海に突き出した崖の上を走る人影
『おーい、待てよー!!』
その人影のだいぶ後ろから声が飛ぶ。
人影は崖の先端にたどりつくと
そのまま海の沖の方へ視線を向ける。
その時雲が途切れ
空に浮かぶ巨大な真っ赤な星から光が落ち
その人影を照らした。
10代半ばの少女の横顔。
海の彼方に向けるその視線は落ち着きを見せつつ、
口元には笑みが浮かんでいる。
『待てって言ってんだろ!』
ようやく追いついたのは
少女より少し年上らしき少年。
『1人で出歩くなって言われてんだろ!』
少年は肩で息をしながら少女を睨みつける。
『1人じゃないわ。ルカがいるじゃないの』
少女は悪びれもせず少年に笑いかける。
『だから!オレが気が付かなきゃオマエ1人だろ!』
ルカと呼ばれた少年がさらに少女を睨む。
少女は口元に笑みを残しつつ、
遥か海の彼方へ視線を戻した。
そこには半透明の光の壁のようなものが、
海から遥か天高くまでそびえ立っている。
その先にはなにがあるのか。
『あの先にはなにがあるのかしら?』
少女が呟くと
横に並んだルカが
『なんでそんなにあの先の事が気になるんだよ。
あの先のことはオババから何度も聞いてんだろ』
そう、確かに聞いている。
聞いているけど
なにかが足りない…
『それより早く帰らないと
オマエの誕生日の祝いの席に間に合わないぞ。』
『誕生日なんて別に何も変わらないもの』
『ったく!16は特別なんだぞ。
オマエだってなにか変わるかもしれないだろ!』
ルカの声を聞きながら
少女は口元から笑みを消した。
私はなにも変わらないわ…
ルカはそんな少女の様子を横目で見ながら
頭をかきつつ
『ほら!もう行くぞ!』
右手で少女の右手を握る。
次の瞬間
2人の姿はもうそこには無かった。