<ほら・・・ココダヨ・・・>
ー !!!? -
まるで教会の様な部屋の中に荘厳な音色を奏でていたパイプオルガン・・・
その音色が消えた直後俺達の耳に聞こえてきたのは
もう遥か遠い昔から何度も聞いた事のある
ある意味・・・とても馴染み深い声だった
そして今、その声の主が俺達の前に突然姿を現している
スラリとした細い身体に全身真っ白なスーツが見事に映えていて
その姿は結婚式を控えた新郎のように見える
<・・・・・・・>
「堂本・・・お前いったいどういうつもりなんだよ・・・」
俺はすぐ目の前に現れた堂本に牽制球を投げかけてみる
すると堂本は優しくにっこりと微笑みながら
静かに眠っている智にゆっくりと近づきながらこう言ったんだ・・・
<どうするって・・何を?>
「・・・・・・」
<それよりもどうもありがとう・・・
君たちが参列してくれるなんて光栄だよ>
「はっ!?一体何の話をしているんだよ?
俺達は智を迎えに来たんだ
お前になんか絶対に渡さない・・・」
<・・・・・・・・・。無駄な事を・・・>
「何が無駄なんだよ・・・
智は俺達の・・・いや俺のモノだ・・」
<・・・・・・・・>
「だから返してもら・・・!!!?」
バシーーーッ!!
「うッ!!」
そう言葉を発した次の瞬間
俺の身体は智が眠る祭壇から
数メートル離れた場所までふっ飛ばされ
まるで機関銃で身体を打たれている様な
目に見えない激しい攻撃を何発も受けた・・・
ビシ!ビシ!ビシッ!
バチッ!バチ・・ッ!ビュシュッ!!
!!?
「ぐっ!ぐはっ!か・・・がはっ!!」
「「翔さん!!」」
「大丈夫!?翔ちゃん!!!」
突然俺の身体が遠くまで吹き飛ばされた様子を見ていた他の3人が
慌てて振り向きながら声をかけてくれる
でもその時俺は突然弾き飛ばされた衝撃と
避けることが出来なかった堂本からの攻撃の所為で
頭の中がクラクラし目の前が少し霞んで見えていた・・・
なのにそんな俺の眼でも
ゆっくりと智の眠っている祭壇へと歩み寄っている
堂本の顏だけはハッキリ見て取ることが出来た
だってその時の堂本の背中からは
真っ黒で大きな悪魔の翼が大きく広がっていたから・・・
<・・・・・・・>
「・・・ッツ!くっそ・・・ったれ・・が・・・」
<ふふふっ・・・>
「堂本・・・ッ!」
<ふはははっ!あはははっ!!>
「どうして笑うんだ
一体何がおかしい・・・」
<あははははっ!あはははっ!!>
「笑うなっ!!」
<あはははっ!あーっはははは!!>
「笑うなって言ってるだろ!!
お前いったい何なんだよ!!」
<あははは・・・っはぁ・・はぁ・・・
相変わらず面白いね・・・君は・・>
「煩い・・・」
<とりあえず・・先生に向かってその口の利き方はいけないな
もし今度私に反抗したらその時は容赦しませんよ?
私は崇高な天界の住人なのです・・忘れてしまったのですか?>
「・・・・・・・」
<ましてや・・・たかだかバンパイア風情の君たちが
気軽に話をできるような存在ではないのですよ?>
「・・・・・・・・・」
コツ・・・
コツ・・・・
コツ・・・
!!?
「雅紀!!和也!!潤!!!」
コツ・・
コツ・・・
コツ・・・
「翔さん・・俺達だって智を返してほしいんだ」
「そうだよ?智は翔ちゃんだけのモノじゃないんだからね・・」
「だから俺達も戦うよ」
近づいてくる堂本から智を守る様に立ち塞がった3人は
弾き飛ばされた俺に向かってはっきりとそう言い切った
でも・・・
黒く陰湿な気配を身体全身から漂わせている堂本は
そんな3人の顔をゆっくりと見回すと
片方の唇の端をそっと引き上げながら小さく呟いた・・・
<邪魔です・・・そこをどきなさい・・・>
「”嫌だ”・・・と、言ったら・・・?」
「お前には渡さない」
「智は俺達の元へ返してもらう!」
「・・・・・・。お前ら・・・」
ここから少し離れた場所で
堂本と対峙している3人の背中が見える
その時俺は不思議な感覚に包まれた・・
(あぁ・・いつの間にこんなに逞しくなったんだろう・・
あの時はただ逃げる事しかできなかったこいつらが
今はこうして智を守るために堂本と向き合っている・・・)
「ありがとう・・みんな・・・」
そう思いながら痛む身体を引き起こし
少しでもみんなの近くへ行こうと足を踏み出そうとした・・・
その時・・・
<・・・・・・。愚か者・・・>
そう言った堂本の声が小さく響いた次の瞬間
3人の足がフワリと宙に浮いたのが見えた・・・
- !!!? ー
そして一番初めに返事を返した潤の身体があっけなく吹っ飛び
部屋の一番奥の壁に背中を強く叩きつけられた
ドンーーッ!!
「うわぁぁっ!っく・・・っそ・・・!」
「潤!!?」
<・・・・・・・・>
そしてその様子に声も出せずにいた雅紀と和也の2人も
堂本の目線1つで一気に身体を部屋の端まで吹き飛ばされてしまった後
強い力でその場に押さえつけられてしまったんだ・・・
「「えっ!?わぁっ!!?」」
「雅紀!!和也!!!」
ドーーーーンッ!!
「グッ!!ゴホッ・・ゲホッツ!!」
「痛った~ッ!!くっそ・・ゴホッ、ゴホッ・・!」
「大丈夫かっ!?」
いきなり壁に叩きつけられた2人は
その勢いで切れた口元から流れている薄い血を手の甲で拭い取りながらも
俺の方を向いてそっと微笑んでくれる
でも目に見えない力で身体を抑え込まれている所為で
そこから1歩も動くことが出来なくなっていた・・・
<俺の結婚式を邪魔するなんて・・無礼にもほどがある・・>
「はっ!?お前が結婚!?
誰と・・・・!!?まさか!!」
<おい、翔・・・お前はそんなに頭が悪かったのか?
智は私のモノだと言っただろう?>
「バカな!?智は俺と結婚するんだ!
そう約束したんだよ!!」
<ふふっ・・それはただの口約束だけだろ?
俺は今から智と正式に結婚するんだ
そしてその身も心も魂も・・・全てを私に差し出すのだ・・・
ふふふっ・・・ふはははっ!!あはははっ!!>
「そんな事はさせない・・・
絶対にさせるもんか・・」
<・・・・・・・往生際が悪いな
だったらお前もそこで地面に這いつくばって見ていろ!
俺と智の結婚式をな・・・>
!!!?
「ぐわっ!!」
その言葉が聞こえた瞬間
何かとてもツなく大きな力が俺の身体の上にのしかかって来て
まともに立っていることすら出来なくなった
!!?
(クっ・・!?身体が・・動かない・・?)
<・・・・・・・・>
「まて・・・堂本・・・」
<ふふっ・・・さて、そろそろ時間だよ?
さぁ、目覚めよ智・・・私の美しい花嫁・・・>
!!!?
堂本は智の身体の上に掛かっていた薄いヴェールを静かに剥ぎ取ると
それを手に持ったままもう片方の手を祭壇の上へと差し出す
すると次の瞬間
祭壇の中から伸びてきた細い手がその手を掴んだんだ
そしてさっきまで横になっていた身体がゆっくりと起き上り始め
やがて花で囲まれていた祭壇から降り立つと
堂本の前に跪き手に持っていたヴェールを頭に付けてもらっていた・・・
そして堂本はそんな智の細い顎をクイッと指で持ち上げ
その姿を確かめた後、嬉しそうに微笑んでいた
<フフフッ・・・、綺麗な花嫁だ・・・
このヴェールもよく似合っている・・・(笑)>
「やめろ・・・」
<さぁ・・始めようか?>
「智・・・眼を覚ましてくれ・・」
<私達の結婚式を・・・>
「あ・・・」
堂本は自分の前に跪いたままの智の手を取り
その身体を静かに引き上げると
華奢な身体を支えるように背中にそっと手をやりながら
十字架が掲げられている祭壇の上へと昇ってゆく・・・
そして何処らともなく現れた牧師の手によって
2人の結婚式が執り行われようとしていた・・・
「止めてくれ・・・」
コツ・・・
コツ・・・
コツ・・・・
「智・・・」
コツ・・・
コツ・・・
コツ・・・
「智ーーーッ!!」
そう叫んだ瞬間
俺の頬を一筋の涙が
零れ落ちて行った・・・