二人で寄り添う傘の中
、駅までの道のりは時間にして約10分ほどだろうか・・・
言いたい事、聞きたい事はたくさんあるのだけれども、僕は言葉を失っていた。
元気でさばさばした性格の由美も、言葉を口にしなかった。
スクランブル交差点、信号が変わるその時間がとても長く感じていた・・・
「相変わらず、やさしいね」そう呟くと彼女は傘を持つ僕の右手に手を重ねた。
由美が少しでも雨に濡れない様にと、彼女の方に傾けた傘を押し寄せた。
「車道側を歩いてくれる事も、歩幅を合わせてくれる事もなんだか懐かしく感じちゃうな・・・」
そう言うと、由美は髪を指に巻きつけてクルクルさせていた。
「由美のその髪の毛いじるクセも懐かしいな。」
言葉にそれだけの時間が流れた事を改めて認識してしまった二人は、駅まで言葉を交わす事も無く辿り着いてしまった。
由美はどんよりした空を見つめながら僕に言った
「祐二はこれから、地元に帰るの?」
「ああ、2時間ちょっとの電車の旅さ。」
「由美、この傘あげるから持って行きな」
そう言って僕は傘を由美に差し出した。
「傘要らない。」
由美は背中を向けて、うつむいた
そして、「じゃあ、ここでお別れなのかな・・・」そぉ小さく呟いた
僕は曖昧にしたままの二人の関係をハッキリさせないと行けない事を解っていたが、どうしても口に出来なかった。
彼女の背中を見ると、とても小さく・・・少し震えている様に見えた。
言わなきゃ・・・
僕は彼女に背を向けて
「ここでお別れだ、次の一歩を踏み出せばお互いの日常が待ってる。」
「今まで、ハッキリ言えなくてごめんな」
そう言って僕は駅のホームへと歩き出した。
僕は卑怯者だった。
彼女と向き合って、その言葉を言えなかったからだ。
その時だった・・・背中から聞こえる走り寄る音が聞こえたその瞬間
ドカッ!!背中を思いっきり蹴られて僕はふっとだ!!
振りかえると彼女は仁王立ちで僕の目の前に立っていた。
「祐二!言いたい事はそれだけか!」
「距離を置こうって言われた日から私はずっと待ってんだよ!!」
「お互いの日常が待ってる?何浸ってんだ!」
「私の日常には、まだ祐二が居るんだよ。私のお気に入りの青い傘、いつ取りに行くか雨の日はずっと考えて居たんだからね!」
「まさか、捨てたなんて言ったらぶっ飛ばすから!」
そう言うと、僕の胸ぐらを掴みあげて来た。
しばらくぶりに逢った彼女はとても女性らしかったので、こんな性格だった事をすっかり忘れて居た。っと、言うかパワーアップしてる気がする・・・・
「あ・・・あるよ。由美のお気に入りの、青い傘。」
彼女はその傘を僕が持っている事にホッとしたのか、いつもの彼女に戻った。
「その傘持ってるって事は、祐二も私の事思ってくれてたって解釈していいのかな・・・」
「もちろんさ。」
彼女はニコッと微笑み
「そっか、じゃあその傘取りに行くぞ!」
「お・・・おう。」
体制を崩したままの僕の手をひっぱり彼女は駆け出した。
ちょっと、強引で凶暴だけど・・・彼女の笑顔には敵わないな・・・と、僕もその手を強く握りしめた。
もう、離さないぞ。っと心に誓いながら
夕闇に走る電車の窓には僕と由美の寄り添う姿が映っていた。
~END~