理想の大人の男を考えてみた。
私が子供の頃(1975年頃)の大人の男は現代の大人よりズーッと大人に感じた。
実際、今の自分を見ると情けなくガキなのである。
私の子供の頃に大人と聞いてまず頭に浮かんだ事はジーパンを履いてはいけないのだ。
そしてスニーカーなんかもNGだ。
やはり理想の男はトレンチコートを着てないとダメなのだ。
そしてその中はイタリアンカットの細身の三つ揃いスーツで身を固める!
もちろん縦ストライプ模様の。
ネクタイはツチノコの様に太目のやつ。
ヘアースタイルはポマードで固められた7:3分け。
オードトワレはMG5かマンダム。
手袋は皮製のドライビンググローブ。
贅沢を言うと片手にはポインター犬をぶら下げて歩きたい。
当時そのスタイルを決めていたのが俳優の「天地茂」だった!
正にハードボイルドだ。
ただ、今そんな格好をしたら完全にコントにしか見えない。
そう思うと現在の日本にはハードボイルドは無くなったのかもしれない。
最近、ちょい悪だとかが流行っているが、当時のハードボイルドとはちょっと違う。
私が思う現存するハードボイルドな男って自動車評論家の徳大寺有恒氏と作家の北方謙三氏くらいしか頭に浮かばないのです。
彼らはちょい悪じゃない!
ハードボイルドだ!
だからと言って私がジーパンとスニーカーを捨てハードボイルドに転向してトレンチコートの襟を立てて闊歩する事はできない。
そんな私が最近始めた唯一のハードボイルドがシガー(葉巻)だ。
バーなんぞ経営しているとシガーを楽しむダンディーな男性が多々いらっしゃる。
するとシガーをたしなむジェントルは必ず「マスターもどう?」と、シガーを差し出してみえるのだ。
これはシガーをする人のマナーなのかと思うくらいそうなのだ。
そこでそんなマナーがあるかどうかと調べたらそうでもない。
そんなお客様に薦めていただいたシガーを吸っていると最近美味しくなってきた。
タバコは一切やらないがシガーはいい。
だって吹かしでいいんだから。
実際はニコチンは多少舌下吸収されるらしいがタバコよりは健康被害は少ない!
ただシガーを初めて半年たらず。
どうも様にならない。
なんか中学生の頃、学校のトイレでドキドキしながらタバコを吸ってた感覚に近いものがある。
心の何処かに罪悪感を感じる。
「まだ葉巻をやるには若いぞ、お前さん!」と、もう一人の自分が私の肩を叩く。
「55歳になった時に一人前のジェントルになる為には今からシガーを嗜んでいないと間に合わないんだよ!」と、もう一人の私が答える。
そんな私が去年の年末に店をちょっと早く閉めてバーへ出掛けた。
もちろんシガー持参で!
(シガー持参、自画自賛、似てる。全く関係ない)
私はカウンターにゆっくり腰を下ろしバーテンダーにオールド・エズラ15年のハイボールをオーダーした。
出てきたハイボールを一口飲みいよいよ本番だ。
「マスター、このお店はシガーを吸っていいんですか?」
「はい!どうぞ」
私は一席隣のお客様にも「シガーを吸ってよろしいでしょうか?」と、尋ねた。
隣のお客様はニッコリ会釈をしてくれた。
これぞジェントルだ!
私はカバンの中から葉巻を取り出しお客様がお忘れになったダンヒルのライターでシガーに火をつけた。
正にハードボイルド!
「マスターもどうですか?」正にジェントル!
私はそのバーで小一時間、ハードボイルドでジェントル、そして背伸びをした時間を過ごした。
そしてちょっと疲れた。

ただ55歳になってもジーパンとTシャツとスニーカーは手放さないだろう。
そしててトレンチコートは絶対に着ないだろう。