エイジ737

 

惑星ベジータに似た赤い惑星でベジータは一人座って、非常食用の食事をしていた。

 

そこへナッパから通信が入ってきた。ナッパの声は明らかに動揺していた。

 

 

 

ナッパ「ベジータ様!聞こえますかい?」

 

ベジータ「・・・何だ?」

ナッパ「たった今フリーザ様より通信が入りまして何でも、惑星ベジータが消えちまったそうですぜ?」

 

ベジータ「ほう・・・それで?」

 

ナッパ「原因は巨大な隕石が衝突したとかで・・・生き残ったサイヤ人は俺達を含むごくわずかだとか」

 

ベジータ「ふーん。それで?」

 

ナッパ「い、いや・・・別に。それだけです」

 

ベジータは通信を切った。

 

ベジータの周りにはおびただしい数の異星人の死体が積み重なっている。

 

ベジータ「フン!この惑星もほぼ全滅だ。フリーザ様にもう少し手応えのある星をお願いしなければな」

 

ベジータは死体に囲まれて、非常食をもくもくと食べていた。

 

この会話もどうせ、フリーザが傍受しているだろう。

 

こちらの反応を伺っている、そんな事を考え、胸くそが悪くなる。

 

惑星ベジータの消滅やベジータ王が死んだ事はどうでもよかった。何も感じなかった。

 

その瞳は何の感情も写ってはいなかった。

 

その時ベジータ王子はまだ5歳になったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

エイジ764

 

それから歳月は過ぎ

 

おびただしい数の異星人の死体はもうどれくらい積み上げてきたのかわからないくらいになっていた。

 

常に強さを求め、弱い者は容赦なく葬ってきた。

 

それが当たり前の日常だった。

 

白い手袋はいつも血に染まっていた。

 

その手に触れるものは常に殺してきた。

 

そいつが自分と同じ体温を持ち、さっきまで生きていたという感覚を遮断するために手袋をはめ、返り血が自分の身体に触れないようにアンダーもブーツもプロテクターも身体をきっちりと覆い被せ、直に肌に触れないように、誰も入って来れないように神経を常に張り廻り、すべてを遮断していたつもりだった。

 

 

 

 

それなのに・・・・

 

この地球に来て、カカロットを待つうちに、ここが戦場でないためなのか、勝手がつかめないでいた・・・

 

あの女のやることと言ったら・・・目障りだ・・・・

 

 

・・・こんな環境でこんなに長く過ごすこともいままでなかった・・・

 

次の標的は人造人間というどれくらいの強さかわからない得体のしれない者だったはいいとして・・・

 

設備も衣食住も完備で、ここにいると余計な事を考えすぎるようになっていた。

 

 

しかも未来から来たという少年も・・・俺を差し置いて超サイヤ人に超化しやがった。

 

俺はこのまま、超化することができないのか!!

 

ベジータ「あ!・・・しまった!!!」

 

俺とした事が、考え事をしすぎた。

 

 

重力室は一瞬に大爆発した。

 

瓦礫から立ち上がったことは覚えていたが、

血相を抱えてあの女が俺に手を差し伸べた記憶が最後で

 

ベジータ「俺にさわるな・・・」

 

・・・意識は遠くなった。

 

 

 

 

 

ベジータ 「ここはどこだ?」

 

 

ベジータは何もない空間にひとり立っていた。

 

歩こうとして、足が重く上がらない。。。

 

足下を見ると無数の血まみれた手が俺を引きづり下ろそうとしていた。

 

ベジータ「は、離せ!!」

 

バランスを崩して前のめりに倒れた。無数の血まみれた異星人たちが闇の中へ引きづり下ろそうとしていた。

 

払いよけようともがき、後ろを振り返ると、

 

今まで俺が殺して来たであろうおびただしい死体の山が先が見えないくらいに積み重なっていた。

 

耳元で【お前もようやくこっちへくるんだ!!俺たちと一緒に。まっていたんだぜ】と声が響く。

 

どんどん重なっていく冷たい死体の中に引きづりこまれて息が出来なくなってくる。

 

ベジータ「どけ!!!さわるな!!!貴様らと一緒にするな!!!!」

 

【なぜ?殺したんだ?】

 

ベジータ「貴様らが俺に刃向かうからだ!!!」

 

【抵抗せずに命乞いをした者も殺したな】

 

ベジータ「そんな奴は目障りだ!!」

 

【女、子どももいたな。全滅させたな】

 

ベジータ「当たり前だ!!!余計な生物が生き残っていたら俺が殺される!!!」

 

【フリーザにか?】

 

ベジータ「!!!」

 

【結局、お前は弱虫だ!!!だからフリーザにも殺られたんだ】

 

ベジータ「ち、違う!!!俺は・・・もっともっと強くなって奴を殺すつもりでいた」

 

【でも結果はどうだ?もう諦めろ。フリーザはカカロットと未来の少年が倒してくれた。】

 

ベジータ「まだ・・・カカロットとは決着はついてない!!」

 

【超サイヤ人にもなれないのに?うしろをみろ。こんなに死体の山を築いてお前は今まで何を得た?】

 

ベジータ「俺は・・・」

 

【何も感じないのか?肉が裂ける感覚・・・血が流れる感覚・・・幾度なく経験してるだろう?】

 

ベジータ「そんなもの、いちいち氣にしていたらキリがない!!!」

 

【見て見ぬ振りか?お前の心はどこにある?】

 

ベジータ「その選択しかなかったんだ!!!俺は!!俺の生きる価値は殺戮の中しか生まれない!!他のやり方なんて俺は知らない!!そんな事以外誰も教えてくれなかった、生き残るためには力こそがすべてだ!!!心なんか邪魔なだけだ・・・」

 

【だから何も感じない振りをするのか?だから何も見ない振りをするのか?】

 

ベジータ「最初からそんな心は持ち合わせてなんかいない!!!そんなのを期待する方が悪い!!すぐに裏切る奴らばかりだ!!!」

 

【つまらない人生だったな。それでもう満足か?お前の命はもう消える】

 

ベジータ「俺は死ぬのか?」

 

【そうだな。お前はもう生きることに飽き飽きしているようだからな】

 

ベジータ「・・・」

 

【心を閉ざして楽しかったか?】

 

ベジータ「何も感じない・・・もともと何も感じないからそんな感情もない。ただ、悔しいだけだ。このままで逝くには折角一度生き返ったのに何一つ成し遂げていない・・・」

 

身体が死体に埋まりかけたその時、光が差し込んだ・・・

 

【ベジータ】

 

優しい女の声が聞こえた・・・

 

そのとき、手に人の温もりを感じた・・・誰だ?あのうるさい女か?

 

思わず光の方向に手を伸ばした。

 

ベジータ「俺は・・・まだ生きたい・・・」

 

いきなり光に包まれて一瞬にして死体の山が光に解けていった。

 

 

 

 

ベジータ「・・・ここは?」

 

ベジータはベッドに包帯を巻かれて点滴を打たれて酸素マスクを付けて寝ていた。

 

そうだ・・・重力室が爆発したんだった・・・どれくらい眠っていたんだろうか。

 

身体がまだ重い・・・ゆっくりと起き上がろうとして横に体勢を傾けたとき、目の前に青い巻き毛が映った。

 

ベジータ「!!!・・・な、なんだ?」

 

ブルマがベッドの隅に頭をつけてうたた寝をしていた。ブルマの両手はベジータの右手をつかんでいた。

 

夢の中で感じたのはこれだったのか・・・

 

ベジータはブルマを起こさないように、ゆっくりと手を外し、酸素マスクを取って身体を起こした。

 

そして自分の右手とブルマを見つめた。

 

女の手はとても温かった。

 

手袋をしていないからそう感じただけだ・・・ずっと看病してくれていたのか?

 

思わず寝ているブルマの髪を触れようとして、思いとどまり手を止めた。

 

ベジータ「俺の手は血にまみれてる・・・」

 

手袋をしてもしてなくてもその感覚は・・・人を殺す感覚は染みついている。

 

感じないふりをしていただけだったととうに氣付いていた。

 

ここにいると・・・余計な事ばかり考えてしまう。

 

知らない内に涙が頬に伝わっていた。

 

この感情はどこからくるのか・・・ベジータは涙を拭き取り思考を止めた。

 

これ以上考えたら違う感情が湧き上がってくるのを恐れていたのだった。

 

 

 

 

 

エイジ765

 

どこでどう間違ったのか・・・なんでこんな状況になったのか

 

目の前の女は俺の腕の中で抱かれていた。

 

誘ったのはむしろあいつで俺じゃない・・・

 

 

ブルマ 「キスしたいなと思って・・・」

ベジータ「・・・後悔しても知らんぞ」

ブルマ 「ベジータ、私、あなたが好きよ、きっと」

ベジータ「俺にはそんな感情はない」

ブルマ 「そうかしら」

ベジータ「ブルマ・・・」

俺はあいつの名を口にし、キスをして、そのまま、ベッドに倒れこんだのは覚えてる。

 

ブルマは俺の事を好きだと言った。

 

こんな血みどろの手に染まってる俺を受け入れるなんてこの女はどうかしている。

 

今日は色々・・・いや、ここずっと違うことを考えていた。

 

あの女の事が頭から離れなくなっていた。

 

避ければ避けるほどあいつはからんでくるし、振り払ってもむしろ食らいついてくる。

 

怪我をして油断しただけだ。心の隙を突きやがって・・・

 

でも今のこいつはすごくきれいだ・・・

 

それに温かくて、柔らかくて、とても氣持ちがいい。

 

こんな風に感じたのはどれくらいぶりなんだろう。

 

もう考えることさえ面倒になってきた。

 

呼吸がお互い荒くなってくるのが分かる。

 

心の奥で胸が締め付けられる感情が勝手に湧き上がってくる。

 

ベジータ「ブルマ・・・」

 

抑えきれない高まりが更にひとつになることでますます強くなっていった。

 

ブルマ「あ・・・」

 

あいつはとろけそうな声で俺にしがみついてくる。

 

ブルマ「・・・ベジータ」

 

俺は更に強くあいつを抱き締めていた。

 

怪我をした傷の痛みもむしろ刺激されて更に氣が上りつめてキスを合図に弾けた。

 

 

 

 

 

そのまま覆い被さったままで呼吸をしてるとブルマは同じ呼吸で蒼い瞳で俺を見つめていた。

 

自分の顔が赤くなるのを感じて何か言いかけようとしていたブルマの唇を塞いだ。

 

不思議な事にそのキスでまた感情が高ぶってしまった。向こうも同じ氣持ちのようだった。

 

何も言わないのに呼吸する度、すべてが伝わっているような感覚に陥った。

 

身体の芯がとても熱くなって同じようにあいつの芯も溢れて俺に絡んで熱くなる。

 

呼吸も鼓動もひとつに交わり、もうこのままでいたいと思うくらい身体がひとつになる。

 

俺が知らなかっただけなのか、こんなに相性がいいのか、サイヤ人と地球人は。

 

それともこいつだけなのか・・・怪我をするまで苛立っていた自分の感情はとうに収まっているどころか

 

むしろ心のどこかで安らかな感情が、張り詰めていた緊張がすっかりなくなっていた。

 

 

腕の中でブルマは眠っていた。俺は戸惑いながらも絡まった髪を撫でていた。

 

その内、強い睡魔に誘われてそのままブルマを抱えたまま眠ってしまっていた。

 

意識が遠くなる中、ここで寝ても大丈夫なんだと氣を許してしまった俺がいることを感じた。

 

もうそんな睡眠は覚えていないくらい遠い昔のような氣がした。

 

 

5歳のあのとき・・・惑星ベジータが消滅したと聞いた時

 

もう戻る場所も肉親と呼べる者も無くしてしまったのだ。

 

自分の身は自分で守るしか選択はなかった・・・少しでも油断したら同じように消滅してしまうんだろう。

 

今、自分が滅ぼし築いた目の前のおびただしい死体と同じになるものかと心に決めた。

 

安心して休める場所などないと思っていたが・・・

 

翌日、昼迄寝ていた俺はどうかしていたのかもしれない。

 

この感情はなんていうのだろう・・・俺はこの感情を今まで感じたことがなかったかもしれない。

 

どうせ、人造人間を倒すまでの短い間だろう・・・深く考えることはない・・・

 

昨日は別に悪くはなかった・・・ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

エイジ785

 

あれからどれだけの歳月が流れたのだろう。

 

ブルマが隣で幸せそうに眠っていた。

 

もう子どもも二人目が生まれ、自分でも親バカではないかと自覚するくらい娘には甘かった。

 

ブルマが隣にいるのが当たり前の生活になっていた。

 

時々、遠い昔の自分を思い出す。

 

孤独だった頃の・・・・

 

あの時の俺の手は破壊を繰り返す手だった。

 

そしてそれがいつの間にか家族を守る為の手に変わっていった。

 

氣付いた頃には帰る場所も家族も生まれていた。

 

最初の頃はそれを受け取れずに戸惑ってばかりいた。

 

いつしかそれもようやく慣れて・・・ここにいる。

 

 

ベジータは自分の手を見つめていた。

 

でも昔の自分がしていたことは決して消えやしない。この手は血まみれのままだ・・・。

 

 

ふいにブルマがベジータの右手を自分の手に絡めた。

 

ベジータ「・・・なんだ?」

 

ブルマ「眠れないの?」

 

ベジータ「いや、そんな事はない」

 

ブルマ「貴方の包み込むような手が好きだわ」

 

ベジータ「・・・ふん、昔はすべてを壊す手だったぞ。そんな血みどろの手が・・・」

 

ブルマ「だから・・・今はひとつひとつ愛に変えて返しているんでしょ?」

 

ベジータ「馬鹿なことをいうな」

 

ブルマ「沢山失った命の数だけ沢山愛を注いでくれてる優しい手が好きだわ」

 

ベジータ「・・・ブルマ」

 

ブルマ「それだけ沢山あなたから愛をもらえるんだもの」

 

ベジータ「ぬけぬけとそんな事をいう奴はお前ぐらいだな」

 

ブルマは無邪気に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

回想〜 エイジ737

 

ナッパ「ベジータ様!聞こえますかい?」

 

ベジータ「・・・何だ?」

 

ナッパ「たった今フリーザ様より通信が入りまして何でも、惑星ベジータが消えちまったそうですぜ?」

 

ベジータ「ほう・・・それで?」

 

ナッパ「原因は巨大な隕石が衝突したとかで・・・生き残ったサイヤ人は俺達を含むごくわずかだとか」

 

ベジータ「ふーん。それで?」

 

ナッパ「い、いや・・・別に。それだけです」

 

ベジータは通信を切った。

 

ベジータの周りにはおびただしい数の異星人の死体が積み重なっている。

 

 

ベジータ「フン!この惑星もほぼ全滅だ。フリーザ様にもう少し手応えのある星をお願いしなければな」

 

ベジータは死体に囲まれて、非常食をもくもくと食べていた。

 

この会話もどうせ、フリーザが傍受しているだろう。

 

こちらの反応を伺っている、そんな事を考え、胸くそが悪くなる。

 

惑星ベジータの消滅やベジータ王が死んだ事はどうでもよかった。何も感じなかった。

 

その瞳は何の感情も写ってはいなかった。

 

 

感情は何もわきあがっていないのに・・・氣が付いたら勝手に瞳から涙が溢れていた。

 

あとからあとから止めどなく流れてくる・・・この感情は危険だ。封印しなければ・・・。

 

帰る惑星を無くしてしまった今・・・

 

目の前の囲まれたおびただしい死体の中でこれからの人生はずっと生きて行くことになるのだ・・・・

 

自分が継ぐはずだった惑星ベジータももうすでにない。

 

父上の後を継いだら反旗をひるがえしてやろうという野心も挫かれた。

 

当面はフリーザの元でしか仕えるしか選択は今の自分にはなかった。

 

ベジータはスカウターを外した。

 

ベジータ「・・・だったら、この死体の山の中にフリーザを放り込む機会を待てばいい・・・どんな手段を使ってでもその為にどんなに死体が増えようが俺の手が血まみれに染まろうが、力をつけて俺を見くびっていやがる野郎どもを一人残らず殺してやる!!!俺は絶対に諦めない!!!フリーザ!!」

 

 

ベジータは吐き捨てるように言い放ち、堅く目を閉じた。

 

ベジータ「俺はサイヤ人の王子なんだ・・・」

 

その為に心を堅く閉じよう・・・誰の支配も受けない。目の前の立ちはだかる者はすべて敵だ・・・俺自身さえも・・・心なんて要らない・・・それは弱さになり死に繋がるのだから・・・

 

 

 

 

 

〜現在 エイジ785

 

あの時、まったく感情がないと思っていた流した涙は俺の心だったんだ・・・

 

その俺の心をお前は目ざとく見つけやがった・・・

 

そして長い年月をかけて変わらず俺の側に寄り添ってくれた・・・

 

ブルマ「あなた?」

 

ベジータ「・・・何も言うな」

 

ブルマは泣いているベジータをやさしく抱き締めた。

 

ブルマ「愛してるわ」

 

ベジータ「そんなこと言われなくても知っている」

 

ブルマ「・・・あなたは?」

 

ベジータ「お前も知ってるだろう?」

 

ブルマ「そうね・・・知ってても聞きたいわ」

 

ベジータ「・・・心で感じ取れ」

 

そういうとベジータはゆっくりとブルマの両手を自分の手に絡めてやさしく深いキスをした。

 

心は強さになり生きるすべてだ・・・誰よりも愛してる・・・俺の・・・ブルマ。