『きたか』

ルカに手を引かれ少女が林の奥から姿を現す。

少女の視線の先には年齢不詳の女性が1人。

『オババ様』

ポツリと少女は呟いたが
オババというにはかなり若い。

少女の横でルカがオババと視線を交わす。
そして軽く頷くと少女の背をポンッと叩いた。

『ほら行けよ』

少女は半ば無表情のまま
オババの前へと歩みよる。


『アイ』

オババは少女にそう呼びかけた。

『はい。オババ様』

返事をする少女は
ひどく落胆しているように見える。



オババはそんなアイを見つめたあと
海にそびえ立つ光の壁に目を向けた。


あの壁はいつからあそこにあるのか


いつ…

そもそも『いつ』とはなんなのか。


そうここには『時間』がない。

時間とは作られたもの。

始まりがあり終わりがある
誕生があり死がある

それらはすべてまやかしなのだ。

肉体という器を持つものだけが感じるまやかし。



今はその肉体を持つものは
ごくわずかな選ばれた者達だけ。


そしてあの光の壁とともに
肉体を持つものには例外なく
『使命』が与えられた。


『使命』のために
その肉体を『使う』。

これはこの世界のキマリなのだ。

例外はない。

そう例外はないはずなのだ。

だがアイがいる…


アイがここに来たのは
赤い星が空に現れること15回前。


この世界では赤い星だけが時を刻む。
とはいえいつ現れるかは誰にもわからないが。


だが『使命』も『能力』もないまま
赤い星が15回も現れたのはアイだけ。


そして今
赤い星が16回姿を現しても

アイには『使命』も『能力』も
やはりなにもないのだ。

なぜ?

なぜアイはここにいる?



『オババ様』

アイに呼ばれオババは俯くアイに視線を戻した。

『私には祝いの席などいりません。』

『まあそう言うな』

オババは優しく微笑むとアイの手を取る。

『例え能力がなくても16は皆特別だ。
次あの赤い星が消えたら、アイも行くのだから』

えっ…
アイはパッと顔をあげた。

『なにを驚く。
アイも行くのだ。あの光の壁の先にな』