観音菩薩と亀 | 徒然草子

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西国三十三箇所の札所の一つである総持寺の本尊は亀に乗る千手観音である。かかる図像の由来に関する説話についてはあまりにも有名なので、改めて触れることはしない。
ところで、亀に乗る観音菩薩という図像はこの総持寺の本尊に限ったものではない。例えば、法隆寺聖霊院の本尊聖徳太子像の胎内に亀が背負う山に乗った救世観音像が納められている。この山は補陀洛山だろうか、或いは蓬莱山だろうか。
亀が山を背負うというイメージはインドにおいては大神ヴィシュヌの化身である大亀がマンダラ山を背負う神話がある。或いはインドの伝統的宇宙観の一つに亀が地上世界を背負うというものがある。
こうしたインドの神話的な亀に着想を得たのか、密教において金亀が須弥山を背負うイメージを観想することがある。
上述の様に亀が須弥山や大地を背負うのであれば、補陀洛山を背負うイメージがあったとしても不思議ではないが、先の法隆寺の観音像の場面、亀が背負っているのが、補陀洛山なのか、或いは中国の伝統的仙境である蓬莱山なのかは分からない。
ただ、伝統的に海の彼方に常世国という理想境を想像してきた古の日本人にとっては亀に背負われた山が観音菩薩の住処である補陀洛山にして蓬莱山であったとしても、特段の違和感を感じることはなかったであろう。どちらにしても、其処は楽園であり、観音菩薩の住処に相応しいからである。
亀に乗る観音菩薩の姿の誕生には上述の様な神話的イメージがあるのかも知れないと想像するものである。