ありそうでなかなかなさそうな、女性ばかりの暮らし。「こういう暮らしっていいな」と何だか羨ましくなった。

 

書名:あの家に暮らす四人の女
著者:三浦しをん

 

 

東京都杉並区、阿佐ヶ谷駅から徒歩約20分。150坪の土地に建つ古い洋館に暮らす、4人の女性の日常のお話。

 

【この先ネタバレ含みます】

 

 

元々、牧田家には家付き娘である鶴代とひとり娘の佐知が住んでいた。そこにひょんなことから佐知と友人になった雪乃、雪乃の会社の後輩で佐知の刺繍教室の生徒でもある多恵美が同居するようになった。

 

佐知の父親はずっと昔に家を出ており、女性ばかりの暮らしを近くで(敷地内で)見守る一人の男性がいた。庭に建てられた守衛小屋に暮らす山田氏は、彼の父親が牧田家の執事兼作男をしていた縁で両親の死後もそのまま住み続けている。鶴代より一回り年上らしい彼は独身で、他に身寄りも行くところもないらしい。

 

お嬢様育ちで外で働いたことがなく、何事も「誰かが何とかしてくれる」と嫌味なく他力本願な鶴代。それを職業にするほど刺繍に打ち込んでいるものの、刺繍以外のことには消極的な佐知。人に頼られるけど自分が頼ることは下手で、他人に何も期待しない雪乃。尽くしてしまう性格で、働かない元彼に付きまとわれてしまう多恵美。4人の性格はバラバラ、でもうまくやっている。

 

ちなみに登場人物の名前はそれぞれ谷崎潤一郎氏の「細雪」に登場する四人姉妹のオマージュと思われる。

 

鶴代≒鶴子
佐知≒幸子
雪乃≒雪子
多恵美≒妙子

 

4人+山田氏の暮らしの描写が淡々と続く中、牧田家に泥棒が入ったことで物語が動く。
佐知が生まれてすぐ、鶴代と離婚して家を出た佐知の父(婿養子だった)が実はずっと妻と娘を見守っていたことがわかる。
佐知の父はまともに働かず、妻に三行半を突き付けられてはじめて自分の行いを心底後悔して、別れた妻子の存在の大きさを噛みしめて過ごしていた。時折様子をこっそり見に行って、娘がすくすく育っている様子を見て安心しつつ「もう自分はあそこに戻れない」と、取返しのつかないことをした自分を責めていた。

佐知の父はダメな人だったけど、悪い人というより弱い人だったんだと思う。
彼が家を出た後味わった後悔の気持ちはとても胸にくるものがあった。そんな彼が別れた妻子の幸せを願う描写に泣けた。

鶴代にも彼の思いはそれなりに伝わっていたように思う。佐知に父親のことをこう語っている。
「あなたを生んでようやく、なににも替えがたい存在があることを知った。そんなあなたは、あのひとがいなけれは生まれてこなかったんだから、私はいまでも、あのひとを嫌いじゃありません」

鶴代と佐知が実の親子である以外は、牧田家に暮らす面々に血縁や婚姻関係はない。
一般的な家族の定義にはあてはまらないけど、山田氏も含めてこういう関係っていいなと思えた。

この4人+山田氏の暮らしがこの先どんな風に続くかなと少し想像してみた。
雪乃はもう恋愛にも結婚にも興味がない、ということなので宣言通りずっと牧田家で暮らしていそう。
多恵美は、この家からお嫁に行きそう(そしてたまに里帰り?してきたり)。
さらに先の将来、山田氏を看取り、鶴代を看取り、佐知と雪乃で暮らしていそうな気がした。
そしてそれは結構楽しい暮らしかもしれないと思えた。

雪乃がどういう経緯で「一対一のパートナーシップは結ばない」と決めて恋愛も結婚も放棄したのかは描かれていないが、「女性は恋愛して結婚して出産しないといけないのか?」「世の中色んな人がいるし、人それぞれでいいんじゃない?」という事かなと思った。

2019年9月に実写ドラマ化もされたらしい(知らなかった)。
佐知=中谷美紀さんは綺麗すぎな気もするけど、鶴代=宮本信子さんはぴったり。