~「習慣」~

結婚を控えた皆さんが心に刻み付けておかなければいけないことがもう1つあります...

それは今まで全く意識していなかった習俗や自分には迷信としか思えないような決め事などを
信じている人々を決して否定しないという「習慣」をつけることです。
慣習そのものを認めないのは個人の自由ですし、
価値観を押し付けてくる相手には丁重にお断りしなくてはならない場合もあるでしょう。

しかしその慣習に大きな意味を感じている人々の感性を傷つけてはいけません。

結婚を通じて皆さんは今まで交流のなかった地域の独特な慣習に直面します。 
また自分の価値観の中では考えられないような些細なことに
大きなこだわりを持つ人々と関わりができてきます。

今までは自分の価値観に合わないものからは距離をおいてかかわり合わなくても済みましたが、
結婚に伴う義務の中には「自分の価値観と合わない人でもその人間性は受け入れていく」
という大きな課題が伴うのです。

些細な家庭ごとのルールからしても違います。
子供の頃と違ってあまり他の家庭を訪れる機会の少なくなった皆さんは、
よその家に行って時々驚くことがあるでしょう?
私の家では食事中テレビをつけてはいけないというルールがあったため、
テレビを見ながら食事をする習慣のある方には居心地が悪かっただろうと思います。

同じような違和感は生活環境の違う人達が集まれば必ず感じることでしょう。

些少な違いならば慣れれば良いですし、(同居でないかぎり)
その「家」にいる間だけ合わせればいいのですが、
こと結婚となると両家の価値観の違いはとかく問題になりやすいものです。

「結婚式とは両家の親がやるもので、結婚する当人達は
大人しく決められた通りに動けばよい」という習俗の地域に所属する御両親には
「当人同志の好きなように...」などという考えには、なかなか到達しません。

また、質素倹約を美徳とする地域の御両親に
「息子達の結婚式に1000万かけるので半分出して欲しい...」
などと言っても了承なさる訳がありません。
「自分達の分際に合った結婚式で充分だと思います。」とおっしゃるでしょう。

真っ向からお互いの家の価値観が正しいと主張し、一歩も引かなければ
必ずと言っていいほどその結婚は暗礁に乗り上げます...

結納に関する習俗も地域によってまちまちです。

首都圏では結納という言葉すら使われず、
顔合わせのお食事会と婚約記念品の交換が主流になってきていますが、
決して日本中が同じように変わってきているわけではありません。

私の記憶に印象的だった方に、結納を楽しみに娘を育ててきたとおっしゃる御両親がいらっしゃいました。
そのお父様は、相手方のお父様に「馬鹿馬鹿しいのでお食事会程度にしておきましょう」
と笑顔で言われたことに大層傷ついてらっしゃいました...
決して結納金の問題ではなかったそうなのです。 
手塩にかけて育ててきた娘をどれくらい評価してくれたかが
形になることが嬉しいのだとおっしゃるのです。

それは皆さんが婚約指輪に感じる喜びと似たものなのかもしれません...
「うちの娘はお食事会程度で済まされてしまう程粗末な女なんでしょうか...」
そのお父様は震えながらくやし涙を堪えてらっしゃいました...

冠婚葬祭において「普通は」とか「一般的には」などという言葉は、全国規模に使えるものではありません。
地域ごとにその土地の「普通」や「一般的」があり、
その地域の人々はその慣習の中で育ってきたのですから...
様々な習俗や文化があり、それらは「考え方が古い」とか「奇習」などという言葉で
一蹴されるべきではないのです。

大切なのは両家がお互いの婚礼に関する慣習を説明し合い、
相互理解を深めながら相手の価値観を認めることです。

自分の地域の慣習を押し付け合うのではなく、
お互いの慣習を学び敬意を払って合意点を見出す努力をするのです。

その上で結納の方法や挙式、披露宴の形態を決めて行くことが
両家の納得のいく婚礼に繋がるのでしょう。

言葉で表すほど簡単なことではありません。
とても繊細に進めて行かなくては容易くひびが入ってしまいます。

そしてそのミッションのナビゲーターは本来の意味で行われていた
「仲人」システムがなくなってしまった現在、「おふたり」がやるしかありません。 
おふたりが自分の親と同じ立場でぶつかり合っていては上手く行くはずがないのです。
お互いの家の慣習を理解し、ふたりで力を合わせて両家の親に説明する役割を果たさなくてはなりません。

勿論おふたりの希望も認められて然るべきです。
おふたりが思い描く婚礼のイメージを両家のご両親にご理解いただくための
プレゼンテーションは綿密な準備の上で行ってください。

とても辛く面倒なことかもしれません... 意外に楽しいことかもしれません...

でもその共同作業を成し遂げたとき、御両親はおふたりを立派な「大人」として認め、
心からおふたりの結婚を祝福してくださることでしょう!

どうか力を合わせてがんばってください!
なかなか上手くいかなくても後悔を残さないようベストを尽くしてください!

おふたりの幸せに向かって...