弱い力」そして「重力」の4つの力が存在しているが、これらの力は宇宙がはじまった当初は一つの力としてすべて統一されていたと考えられており、力の統一について物理学の実験や理論の側面から様々な研究がなされてきた。重力を含む4つの力を統一して説明する理論の理解は、宇宙のはじまりを探求するKavli IPMUの重要な課題でもある。現在の所、ミクロの世界を記述する量子力学を基礎とした理論を用いて、「電磁気力」「強い力」「弱い力」の3つの力を説明出来る事が分かっている。

 一方、天体の動きや宇宙の進化などマクロな世界での現象は、アインシュタインの唱えた一般相対性理論で上手く説明出来る。この時、重力は3次元の空間と1次元の時間とをまとめた4次元の時空の性質に帰す事で説明されるが、ミクロな世界の現象は量子力学で説明されており、重力も含めて一つの理論で統一的に説明する為には、重力も、又、量子化される必要があるとされてきた。

添付図2_【図2】量子もつれと一般相対性理論の間の対応関係:赤い点は一般相対性理論の時空に於ける局所データを表す。本研究では青い半球で表される量子もつれに依って、これを計算する方程式を導いた。

 そうした、一般相対性理論と量子力学を統一する理論を構築する上で、「ホログラフィー原理」が重要である事が分かっている。「ホログラフィー原理」では、ミクロな世界での重力を、重力を含まない量子力学の問題として説明する事が出来る(添付図1)。それに依り、重力現象、更には、その基礎となる時空自身さえも、重力を含まない理論から量子効果(注1) に依って生まれるとされりが、量子効果から時空が生じる仕組みは、よく理解されていなかった。

 Kavli IPMUの大栗博司主任研究員、カリフォルニア工科大学数学者のマチルダ・マルコリ教授と大学院生らの物理学者と数学者からなる研究グループは、量子効果から時空が生じる仕組みの鍵は量子もつれ(注2)である事を見出した。特に、エネルギー密度の様な時空の中の局所データが、量子もつれを用いて計算出来る事を示した(添付図2)。

 「量子もつれ」とは、異なる場所にある粒子のスピンなどの量子状態が独立に記述出来ないと云う現象で、アインシュタインは「奇怪な遠隔作用」と呼んだ。本成果はこの「量子もつれ」と云う現象こそが重力現象の基礎となる時空を生成すると云う事を示したものだ。

 大栗博司主任研究員は「量子もつれは、ブラックホールの情報問題(注3)や防火壁問題(注4)など、一般相対性理論と量子力学の統一に関する深い問題と関わっている事が知られていた。今回の論文は、この「量子もつれ」の現象と時空間の微視的構造との関係を、具体的な計算で明らかにしたものだ。量子重力(注5)の研究と、情報科学との連携は、今後ますます重要になると考えられ、私自身、引き続き量子情報(注6)の研究者との共同研究を進めている。」と話す。

 一般相対性理論から導き出される重力現象の基礎となる時空が、更に根本的な理論の「量子もつれ」から生まれる仕組みを解明した本成果が、一般相対性理論と量子力学とを統一する理論の構築に向けた研究の前進に大きく寄与すると期待される。


【3】時間は「量子もつれ」の副産物に過ぎない


 イタリアのフィレンツェ大学(UNIFI)で行われた研究に依り、時間を否定するもう1つのシュレーディンガー方程式が発見され、時間は「量子もつれ」現象が生みだす副産物の様な存在である事が示された。

 研究者達は、「私達が時間の経過を知覚すると云う事は、物理世界に何らかの「もつれ」が織り込まれている事かもしれません」と述べている。

(1)時間は存在するのか?

 時間とは、私達の日常や科学の礎を支える、極めて基本的な概念の一つだ。

 時計の針が刻む秒や、昼から夜へと移り変わる一日の流れは、時間が絶対的に存在すると信じさせるに十分だろう。

 しかし、20世紀以降、物理学の飛躍的な発展に依って「時間は本当に普遍なのか?」と云う根本的な疑問が浮かび上がってきた。

 もしかすると、時間はある特定の条件下で姿を現す“派生的”な性質なのではないか、と云うのだ。

 アインシュタインの一般相対性理論では、時間は空間と共に「時空」を形づくり、重力の影響で歪んだり遅れたりする。

 私達が当たり前だと思っていた「絶対の時間」は、観測者の場所や状態に依って変わる相対的な存在である事が示された。

 例えば、強い重力場に近いほど時計はゆっくり進み、重力の弱い場所ではわずかに速く進む事が予測される。

 実際、東京大学と理化学研究所の研究チームは、超高精度の可搬型光格子時計を東京スカイツリーの地上階と展望台に設置して、約450メートルの高度差でも1日あたり4ナノ秒ほどの進み方の違いが測定出来る事を示した。

 まさに、わずかな高さの違いさえ時間に影響を与える証拠と云える。

添付図3

(2)量子力学での時間の概念/「PaW機構」

 一方で、量子力学では時間の概念は大きく異なる。

 量子重力では、宇宙全体をひとつの量子状態で表す事を想定するが、例えばホイーラー・デウィット方程式などを解くと、宇宙は「時間に依存しない」定常状態であるかの様に見えてしまう。

 イメージとして、宇宙全体が「巨大な1枚の写真」に収まっている様なもので、そこには動きも変化も時間の流れも見当たらない。

 しかし、私達は日常的な経験から「時間が流れ、物事が進化して、変化が起こる」と感じる。

 例えば、朝起きて、昼食をとり、夕暮れを迎えて、夜眠りにつく―こうした「変化」を当然のものとして受け止めている。

 では、なぜ「全体」から見ると静止しているはずの宇宙で「中にいる私達」の視点からは「流れる時間」や「進行する出来事」が見えるのだろうか。

 この「宇宙全体は時間無依存なのに、内部の観察者には変化が知覚される」と云う矛盾の様な現象を「時間の問題」と呼ぶ。

 ページ=ウッターズ(PaW)機構は、この相対性理論と量子力学の間に存在する「時間の問題」を解決する一つの考え方だ。

 例えば、普通に考えれば、宇宙全体が「静止した写真」だとしたら、その中にははじめから終わりまで、全ての出来事が1枚の画面に収まっていて、「過去から未来へと進む時間」など存在しない様に見える。

 しかし、「PaW機構」は、「宇宙」と云う巨大な写真の中に、ある種の「時計」役を果たす部分を組み込み、その「時計」が示す位置を基準に、私達が「今」を選び出すと云う仕組みを考える。

 この考え方に依れば、私達は「時計」がどんな時刻を指しているかを基準にして、宇宙全体の中から「今」に対応する部分を切り出す事が出来る。

 これに依って、他の全ての出来事が、あたかも「時計の針の進み」に合わせて変化していく様に見えるのだ。

 この考え方では、宇宙を「時計」とその他の部分がもつれ合った構造として見る事で、アインシュタインが描いた「空間と時間が一体になった時空」と云うイメージと、量子力学の「外から与えられた時間パラメータに沿って、系の状態が確率的に変化する」と云う捉え方を、内側から結び付ける事が出来る。

 そこで、今回、フィレンツェ大学の研究チームは、2つのシステムの間に「量子もつれ」を形成し、そのもつれから「時間」が生まれるのではないか─と云う「PaW機構」の発想を検証する事にした。

 すると、物理学の世界でよく知られたある方程式が、まるで時間そのものが存在しないかの様に書き換わってしまうと云う、驚くべき結果が得られた。

(3)時間を否定するもう1つのシュレーディンガー方程式

 時間はどんな姿をしていたか?

 謎を解明する為に研究者達は、2つのモデル系を用意した。1つは周期的に振動する「調和振動子」(以下「振動するシステム」)、もう1つは「磁気時計」だ。

 これら2つの系は直接的な相互作用は行わないにも関わらず、量子力学的な「もつれ」状態にある。

 「もつれ」とは、お互いの状態が密接に関連し、一方を測定すれば他方の状態についての情報が得られる様な特別な関係だ。

 もつれ状態では、片方の状態が確定すると、もう片方の状態に関する情報も同時に確定すると云うユニークな特徴がある。

 そして、振動するシステムは何かが進んでいる状態、つまり「時間の流れ」と結び付けられ、磁気時計は上向き・下向きと云ったスピンの「向き」が「針の位置」や「時計盤の数字」の様な役割を担い、私達が「今、このくらい時間が経った」と読み取る手段となる。

 この2つが量子もつれの関係にある場合、振動するシステムが「高いエネルギー状態」なら、時計(磁気時計)のスピンが「上」を向く、システムが「低いエネルギー状態」なら、時計のスピンは「下」を向く・・・と云った関係が発生する。

 研究では、この2つの量子もつれの状態が調べられ、実際に「振動するシステムのエネルギー状態」と「時計のスピンの向き」の関係が期待通りに対応しているかをチェックされた。

添付図4_時間を否定するもう1つのシュレーディンガー方程式

 その結果、ある条件下では、振動が続けば続くほどスピン向きが時間の経過に合わせて変化して、まるで時計が時刻を刻む様に機能する事が確かめらた。

(※特に磁気時計のエネルギースケールが十分大きい場合に、磁気時計が時間を古典的に記述出来る様にになる)

 更に興味深い事に、磁気時計の量子状態を部分的に観測(射影)する事で、振動する調和振動子の進化を記述する「方程式」を導き出せる事がわかった。

 しかも、その方程式は、シュレーディンガー方程式の形式を持ちながら、外部の時間パラメータの代わりに、磁気時計の量子状態が「時間」として機能しているのだ。

 つまり、シュレーディンガー方程式の時間パラメータを、時計系の自由度(量子状態)に依存する形で「再解釈」する事が出来た。

 より簡易な言い方をすれば「シュレーディンガー方程式の時間要素の代わりに量子状態を当てはめる事が出来た」とも言える。

 驚くのは、こうしたアプローチに依っても、シュレーディンガー方程式の構造自体は殆どそのまま保たれる点だ。

 通常なら、外部から押し付けられるはずの「時間(t)」が、今度はシステム内部の量子もつれに依って自然に定義される訳で、私達が当たり前だと思っていた「時間」が、実は量子相関から浮かび上がる「指標」に過ぎないと云う、新しい見方を示唆しているだ。

 この結果は、従来は「外部から与えられる」と思われていた時間を、量子状態そのものが生み出す事を意味する。

 この事から研究者達は「時間は量子もつれの副産物である」と結論している。

 研究者達は最後に「私達が時間の流れを感じるのは、物理世界に何らかの「量子もつれ」が織り込まれているからかもしれません。

 もし、宇宙のどこにも量子もつれが存在しなかったとしたら─一部の理論では、宇宙の誕生当初はそうだった可能性が示唆されているが─私達には何も動いていない「完全に静止した世界」が見えていたはずです」と述べた。

 今回の研究に依り、これまでの考え方に挑戦する新たな時間に対する考えが示された。

 研究結果は、時間がただの進行する概念として私達に直感的に感じられる一方で、その本質は「量子もつれ」の中に潜んでいる可能性が示唆されている。

 量子力学では、物質が互いに独立しているのではなく、相互に絡み合っている事がしばしばあり、これは時間と云う現象にも深く関わっているかもしれない。

 そして「時間は量子もつれの副産物」─この一見大胆な考え方は、私達の世界観を根本から揺さぶる。

 宇宙全体が静止した状態であるとしても、その中の一部分を「時計」として取り出し、その中の量子もつれを利用する事で、私達は「今」と云う瞬間を感じ、過去と未来を区別する事が出来るのだ。

 例えるなら、止まったままの写真の一コマ同士を重ね合わせる事で、あたかも画像が動き出したかの様な錯覚を起こしている訳だ。

 もし宇宙に量子もつれが存在しなければ、私達は動きのない凍結した世界しか認識出来なかったかもしれない。

 新たな観点は、物理学と哲学の狭間で、私達が「時間とは何か」を改めて考え直す大きなきっかけとなるだろう。


【4】意識の根源は脳内の「量子もつれ」だ


 意識の謎を解明する糸口がついに見つかったのか。最新の研究は脳内で起きている「量子もつれ」が脳を同期させ、意識を発生させていると説明している。

(1)脳内は「量子もつれ」で同期している

 以心伝心と云う言葉もある様に、お互いの事を知り尽くした一卵性双生児の兄弟であれば、離れていても一方が何を考えているのかわかりそうな気もするが、量子論の世界では2つの粒子が分かちがたく結びつく「量子もつれ」と云う現象が起きている。量子もつれにある関係の2つの粒子は、驚くべき事に物理的にどれほど離れた距離にあっても相関関係が維持されているのだ。つまり、この2つの粒子は時空を超えて結び付いている事になる。
 

 
添付図5

 かのアルバート・アインシュタインは、量子もつれを「不気味な遠隔作用」と呼ぶなど、この現象は発見当時最も聡明な人々さえ困惑させ、今日でもそのメカニズムは謎に包まれている。

 そして、この量子もつれが我々の脳内で起きている事が最新の研究で報告されている。

 脳内の量子もつれこそが意識を発生させているのかも知れないと云うのだ。

 中国・上海大学の研究チームが今年8月に「Physical Review E」で発表した研究では、神経細胞の軸索(他の神経や体組織に電気インパルスを伝達する繊維)を取り囲むミエリン鞘(しょう)と呼ばれる脂肪質の物質が、光子の量子もつれが可能な環境を提供している事が示唆されている。そして、これは、我々の意識を説明出来る可能性があると云う。

 「脳内の意識は、何百万ものニューロンの同期した活動に掛かっているが、その様な同期を調整するメカニズムは依然として不明だ」(同研究論文より)

 そこで研究チームはミエリン鞘に着目したのだ。

 「結果は、ミエリン鞘に依って形成された円筒形の空洞が、振動モードからの自発的な光子放出を促進し、かなりの数のもつれ合った光子ペアを生成出来る事を示唆している」(同研究論文より)

 研究チームは、赤外線光子がミエリン鞘にどう影響し、どの様な振る舞いを見せるのか、詳細に記述した数学モデルを構築した。これに依り、量子もつれになった光子ペアの生成が促進され、神経系内で一種の「量子通信リソース」として機能している可能性がある事が示唆された。

 つまり、脳内の情報伝達は一般的物理学を超えた量子論現象で行われており、そして、この現象こそが我々の意識である、と云うのだ。
 
添付図6

(2)人間の脳とコンピュータの決定的な違い

 人間の脳はコンピュータに似ている事が長い間主張されてきたが、今回の研究ではそれが覆される事になる。

 進歩を遂げたAIは今や囲碁や将棋で人間を凌駕する様になってはいるが、莫大な電力を消費するAIに比べて、人間の脳ははるかに「省エネ」で、極めて効率的に動作している。

 その秘密は脳内で発生している量子もつれにあり、量子もつれこそがAIが持たない意識そのものである、と云う事になるのかもしれない。古典物理学に基づいて動作しているコンピュータが人間の脳に追い付くには超えられない一線があるのだ。
 
添付図7

 人間の脳に量子特性があると云う考えは新しいものではなく、イギリスの物理学者ロジャー・ペンローズとアメリカの麻酔科医スチュワート・ハメロフは、1990年代に意識の「オーケストレーションされた客観的還元」モデルの概念を提唱した。それ以来、多くの研究で脳にはいくばくかの量子特性があり、それが意識の生成に一役買っている可能性が示唆されている。

 「量子もつれはこの(進化の)役割を担う理想的な候補となるだろう」(チェン氏)

 まずは、この現象がマウスの脳などの生物学的な環境で確認される必要があるのだが、そのプロセスは難しいだろうと研究者らは率直に認めている。更に、量子もつれが意識の生成に重要な役割を果たしていると云う考えは残念ながら、今の所は、主流とは言えない地位にある。

 しかし、科学は存在の真の性質を見極める為の仮説と厳密なテストを粘り強く続ける作業でもある。かつては「遠く離れた不気味な作用」の様に見えた現象が、我々の心の理解を大きく変える可能性は十分にあるのだろう。


【5】重力の起源は「エントロピー」だ


添付図8_Credit:Ginestra Bianconi . Physical Review D (2025)

 「そもそも重力って、なぜあるんだろう?」―そんな疑問を抱いた事はないだろうか。

 リンゴが木から落ちる瞬間を見てニュートンが「万有引力」を思い付いた様に、私達の身の回りには重力が常に働いている。

 しかし、ブラックホールの熱的な性質や量子情報理論との関わりが指摘されるにつれ、「引き寄せる力」と云う単純なイメージを超えた奥深い仕組みがあるかも知れないと考えられてきた。

 今回、イギリスのロンドン大学で行われた研究に依って、重力がエントロピー起源であるとする革命的な理論が提唱された。

 「エントロピー」は私達の身近な例で云うと、コーヒーをかき混ぜている内に、ミルクと混ざり合って元の状態には戻りにくくなる、あの「乱雑さ」や「不可逆」の度合いに似た概念だ。

 この「エントロピー」が、何と重力の根源と結び付く可能性があると云うのだ。

 論文著者のビアンコに氏は「この研究は、量子重力がエントロピー起源である事を提唱し、重力場が暗黒物質の候補となる可能性を示唆している」と述べている。

 更に、研究者達は「時空の曲がり具合」を表す計量(メトリック)と、「物質自体が持つ曲がり」を表す別の計量を用意して、両者の「量子相対エントロピー」こそが重力を生むと提案した。

 これは単に重い物体があれば時空が歪んで重力が生まれるとする、時空一辺倒な既存の解釈の仕方とは大きく異なり、重力も時空と物質の相対的な関係性(量子相対エントロピー)に依って決まる可能性を示している。

 研究内容の詳細は、2025年3月3日に『Physical Review D』にて発表された。

(1)重力の捉え方が変化してきている


添付図9_重力の捉え方が変化してきている

 重力を「空間と時間の曲がり」と考えるのは、ニュートン力学から一大飛躍を遂げたアインシュタイン以来の見方だ。

 一方、ブラックホールが持つエントロピーや、そこから放出されるホーキング放射が明らかになると、重力と「情報」や「熱」的な概念との奇妙な結び付きが注目を浴びてきた。

 ブラックホールの表面積がエントロピーと関係すると言われる様に、どうやら見た目の「曲がり」だけでは片づけられない深い構造が隠れているらしい。

 つまり、

従来:空間の曲がりとして重力を解釈してきた
近年:情報や熱的な概念などエントロピーから重力を解釈する

 と変化してきた。

 とは云え、アインシュタインが提示した「時空の曲がりが重力を生み出す」と云う考え方自体を否定している訳ではない。

 「重力の背後にある仕組みとして、エントロピーや量子情報の概念が深く関わっている可能性がある」と云う見方が近年いっそう注目されている、と云う状況だ。

 例えば、ブラックホールの「表面積」に比例するとされる「エントロピー」は、量子情報理論との関わりを強く示唆し、実際に「ホログラフィック原理」を通じて、ブラックホール内部の重力現象を境界の量子系で記述する枠組みも提案されている。

 「量子情報理論」には、私達が通常の生活であまり触れない考え方が多くある。

 その一つが「量子相対エントロピー」と云う指標で、量子状態の違いを測る「距離」の様なものだ。

 これまで、この概念は量子ビットの世界やブラックホールの情報パラドックスなどに使われてきたが、「そもそも時空そのものを「量子の状態」みたいに扱えないか?」と云う大胆な発想が浮上している。

(2)重力がエントロピーから発生する理由

添付図10_重力がエントロピーから発生する理由

 今回の研究は、この視点を更に推し進め、「時空の計量」と「物質場が誘起する計量」が「量子相対エントロピー」の様に関係すると考えたのが特徴だ。

 例えば、量子相対エントロピーとは、ふたつの量子状態(密度行列)がどれくらい異なっているかを「エントロピー的な距離」として測る指標だ。

 今回の研究では、まるで「時空自体がひとつの量子状態」であるかの様にとらえて、「時空の計量」と「物質場が誘起する計量」をそれぞれ独立した量子状態の様に扱っている。

 そして、「時空と物質がそれぞれもつ「曲がり具合(計量)」の差異」を「量子相対エントロピー」で表している。

 イメージとしては、空間の曲がり方を示す「時空の計量」と、物質が作り出す「もう一つの計量」が、似た形をしていれば、差は小さく、その分「重力(曲率)」を引き起こす要因も小さくなる。

 一方、両者の形が大きくズレていれば、それを埋め合わせる様に空間が歪み、結果としてより強い重力として観測される可能性が高まる、と云う考え方だ。

(※「エントロピーが大きいか小さいか」と云う絶対的な値そのものよりも、「両者(時空と物質の計量)のずれがどれだけ大きいか」が重要になるので、例え「時空側のエントロピーがとてつもなく大きい」としても、物質側の計量とほぼ同じ形(=相対エントロピーが小さい)であれば、重力が強く出現する訳ではない。あくまで「エントロピー的な差(量子相対エントロピー)」が鍵であって、その差を大きく生み出すのが「時空と物質の計量のミスマッチ度合い」だと捉えるのが、この理論の特徴だ。)

 このふたつの計量が近ければ「違い」は殆どどないが、大きく食い違うほど相対エントロピーが増大して、結果的にそれが重力の強さや時空の曲がり具合に影響を与える―と云うのが直観的なイメージだ。

 例えるなら、度数の異なるメガネを二重に掛けた時に見える風景のズレを数値化る様なもので、「ズレ」が大きいほど世界の見え方が歪み、その「歪み」こそが重力として現れる訳だ。

(3)エントロピーが映し出す量子重力への道

添付図11_エントロピーが映し出す量子重力への道

 今回の研究では、「トポロジカル場」と呼ばれる一風変わった物質場が重要な役割を果たす。

 高校レベルの物理では主に、例えば温度の様に「数値」だけで表されるスカラー場や、風の様に「向きと大きさ」を持つベクトル場が登場するが、この理論では、それより次元が一つ上の2形式―「面積」や「表面の向き」などを表す概念―も併せて扱う。

 こうする事で、「スカラー」「ベクトル」「2形式」と云った複数の状態を一度に眺める事が出来、空間のゆがみ方や広がり方をより多面的に記述出来る様になるのだ。

 次に、先ほどから述べている様に、時空と物質の曲がり方の違いをエントロピーの差として計算する。

 ふつうの一般相対性理論では、時空の曲がりを表す計量は一種類だけだ。

 しかし、本研究では、「物質そのものが勝手に描く曲がり」と云う別の計量を導入して、これと時空本来の計量とのズレをエントロピーの様な指標で測っている。

 そうすると、両者の差異が「重力」と云う形で現れる可能性が見えてくるのだ。

 しかも研究者達は、「G場」と呼ばれる「補助的な場」を導入して、この「二つの計量の食い違い」をうまく調整出来る様にした。

 例えるなら、二つのばねを繋いで揺れを抑えるショックアブソーバーの様な役割を持つと云える。

 これに依って、重力の方程式が高次の微分(複雑な揺れを生みやすい項目)を含まず、理論全体が不安定にならないと云うメリットも得られた。

 実際にコンピュータ上でシミュレーションすると、理論の予測とよく符合する事が示唆された。

 普通の状況、つまりエネルギーや曲率が小さい領域では、二つの計量がほぼ同じ形を保つ為、相対エントロピーは小さく、結果として一般相対性理論と大差ないふるまいに近付いた。

 一方、ブラックホール近傍や宇宙初期の様な「極端な環境」では、物質場が作る計量と時空計量に大きなミスマッチが生じやすく、相対エントロピーが増大して強い重力や独特の空間の歪みを生む可能性がより高いと考えられる。

 エントロピー的に見ると、この「ズレ」を何とか「緩和」しようとする作用が働き、それが小さいながら正の宇宙定数と云う形で現れると主張されている。

 エントロピーが高い、つまり、乱雑さが増えて安定から外れそうな状態は、例えるなら「部屋が散らかりすぎて、どこに何があるか分からなくなりつつある状況」と云えるだろう。

 時空の計量と物質の計量が大きく違えば違うほど、部屋の散らかり具合(乱雑さ)が増していくイメージで、それを「片付け」様とする力が重力の方程式の中で「宇宙を押し広げる”効果(正の宇宙定数)として表れるのだ。

 更に大切なのは、この「部屋の散らかり具合」を測る指標が「情報的なズレ(量子相対エントロピー)」である点だ。

 要するに、時空と物質の「違い」が大きいほど乱雑さが増えて、その乱雑さを減らそうとする過程が「重力」として観測されるのではないか―これが「重力はエントロピーから生じる」と云う主張の根本にある考え方だ。

 言い換えれば、重力とは単なる「空間の曲がり」ではなく、「時空と物質の情報的なギャップを埋め様とする動き」としても理解出来かも知れない。

 まとめると、

1.時空計量と物質の計量の差(量子相対エントロピー)が、重力の規模や挙動を左右する。
2.極端な環境下では、その差が大きくなり、「歪み」=重力を緩和するメカニズムとして宇宙定数が生まれる。
3.この宇宙定数は「エントロピーを通じた時空の押し広げる力」とみなせる。
4.結果として「重力はエントロピーから生じる」と云う結論を導ける可能性がある。

 となる訳だ。

(4)エントロピー重力が映し出す未来―G場の暗黒物質説と量子重力への道

添付図12_エントロピー重力が映し出す未来―G場の暗黒物質説と量子重力への道

 今回の理論が示唆する「重力はエントロピーの結果」と云う考え方は、私達が宇宙を理解する上で、これまで当然としていた「空間の曲がり」だけの説明を超えて、空間や時間そのものを「情報」や「不可逆性」の観点で捉え直す必要があるかも知れない。

 例えば、ブラックホールの内部構造や、「外部に何も情報を伝えない謎の塊」と云う従来のイメージにも新たな光が当たる可能性がある。

 情報理論と統計力学の立場から、「ブラックホールのエントロピーは、実は重力を生む要因そのものと深く結び付いているのではないか」と考えられるからだ。

 更に、この見方は宇宙膨張にも新しい解釈をもたらす。

 一般相対性理論で「与えられる」ものとして扱われてきた宇宙定数が、エントロピーの流れの結果として自然に生じる可能性があるとすれば、宇宙がなぜ加速膨張しているのかを、より根源的なレベルで説明出来るかも知れない。

 「G場」と云う「補助場」が暗黒物質の様に振る舞うシナリオも、その延長線上に提案されている。

 但し、これはあくまで一つの仮説であり、観測データや実験を通じて更に検証が必要だ。

 もちろん課題は残る。

 フェルミオン(電子など)やゲージ場(電磁気力など)を含めた場合に、エントロピー起源の重力がどの様に振る舞うのか、極端な高エネルギー領域でも理論は破綻しないのかなど、理論的にも数学的にも解明すべき事は多くある。

 しかし、もしこのアプローチと観測データがうまく符合すれば、私達の「空間とは?」「時間とは?」「重力とは?」と云うイメージそのものが大きく変わるかも知れない。

 例えば、ブラックホール周辺の現象や、初期宇宙のゆらぎを精密に観測して、そこにエントロピーの痕跡を見い出す事が出来れば、「重力=エントロピー」と云う図式が一層説得力を帯びるはずだ。


【6】「エントロピー」で読み解く生物学/細胞内への異常タンパク質の蓄積


(1)DNAが保持する情報はエントロピー/細胞のエネルギー変化dU

 DNAが保持する情報は、それらのエネルギー変化と並んで重要である。情報はエントロピーと相互に置き換える事が出来る。エントロピーから考える事に依って、代謝、光合成から得られるエネルギーとDNAが保持する情報、細胞が形成する秩序ある構造を統一して考える事が出来る。

 「DNAがコードする情報を複製、修復に依って安定に維持する」「細胞、組織、体全体の秩序ある構造を形成し維持する」と云う仕事d'W(この仕事でエネルギーを消費するので、値はマイナス)は、細胞が食物や光から得て保持しているエネルギーd'Q(外部から得たエネルギーなので、値はプラス)と同等であり、両者を足し合わせてとなっていると考えてみる事も出来る。

(2)細胞内・細胞表層のエントロピーを考える・測る/細胞内への異常タンパク質の蓄積

 細胞内に異常な構造(活性酸素などに依る不可逆な修飾と架橋形成、又は、異常な高次構造の形成)を持つタンパク質が蓄積する事がある。それらはパーキンソン病などの病気の原因にもなる。

 細胞内への異常タンパク質の蓄積に起因する疾病には、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病などがあり、これらの神経変性疾患に共通する特徴は、神経細胞内に凝集した異常タンパク質の蓄積だ。異常タンパク質は細胞毒性を持つ為に、神経細胞変性や細胞死を引き起こす。

 更に、同様な疾病に、アミロイドーシスがあり、これは、アミロイドと呼ばれるナイロンに似た線維状の異常蛋白質が全身の様々な臓器に沈着して、機能障害を起こす病気の総称だ。複数の臓器にアミロイドが沈着する全身性のもの(全身性アミロイドーシス)と、ある臓器に限局してアミロイドが沈着する限局性のもの(限局性アミロイドーシス)に分けられる。

 特に、心臓にタンパク質が溜まる病気は「心アミロイドーシス」と呼ばれ、アミロイドと云う異常なタンパク質が心臓に沈着して心機能を障害する病気だ。

 この「心アミロイドーシス」を引き起こす原因として、「多発性骨髄腫」がある。

 「多発性骨髄腫」は、血液細胞の一つである「形質細胞」ががん化する事で起こるがんだ。形質細胞は、白血球の中のリンパ球の内、B細胞から分化(未熟な細胞が成熟した細胞になる事)した細胞で、体内に侵入してきた病原菌やウイルスなどの異物と戦う為タンパク質である「抗体」を作り、感染や病気から体を守る。しかし、形質細胞ががん化して異常細胞(骨髄腫細胞)になると、異物を攻撃する能力がない、役立たずの抗体(Mタンパク)を作り続ける。骨髄腫細胞が骨髄の中で増殖して、作られたMタンパクが血液や臓器の中へ蓄積されて行く事で、全身に様々な症状を引き起こす。

 形質細胞ががん化する「形質細胞腫瘍」には、いくつかの種類があるが、最もよく知られているのが「多発性骨髄腫」だ。日本では人口10万人当たり6.0人が発症すると云われており、全てのがんの約1%、血液がんの約10%占めている。若い人の発症は稀だが、年齢が上がると共に発症数は増え、高齢化と共に今後更に増加が予想されている。



 細胞内への異常タンパク質の蓄積に於ける、エントロピーに対しては、

・細胞内に正常な構造を持つタンパク質のみが存在する状態
 から、
・細胞内に正常な構造を持つタンパク質と異常な構造を持つタンパク質が共存する状態

 に、変化する事になる。

 二つの状態があるとすると、情報エントロピー的に考えると、2項エントロピーと考える事が出来る。

 正常な構造を持つタンパク質のみが存在する状態では、0(エントロピーが最低)になる。

 異常な構造を持つタンパク質が増加すると、細胞内のエントロピーが高くなる。

 異常タンパク質の蓄積は、「散逸構造」と関連付けれるかもしれない。

 細胞はグルコースなどの栄養源を取り込む。

 それは「加熱」に相当する。

 電子伝達系は、グルコースなどの栄養源から生じたNADHなどからの電子を受け取り最終的に酸素分子へ渡す。

 これは、入ってきた熱、エントロピーが出ていく・散逸する事に相当する。

 液面から熱が散逸している。

 その際に秩序ある構造が出現する事がある。

 液体の底面が熱せられて熱くなり、表面はそれよりも低温になる。

 しかし、その状態は「上が重く下が軽い」ので、不安定である。

 その為、熱せられた液体が表面に浮き上がり対流(構造)が生じる。

 それによって鍋に入っている液体のエントロピーが低下する。

 「バスタブモデル」と云うものにも見立てる事が出来る。

 バスタブに液体が流れ込む。

 底についている出口から流れ出す。

 流出速度がバスタブ内の液体の量に比例するなら、バスタブ内の液体の量は一定になる。

 バスタブ内の液体の状態が均一で安定なら、何も構造はない。

 液体が「上が重く下が軽い」の様な状態になるなら、バスタブ内に対流の様な構造形成が起き得る様になる。

 細胞なら、栄養源から電子が酸素へ流れる。

 それに依って「上が重く下が軽い」に相当する事が起きる。

 細胞内の構造・秩序が形成される事で、その不安定な状態が安定な状態に移行する。

 同時に、エントロピーが低下する事になる。

 電子伝達系の機能低下に依って、正常な熱・エネルギーの散逸が起きなくなると、正常な散逸構造としての秩序ある構造が出現する事が出来なくなる。

 液体の上の方からも熱を加えた様な事に相当する。

 それに依って、細胞内のエントロピーの低下が起きにくくなってしまうと云う事もあるのかもしれない。

 細胞内で「上が重く下が軽い」に相当する事とは、どんな事だろうか。

 リン脂質は両親媒性物質である。

 リン脂質分子が複数存在する場合、ばらばらに存在すると疎水性の部分が水分子と接触する。

 それは不安定で、「上が重く下が軽い事に近い。

 ミセル、リン脂質二重層などの構造を自発的に作る事で安定になる。

 構造、秩序が自発的に形成される。

 電子伝達系に電子が流れてプロトンの濃度差が生じる。

 濃度差を利用してATP合成酵素が働く。

 余り、「散逸構造」と云う感じはしない。

 単なるエネルギーの変換の様に見える。

 人間は複雑な脳や神経を持つので、ゲノムサイズ、遺伝子数も大きいと考えられていた。

 しかし、ゲノム配列が決められると、案外ゲノムサイズは大きくなく遺伝子数は2万くらいであると言われる様にになった(最近もっと多いらしいことがわかってきたが)。

 ゲノムサイズが大きくなると、それがもつエントロピーはどう変化するだろうか。

 むやみにゲノムサイズが増えると、意味のある情報を持たせる事が出来にくくなる。

 意味のある情報を持たないDNAはエントロピーを高くしてしまう。

 そうなると、DNAに由来するエントロピーを保持する為に、束縛されるエネルギーが大きくなり過ぎて生存に不利になるのかもしれない。

 「生物のゲノムの大きさには、それが持つエントロピーと細胞全体のエネルギー(内部エネルギーに相当する)の兼ね合いで上限が生じる」と云う事が推定出来る。

 しかし、ゲノムの大きさが小さ過ぎると十分に情報をコード出来ない。

 下限も存在するだろう。

 下限と上限の間に最適な大きさが存在するのかも知れない。

 その状態を選択する事で増殖に有利になるのなら、そうなりやすいだろう。

 最近マイクロRNA、ノンコーディングRNAなど遺伝子の数が更に増えようとしている。

 それらが増えるほど、ゲノムのエントロピーは低下する方向に変化する事になる。

 無駄なDNA領域を削る事でも、エントロピーを下げる事が出来るが、それよりも意味のある情報をコードする様に塩基を変化させる事でエントロピーを下げた方が有利なのかも知れない。

 動物のミトコンドリアゲノム、バクテリアゲノムの様に殆どの領域が情報をコードしていれば、エントロピーは小さくなる。

 この場合は、無駄な領域を削る事でエントロピーを下げている。

 ゲノムサイズを小さくしないと都合の悪い事があるのだろう。

 Alternative splicing(選択的スプライシング)などは、小さいゲノムサイズで、エントロピーを増やさずに、タンパク質の種類を増やそうと云う仕組みなのかも知れない?

 複数の粒子が相関を持って運動すると、そうでない場合に比べてエントロピーが低下する。

 http://www.chem.tsukuba.ac.jp/kazuya/S_CondMattPhys.pdf 筑波大学 齋藤先生

 2個の区別出来粒子があり、それぞれ状態が+、-があるとする。

 相関がないと、状態の数は4通りになる。

 相関があると、状態の数は2通りに減少する。

 物質の研究では、巨視的な量である熱容量の測定に依って、エントロピーを導く。

 「エントロピーの定量は系のミクロな情報を与える」と云う事が書かれている。

 「マイクロアレイ」の結果では、最初からミクロな情報が見えている。

 物質の研究と反対方向に、ミクロな情報から巨視的な状態量を導く事が必要かも知れない。

 複数の遺伝子間の発現には、相関が見られる事が多く、優れたデータベースが作られている。

 複数の遺伝子の発現に相関があると云う事で、そうでない場合よりも、エントロピーが低下する事になる。

 熱ショック時には、熱ショックタンパク質のグループだけが強く発現する。

 そう云う状態は、エントロピーが低い事になる。

(3)生物、細胞で「抽象的だが重要な量」を見いだす

 熱力学では温度、圧力などの測定出来る値から、抽象的だが重要なエントロピーや内部エネルギーを導き出す。

 生物学では、遺伝子発現や物質の量を測定する。

 それらの値の平均や分散を計算したり、塩基配列をタンパク質の配列に翻訳したりする。

 「抽象的だが重要な量」を計算する事は、酵素反応のKm値などがそうかも知れないが、余りない。

 生物、細胞で「抽象的だが重要な量」を見い出す事が、今後、必要になるかも知れない。

 化学や物理と言った他の学問分野の成果を解説した本を眺めていると、測定出来量だけで推論、議論するのでは限界があると思える。

 測定法も処理能力、精度の両方でもっと進歩しないといけない。

 「細胞内・細胞表層のエントロピー」を測定する方法を考えないといけないのかも知れない。

 細胞内に存在する様々な制御機構には、細胞内のエントロピーで制御される様なものがあるかも知れない。

 生化学:エントロピーは化学的性質に勝る、2018年11月22日、Nature 563, 7732

 https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/95215

 あるタンパク質の尾部に存在するドメインが、特定の高次構造を持たない無秩序な状態、すなわち、エントロピーが高い状態へ移行する事に依って、そのタンパク質の取り得る立体構造を制限して、他の因子と結合しやすい状態に保っていると云う現象が見い出された。


【用語解説】

(注1) 量子効果:
量子力学に特有の効果。原子などミクロな世界の現象に顕著に現れる。

(注2) 量子もつれ:
アインシュタインらが1930年代に行った思考実験に端を発する概念。アインシュタイン自身は、量子力学の問題点を指摘する為に考え出したものであるが、その後実験でも確認され、最近盛んに研究されている量子情報や量子計算の理論(注6参照)で基本となる考え方である。19世紀までのいわゆる古典物理の世界では、物理的状態に関する情報は、個々の自由度(例えば粒子の位置や速度)に分解して理解する事が出来たが、量子力学の世界では、物理的状態を分解して理解する事が出来ない事がある。例えば、遠く離れた2つの粒子に関して、一方の粒子についての観測が、もう一方の粒子の観測結果に影響を与える事がある。これを量子もつれと呼ぶ。

(注3) ブラックホールの情報問題:
ブラックホールは質量、電荷、角運動量(スピン)と云う3つの量だけでしか区別が出来ないとされる。崩壊してブラックホールになる際に、その物質がどの様な特性を持っていたかと云う情報は全て失われる。しかし、物理学者スティーブン・ホーキング博士の計算に依ると、ブラックホールは量子力学的効果に依って、熱を持ち、エネルギーを放出する事で、質量を失って蒸発してしまうとされる。情報問題とは、ブラックホールを形成した際の物質の特性の情報が、蒸発に依って失われてしまうかどうかと云う問いである。量子力学の原理は情報が失われない事を要請するので、それがホーキング博士の計算とどの様につじつまがあっているのかが問題なのだ。

(注4) 防火壁問題:
ブラックホールの廻りに事象の地平線が出来て、遠方の観測者からは地平線の中の出来事を観測する事は出来ない。量子力学的な効果から、観測者が地平線を無事に越えられるとすると矛盾が起きる。地平線が防火壁の役割を果すべく高温となり、観測者を焼き尽くすのではないかという仮説がある。

(注5) 量子重力:
量子化された重力を指す。

(注6) 量子情報(量子計算):
量子力学では、異なる状態(例えば、箱の中のネコが生きている状態と死んでいる状態)が同時に実現する事が可能であり、これを状態の重ね合わせと呼ぶ。この状態の重ね合わせと云う特性を利用して計算を行う新しい計算法が量子計算である。例えば、インターネット取引で使われるRSA暗号は、大きな数の素因数分解が難しい事に基づいたものであるが、量子計算が実現すると、因数分解が効率的に出来る様になるので、RSA暗号が解けてしまうとされる。



【各項の引用元】

【1】はじめに→無し

【2】「量子もつれ」が時空を形成する
・「量子もつれが時空を形成する仕組みを解明~重力を含む究極の統一理論への新しい視点~」(2015年5月27日)
 https://www.ipmu.jp/ja/20150602-entanglement 

【3】時間は「量子もつれ」の副産物に過ぎない
・「時間は「量子もつれ」の副産物に過ぎないとする研究結果が発表」(2024年12月21日)
 https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/167844 

【4】意識の根源は脳内の「量子もつれ」だ
・「意識を生み出しているのは脳内の「量子もつれ」だった!? 人間とAIの決定的違いがついに判明か」(2024年09月19日)
 https://web-mu.jp/paranormal/46998/

【5】重力の起源は「エントロピー」だ
・「「重力がエントロピー起源」であることを示す革命的理論が発表」(2025年3月10日)
 https://trilltrill.jp/articles/4045742

【6】「エントロピー」で読み解く生物学/細胞内への異常タンパク質の蓄積
・「「エントロピーから読み解く生物学」を読み解く」
 https://home.hiroshima-u.ac.jp/naka/wiki/wiki.cgi?「エントロピーから読み解く生物学」を読み解く#i72