ロンドンぼっち旅、スタート。羽田発ヒースロー空港行き、JAL041便。午前1時発の珍しい深夜便である。この便だけ唯一、エコノミークラスの旅客にもラウンジが使用出来る特権がある。というのも、深夜便の為機内食サービスの時間が8時間後になるのが理由。ラウンジで食事を済ませて乗る、という事だ。ラウンジはJAL名物のビーフカレー、サラダ、パン、デザートに牛丼、おつまみに、生ビール、ワイン、シャンパン、コーヒー、数々のソフトドリンクと充実のラインナップ。見晴らしのいい席で、十二分に堪能させて頂いた。そしていよいよ、搭乗へ。
この飛行機はひたすら夜の中を飛び続ける。機内もおやすみモードで真っ暗だ。乗る前は本やらテキストやらガイドブックやらあれこれ準備していたが、とても読書灯を灯す雰囲気でも無い。機内サービスの映画も気分ではない。モニターにフライトマップを出し、時々自分の位置を確認しながら、寝る。寝るのが特技のわたしにとって、狭い機内で寝る事は造作もない。持参したネックピローとフットレスト、ストールが良い仕事をしてくれる。
今日は季節外れの春の陽気で福岡も東京も暑いくらいで機内も心なしか暑かったが、飛行機がカムチャッカ半島を過ぎた辺りから隔壁に冷たい空気がゾワゾワと伝わってきて寒くなる。寒さで目が覚め、ブランケットを肩から掛けてマトリョーシカのような形に包まって眠る。
アラスカ上空辺りだろうか。ふと窓の外を見ると真紅の太陽が地平線に見え始め、空と地球の境界線を見たことも無い紅色に染めていた。まるで夢の中のような神秘的な風景だった。その後また短い眠りに落ち、再び目を覚ますと、今度は神々しい蒼の太陽と空に変わっていた。思わず写真を撮るが、肉眼で見た色とコントラストを再現出来ない。神秘的で美し過ぎる蒼の太陽の非現実的な光景に惹きつけられ、暫くの間ずっと眺めていた。再び眠りに落ち、目を覚ますと空は漆黒の闇に包まれていた。また飛行機は夜の中を飛んでいる。今、北極海の上空だ。北極は半年間続く夜の季節なのだろうか。いつ終わるかわからない闇と極寒の世界は恐怖でしかないだろう。フライトは丁度半分を過ぎたところだ。
夜の中を飛ぶ、乾燥した機内で実際使ったものは、
◯メンソレータムリップクリーム
◯ハーブのどあめ
◯ネックピロー
◯ストール
◯フットレスト
◯iPhone充電ケーブル(タイプC→タイプA)
◯ティッシュペーパー
◯スリッパ
今のところこれだけだった。
『なんだもっと荷物減らせるやん。』そう思った。あれやこれや想定して持ち込んだもの達は出番無く、足元のバッグの中で窮屈にしている。
ところで、離陸の時からずっとむずがって奇声を発し続けているお子が1人居る。機内の閉塞感や時々襲う揺れ、気圧の変化、暗さに恐怖を感じているのか。もしそうなら、その地獄が14時間も継続する苦痛はいかばかりだろう。お子の立場を慮るとひたすら可哀想である。そしてお子の保護者の方の周囲への気遣い、申し訳無さはいかばかりか。どうぞお気を遣わず、お疲れ様ですと伝えたい。
真っ暗な機内で、時々気流の変化でグラグラと揺れる。幼いお子からするとこんな環境に居る事の意味も、いつ終わるかも分からず、逃げ出す事も出来ず、ひたすら恐怖だろうな…と想像する。ちなみにわたしは閉所と暗所恐怖症なので、多少なりとも気持ちを察する事は出来る…と自負している。
平日深夜の便にも関わらず、機内は満席である。極寒のロンドンへ…帰る人、観光旅行の人、留学の人、様々なのだろう。
あと6時間程で早朝のヒースロー空港だ。移動で利用する予定のピカデリー線は、昨日の時点で落葉により一部区間が運休になっていた。果たして復旧はされているのだろうか。困りものである。
そうこうしている間に機内食の時間になったらしく、8時間振りに機内が明るく照らされた。旅はまだ始まったばかり。わくわくと、わくわくをやや上回る不安とを持て余し、すっとこどっこいのわたしがぼっちでロンドンに降り立つのももう間も無くだ。この旅が今後のわたしの勇気とチャレンジを方向付けるきっかけになる事は間違い無いだろう。






