キーボード・マガジン1998年10月号、平沢進インタビュー。 | 独りぼっちじゃBO-BAN-BON -BABY!お前がいなきゃお金持っててもしょうがないぜ!?-

キーボード・マガジン1998年10月号、平沢進インタビュー。

『音質が音楽の表情き与える影響はそれほど大きなものではない』



昨年末に発表されたP-MODELのアルバム『電子悲劇/~ENOLA』は、スタンドアローンのハード・ディスク・レコーダー、ROLAND VS-880をレコーディングの中心に据え、各メンバーはそれぞれ自宅でトラックの制作を行いながら、そのデータをインターフェイスなどのネットワークでやり取りするという、現代的なツールを使用した新しい音楽制作スタイルを提示するものだった。
そのP-MODELを率いる平沢進が7枚目のソロ・アルバムをリリースした。そこでは歪んだリズムを美しく覆うストリングスや深いリバーブ感に彩られたボーカル、そして物語を綴る奇妙な言葉の数々(その片鱗はタイトルにも現れている)といった、前作の流れを受けた平沢ワールドが展開されている。レコーディングはボーカルとギターを除いてすべて自宅で行われ、その中心となったのはROLAND VS-1680だ。そのほかの自宅にセットされた機材は長年にわたって使い込まれてきたものたちばかりで、その中にはシーケンサーとして使用されているAmiga(注①)も含まれている。最新の録音ツールであるハード・ディスク・レコーダーと、10台にも満たない音源類、そしてレアなコンピューターというシステムは、平沢進の音楽世界を理解する上で重要な鍵のひとつだ。



【MODは思想が音に反映されてこそ面白い】

●作曲はどこから手を付けますか?
〇曲によって違うんですけど、主にベースかサンプリングからスタートしますね。
●サンプリングするのはリズム系の音ですか?
〇リズム系のサンプリングっていうのは、あまり私は使わないんです。最初は声ものから入ります。具体的には声の断片を数種類、例えば5種類サンプリングしたとしますね。それを鍵盤の1オクターブずつぐらいにアサインしていって、それぞれピッチを合わせてから鍵盤上の演奏でエディットしてつないでいくんです。それをいったん聴いた後に、ひっくり返した方がいいものはリバースしたりしながら、テンポ合わせをしてリズムを合わせていきます。
●声のループを作るわけですか?
〇そうです。
●サンプリングの素材は?
〇今回はインドものが多かったですね。友人が現地で買ってきたカセットなんですけと。それをひと通り聴いて、大体の印象を覚えておくんです。後はその中から偶然に当てはめていく、探していくという感じです。
●そこまではまだサンプラー上だけの作業ですね。
〇そうです。そのサンプリングのつなぎをシーケンサーでループさせながらコードを当てていきます。そして次にすぐ弦のアレンジに入ります。
●今回もストリングスが多様されていますが、ストリングスようによく使う機材は何ですか?
〇もう10年以上も前に入手したKURZWEILの弦のサンプル音をAKAI S1100で鳴らしてます。もともとはS900でマルチサンプリングしたものですから、いわゆるスペック的にいい音ではないんです。でも、それから、“これに入っている弦の音がいいから”って人に勧められて買った機材もあるんですが、それが騙されたというか(笑)。結局使っているのは、KURZWEILのサンプリング音です。今のところ、それにかなう弦の音は見つかってないですね。
●どこが気に入ってるんですか?
〇暗いんです。暗くてヘビーなんですよ。で、空間があるんですよ。また、例えばバイオリンをサンプリングするときって演奏者は慎重にピッチを出そうとしますよね。だから結果として音がのっぺりしてたりするんだけども、私が持っているものは、けっこう乱暴に録ってあるみたいです。何人か重なってるんですけども、ビブラートもかなりいい加減に入ってたりとかしてるんですよ。それが結果として良くなってるんです。
●リズムは何で作るんですか?
〇ROLANDのR-8で組むのが基本です。あれは実は潰れたんですよ。普通に使ってて基板が割れて。
●基板が……。
〇リズムはリアル・タイムにパッドで打ち込んでいくんですけど、それで基板が割れてしまって。今、自分でバイパスかけている状態なんですよ。
●自分でバイパスをかけるっていうのは?
〇その割れた基板のところに……。
●ジャンパー線を渡してるんですか?
〇そうです。
●自分で修理してしまったんですね。
〇あれしか持ってないんで、修理に出して戻ってくるまで待ってるヒマはなかったんです。
●なるほど。
〇あと今回はリズム隊にMOD(注②)を使ったりしてます。
●それは平沢さんが作られたMODですか?
〇いえ、インターネットでドイツ辺りのサイトからダウンロードして、その中から取り出して使ってます。作家の名前とかは覚えてないんですけど、でも大体ドイツ系が使いやすいですね。ジャンル的にはまず大ざっぱにテクノから入って、その先ジャングルに行ったりとかその辺を徘徊して、もう大量に取ってきてますから、どれがどれだか覚えてないです。
●使用される徘徊MODは16ビットの44.1kHzで作られたものですか。
〇いやいや、8ビットの22.050kHzとか。16ビットのものは大体において落としてこないんです。
●それはなぜですか?
〇やはりMODは何といっても、思想みたいなものが音に反映されてないと面白くないじゃないですか。だから8ビットの22.050kHzで4トラックしか使わないという、その制限の中で意気込んでいるようなハッカー気質のものが面白いです。また下位互換とか、ネットワークの中で動き回るとかっていうはっきりとした思想を持ってる人たちの方が、音楽的にダントツ面白いですね。
●アルバム中でMODが使われている曲を教えていただけますか?
〇1曲目の「TOWN-0 PHASE-5」、それから「ナーシサス次元から来た人」もそうです。あとは「万像の奇夜」、「WORLD CELL」かな。


【路上の老人が歌うルクトゥンがかっこいい】

●弦アレンジは弾きながら考えるんですか?
〇そうです。最近はSuperJAM!のバルトークあたりを使って一度作ったものを修正していったりもしますね。SuperJAM!というのは自動アレンジ・ソフトで、つまりバルトーク風にアレンジしてくれるわけです。見た目はおもちゃっぽいんですけど、めちゃめちゃ奥深いんですよ。あれは膨大なスペックですね。過去に自分が演奏したデータを入れておいて、コード関係に応じてそのデータを反映させることができるんです。そういった機能とバルトークを合わせて使ったりしてます。またSuperJAM!はBars&Pipes(注③)の中に今でいうプラグイン的に組み込んで使えるんですよ。だからBars&Pipes上で、低音部はバルトークのベース、上に乗っけていくのは自分のフレーズというような作り方ができるんです。
●Webのレコーディング日記にルクトゥンというものを取り入れているという記載があったんですが、これは何ですか?
〇タイの山岳地方の民謡みたいなもんなんですけど、タイの大衆歌謡の持っているリズムみたいなものですね。例えば、タイでディスコに行くと、最初はテクノがかかってるんですが、後半になってくるとルクトゥンの嵐になって、それまでおとなしかった人たちが、ウワーッと盛り上がる(笑)。カッコいいですよ、ルクトゥンは。キーボードで、リズムが出たりベースがオート・アルペジオで鳴ったりするやつがありますよね。そういうのを使って路上でルクトゥンを演奏するおじいさんやおばあさんがいるんですよ。それがめちゃかっこいいんですよ。テクノなんです(笑)。


【ハード・ディスク・レコーダーを使えば通常の1/4の時間でレコーディングできる】

●今回もタイでレコーディングされていますね。
〇タイに行くのはボーカルだけ録りに行くんです。そのためにまずここでVS-1680を使ってツー・ミックスを作ります。それで残りのトラックは全部ボーカル用に確保してタイにVS-1680を持っていくんです。帰ってきてから今度は楽器ごとにバーチャル・トラックを使ってひとつひとつ録っていきます。
●VS-1680の利点は何ですか?
〇移動が簡単なので、現地の機材を使わないという状況ではすごく威力を発揮してます。タイでは録音機材を使わないんです。また楽器の録りも自宅でやってますので、スタジオにフルセット持っていってレコーディングする1/4の時間で済みますね。その分タイに行って遊ぶんです(笑)。
●音質的には、直接楽器からスタジオのマルチに録音したほうが良いという意見もあると思うんですが……。
〇そういう意見は多いですね。でも、まず比べてみないと分からないですよね。また、例えばエンジニアの人でもVSは音が変わるとか言う人がいるんですが、別にその人に聴かせるわけではないし、ユーザーの許容範囲の中でやるわけで、その中では何ら問題はないです。大体ミュージシャンがそれでいいって言うんだから問題はない。例えば、デジタル・アウトからデジタル・インで録音していかないと音が悪くなると言う人は、尺度がないっていうことでしょ。スペックを元に音の良しあしを語るのは、その人自信の尺度を持っていないということだと思います。また、カセット・テープが主流だった時代に、どこのリスナーがカセット・テープはヒス・ノイズがあるとか、S/Nが悪いとか言ったのかと。そういうものが音楽の表情に影響を与えるというのは、そんなに大きな割合ではないわけですよ。




注①:Amiga
動画制作に優れた能力を持つパソコン。各種の音楽ソフトも存在し、主にマルチメディアの分野でその力を発揮。CMMODORE社が生産販売を行っていたが95年に倒産、一時期その開発は停滞状態にあったが、現在はGATEWAY2000が新オーナーとなりAMIGA INTERNATIONALを設立、新機種の開発を行っているほか、互換機等も存在する。

注②:MOD
Amiga上で生まれた音楽ファイルで、現在はMacintoshやPCでも再生および作成が可能。小容量で高音質のファイル作成が可能なためインターネット等のネットワーク上で配布されることが多い。単に聴くだけであれば各種の再生専用プレイヤーがあり、さらにトラッカーを使えばそのMODで使われているサンプルを取り出すことができるので楽曲を作り変えることも可能。中には改変されることを目的として発表されるMODも。ZDNETのM-ZINEでは平沢進監修によるMOD講座を開講中。

注③:Bars & Pipes
Amigaのシーケンス・ソフトで、パイプ・ツールと呼ばれる独特の機能を持ち、ディレイ/オクターブ/コンプ等、各種MIDIエフェクトをかけることができる。SuperJAM!とともに現在はフリーウェア化しており、Bars & Pipes Software Siteで入手することができる。

インタラクティブ・ライブ・ショウ Vol.6 “WORLD CELL”
10/21(水) 東京中野サンプラザ
10/27(火) 大阪I.M.Pホール

インタラクティブ・ライブとは、幾つもの分岐点を持ったストーリーに沿って進行するロールプレイング的コンサート。ステージ上にはスクリーンが掲げられ、CGやビデオ映像が映し出されるほか、文字情報も表示され観客はそれに従ってストーリーに参加する。これまでの例では、各分岐点での進行方向の選択は観客の拍手の大きさで決定され、判定はスクリーンに表示されるレベル・メーターでリアル・タイムに表示された。またその他のインターフェースが使用されることもある。Ghost Webにはその詳細がレポートされており、今回のインタラクティブ・ライブに関する情報も掲載されている。



以上がインタビュー記事のほぼ全文です。
うわ、文字数ぎりぎり!!(笑)