「盗み聞きたぁ随分良い趣味してるじゃないか」
 頭上から冷ややかな声が降ってきて、メグは思わず身をすくめた。
 あまり眠れず早々と目が覚めてしまい、気晴らしに散策に出かけた。森を歩いていたらジョーがサロニードを呼び出すところを見かけ、会話に聞き入っているうちに足下の枝を踏んでしまった、それだけだが言い訳は出来ない。盗み聞きをしたのは紛れもない事実だから。
「……ごめんなさい」
 やや間をおいて、メグは口を開いた。ジョーの表情を見るのが怖くて顔は伏せたままだ。
「どこから聞いてた?」
「……全部。でも、そうじゃないかとは思ってた。サロニアには火事で行方不明になった王子がいて、生きていたらジョーと同い年。それに、王家には代々伝わる十字架のペンダントが二つあったって。竜騎士の鎧が着られたのもジョーが末裔だから……」
 メグは図書館の歴史書で得た知識を一気にまくしたてたが、舌打ちの音で口をつぐんだ。
「黙ってりゃ勝手にベラベラ喋って……今聞いてたことは全部忘れろよ、いいな!」
 ジョーが踵を返す。咄嗟に呼び止めていた。
「待って!」
「なんだよ、話すことはもうねえよ」
「ねえお願い、アルスの支えになってあげて!あの子はもうひとりなのよ!」
 父の肖像画の前で泣き崩れていたアルスの姿を思い出し、メグは叫んだ。いつの間にか目から涙がこぼれていた。
「城には大臣も高官もいるんだ、ひとりなわけないだろ」
「そうじゃなくて……!まだ子供なのに王さまになって、押し潰されそうなのにそれでも頑張っているのよ!分かってあげてよ!」
 ジョーは目をそらしたままだった。
「……あいつはもう一国の王だ、ひとりでやっていかなきゃいけないときだってある。オレの出る幕はないんだよ。そこまで言うなら、お前が支えてやればいいんじゃないか?」
 メグの頭に血が上り、次の瞬間にはジョーをひっぱたいていた。乾いた音が静まる森に響き渡る。
「最低っ!」
 メグは身を翻し、泣きながら走り去る。ジョーは打たれたところに手を当てた。
「くそっ……本当に勝手なことばかり……」